ふと、起きた時に、涙を流していることがある。それはいつごろだったか忘れた。まあ、死ぬ前にはなかった話だ。
もう忘れているとは思うが俺は転生者だ、ただ重苦しい地獄とも大地獄とも呼べない中途半端な地獄のことなど思い出すメリットがないだけ。
今回それを思い出したのは、今日起きた時に涙を流していたからだ。こんな日はよくないことが起こると思う。
「おはよう。」
「ああ、おはようだ。」
エネにこの原因を聞くわけにもいかない、と少し困ったように頬を掻いていた。
少し、日光に照らされながら、小さいまどろみに身を任せていた。ゆらゆらとすごしたその時間は、午後まで続いた。空が、少し赤くなってきた頃に事件は起こった。
ふとカゲアカシを起動して情報を集めようと思った矢先、思惑とは裏腹に情報を集めるのではなく与えられた。
「……………。」
「っ!?」
康一は怒った、怒ったという表現が生ぬるいほどの感情だったが。
エネは焦った、彼女を呼び覚ましてしまうのではないかと。だが、送られてきた内容が内容だ。
『お前の親を預かった、今日の日没にまで来なかったら、爆発させる。』
そこにあったのは、康一で言う所のお手伝いさん、大高秋音。それがカプセルに閉じ込められている写真と上に書いた内容が送り付けられていた。
親、肉体的なつながりではなかったが、擬似的にでも愛を教えてくれた、少しでも救ってくれた恩人で母親のような物で。それを踏みにじられるような行為は絶対に許さない。
ベットに腰掛けていたのを反動を付けて立ち上がり、遠慮なくエネを
頭の中には一つしかなかった救うと。
◆ ◆ ◆
座標の極近くにポータルとなりえる通信機器を探して、そこに転移する。怒りに塗れているのにも関わらず、そこまでは冷静だったのだが。
あれを見るまでは、あの透明なカプセルの中に大高秋音を見るまでは。
「おっ」
獣のように俺は意識をなくしていた。今、今やらねばあの俺にとって大切な命が無くなってしまう。人としての生きかた常人のような生きかたではなかったが、今の俺を、この俺を作ってくれた人が!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
助け出して、こんなふざけた奴を殺す誰であろうと殺す。
カゲアカシのペトゥルを15へって12機を限界駆動させて高速でカプセルの元へと飛んだ。
右手には、大太刀、それを胸の辺りに刺した。
「は?」
康一の耳にはそう聞こえた。まるでエネの能力をわかってない上で、人質の意味を持つと言わんばかりに。
「っ!?」
振り向いたその場所に。おびえたような反応、そこには二体のISそしてバカ二人。
「…………」
二人は元同僚オータム、そしてM。そしてもう一人バカが増えた。
「アハッ」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」
「楽しいね!二人ともォォォォォォォォォォ!!!!」
狂った、同じ、本当に同じ状況。大切な人がもっと大切になり、そして康一が香になった時の事だった。
◆ ◆ ◆
それは、本当に偶然で、都合がよすぎる変な物語。
始まりは、誘拐だった。女性をなぜか連れ去った、それがただただ、大高秋音だっただけのことで。
目の前で連れ去られた当時三歳の康一はそれを追った、銀のワゴン車だった。とはいえ場所の特定には時間が掛かった、どうあがいても三歳なのだから。だが三歳とは思えない行動力で、周辺の監視カメラの映像を盗み出し、聞き込みをして場所の特定を図った。
人気の全くない所にあった、ワゴンを見つけたときはかなりの日数がたっており、そこに大高秋音がいたことはほぼ奇跡に近いだろう。工場内。
みたのは拳銃、縛られている光景、それは…………。
康一の脳がフル回転して、はらわたが煮えたぎるような怒りが身を焼いた。
「ウワアアアアアアアン」
子供の泣き声が聞こえた。大高にはそれが悪い予感を告げるものでしかなかった。
「ウワアアアアアアアン」
気味悪く劈く泣き声がだんだん近づいている。
「ウワアアアアアアアン」
まるで、これから起こることを悲しんでいるかのように。
「ウワアアアアアアアン」
ぴたりと止んだ。主犯と腰ぎんちゃく合わせて10人ほどはいただろう。それらは一斉に一箇所を向いた。子供だった。
そして死その物だった。
霧のように掻き消えたと思ったら一人が倒れた。音もなく。
欲望の力が爆発された、してしまった。
「お手伝いさん、少し待ってて。」
神速と言っても過言ではない。彼らは肉体を酷使した動きに翻弄されていく。常人の動体視力をはるかに超えて一人また一人と沈めていく。
銃声、打撃音、物が落ちる音、そこで起きる音すべては殺しのためにあった。
「助けに来たよ?」
康一は血まみれになってそう言った、それに薄気味悪さを感じるのは無理のないことだった。
「大丈夫…………なんですか?」
何も言わずに、額にキスをして微笑んだ。同時に銃声が聞こえて、血は康一のものか敵のものか分からない状態になった。
「康一様!」
「心配しないで?」
◆ ◆ ◆
それは人を殺した記憶、大切が大きく命を切りとることになった事件。それが康一の胸裏から鎌首をもたげて白い蛇が、心を噛み砕いた。
『いやーなこと思い出しちまったな。』
『じゃあね、私はもう要らないみたいだね』
『知ったことかよ。勝手に守っててお疲れてたんだろうよお前も、そんじゃお休みだ。』
心、唯一力のブレーキとなった物はここで砕け散った。
「M、オータム。もう容赦できねえぞ。」
震えた声で言った。力の譲渡は終わった。今ここにあるのはただ、ケダモノの凱旋である