「はぁ」
俺は帰還した。いやいや、別にさっきの回想の後の話じゃない世界を相手取るのは、まだこれからだ。てか前日譚みたいなものだ。
「上司の目の前でこれでもかとため息をつくのはやめなさい。」
と疲れを感じさせない全く衰えがないその美貌を周りに振り撒きながら話しているのは俺の上の上の上司、スコール先輩だ。
「これでも疲れているの」
サメタ目でスコールを見た。その情報は本当なら吉報中の吉報なんだが。これからエネを使う。
「それは良かったですね。」
俺はスコールに抱きついた。いつもやっているかのように自然に懐に入り、抱きついた。スコールの顎に俺の頭が付くか付かないかといった彼我の身長差。
顔は見えないが困惑した雰囲気が伝わってくる。でも困惑するのはここが本番じゃない。5秒くらい立っただろうか。
「よっと」
消した。
「…………最初からこうできれば楽なんだけどなぁ。」
今回は相手が相手だ、もしかしたらそのまま、顔を三倍ぐらいに腫らされたのかもしれないが。まあ、できたものはしょうがない。ラッキーと言っておこう。それに、今回は
「これで、俺は…………」
ナイフに向かって一歩前進するほどにもう後戻りはできない。次は、ISの格納庫を漁って行く。監視カメラを一睨みして俺は歩みを進めた。不気味なほど静かなのが嫌な予感がする。
格納庫の前に立つ、一回深呼吸をして扉を開けた。部屋に何人かいたが、殺気や焦りが見えてこない。特に俺が来た事になんの疑問も抱いていないようだ。格納庫を管理している人とは顔見知りになっている、いま近くの事務室で机に座りIS出撃の管理をしていた。
その人に「また出撃があるんだけどどれに乗るんだ?」といった。
管理人の中で勝手に納得して、整備士に話を通してくれた。
「あ、なんかここら辺にゴミ付いてるぞ。」
「ん?…………取れたか?」
「いや、まだ」
俺は後ろ髪に手を伸ばして掴み、そのまま顔面を机に叩き付けた。流れるようにポケットから睡眠スプレーを取り出し噴射した。ここにも、監視カメラはあるがまだ警報は鳴らないようだ。
足早に解放したISの元へ向かう。極力エネの存在は悟られないようにしないといけないし、相手に最初からなぜ使わなかったんだと疑心暗鬼の元を植え付けるのにちょうどよかったりもする。そして間違った解に辿り着いてしまうかもしれないしな。
「こいつか。」
今度はテンペスタだった。前にも一回使ったことがあるが、男として使うのは初めてだからな。
「使用しますね。」
「ああ」
アンロックしたのを見計らって首の後ろを叩いた。
「加減がわかんねーからすまねえな。」
テンペスタに手をかざし手回収する。また一つ、足輪に少し重みが増した。見つけられたのは女性2人、部屋の対角線に近いところにたって俺の様子を見ていた奴だ。2人とも異常事態を察して拳銃を抜いた、俺は1人に狙いを絞った。ISの影に隠れながら回収していく、視界が開けたところで拳銃の射線を外しながら距離を詰めていく。オートマ拳銃の装弾数以上に撃ち尽くしてカチカチといった空虚な音が聞こえた。
弾切れの隙を逃さず腹にスピードを乗せた一発をぶちかます。側頭部にショートフックを入れて流れるように投げ飛ばした。
「止まれ!」
もう一人は、ISを装備して俺を襲ってきた。一足で懐に入り顎をつかんで脳を揺らした。。
「いただきます。」
俺はISに手をかざし回収した。ここまで暴れると流石に警報が鳴り始めた。だが、ISはすべて俺の物にしてるといっても過言ではないし、「M」や「オータム」も不在だ。しかも加えて実働部隊のトップを失ったので命令系統を立て直すには時間が掛かる、少しはしばらくは烏合の集になってもらえるだろう。
そのうちに回収した。最後のIS回収を終えたとたんにファントムタスクの戦闘員が入ってきた。そのタイミングで投げるのは閃光手榴弾。敵の合間を縫ってそこを脱出した、二回目は…………喧嘩を売るすべてに。
俺が駆け込んだのは結構印象のある場所あの宣戦布告をした場所で設備は整えてある。気取った声でおちゃらけながら。
「3・2・1・キュー」
◆ ◆ ◆
「どうもー。」
「コレ全世界に流れてるのかな?。俺たちファントムタスクが全世界で喧嘩売ってるさなか悪いんだけど。」
「俺トップ殺しちゃいました。やっちゃった、テヘ。」
「それで世界が少し平和になるって訳じゃなくて。代わりに、俺が世界に喧嘩を売る。」
「おいおい、そこの君。ただの気狂いだと思ってたら大間違いだ。」
「お汁粉にタバスコをぶちまけるぐらい大間違いだ。」
「俺は本気で世界に喧嘩を売っているし、実際にいまファントムタスクとも敵対しているって事。」
「男でISを使えるって事もあるだろうけど。あ、そうだ。」パチン
「ここでこいつ殺しちゃうわ。まあ、普通に犯罪だし殺す理由もできるだろ。」
ドスッ。
「まあね、手刀で殺すなんて現実離れも良いところだ。だけどこの世界中に極一握りの人間にはこれの真実がわかっているだろうが。」
「世界に伝えたいのは敵は俺、相澤康一だって事だ。」
「手始めに俺は太平洋の海上プラントを襲撃してくるよ。寝床と飯とISがあるサイコーじゃん。」
といってブツンとブラウン管テレビが消えたような音がした。
◆ ◆ ◆
IS学園では、一部の生徒を除きこの情報は伝えられなかった。この相澤康一の宣戦布告の情報は、専用機持ちにのみに伝えられた。
「そういえばまだ鈴がやられてから半年も経ってないんだよな。」
「セシリアも…………。」
いつ来るかわからない恐怖におびえながら、一夏、箒、シャルロット、ラウラ、簪姉妹は話を聞いた。
「学園側に協力を要請されれば専用機持ちが出撃することもある、それを念頭において生活してくれ。」
千冬はそれを言い終わるとその場から立ち去った。
「…………楯無さん、箒。終わったら練習に行こう。」
「止めろ、少し休め。といっても聞かないか。」
一夏の練習は尋常ではない。アリーナが空く時間には滑り込み、門限ぎりぎりまで戦闘して帰る。練習もさまざまで、全員に射撃武器を延々と打ち続けさせて、それを避ける練習や。反してただただ武装を出したり入れたりを繰り返すだけの練習もある。
「頼む。」
最近の出来事で少し荒んでしまった印象を受けた。一夏の中では今でも「止める」と思っているのだろうか。
◆ ◆ ◆
終わった。日本語でしか喋ってないがどうせ翻訳とかされて世界に広まることだろう。
「おお、君も大きく啖呵をきったねぇ。」
「ネルか。まあ、敵さんが向こうから来てくれるんだから、挑発するには越したことはないでしょ。」
「今までの行動を見てただけでも結構な捻くれ者だと思ったけど?暗躍、奇襲に嘘、虚偽搦め手のオンパレードだ。」
「今回はそれじゃいけないんだよ。正面からねじ伏せて、認めてさせて、お前らを空に連れてってやらないと。」
「そうか。」
一言だけそう言ってネルとの会話は終わった。
「それじゃ、行きますか。」
俺は黒いISをまとって目的の場所へ飛んでいった。
◆ ◆ ◆
「おいおい、やりすぎじゃないの?」
そこにいたのは。ハエのように飛び回っているISの群れ。絶対に自然現象ではないが気を許すとそう見えてしまいそうだ。数は……………30程度か。
たぶんISの視力だ、もう此方にきていることは分かっているだろう。
「ラグナロクの一撃!」
なら、最初から飛ばしていくしかない!
狙うのは足元の海、圧倒的な熱量で水蒸気爆発を起こさせる。行動を鎮圧から殲滅に切り替えさせるために。そして俺の目的を実感させるために。
まずは不和を引き起こさせる。
「おい、手はずどおりにやれよ!」
ありもしない味方に怒鳴って支持を出した。相手はそれだけで動揺してくれたりはしない、これから「たられば」を誘発させるために、根拠を作ってやる。
相手の出方はわからなかったが、俺は、一人に集中した。何も相手取るってわけじゃない、この中で観察をするんだ、そして特徴的な癖を見つけることが先決だ。
俺は、群れの中に飛び込んだ。瞬間的な力を使い、混戦に持ち込む。俺に向かって球状になりそれぞれの武装で一斉射。俺は海面すれすれに位置取り虚口を使った、雨あられのような弾丸は、攻撃性エネルギーの膜で威力をなくしていった。
動きを完全に止めているにも関わらず、一斉射撃も数十秒続いたのは、俺に人数の多さとエネで消した事がばれていると感じさせるには十分だった。近づいたら殺されると思っているんだろう、今回結構リスクが高いからやめておく。
俺にとって射撃攻撃しかしないなら好都合だ。思いっきりペトゥルを5個使い加速する。一対一に持ち込まないと勝機は見えてこないから、近場にいた奴に照準を合わせた。
「ハロー」
相手は距離を詰められたが、た引きながら弾丸を撃ち込むという冷静な対処をしてくれていた。だけど、それは一回近づいたら、誤射の可能性が出てくる。少し、銃弾の雨がやんだ。
それを繰り返していく。脳を揺らしたり、ISのエネルギーを詰まらせたり、シュールストレミングをぶっ掛けたり。数多に手札を変えて、これまでつかった手口を披露した。
「こんな程度かよ!」
それで7機ほど撃墜させISを剥ぎ取って人間は海に捨てておいた。挑発やかく乱を精一杯したがまだ減る気がしない。と思っていた矢先に空気が変わった、何かをやる気だ、何かはわからない。たぶん俺のみを殺すための作戦が。
気の緩みと気の変わりようが肌で感じる。目でも全員が全員近接武器になっているのを見ると嫌でも何かが来ると思うだろう。しかし決定的な意識の差をどうして覆すことができたのだろうか。
動揺はあった。一人で行動していると報告があったのなら、俺のかく乱には動揺しなかったはずだ。なら一人を確実に殺しに行こうという腹だろう。
俺は、湯花を呼び出した。全十五個すべてをエネルギーブレードに。一気に掛かってきた奴らを一気に薙ぎ払った
「扶桑!!」
荒れ狂う竜のようにサーベルがうごめいて、俺の腕の動きに合わせてすべてが切り取られていくような破壊力だった。たぶん、上空から見れば巨木を振り回している様な光景が見られるだろう。
「全部墜ちたか。」
静けさが俺を祝福してくれているような気がした。危険域には入っているだろうが、まだ大丈夫だろう。まずは墜ちたISの救助だ。と視線を海に向け、ISの場所を確認する。
「おい!」
突然聞こえた大きな声、それはよく聞き覚えのある声だったが、そんな事を思うより先に腑抜けた感覚に活を入れてくれた。だが遅かったらしい。
刹那的に、全方位に気を回したが……………。ISのスーパーセンサーの援護もあり一つの弾丸が見えた、だが見えただけだ、避けられる訳がない。
俺は、胸を強打した感覚に陥り意識を手放した。
「これぐらいで、いつからそんなに軟弱になってしまったんだい?」
肌に当たる水、というか全身を包んでいるしょっぱい水。意識が覚醒した時にはこの状態だったからか思考にのみ意識が行く。だから、根拠はないけどエネだって気が付いたんだ。
「……………」
「にやけるなアホが。」
その声は、どこかあきれているようで、少し笑いを堪えているような気がした。つられて俺はにんまりと笑っていた。
「仕方ないから、味方をしてやる。」
力強く、どこか不安定だった俺の心を応援してくれている。エネの言葉がしみこんでいくようだ。
「私がいなけりゃ何にもできないんだから。」
そんな現実からもにげていた。
「忘れてたよ、すげーなげー喧嘩だった。」
「いや、何度も言うようだが、私は使われるのが本来だ。…………けど、この最近は味気なかった。」
「俺もだ。」
「行こう。だがしかし、非常に異常な事態だ、本当に世界は広い。」
「君が現実逃避をしたくなるほどにはね?」
心を読むな。
「大変過ぎてそこまで過去じゃねーのに走馬灯が見えたよ。」
コレも、ひとつの走馬灯になるときがくるのだろうか。
「しっかし私も世界を相手取るなんて初めてだよ。」
目の前にあるのは世界。中に散らばっていたIS。いまざっと数えたけど全部で100機ぐらいあるんじゃないか?しかも見知った顔もいる。撃墜したのもあわせればほぼ4/1は手中に収めることができる。
「大丈夫だ、俺も初めて。」
「まったく油断ならないね。君が。」
今動かせる実戦配備されたISの量は以外に少ないらしい、それに相手からしてみたら敵は俺のたった1人のヌルゲーでスライム倒したらクリアレベルで「この程度でいい」と判断されたのだろう。
「俺らもなめられた物だ。」
「いやいや、私たちは最弱のISに最低の人間だぞ?舐める要素しかないさ。」
「…………それじゃ覚悟はできた。」
思考は下種、体は卑怯、心はいつでも悪に。演じきる、このうれしさを現すために!
「いくぞ」
「おう」