「北京ダックうめえ。」
「やっぱりこうなるのか…………。」
北京ダックに舌鼓を打っているとイヤホンからそんな声が聞こえてきた。俺は今中国にいる、なんか文化が雑多にあえて煮込んだような町だった。
「2日ほどここにいるけど、生野菜が欲しくなるなぁ。」
「まあ、贅沢言うな。」
少し長く滞在しているのは、情報を集めるためでまだまだここにはファントムタスクも手をつけていないようだった。
「ここはコアがあまり居ないからな、ランドルと言った研究者を囲んでいるのなら実験機を奪取したほうが後のためになる。」
中国は実験機の開発はあまり振るわなく、凰が持っていた甲龍のプロトタイプ機「剣龍」はまあ、ある意味キメラみたいな物でほかの国の技術をちょこちょこ奪っていった物だ。だから中国自身に何かを開発するような技術があまりない。
「あそこは金はあるとはいえ慢性的な資材不足だったからなぁ。」
「仕方ないな、国からの積み立てはあるとしても大手をふるって買い物なんてできる訳がない。」
で、対して俺のほうはISを全部持っていく事を目的としている訳だから特に中国でも問題ない。
「よし、行くか。」
ネットだと足が付くし、エネはあまり使わない様にするし…………あ、あれはノーカン実に楽しかったもんだから。
さて、今から行くところは中国軍の中枢の中の中枢。だが調べたが結構ザル…………いや、俺にはザルだった。
「エネ、再構築の準備を。」
「了解だ」
◆ ◆ ◆
でかい、そして硬い。見た感じの印象はその二つに限る。
「これが軍の設備か。」
いやらしいぐらいに周りを壁で固めて、何者の侵入を拒むようだ。むしろ壁と言うより蓋といった方がいいのか、すでに空ける段階にまで行っているのだから。
「無駄に生体認証システムとか取り入れてるから悪い。」
お金渡したらそう教えてくれた。
「じゃ、頼むわ」
「はいはい、やればいいんでしょやれば。」
ピッと電子音がする。
「それじゃ。また会わないことを願うわ。」
「ごくろーさん」
なんだかんだやってたら開いた、もうわかってると思うけどねぇ。
さて、エネの機能をおさらいしておくか。簡単に言ってしまえば物質をエネルギーにしてエネルギーを物質に変える事ができる。だが条件というかプロセスがある。
まず、物質をエネルギーに変えるときにまず粉々に噛み砕く分子の結合をことごとく破壊しそこからISエネルギーにする。だが、そこから別の物質を作るとなると設計図みたいなのが必要になる、それはISの経験だったり直接ぶち込んだ設計図とかでも大丈夫だ。
逆に物質の再構成ならすぐだ、その破壊した分子を別の形で再結合させればいいのだから。
つまり。ISは物質AをA´にしISエネルギーに変換する、その後ISエネルギーをBに変換するためには設計図が必要。設計図無しだと、俺がランドルに突き刺した楔のような歪な形になってしまう。
A´をAの変化にするのは元々の形Aを再構成させるだけ、A´を『物質Aでできた道具』にするにはまた設計図が必要になってくる。
まあ何より物質の生成は結構難しいと言うことだ。
「よし、しんにゅー。」
「堂々入ったなぁ。」
正規のルートがあるのだからそっち使った方がいいでしょう。
「女にでも化けとくか?」
「あー、すぐばれそうだぞ。」
「下手にやったらばれるか。」
「ああ、もうすでにばれてる」
「中には監視カメラあるのかよ…………。」
各所に監視カメラのようなものがあり、楽すぎたのはそういうことか。
「エネ、直線距離でいくぞ」
「了解そこから11時の方向。」
そういえば、まだ俺が作ったISスーツは使っているのだろうか。
変なことを思いながら、道を作りながら走った。
「ここは楔で行く!搭乗者がいないようなら纏めて回収するぞ!いや、ここから行けるか!?」
「出来なくはない、そこの前の壁に手を付けろ!」
思いっきり手のひらを叩き付けた。ドンと鳴った音が染み込むように何かが行き渡るそれは虹を結晶化させ粉末にしたようなものだった。
それがあるところの物質が一気に消失し俺の手から先には槍が伸びていた。
「全10機回収した!」
「マジか!?」
「まさかここまで上手くいくとは思わなかった!」
予想外の戦果に驚きながら、俺は尻尾を巻いて逃げ出した。
「あっ、違う。前に熱源!ISだ!」
壁を思わずといった感じで消してしまった、そこは虎だった。虎穴に入ったと言わんばかりに危険がいっぱいだ。誤算は虎は3匹いた事だ。
「ネル!」
「わかった!」
俺の合図で目の前にバイクが出現した。飛び込むようにすわりアクセルを吹かす。ISコアで生成されたエネルギーを馬力に変えて発進させる。
こういった室内の中ではネルは最高のスピードを出す。対G能力が多くある女性にはとてもいいと思うけど、諸事情により俺は頭が痛くなってくる。
不意に出現した隙を突き相手の合間を縫って加速。十分な距離を持って。床に手を置いた
「壁!」
「了解!」
「ええ!?僕の出番これだけ!?」
俺の目の前に壁を出現させた。
残念ながらこれだけだ。てか長い時間使えないから。俺には脳のキャパが足りない。
「ここを虎穴にしてやる。」
頭を戦闘モードに切り替える。俺の姿が青いジャージ姿に変わった。その上に羽織るようにIS、カゲアカシを装備した。
「苦しいかもしれないけど我慢してくれ。」
「いいよ、こういうのは得意じゃないんだ。」
エネは戦闘があまり得意ではない。寧ろ尻尾巻いて逃げ出す方が得意だ、何せ何にも感知されることもない状態にして何処へでも行けるのだから。俺だって逃げるほうが強い。
だがそうしないのは情報は制限してこそ、その真価を発揮するからだ。
「戦うことが罪なら俺が背負ってやるってね?」
「うるせえ。一緒にやるんだよ。」
エネはそう言った。で、忘れてるとは思うがエネからデータを伝えてほかのISの挙動を操作している。俺とエネが仲たがいしていた時は、ISが使えていたというのが一種の信頼を確認する手段だったようにも思える。
さて、本題に入るが今エネの上にカゲアカシをつけている。この場合どのようなことが起こるでしょうか。
答え、操作性が向上する。
「ラァ!!」
強く踏みしめながら、ISのスラスターと併用した加速。今回邪魔なので灯火は仕舞ってある。
タックルするように突っ込む。
「クレイジーストリッパー!」
ISを解除してから滑り込む攻撃はISと人のギャップで外した。右足だけカゲアカシを展開し距離を稼いだ。
「壁!」
1,2発ぐらい食らうのは織り込み済みだ。強引に行く。
「鳥かごの中の虎か、さあ、子猫ちゃんたち遊ぼうぜ。」
「康一、この国にあるISはもうない、ラッキーだったな。上の私腹を肥やすためにISを一箇所に集めていたらしい。」
そりゃあ、好都合。攻撃されているのを物とも思わず敵に向き直った。
「めんどくさいし、まるっと回収はしなくてもいいよね?」
「いいよ、残り容量も気になるし。」
カゲアカシの能力しか使えないこともあって、どうしようかと思っていたが、ここは密室だ。だからどれだけ暴れてもばれやしないさ。
しかもこっちは攻撃を当てるだけでいいからだ。
「行くぞ。」
俺は駆った。膂力を全部使うように。敵は黄色と黒のストライプ、大中小の大きさのが三体いた。
まずは、大。まあ、あれだガ●タンク、ガ●キャノン、ガ●ダムの順で殺してこうみたいな物だ。
「五分」
湯花を呼び出し、それに5つペトゥルを変換し剣にする。移動の力を体重に載せて大に突き刺した。
エネルギー剣の強みは軽さと当てるだけでいいと言う簡便さにある。不便なのは持続能力がないことと扱いがめんどくさいことにある。くいっと自分に向けてしまったらと思うと目も当てられない。
「アアアアアッ!!」
「ぐがっ!?」
俺は懐に潜り込み当て続けたが、強引に投げられた。何だこれ、異常に力が強い!けど、楔は植えつけられた。
剣なら負けないとばかりに大も剣を出してきた。最初から持ってろよ。ってか、でかくありません事?
「ヤアアアアアアアアアアアッ!」
「うわっ」
無意識的にも大をタンクと評したのは間違いじゃなかったようだ。だが、対集団戦ではこっちに分がある。
一瞬で全員の位置と装備を把握、距離はさっきと変わらず近い順に大中小の順番。今度は中だ。
「タンクが邪魔だなぁおい!後何秒だ!」
「浅いから60だ。」
動きを止められない。一気に回収したほうが便利だ。
そう判断した俺は、投げられたところから体勢を立て直し、湯花を消して新たに両の手にペトゥルを呼び出した。
「ふん!」
それをサーベル状態にして敵側にブン投げた。まだあいつらにはビット能力があることを知らなければ破壊しないだろう。試金石として投げたそれは大は驚きはすれど、それを跳ね返してあろうことか自分たちの布陣の後方に中が投げた。
後四個連続で投げて大を引き付けた。大の大振りな攻撃をかわす。が中の持っている短槍が地味にいやらしく攻撃してきた。こうなってくると小の役割が気になってくる。
「だらぁ!」
気合と、ISの解除で大の股下を抜けた。中の攻撃をペトゥルでけん制し向き直る。装備は腕に四つペトゥル。
それが持つ力を推進力、そして破壊力に変えて拳を入れた。IS解除の効果を持たせるためのエネの短刀を腕に突き刺した。
「!?」
瞬間驚きと痛み、そして理解。何を理解したか、それは小の役割。確実に殺すことだ。
何処となく三機とも中国っぽい機体だったが、それが顕著になった。中国四千年どれだけの武器が作られて、その中にどれだけの暗器が生まれたと思っているのか。
俺の首に刺さって居たのは、ISの中指から飛び出た少し大きい針。
おそらく、ISの全エネルギーをそこに集約させるかそれか対絶対防御用の攻性エネルギーを作っているのだろう。それに加えて機体軽量化と本来より強いパワーアシストで、対人では使い手を選ぶがほぼ無敵じゃないだろうか?何せ人体に突き刺したら終わりだ。
そしてそれを理解し驚きの声を上げようと思ったときには、ただ首から鮮血が吹き出るだけだった。
パクパクと口を動かし、クールに勝ち誇った小の機体に言った。
おいしそうだと
その瞬間大に投げ飛ばされ壁に激突した時にはぷつりと生命の糸が切れていた。
「こいつ一人で壊滅状態だってね」
「そこまで大した奴じゃない、どうやって入ったのか分からないが」
「奇妙な能力を使っていたからまだ侮れんがな。」
ISから送られる生態情報は近くには自分を含めた3つしかないことを確認して、康一に寄った。
「盗人め」
「…………まあいい、さっさとこいつのISを回収しよう」
「死んだ奴から剥ぎ取るか、死んでから剥ぎ取るか。それが俺とお前らの違いさ。」
痛いと言いながら血が滴る首を押さえてのっそりと立ち上がる姿はC級映画のワンシーンのようだった。
それでもここに冗談は通じない、過敏に反応し康一から距離をとった。
「終わりだ」
ISが三人から霧散した。
「ちっめんどくせえことさせやがって。」
にんまりと笑いながら湯の花を取り出す。脅しのようにそれを少し弄び、康一はそれを振った。
あまりにも絶望的な光景は康一が何をしても恐怖しか与えなかった。
「タイムアップだ。」
チートもこうやってがんがん使っていくと対策取られちゃうからな。あまり使いたくないんだが。
「甲龍」
よし、衝撃砲で全員気絶してくれたし。
「エネ、帰るぞー」
「北京ダック!」
……………エネよ、貴様も北京ダックなのか?