魔法それはファンタジーではなくてはならない存在。まあ、卓越しすぎた科学は魔法にしか見えないというが。この話も大概ファンタジーじゃないか。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ問題ない」
そしてファンタジー的な手段で今回はゆさぶりを掛けようと思う。
「エネ、IS学園に防御シールドが張られた時がチャンスだ。」
「了解だ。」
余談だが亀の甲羅は虫が湧くことがある。甲羅が割れてそこにゴキブリやカブトムシや、周りに食べ物がある最高の環境だから無理はないとは思うがうじゃうじゃと命を削っていく。
「そういうものだよ命というものは」
「ほい、IS学園のシールド再展開を確認。オーキシン超強力成長ホルモンの合成投与はすでに完了、合図したまえそれで阿鼻叫喚の地獄絵図の完成だ。」
おうけい、という訳で行け!エネ!
「了解、成長させます。」
何かが光るとかそんな視覚的に派手なものはなかった。だが、異常成長した木々草花がIS学園の中身を埋め尽くす。土に根を張り天を衝き、トトロでもいるんじゃねーかと思うほどに木が急に成長した、うっそうとしたジャングルを思わせる程に。
「よし。次。第二層を構築、視覚に残るように派手にやってくれ」
急速成長させた木々がカメを内側から蝕んでいくものだとしたら、こっちはボイルするみたいなものだ。二重三重に罠を仕掛けていく。効率を求めてね。
「ポータル解放準備完了、いつでもやれる。」
「すっぽんが甲羅に入ったか。さてさて、料理してすっぽん鍋でも作りましょうかね」
俺は飛んだ。今あるのは30機程度教師陣のISはもはや木偶の坊と考えていいだろう。残るはあの織斑夫婦とサウザンドウィンターこと千冬だ。
「織斑か。私の親の人生によくもまあついていけるもんだ。」
「と言うと?」
「私の研究開発の時からの仲だからねぇ、それなりに彼女も義務感もあったのだろうが私の親と付き合うというのは相当の精神力を使うだろうね。…………事実親の実験物で死にかけていた」
「そこ含めて化け物なんだろ。親父さんもお母さんも化け物じみていたからなぁ。」
もう思い出したくない位にひどい目に会ってしまった。
「君は君で必死に化け物を演じたまえ。救済も破滅も見届けてやるから」
「おうおう、破滅だけでおなか一杯さ。もし俺が死んじまったらお前だけは生きてくれ、俺の体を使ってもいい。ここまで付き合ってくれたお前への報酬さ」
「君は犬のクソ送りつけられて喜ぶと思うか?そんなことより私の作戦は頭に入っているか?」
応ともさ、この作戦はエネが立案したものだ。再侵入のプランは俺の物だけどな。
てかいわれりゃそうだな。妙にすとんと俺の腹の中に落ち着いたその言葉を結露した窓ガラスの落書きの如くかき消して俺は空を飛んでいる獲物たちに目を移した。
今この状況。バリアを解除することができない。そして、この木々をどうすることもできない。つまり、この極限にまで人型なっているエネを使えばほぼラスボスまで素通り。だけど、まずは中ボスがいるって言うのがRPGの王道でしょうねぇ
「という訳で会いに来たよ中ボス2人俺にとってこれ以上ない舞台でね。」
そしてISからISへジャンプこれでこの二人を制せば、もはや厄介な専用機持ちは少なくなる俺の天敵である織斑千冬を除いてだが。
二人はちょうど、個室にいた。ちょっとした体育館のようなものでISで結構暴れられそうではある。地理は頭に入っているどうやら好き勝手に暴れてもよさそうだ。
「来いよ、二人で掛かればもしかしたらその剣、俺に届くかもしれねーぜ?」
「箒、やるぞ。」
実のところ俺の天敵は織斑千冬だが、エネの天敵はこの二人だったりする。それは…………。
一夏は向かって左、箒はその逆側に立っていた。
「エネ、俺から離れろ。コアを使って準備してくれ」
返事はしなかった、それがたった一つの信頼関係。ひとつひとつ、編みこむようにカゲアカシを身に纏っていく。そして俺は頭のタガを外した、だらんと両の腕は垂れさがり口は無様に半開き、頭の中はミミズのように一本化された思考がこれまたミミズのように蠢いていた。
「あ」
そして俺は考えることをやめた。なぜかって?すげえ頭の痛みでそれどころじゃないからだ。
「っ!?」
二人が見た康一の姿はまるで化け物のようだった、いや、化け物というよりケダモノといったほうがあっている。一目見た印象はツギハギの人形、足は異常に太く胴体の装甲も鈍重に見えるほどに厚い。浮遊ユニットは、全面物理シールドで覆われていて、背中には巨大なスラスターが激しい自己主張をしていて、手だけは統一感の無ささを前面に押し出すかの様に鋭利で洗練された形だった。
これまでの康一は人間が千変万化に姿を変える化け物であったが、これではただの退化。
だが、それ故に原始的な力が二人を襲った。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
そして、その姿はまさしく異形。一目見て持つ感想がツギハギの化け物。
康一は吠えて、背中から火を噴きながら加速した。何も考えていないかのように。
「一夏!!」
加速した勢いそのままに拳を叩きつける、それは空を切り、一夏の剣が康一を襲う。康一が突っ込み暴れるだけなのに対して一夏は自分を極限にまで制御した戦い方をしていた。が、人が獣に勝てるだろうか?それはクマに囲碁で戦いを挑もうとするようなものだ、碁盤を出した瞬間踏み潰されるのが関の山であって計算だてて戦うものにとっては非常にやりにくい相手だった。
「くっ!?」
執拗に一夏だけを狙って攻撃する康一を対処し、そこに箒が一撃を加えていく、それを歯牙にもかけずに一夏のみを眼の中に入れていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「!?」
見えない弾丸に撃たれた様な感覚が一夏を襲った。びゅんびゅんと動き回り狙いはお粗末としか言えないが散弾仕様になっているため、もはや打てば当たる。決め手にはならないが非常に動きを阻害する。
そして、阻害した動きは少しのブレを作りそれで作られるほんの少しの時間だけで十分だった。
黒が飛ぶ。
終焉を呼び寄せるように疾く、死に向かうかの如く素早く。一夏の元へ手を叩きつけた、殴るじゃない。
もはやちょっとしたサイコパスホモ見たくなっているが。
「クソッ!」
「ウラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、扶桑の幹のような熱が一夏を襲う。だが、雪羅のシールドで防いだ。ただ、そこに置いておくだけで、異常な火力を出す。そして灯火をそのまま手放し加速、エネルギー体の中を突っ切っていく身を焦がすのは必至だが、終焉の者の全身装甲で軽減させている。決死の目くらましは利いたマグマの中を歩いて殴りに行くようなもの、箒も手を出せず、一夏もシールドを解除すればどうなるのかも検討がつかない。
「アアアッ!!」
拳をめちゃくちゃに叩きつける剣も何も振れない程にぼこぼこにしていたが
「っ!!」
声にならない声を上げて、康一の体を抱いた。そして何度も至近距離で出される雪羅の荷電粒子砲。だが、密着した状態から加速壁にたたき付けられる。もはや手数が違う。今の康一は3体分のISの力を出しているような物だ。そして。
「一夏!」
一夏から血が出た。血に濡れた物は小さな針。これはまずいと思ったのか、康一の攻撃から逃げた一夏に駆け寄り。絢爛に輝いた。箒のワンオフアビリティー絢爛舞踏が過度なストレス…………友人が死に、思い人も死にかけている、強烈なインパクトを与えたあの胸から貫き消し去る光景がフラッシュバックしていたから無理もない。結果暴走した。
「箒!やめろ!」
「ふう、使うのが遅いんだよ。」
その呟きと叫びは同時だった。巨大な舌に舐められているような嫌な感覚が全身に駆け巡った。
康一は剣を振った。そして、ふっと木枯らしのようにISがなくなっていた。
◆ ◆ ◆
「一夏!一夏!」
「あー、大丈夫?」
俺が見たのは首から血を流している一夏に駆け寄る箒の姿だった。傷口から見て頚椎の神経ぶった切ってないから大丈夫だと思うけど。
「くっ!」
「おうおう、殺してやるって顔しているな。という訳でさっさと退け。」
「何を!」
「直すのに邪魔だろうが。」
とおもむろに一夏に手を伸ばした。治療しねえと死ぬぞこれ。
「おーい、処理よろしく。」
「人使いの荒い奴だなお前は。」
「近づくな!」
はぁ、ここまで物わかりが悪いと頭が痛くなってくる。そもそも、ISを複数使うことはほぼ奇跡に等しいんだ
「俺が織斑一夏を殺さない理由その1、殺すんだったらISを使う。わざわざ解除して恐怖を与えるまでやることでもなく非効率。その2、生きながらえさせて織斑千冬の交渉材料に使う。その3、そもそも俺がISで殺人することは契約外、あれで懲りた。」
「…………何を馬鹿な事を。」
「もういいや、邪魔。」
普通に首に手をやった。
「いつっ!?」
「我慢しろ、死ぬよかましだろ。それともなんだ?男の子なんだから我慢しなさい!って言ったほうがいいのか?おしゃぶりの取れてないお坊ちゃんにはな。」
「いい加減にしろ!」
「おっと」
箒が一夏に伸びる俺の手を振り払った。いって、まだやり途中だったのに。小さくない傷口からだらだらと血が垂れていた。俺の皮膚の一部を一回癒着させて傷をふさいでそのあと内側から直して俺の皮膚の部分を腐り落とす方法をとったのだが。癒着したところで中断されてしまったがまあ遠距離から治療は続けられるし大丈夫だろう。
「じゃ、さようならお前の犯した罪を抱きながら落ちていけ。」
まあ、もうもはや箒に構うことは全くなくなったからなぁ。普通にさようならって言ってあげても良かったのかもしれないが。もうここまで来たら憎まれ役に徹する方が優しさだろう。
「作戦終了あとはラスボスだけだ」