「あ、あー。んうん。皆起きてる?」
そんな声が、一つの部屋に流れた。その部屋には大量の人、ちょっとした体育館のような広さで、100名以上の人が収容されていた。当然、プールに小さじの塩を入れた微弱な恐怖がその場を支配する。
「えーっと君たちは捕虜の扱いを受けるのかな?それで相談というかなんというか何だけど、どうすりゃいいの?」
その言葉には100人いれば反応もまちまちだったが大抵困惑といった風だった。先ほどの絡め手、不意打ちのオンパレードから転じて、国際法に遵守するまともな奴の印象を受けたからだ。
もしかしたら、彼の利益によってそう行動したのかも知れない。
「あ、そこでの声はこちらにも聞こえているから。」
「…………十分な糧食、怪我人の手当てぐらいだ」
「じゃあ、全部やってるね。百余名全員この部屋にいるはずだよ。じゃあ、ここで生活する時の注意点なんだけど、首輪があるでしょ?それ、取ると爆発します。逆に言えば取らなきゃ爆発しないってことなんだけどね。あと『ある一定条件』を満たしても爆発します、まあ、そこは容易に『想像』できるでしょ?」
痛いほどの沈黙が、その場を支配した。だけど、この男の声だけはとっても楽しそうだった。
「あとなんかほかに質問ある?無いならこれで、このプラント内での自由を得ることになるけど。」
「プラント内部は自由に行き来してもいいのか?」
「問題ナッシング!ほかは……………無さそうだね。それじゃ」
ガラガラと扉が横にスライドした、自動ではなく手動であけられてその空けた本人はニッコリ笑っていた。
「ようこそ、君たちにとっての地獄へ。」
行動がちぐはぐだった、中に言葉を伝えたいだけならわざわざ姿を現す必要はなかった。合理的に行動をしていないのだ。
「いい生活になるようにね。」
◆ ◆ ◆
「ふう」
「お疲れ…………しかし君もひどいことをするね、あの首輪爆発なんてしないのに。」
「お茶目ないたずらさ。」
そんな物じゃすまない。
「じゃあ、どうする?このプラントの柱を少しずつ壊していく感じにする?誰かが外して爆発しない緊張の糸が一気に外れて、皆いっせいに首輪を外そうとするだろ?そしたらプラント崩壊でジ・エンド。」
「悪趣味が過ぎるぞ。」
「まあ、これは布石だから。死と可能性とルールがあれば人は簡単に動くし崩壊させるのも容易だ。」
「…………君のそういう所に痺れるあこがれるぅ」
エネが半ばやけになってそう言った。
「首輪にしるしをつけてグループ化し5から7ほどのチームを乱立させる、そして『チームの中で「一定の条件」を満たした者がいる場合その者以外が爆発する』なるほど、それなら嫌でも顔を突き合せないといけないし、何より連帯と外交が生まれる。」
「1分ぐらいで考えたけどいいでしょこれ。」
まあ、万一爆発するようなことがあったら、そいつに「なりすます」だけだ。
幸い時間もある、ISの四分の一が個人に盗られたとあっては国が大手を振って俺を追い詰めるだろう。多国籍軍を編成する時間が、ただ一人個人の動きでそれをやっているはずなのに、世界は俺を一人とは認めない。さっきの戦いのとおりに、動くはずだろう。
「ちょろいね」
「全部のISをすべて奪うつもりなら、最大の関門が一つあるぞ。」
「我らが担任殿だろう?駄目だだめだ、今からあんな化け物のことを考えたら頭が痛くなって死にそうだ。」
実際にやるとすれば、IS学園にぽいっと現れるぐらいしか手段はないだろうな。
「よし、当面の仕事も決まったことだし、いきますか」
「目標は?」
「ああ…………北京ダック食いたい。」
いや、ただ食いたいって訳じゃない。今回落としたパイロットにはヨーロッパ諸国のような顔立ちの人が多かったからまだそこらへんからは盗ってないなぁって思っただけだ。
「フカヒレこの周辺でも取れるか?」
「それいただき…………無駄に豪勢な物を振舞うって言うのも良いかもなぁ。」
「やっぱり君は悪趣味だ」とエネが嘆息しながら言った。「けど、気持ちがいいぐらい真っ直ぐだとも思ってるよ」
「ある意味な。清々しいぐらいに行動は一貫していると自覚しているよ。」
エネのために、あいつらも副次的に勝手に救われるかも知れないけど。
「無駄口叩いてないで、さっさと行きますか。エネ、目標は本場の北京ダックだ!」
「違うだろ、中国、上海の適当なところにでもポータルを開くよ。」
俺はこっそりと気合を入れなおした。何が起こるんだろうか。