山の中。そこはあまり人の手が入っていない所詮雑木林と呼ばれる所だった。普段あまりにも静かで自然に生きる動物の活動が息づいているような所だった。
だった、つまりは過去形でしかない。
今では戦場、たった三人しかいなかったが、そこは確実に戦場だった。
血の臭い、爆発や熱量によって掘り起こされた土や残骸に、動物の死骸。人を狂わす暴力がところどころに見えて、そして爆心地では。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
二人が切り結び、一人がそれを援護している。2対1の状況下に立たされた相澤康一とそれを迎え撃つオータムとM、そしてそれを圧倒しているのは明らかに相澤康一だった。
お忘れだろうが、相澤康一は転生者だ。俗に転生者とか言ったら強くてニューゲームとか無双とか、そういうものを思い出すだろう。だがそれは人の範囲であって、どれだけ転生者という特典があったとしてもISと言う人型兵器の世界ではあまり生きてこなかっただけの話で、そこそこ強い。
まあ、それでもISの世界では周りの人間すべてがチート級の化け物ぞろいだからやはり生きてこない。
が、こうも圧倒しているのは故に執念の力と言っても過言ではないだろう。切り札を全力で出し切り、ここで全てをかけているに過ぎない。
「ラアアアアアアアッ!!」
クレイジーストリッパー、朧太刀、十五夜、ラグナロクの一撃などふんだんに使っただが、それでも二人は届かなかった。
そもそも、最近がおかしかった。突発的に予定に追われるようにやった戦闘は本来の戦いではない。用意周到に準備をして罠に嵌めて勝つ確率を上げた状態で勝負になるのが、この相澤康一の戦い方だったのだが、状況はそうはさせてくれなかった。
今の状況はまさしくそれであったが、それでも康一はまだ手札を全て切った訳でもなかった。
「徹底的にぶち殺す!」
その一言と共に、康一の体は輝いた。
「貴様らに冥土の土産として教えてやろう!これが全であり個の力。矛盾を孕んだ物の行く先と知れ!エネ!『カーテン』だ!!」
ただただ光っただけだった。確実に光とだけ呼べるもので、断じて何かが燃えていると言うわけではない。それだけで何かはわかったらしい。
「まずい、あれは!」
「何だぁ!?」
すでに、Mはわかっていると会話の中でわかった。
「光、そう光なんだ。そして、これが見えているってことは、光が届いているってことだよなぁ!?」
よくみると、二人のISの周りには自動防御のバリアが張られていた。
「まさかこれって!」
「可視光線が普通に攻撃力を持っているとISが判断しているんだ!」
「捕まえた。」
地面と言う名の地獄、ISの推進力が無に感じられるほどの力でオータムが押さえつけられた。
「ISはさ」
殴った。
「頑丈にできているんだよ」
殴った。
「宇宙でも人を生かすために」
殴った。
「だから地球じゃエネルギーをあまり使わない」
殴った。
「過酷な環境じゃないからな」
殴った。
「なら、過酷にしてやればいい。」
素手で殴った。
「軍用ISでも致命的なぐらいに。」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る、殴って、殴って、殴って、殴って、殴り潰す。そこまでいくともはやただの鬱憤晴らしだった。
「エームー?ドーエーム。」
康一はゆったりと立ち上がり、光の失われた目でMをさがしていた。
「おーいーでー?」
やっと見つけて、口だけが笑みを浮かべてそう言った。蛇に睨まれた蛙のことわざのように身動きをとれずにいた。
「三秒待つよ?ひとーつ」
一つを数える
「ふたーつ」「まて。」
動揺を隠さずにゆっくりゆっくりと地上にいる康一に近づいた。何かが違う、前にこの男に本格的に接触したときに感じた、母性にも似た何かは混じっているものの、まったく別の何かになってしまっているように感じた。
まるで、アノ時の香と名乗った時と康一と名乗っている時をあわせたような雰囲気。
エムはつばを飲んだ、その行動一つにも多大な負荷をかけられているような気がするほど緊張している。
「おいで?」
次の瞬間には、首を飛ばされてもおかしくはない。そう考えながらじりじりと距離を詰めていた。
「IS、ちょうだい?」
「ああ」
即解除、あんな光景を見せられたらそうするしかなかった。心が弱いとかそういう次元の話ではない、絶望的に勝てない。
エムは、ISを解除し康一に渡した。
「一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「この作戦を考えた愚か者は誰かな?エム、教えてくれないかな?俺知りたいなぁ。」
「ランドル博士です。」
康一はふっと、風のように消えていた。
一気に緊張の糸が切れその場に崩れ落ちるようにへたり込んだのは無理もないことだった。
「はぁ…………はぁ…………。」
息が切れて動悸も激しくなってきた。自分は世界に隔絶された存在だと思っていた、織斑千冬のクローンとして生れ落ちてそう思っていた。だが現実へ、一固体として認めてくれたアノ人は居ない。
なぜだか、Mはそう思った。
◆ ◆ ◆
「呼び覚ましちゃったか」
「エネ、ありがとう。すべて思い出したよ。俺化け物じゃねーか。」
なけなしの理性だった。いや、本能を極限にまで抑えて、自分の拠り所を一つに絞った。絶対に許さないと思うその一線を越えてしまった者に対する報復だったが。ここまで苛烈になるとは、エネは思っていなかった。
それに加え、昔のことを思い出してしまった、香を思い出す条件を、トラウマを思い出す条件を揃えてしまった。
「何をいまさら。君は世界に楯突いた、IS学園に反旗を翻した時点で他人とは隔絶した思考を持つ、化け物になっていたんだ」
「それ以前の話だ。」
悪戯やその他悪いことは一通りやっているが殺人だけはしたことがなかった。なぜか?命は取り返しが付かないからだ。
やるだけ回りに被害をもたらしても、俺はそれを元に戻そうと尽力していた。俺が決めた人である為のルール。
「破ってたんだな。」
「真実とは時に劇薬だ。」
「知ってる。その劇薬を一時的にでもお前は守ってくれた。俺がパンドラの箱のようにこの記憶を封じていたのもおかしくはない。ここまで、一夏たちと一緒に成長させてくれるまでに待っていてくれた、それだけでありがたい」
「ポジティブなのかネガティブなのか。わからないな君は」
「俺の感情がどうであろうと俺について回る状況は変わってはくれない。だったら俺は感情と回る感情を殺す、時と必要に応じてね。」
そこで言葉を詰まらせた。これは、またランドルと同じように「相澤康一」本人の感情が暴走して起こった結果だ。
「君はようやく吹っ切れたようだな。私たちを人間と呼称しそれでもなお世界を変えるには私たちを道具として扱うしかなかった。」
「今回ばかりはゆるさねえ」
「わかってる、実は初めてで興奮しているんだよ」
「私が
一人と一機、それが極々純粋な私刑で動いた結果は、ただの地獄だった。