アリーナに多くの視線が降り注がれ、人々の熱気が零れる。祭りのような喧騒に、その大きい舞台が包まれる。その舞台には、香とラウラ、そしてモブ二人が立っている。そう、これにより、学年別タッグトーナメントを開催されたのだ。
モブ二人は場の空気に飲まれ、必死に体の震えを抑えようとしている。
通常はそれが普通であるのだが。対面しているもう二人は違う、それはもうふてぶてしいまでに悠然に自然体で居る。二人の片割れはジャージに満面の笑みと言う異常なまでの自然体であるが、それをスルーするかのようにアナウンスが流れる。アナウンスは舞台のカーテンコール代わりと言わんばかりに暴力の祭典を告げた・・・。
「試合開始!!。」
瞬間に終わった。
敗北したのは、モブ二人。一人はうつぶせ、もう一人は香に支えられて気絶している。
その場には、無音が漂っている。それを掴んだのは香。
「ねえ?こういう場合はどうなるの?」
アナウンスに問いかけた。
「戦闘不能により。 勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ相澤康一ペア」
その声は全てを代表するように震えていた。
◆ ◆ ◆
苛立ちげにラウラは胸倉を掴み、香を壁に押し付けている。
「イテ、…………痛いよラウちゃん」
先ほどとは変わり力なく笑っている。ラウラはその表情を非難するかのように睨み付ける。
「邪魔をするなと言ったはずだろう!!」
「・・・ごめん。」
俯いてそういった。
「けど、ラウちゃんを戦わせたくなかったんだ・・・。」
「ッ!?」
硬質的な音が鳴った。ラウラが香に拳を振るい香がそれを包み込みそれが壁に当たった音だ。
「殴っちゃダメだよ、拳に訴えるようじゃ誰も分かってくれない。」
真摯に目を見て真っ直ぐと、伝えた。だが、それは。
「ふ・・・ふざけるな!!!!」
全身の膂力を使った頭突きと暴言によって返された。
「お前になにが分かる!私は、私は!戦うために生まれてきたんだ、拳を振るうためだけに生まれてきたんだ!!生まれる前から決められた道を進んできたんだ!!それなのに、力を捨てろ?ふざけるな!私にはこれしかないんだ!!」
頭の中に渦巻いている感情を全て吐き出すように、香を殴っている。それでも。香は伝えようと。
「それでも、ラウちゃん。君にh「五月蝿い!!・・・。」
言葉を割るように。怒鳴る。そして、ポツリと零れる様に言う。
それとも…………お前が、国によって決められた私の人生を。
暴力にまみれた私の人生を。
悪意に満ちた私の人生を。
こんな、こんな私を。
一生を掛けて守ると誓えるのか?
一生を掛けて私を守ると言うのか?」
香の胸に顔を押し付けながらやっと言い出せたその一声。そしてラウラは縋ったのだ、
迷いがある、その迷いは。
「…………………ごめん。」
殺した。
表情が抜け落ちたような顔、希望や望みが全て消えうせ笑うことも怒ることも出来なくなったかのようなその顔。ラウラは、ゆっくりと香に背を向け去っていた。
それを見送った香は唇をかみながら先ほどの言葉を反芻していた、香にとっては一番言われたくなかったその言葉がグルグルと回る。それに苛立ったかのように香は手を振り上げ壁に叩きつけようとして・・・寸前で止める。
「・・・私だって・・・。」
酷く、悲しげだった。それに私は・・・。
『香。君だって、彼だ気にしなくていい。』
「でも。」
『分かってる、だから。言っているんだ。』
「エネミー…………今までこんなに康一君の弱さが憎いと思ったことが無いよ。こんな
掛ける言葉が 無かった
◆ ◆ ◆
次の試合は。二人の専用機持ちが出場している。
凰 鈴音とセシリア・オルコットだ。本来なら三回戦で当たるとこなのだが、二回戦の相手は棄権したらしい。
両人とも試合の開始線に立っている。
ラウラと香はかなり険悪な仲になっているが、それでも暴力の祭典は気にせず進行していく。
そんな中、凰が口を開く。
「ラウラ、アンタ今度は本気を見せてくれるんでしょうね?」
それに答えず、試合の開始を待った。
「ラウちゃん、私はセシリアをやる。」
「ああ。」
簡単に作戦を立てながら聞き流す。そして・・・二度目の開始の合図が流れる。
「試合開始!!。」
四人とも飛んだ。
ラウラは、真正面に。
凰も真正面に。
セシリアは凰の後ろに位置付けるように飛ぶ
香は、飛んだ。一応カゲアカシの
だが、それは異常な力によって瞬時加速並みのスピードを得る。
一瞬で香は、セシリアの真横に移動する。PICを切りセシリアの専用機ブルーティアーズの非固定肩部装甲(つまりビットのこと)を掴み腕の力で真後ろに移動する。
「っ!?この!!。」
セシリアが短剣を呼び出し背に向かって滅法に突く。それをセシリアの首を足場に回避する香。
「・・・なるほど、一回戦で気絶したのはそういう訳ですか。」
「あ?ばれた?」
香は宙に浮きながらおどけたように笑った。
ISの絶対防御にも弱点は在る。それはAIの脆弱性だ。絶対防御のプロセスは攻撃を受けその攻撃の被害を数値に換算し、使用者の生命の維持に必要なだけ防御する。と言った手順を踏んでいる。そのため攻撃と判断されないものや、防御の必要がないとAIが判断した場合にはそのまま衝撃が行く。もちろんISを装備した場合ではその限りではなくISと判断した時点で十二分に死亡するかも知れないと判断する。
香の気絶のさせ方はそれを逆手に取った物だ。普通の人体で触れるだけなら攻撃とは認識されず、そこで体重移動による衝撃を加えれば、場所によっては脳震盪、頚椎のズレ、呼吸困難を引き起こすことが出来る。
これは理論上のことであって、香の常人を超えた神がかり的な身体能力があってのことだが。
「あなたは化け物ですか・・・。」
「いやいや?普通に香ちゃんですよ?」
「分かりませんわ!?」
「悪いけど本当に私は康一じゃないんだ。んまあちょっと癪だけど、康一君使わせてもらうね。」
そして、再び激突する。
香が先ほどまで居た場所に、銃撃が飛来するそれを威力がくるか来ないかのぎりぎりのラインで避ける。全身の膂力でPICを蹴りまた距離を詰める。
PICを壁を手に発生させて直線運動を無理やり曲げて途中の銃撃の回避行動を取る。
「下作ですわね・・・。」
セシリアは呟いた。それは、兵装の一つであり目玉であるビットのことだ距離を一定に保ち、持っているビームライフルでしか射撃をしてこない。
二度三度の加速に香はついて行き射撃を回避する。
「っと。流れ弾に注意!」
途中で撃たれた衝撃砲を避けながら上空に逃げるように加速するセシリアを追う。そして。
「かかりましたわね!!」
全てのビットを射撃体勢にし発射する!!非固定肩部装甲につけたそれは銃弾の雨を降らせ、エネルギーの大本があるためほぼ比喩ではなく無限に降る。そして、ダメ押しとばかりに追尾性のミサイルを降らせる
「うわわわわッまずいって・・・」
と言いながら背を向けて走り、避け続ける。だが、追尾性のミサイルとの連携では相手が悪い。徐々にミサイルやそれを縫って撃つような射撃に追い詰められ。ついには。
爆音と煙幕に包まれる。
「まだまだですわ!!」
撃たれる撃たれるといった飽和攻撃を繰り返している。
そして、フラグ。
「やりましたか?」
煙幕が晴れ、そこには傷一つ負っていない香の姿があった。
「・・・この子は正体が分からないからあまり使いたくないんだけど。仕方ないよね。」
その顔は、酷く歪んで狂気を浮かべている。
「じゃあ、行くよ。」
と言って香はガスマスクをかぶった。それは視界が狭くなるだけの無意味な行為だったがそれでもマスクのしたの顔は不敵に笑っていた。
そして、加速。先ほどとは桁違いの加速を見せ、そのたびに硬質的な音が鳴り響くPICを。そして、あと一つの加速ですぐにでも手が届きそうな距離にまでになった。そして香は切り札を出す!!
「喰らえ!!」
ズボンのポケットから缶詰を取り出し投げる。勘のいい人はもう分かると思うが・・・。
「きゃっ!?・・・なんですの?液体・・・クサッ!?なにこれ臭い!!。」
「すきありゃー!!!」
香は続けて胸のうちに忍ばせてあったビンを頭に叩きつける。
「こ、今度は何で・・・この匂い、アルコール?」
あの独特の匂いが脳を刺激する。
「大正解!!D・E!大炎上ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
香は一瞬でセシリアの上空に逃げ火のついたマッチを落とし。
淡青色の炎が上がった。
「まあ、別にISの兵装を使わなくてはならないって言うルールはないし。」
あるはずが無い。
「じゃとりあえず眠って?」
燃え滾っているセシリアとセシリアの機体に近づき背骨に衝撃、頭を回して気絶させた。
「レディを助けるのはナイトの仕事だけど、あいにく騎士様は居ないのでね。」
地面に落ちる寸前に香が止めた。
「ごめんね、こんなのでも康一君なんだ。」
そう言って。香は・・・空を見上げた。
「終了!!勝者ラウラ・ボーデヴィッヒ相澤康一ペア!!。」
どうやら、もう一方の戦いはすでに幕を閉じたようだ。だが、ラウラは無言で勝利に浸ることも無く静かに舞台を去ろうと踵を返す。その背中に香は声を掛けた。
「ラウラ。君に言っておきたいことがある。」
その言葉に動きを止める。言い出した香は、それでも今から言う言葉を迷っている。慎重に言葉を選んで、一つ一つ全てを分かってくれといわんばかりに丁寧に喋りだした
「私は、私の中の彼を含めて弱い。」
「だから、あがいてあがいて。」
「君がどれだけ頑張っているのか私には分からない。」
「どれだけ辛かったのかなんて本人しか分からない。」
「けど、そこから立ち上がった強い君なら。」
「きっと私が居なくても、もっと強くなれると思うんだ。」
「私が居たら君は弱くなる。」
「だから、私は君の隣には居られないし居ない方がいいと思っている。」
「自分勝手でごめんね、けど君は答えを見つけられたらきっと・・・。」
「・・・ごめん、ラウちゃんこんな言葉しか見つからなくて。」
「これで終わり、この大会が終わったら私は消えるよ。」
そんな言葉は。
「ああ、そうしてくれ」
届かなかった。