さて、昨日のめんどくさいことは全て終わり。後は戦闘のみとなった今日。
しみじみと海外の食生活差がストレスとなって、俺の気力をガシガシと奪って行った最悪のコンディションを無理やり立て・・・・・・・・・直さなくてもいいだろう。
実際に、これは負けることが日本政府の目的なんだから…………。理由は除外。
今俺は、オーストラリア側のアリーナの待機所に居る。後10数分の時間で、試合開始だ。特に思うところはない。いつもと同じ誰かの思惑に不純物を混ぜるだけ。自前の改造ISスーツを着込んで待機してる。まあ、改造と言ってもあまり目立たないように丈を足首と手首までに長くしているだけなんだけど。
不意に待機所のドアが開く。一瞬命を取りに来た刺客か?とでも思ったが刹那の内にそれを否定する。(理由は簡単。俺は目立たないからだ)入ってきた人は金髪で結構バインバインなボディーをお持ちのお姉さん。
「セラフィーナさん?何しに来たんですか?」
俺の対戦相手その人だった。恐らく試合前の述べ口上みたいなものだろう。といいますか、俺じゃなかったら分からないレベルでッせ?
「ちょっとお話しにね。」
「なにを聞きたいんですか?」
「…………貴方、君のISって
説明しよう作品とは。作品の頭に世界研究者クラブが付く。そう、いつの日か言った、ISを製造するなと命令される前に何個か作っている、その作品。
「ええ、そうですが?何か?」
「私もよ。」
「!!」
とりあえず、驚いた振りをしている。
「言いたいことはそれだけよ。じゃあね。」
・・・この情報から、この勝負は……………。
「しゃあねえ。妹の為だ。恨むなよ。」
俺は笑った。
◆ ◆ ◆
「…………一応説明しておく。制限時間は20分シールドエネルギーを先に削りきったら勝ちだ。」
「フフッ、そのぐらいは分かっていますよ。」
「お前・・・いいか、負けてくるんじゃない。」
少年は後ろ手で手を振って試合に臨んだ。
「…………」
「…………」
試合に出る前には少なくとも会話を交わしていた少年、相澤康一。女、セラフィーナ・カンタレッラ。その二人の間には、試合前の緊張感が漂っている。そして、両者ともISを起動させる。
「…………カゲアカシ!!」
「…………
康一は、白とも黒とも取れない灰色で背に大きな鋼鉄の袋を背負っている。対してカンタレッラは、徹底的な黒。フルスキン、つまりは全身に装甲が施されている。それはどこか鋭角的なフォルムをしており、体自体に刃と、背に巨大過ぎるスラスターが付いている。
その機体の共通項は肩に一つの葉っぱが描かれていること。それを両者が確認した後に。
「終焉の者か。…………俺の終焉になにを見せてくれるのか。楽しみだね。」
「カゲアカシ。…………いや、
笑う。そして、試合開始の合図が鳴った。その一瞬で黒の機体の姿がブレる。それは背のスラスターで行った、ただの
「うおっ!?」
「ひゃっはー!!」
その背にあるスラスターの出力にものを言わせたスピードで相手の出鼻を挫く強制的な先制攻撃。それを灰色の機体が防ぎきる。
「おッ!?今の攻撃を避けちゃう!?良いねぇ!私を滾らせておくれよ!!!」
その叫びと共に黒が、少年の視界を埋め尽くす。それが意味するところは・・・。
(くそッ、ただの機体じゃないとは思っていたが!瞬時加速並みの速さで攻撃できるとは…………なぜ軌道を曲げられる!?)
そう、ISのハイパーセンサーの三百六十度全方位も黒で埋められる。その正体は少年の周りを超高速で移動して、時折殴る蹴るをしているだけ、だがそのスピードが異常なのだ。
「イクよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
「グガッ!!?」
乱打、いや少年の目には何も映らないただの黒。異常なスピードの異常な攻撃力。スピードが攻撃力を呼び込み、攻撃力が相手の行動を阻害する。だが、少年も負けてはない。
「舐めんな!!」
「ニャッ!?」
「動きは見飽きた!お前は、その馬鹿でかいスラスターの推進力を特殊なPICの発生で体重移動によってイグニッションブーストでのカーブを可能にしているだけだ!まるでスキーのようにしてな!ネタさえ分かれば対処は容易い!」
「大正解!けど、君に反応できるかな!?」
◆ ◆ ◆
「織斑さん。あの男性操縦者強すぎやしませんかね?」
「防戦一方でしょう?」
「いや、あのスピードで防戦ができると言うこと自体が凄いと思うのですが・・・。」
「うちの生徒アレぐらい出来る奴はゴロゴロといますよ?」
「どんな魔窟だよ!!アレ単独で大気圏突入して帰ってこれるガン○ムレベルの化け物だぞ!?」
「いや、うちの生徒ストフリでっせ?私は新ゲッターかグレンですが。」
「規模がちげえ!?」
(…………それでも、ネタさえ分かれば、あいつにも対処は可能だ。…………それが出来てもあいつは。)
◆ ◆ ◆
「ふぅ…………。キツイ」
活路を見出した少年だがそれでも、少年と女のシールドエネルギーの差は、もう無視できないレベルにまでなっている。弱った獲物をじっくりと死に追いやる鷹の様にしかと力を込めてる時間を作るかのように、両者とも静止している。
「もう、そろそろ坊やも果てちゃう?私は欲求不満なんだけどなぁ~」
笑いながら、少年に話しかける。それを少年は無視した。それどころではなかったのだ、いきなりの加速、加速に次ぐ加速というより、まだまだ少年から見てISの本領を発揮していないように見えて警戒を解くことは出来ないのだ。
「だ・か・ら・ぁ~。この一撃に、全てを込める。」
「……………。」
なぜだか上目遣いになって少年を見つめている。女は、笑った。
「私をイカせてくれよ、坊ちゃァァァァァァァァァァァァァン!!!」
黒い機体の背に輝きが、満ち溢れていく。目を塞ぐほどの光。
少年は、笑いながら拳銃をISから呼び出した。それは、一葉の札。
「
「
黒い機体はさらに輝きを増す。まるで、終焉を呼び込むかのように。
少年は右腕のISを外してその生身の手で、湯花を握りこんだ。そして、叫ぶ。
「ペトゥル全変換!ラグナロクの一撃!」
少年の周りに花びらのような、金属の塊が浮いていてそれが一気に収束するかのように少年の手元の拳銃に突き刺さる。左手を右肩に押さえて身構えた。
黒い機体のからだの各所に付いていた刃が、右腕を残し綺麗に消え去る。
そして、両者の気合一喝。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」
◆ ◆ ◆
「やべえ!。あの女、あれを使う気か!?みんな!耳を塞げ!!」
◆ ◆ ◆
次の瞬間少年は引き金を引き、黒の機体は異常な加速を見せる。音速を超える時に起こる現象、いわゆるソニックムーブと呼ばれる現象。凶悪なまでの黒の機体は一直線に少年へ突き進む。そして少年の命を刈り取ろうとしているその瞬間。呟きが静かに流れる
「…………ごめんね」
次の瞬間銃口から吐き出されたエネルギーが膨張する。全てを飲み込むかのように大きく、いつの間にか…………。
『勝者、相澤康一。』
いつの間にか試合は終わっていて、少年は何時かのどこぞの騎士団長が着ていそうなスーツを着ている。
「ああ、終わった・・・疲れたなぁ。」
手袋をつけた手で首の後ろ辺りを掻く。自身が倒した地に伏している相手を見て、こう言った。
「すまないね、死んでは居ないだろうから安心して。真っ先に死ぬのは俺。・・・だから安心してちょ。」
少年は何かに怯えるように足早にその場を去っていった。