IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

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化け狐の化けの皮は、きっと最低な幸福を噛みしめる。

SPと言う職業はその職業柄いろいろな人物の身辺警護しているが……………犯罪者を守るということはそのばのSPたちも予想し得なかったし、私もこんなことは初めてだった。

それを同僚のジェームズに話した。

 

「今回の仕事、お前はどう思う?」

「なんだ?ブライアン、お前はうれしいとは思わないのか?あの女尊男卑の救い手を、俺達が守るのに足るべき奴だと思うぜ?」

「だが、一応は犯罪者だぞ?そんな奴を国連が諸手をあげてSPをつける意味がわからん」

「それはそうだけどよ、俺らの仕事はただ守るだけだ。余計なことはあまり考えるなよ。」

 

そんな会話をした私たちは、実際に仕事場に付いたそのときからいやな予感がした。数々の仕事をこなしてきたときの緊張感ではない、物理的にもっと感覚的に何か私の基幹的な物が流れ出ているような言い知れぬ不安感があった。

そして、私たちは部屋に入った。白い拘束衣を着させられている黒い髪。どちらかというと中性的な顔立ちでどうにも犯罪者には見えない「女尊男卑の救い手」だった。

そして私はその救い手を見たとき「死人」と感じた。なぜと問われれば生気を感じられないからで、少なくともルーキーではないベテランである彼らも、もう死んでいると感じられたに違いない。

確かに息はしているし血色もそこまでは悪くはないが、どうにも拭えない不自然さが、操り人形のように思えた。

何も語らず、その部屋に自分たちが入ってきた時にも何の反応も得られなかった。どんなに命を追い詰められて心が死んでいるような人間でも、私たちが入室した時点で何らかの反応は示す、不安、怒り、安堵。その感情に種類はあれど「無」はこの方経験したことがなかった。

警護する人間に挨拶する為と警護の段取りを確認するために上司が例の犯罪者に声をかけた。

 

「はじめまして、相澤康一さん」

「その名で呼ばないでくれないか?」

 

唇を一切動かさずそう告げた。その一瞬で私たちの表情がこわばった、何か恐ろしい物に対峙しているような感覚。と言うかもはや超常現象に近い、なぜ私たちの携帯電話のスピーカーから音声を出しているのか?薄気味悪さを感じながら私の上司はさらに話しかけた。

 

「分かりました、ではなんとお呼びすれば?」

「エネミー、エネでいい。」

 

非常に淡白な受け答えで不気味さをさらに加え、胸のスマホから当然のように聞こえる。

 

「では、エネさん。」

「要件は分かっているし、君らの作戦は筒抜けだこれ以上話すことはない。」

「何を?」

「今回配置する人数は後方支援やオペレーターを含め15名、名前も言ってやろうか?ルーカス、リック、ロッキー、ジェームズ、ブライアン……………」

「止めてください!」

「なら、無線機を使っての通信は止めるんだな。プランの方は分かっている、もう一度言う。君らと話すことはない、さっさとこの部屋に配置する人員だけ残して立ち去れ。」

「……………分かりました。」

 

うちの上司は合理的な人だ、とりあえず自分の作戦に乗ってくれるのであればそれでよしとする人間だ、もう一度プランの確認をして、念押しのために協力はしてくれるように頼んだ。

 

「ブライアン、ま、しっかりやれよ。」

 

ジェームズがそう言って私の肩を叩いた。何を隠そう私がこの部屋に残る人員だからだ。ああ、と短く答えてその部屋の扉が閉められた。

 

「ブライアンですよろしくお願いします。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

 

唾でも掛けられるのかと思ったがそんなことはせず拍子抜けに普通に挨拶してきた。コロコロと変わる纏う雰囲気の変化に少し戸惑いながらも、注視するように見続けていた。すると、じろじろ見られたのが気に障ったのか、こちらに話しかけてきた。

 

「…………どうしたんだ?」

「いえ、SPの職業に就いてはいますが私の仕事は貴方の監視ですので。」

「まあ、知ってはいたよ。この体は悪意や罵倒には慣れてはいるが、私はあまり慣れないのでね。」

「貴方はどうしてこのようなことになったのですか?」

「おや、聞きたいかい?私は結構おしゃべりなんでね、いっちょ身の上話でも聞いてはくれないか?」

 

仕事に支障が出ることでもなかったのでそのまま黙って聞いていた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

なぜかだ、相澤康一は死んだ。あっけなく私たちのせいで死んだ。その事実は変わりないが、今も心の奥へ奥へと突き刺さっていく。

だから、こんなやってもいない罪を確認される場にいて気分がいい訳がないのだ。

 

「被告人、相澤康一は………………」

 

目の前で行われているのは魔女狩り裁判で、やってもいない罪を被せられていようが何の事実確認もなしに犯人と決め付けて行ってしまっていた。

会議は踊りそして進んだ。学校での配布物を配るかのよう当然に死刑の文字が私の目の前に叩きつけられて、裁判長である女性の顔がものすごく勝ち誇ったような顔をしていた。異例だの何だの騒いでいたが、まあこの際関係あるまい。

実に滑稽だ、死刑も何も死んでいるのだから。出来るものならこのまま殺してほしかった、自分のこの中にある暗雲を自分ごと消し去ってしまえるのなら、と何度もそんな考えが浮かんで来ていた。

でも、康一の顔…………いや、今ではもう自分が操っている人形に過ぎないのだが。康一が自分が死ぬと悲しそうな顔をしそうな気がすると思うとなかなか自分自身の存在を消そうとは思えなかった。

 

「イザヤ書41章10節にはこう書かれています……………」

 

なんでかこのような大犯罪者にされてしまったわけだが、こんな風に牧師を呼んで聖書の一節を教えてくれるくらいの良心は残しているらしい。そんな良心より実利を取りたいけどね。

だからダメなんだって。死んでいるんだもの。

 

首に縄が掛けられる。そして………………。

 

「8時34分52秒ご臨終です。」

 

医師の手によってただただ、物言わぬ肉の塊だということが明かされた。

 

「死亡確認したね?じゃあ、お疲れ様でした」

 

なまじ、首を飛ばされても一瞬であればくっつくし、脳をミキサーか何かでぐちゃぐちゃにしなければ蘇生されないことはないだろう。何度左腕をくっつけたことか。

そして、今生き返った私にまた監視が付き、拘束衣を着させられてこんな状態になっているって訳だ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「……………にわかには信じられませんが。」

「そうか、ニュースで放送されていないのか。」

 

私はさも自分のことのように、私を語っている。本当にいいのだろうか?我が物顔で体を支配してしまっているようにしか感じない。

 

しかしニュースにも出さずに死刑を決行するとは。さぞ、強行手段を取ってまで彼を殺したかったらしい。

 

そこまで考えて、私はこの行為の不毛さに辟易とした。何せ無意味なのだから。

 

「なんだろうね、この虚しさは。」

 

そう呟いた、なぜか知らないけどつぶやいていた、まるで思考と言葉が直結しているみたいに。どこか不自由さを感じていた。

 

「さあね、ただ貴方はきっと私の恩人いや恩ISと言うことぐらいしかわからないよ。」

「!?」

 

いきなり、扉が開かれた。なんだ?レーダーにも映ってなかったのにも関わらず、彼女達はなぜここにいる?

どこかで見たような蛇のような笑い方はどうにも彼を思い出すようで、今は見たくない顔だった。

 

「はじめまして、女王サマ?。」

「一葉、もう忘れて居たと思ったが案外覚えているものだ。そしていらっしゃい、織斑千冬。」

 

何をかくそう、相澤康一の妹を自称しているだけの彼の赤の他人と、純粋な赤の他人だ。

 

「その口ぶりですと私と出会う前には、相当お兄さんに救っていただいたそうですね。」

 

その言葉に私は鼻で笑った。

私が殺したも同然であるのを知らないからこそ言える言葉だ、知った時にはきっと一葉も口汚く私を罵るだろうとそう考えたら、もう、放って置いてくれと叫びたかったけど、彼は胸を明かさなかったこの仄暗い陰気な物を吐きださなかったから。声を荒げて出ていけと言いたかったけれど、彼が残した物でもあるからそう邪険に扱えもしない。

 

「いえ、救ってくれました。別にあなたが悪い訳ではないですし。」

「……………」

 

一葉は無邪気に、私に厭らしい笑顔を向けながら話しかけてくる。その顔を見るたびに心がズキズキと痛んだ。

 

「兄は何て言ってこの世を去りましたか?」

 

そう言って、彼女は笑いながら私の目をまっすぐと見つめた。片側の口角だけが吊り上がる。自傷行為の様な真実を荒み切った私の心から口へと流れるように吐き出していた。

 

「私への恨み事だったよ、嗚呼まったく。手ひどい裏切りだ…………。」

 

いや、最初から私と彼は相容れないものだと分かっていたけど何とかしたいと。エラーと言う文字が何回も何回も浮かび上がっているのをただただ見つめているような無為な時間。

しばらく、そんな取り留めもない苦痛な時間を過ごして、なおいっそう厭らしい笑顔を強めて語気を強めてこう聞いてきた。

意図していることがわからない、濃霧の中明かりも持たず出歩くような不安

 

「一つ聞きます、IS(貴方達)は機械ですか?」

「そうに決まっているだろう?どこまでもどこまでも人間みたいな機械だ。」

「それは良かった。私の子供もたぶんそうですよ。」

 

どこか安堵したように一葉はそう言って、大きく息を吸い込んだ。ニッと笑って、頬に一筋の涙が流れた。その眼は何かを決意したようにある一点を見つめていた。

 

「カゲアカシ。」

「……………?」

「これは、そうですね、きっと最後ぐらいは兄さんの物語は、私が兄さんの真似事をしてみたいんだと思います。」

「何を言っているんだ?」

「はい、だから私は人の心を食い物にします!コード、解放ライアー」

 

 

 

 

「ん?よお。」

 

 

 

相澤康一の声が、右足についた足輪から発せられた。これまでの声は、電子機器から出していたが、これは確かに真似事、ひとの心に付け込み全てを傷つける彼の!

 

「これが発動したってことは、たぶん死んでるかこれを聞かれたあとに俺が憤死しているかだ。」

「全く俺のような人間が嘘も何も包み隠さず話すところとか、需要あるのか?」

「まあいいやそこに言及してしまうとすべてが台無しになってしまう。」

 

なぜだか私はふつふつと怒りが湧いてきた、よくもとただ、彼女を睨みつけて私は口を開いた

 

「何の真似だ。」

「私の研究成果、人の心を読み感情を発露させる機械です。」

「お前……………ふざけるのも大概にしろ!」

「ふざけてなんか居ませんよ。」

「心を踏みにじってその中をズケズケと入り込んで!何がしたいんだ!」

「死んでしまったら!ただの物なんですよ、この世はどこまで行っても生者のためにある。だから彼の真意を聞く権利がある、本当にあの人が恨みながら死んでいったなんて思わせないでくれ!」

 

私は彼の心を覗き見ていたがそれも最初だけ、いつから私は心を覗き見なかったのだろう。何時から、彼を同じ所に並び立ち人間のように寄り添っていたいと思い始めたのだろう。

最初は確かに、他人の観察だったかもしれない。だけど今は違う。

私は、彼の声をさながら死刑囚が死刑執行を待っているかのような心持ちで続きを待っていた。

 

「いや、お前死刑囚だっただろ!」

「……………。生きている君に心を覗く力がなくて本当に良かったと思ってるよ。」

「まあ、意識レベルではコピーされた俺がISにいるだけだし、ISお前とおんなじ立場だからな、お前の心を読めたとしてもおかしくないな。だけど、絶対に違う、俺ではないからそこらへんは勘違いしないように。たぶん一葉の事だからこのメッセージが流れた後に自壊するようになってるんじゃねえかな?」

「今度は……………手ひどく罵ってやろうと思ったけど止めた。」

「そりゃどうも、エネこれだけは言わせてくれ約束守れなくてごめん。」

 

彼にそう言われてしまってはだめだ、赦さなくてはいけない。赦してしまえば彼を思い出の手の中から離れて行ってしまうのに。

涙が頬を濡らしていて、おかしい事だと思っているが止められない。

 

「俺はそこにいるから、肉体だけだけど俺はそこにいるから。ずっとそばにいてお前なしじゃ生きられない俺を守ってくれないか?」

「虫のいい話だとは思うけど頼む、お前は生きてくれ。いやお前が生きてくれ俺の体がそう使われるならこんなにうれしいことはない。」

 

「いつも、無茶なこと言ってくれるね君は…………。」

 

とても痛々しかったが、それでも私は笑っていた。もしかしたら借り物の笑みかもしれないが、それでもきっと

 

「それと織斑先生。」

「何だ?」

「あ、返事しなくていいですよ俺は生きてその場に即した思考をしている訳じゃないですから」

 

千冬の額に青筋が浮かんだが、それを無視して続けた。

 

「あなたには結構な迷惑をかけましたね、私から2つ。あいつらに相澤康一は死んだということ、そして最後に少しお願いが。」

「もう少し迷惑かけてもいいですよね?なに一夏が二人になったと思えば。」

 

フフフッと笑ったような気がした。任せろと小さく聞こえた。

 

「一葉、腹殴ってごめんな。強く生きてくれ、俺がいなくても大丈夫って言うのは知ってるけど。」

「お兄さん、グスッ…………。」

「あんまり泣き顔は好きじゃないんだけどね。」

「お兄さんと一緒にいる時はさんざん笑わせて頂きましたから。」

「そうか、それは何よりだ。お前はきっと俺の家族だった。」

「さよならは言いませんよ!」

「ああ、行ってきます」

「行ってらっしゃい………………。」

 

「言いたいことはそれだけかね。それじゃ、さようなら。」

 

康一は本当に言いたいことを言いたいだけ言って帰って行った。いつもそうだった、彼は引っかき回してやっただけ後の事を片付けるのも彼だったがもういない。

そして、たぶん残酷な願いごとと分かっているけども、呪いのように之を続けなければいけない。いや、もとからだ。

きっとみんながみんな、何かに縛られて、いや人に触れて初めて人として生きていける。私は何をすればいい、私は何を成せばいい?決まっていないに決まっている。だから私はその呪いの様な祝福を……………。

 

「………………なあ、織斑千冬」

「なんだ?」

「私は、私として生きてみてもいいのかな?」

 

そう私は私だ敵と呼ばれ、それが愛称になるそんな不器用な機械。

 

「好きにすればいい。」

「あーそうだなじゃあ。一つ頼みごとがあるんだ。」

 

人が人で、私が私である第一歩を歩むことを私は望んだ。

 

 

それが、康一が一番喜ぶことだと思うから!

 

 

門出、人は死ぬ、簡単に死ぬ。肉体じゃない精神、魂はぐにゃりぐにゃりと形をかえ、死んでいく。彼が大切な物を捨て、自分のポリシーを食い物にしたように香を咀嚼し嚥下した時のように。それは悲しいことではある。けど、死ぬことに成り立っている生なのだから。

死は旅立つことだ。それが満足したものであったのならば、どれほど幸せなことだろう。

 

幸せを知らない男は、私によって初めてその手で幸せを掴み取ったのだろう。

 

不器用で無遠慮で天邪鬼で、周りの人を巻き込みに巻き込んだ彼は、きっと、きっと…………。

 

 


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