「やあ二重人格ってこうやって対話できるものなんだねぇ」
一つ、頭の中で声が響く。
「どうも、はじめまして。俺」
「どうも、ひさしぶりね。私」
二つ、目に焼きつく下卑た笑み。
「さあ、さあ。葬式だ。」
三つ、不意突き回る二枚舌。
「新たなる俺よ。」
「古びた私、よく見てね?」
四つ、慈悲なく慈悲を殺す。
「それじゃ、ばいばい。」
五つ、死んださ。いつものように。血をすすり肉を食べる。
「……………。ありがとう相川香よう。糧になった。」
◆ ◆ ◆
俺は繰り返した。必要なもののために自分を殺した。ただ一つ違うのは。逆らっただけ。
致命的なまでに。逆らっただけ。
それは、ルーチンワークのようなものであったはずなのだ。それは、確実に今の、相澤康一にとってやらなければいけない物だったのだ。
それに、逆らった。
手には血。それに臓器。俺に課したたった一つの誓いは、ある意味では結構前に破られていた。
初めて俺は冷静に、人を殺した。
◆ ◆ ◆
死体は何も語らない。とは嘘だ。死体は多くを語ってくれる。死亡時刻、体形や死因、それに人体に隠した謎さえ明かしてくれる。
そう、死体とはかなり重要なものであると同時に、隠されるものでもある。もっとも、ランドルの場合は一片たりとも残っては居ないが。と言うわけで今回はさくっとランドルをコロコロしてきた後でございます。
「あれはまさに鬼気迫ると言った感じだった。実際に君はキレたら何をするか分からん怖さはあるな。」
「それにちょっくら付き合ってくれよ。」
少し口角を上げながら言った。
「それについて何だがね。」
「あん?」
疑問を口にしたことで、その先をエネは言った。
「IS学園に残るすべてのISが収容された。」
「なるほど。打って出てきた訳だ。」
康一は、一つの予想と言うかISを保護する立場からしたら一番の最善手。これまでに流した情報から予測できやすい状態にまでなっている。まあ、誰だってそーする。俺もそーすると言った状態を生み出した。
「だからと言ってきついのには変わりないがな。」
まあ、対策はできるだろう。
ISはその実自由自在に大きさを変えられる。今回はたぶん、ISその物をIS学園に輸送。そして次には人って感じか。
「虎穴に入らば虎子を得ずってか。ドラゴンの腹の中に居たほうがまだ希望は見れるね。」
「確実に神話生物10体ほどいる虎穴だが?」
それが一番の問題だ。ここにあるISは其れは其れは俺の涙ぐましい努力によって入手した物ではあるがそれをまともに使えるわけがない。なにせ元々IS適正が全くない状態で使えているのがおかしい状態であるにもかかわらず、ISの同時展開ができる訳がない。ISをドレスコートのように早着替えしようとしても俺ではどうあがいても装備、解除、装備。3秒はかかるな。死ぬな。
「また何か変なこと考えているようだが。大体が同時展開はお勧めしないよ」
「何でだ?」
「これまでは装備の一部の多重展開に、切り替えにしか過ぎなかったが丸々の多重展開ともなるとかなり負担がかかる。」
そういわれて自分の行動を振り返る。オルコット嬢のビットを並列運用したとき、カゲアカシとネルを同時併用したとき。思えばISを並列的に使うときはかなりの負担がかかった。
「元々君がカゲアカシを使うのも反対したいんだがねぇ。」
俺がその言葉に何でだと言う言葉を挟む前に、注釈のように説明を入れてきた。
「カゲアカシを使うには君も知っているとおり、私を介して処理している。一夏の様な化け物とは違い、凡人の男に使わせるにはそうするしかない。で私と康一のIS適正はSだ、寧ろSSと言ってもいいだろう。私を君に極限にまで最適化した訳だから当たり前と言えば当たり前なのだが。」
「と、そんな話は置いといてだな。君はISを操作するときの思考をよくパソコンに見立てて説明しているが、その表現を引用させてもらうと……………。」
そうだな、と一拍置いて少し考えた。
「君は無理矢理ハイスペックなエミュレーターを使っている低スペPCだ。今にもクラッシュしそう。」
クラッシュした時のことは俺の頭には想像したくない未来が。脳が爆発でもするのだろうか?
だとしたら、もう少し持ってくれよ俺の脳みそ。
「よし、それじゃあ情報収集だ。」
「だと思ったよ。相も変わらず君は人の話を聴こうとしない。」
と言われましても。エネに命じたのはIS学園内にあるカメラのデータ回収。それでどうなっているかをみるが、大体決まりきっているだろうし。
ちょっと、このときだけは。
時は元旦、日本の正月では紅白歌合戦とかガキ使とか。それらを終えてお年玉と言うような小学生の心にビンビン来る物であるが、俺はあまり好きじゃなかった。仕事が増えるからな。
「けれど、まあこんなにも世俗にまみれるとは。」
今は日本の神社に初もうでに来ている。
霊験あらたかとか、そういう物ではなく田舎にある寂れた神社の前に俺はいた、こういう所が俺にはお似合いだろうと心の中で自虐した。さすがに冬というものも相まって空気が澄んでいる、息を吸い込むたびに肺が焼けると錯覚する冷気が、頬を叩くほどに意識をはっきりとさせた。
神社の参拝の方法は知らない。金を投げ、頭を下げた。
願うのは。
願うのは。
「どうか、どうか、この先へと。」
空を見てそう思った。池に投げ入れる様なやり場のない届かぬか弱い詠嘆は、寂れた神社に深い波紋をもたらした。あいつの最後の声だったように思えた。