世界は広い。地球規模で考えてそんな事をいう人が大多数だ。
だから、人より視野の狭い俺にはもっと世界は広く見えて、そして一つのことしか捕らえきれないのは仕方ないことだ。
目を塞ぐ事は世界に殺されると同義であってもそれをせずにはいられない。
これは、戦闘という狭い視野で見た時に目に焼きついた物の話だ。
◆ ◆ ◆
その始まりは宣戦布告した後、セシリアを襲う前。
「カゲアカシを使わずに戦闘に参加しろ?」
「そうよ。」
俺の直属の上司スコールにそんな事を言われた、上がじきじきに来るなんて信用された物ですねぇ。
その前に言われたことの意味を確認したい。カゲアカシを使わないで?…………できるのか?
「分かりました」
できないかも知れないが、やるだけやってみよう。
俺のISを扱う力は単にエネの力による物で、俺→エネ→カゲアカシという操作をしている。エネと只今絶賛不仲中である俺に、そんなことが出来るのかと不安になるのは仕方ないことだろう。
「操作するISは此方で用意するから心配しないで10月4日にカイロの研究所で襲撃よ。」
「分かりました。」
エネ、お前ここでばれるようなことをしたらどうなるか分からないから協力してくださいお願いします。
◆ ◆ ◆
その当日渡されたISはラファール・リバイブだった。特に問題はない良くも悪くもない機体で、それゆえ人気もある。
ピーキーな機体しか使ってないから、逆に新鮮ではあった。
「それじゃ、いきますか。」
周りに人がいない、俺が始めて中規模の攻撃隊に組み込まれた作戦が幕をあげた。
俺は中にまで潜入し行ける所まで最奥に進みISを展開する役で、一気に警備の目がいく危険な役ではあるが後の作戦行動に大きくかかわることなので重要だ。
仲間のサポートもあり、内部に侵入できたのは良いのだが。目の前にあるこれは何だ?いや、正直何かは分かっている。バイクだ。スーパーバイクの様なゴテゴテした装飾が目立つ。色は緑が混じった黒、緑3黒7の割合だ。
なぜだか、本能的にその目の前にあるのがISだと思った。
コレを持ち帰ればいいのか。手を伸ばしたその時声が聞こえた
「触らないで!!」
外では襲撃しているであろう、だがここは静かで怒鳴れば響く。周囲を見回して音の発生源を探したが見当たらない。
「どこ向いてるのこっちだよ。」
その声と同時に俺はISを起動させる。触るなと言っているのであれば破壊すれば何らかのアクションは起こすはずだ。対話、いや言葉が通じないなら実力行使だ。少し、心の中で一息ついて金属の塊を重力で加速させながら、バイクに叩きつけた。
「イタッ!!」
「!?」
状況からしてこいつが喋っていたのか?と考えたが絵空事とも切り捨てられない、常識で立ち会えば幾度驚いても足りない。
それに、攻撃を入れてきたようだ。こいつは時間を稼ぐために声を出したのかも知れない。どっからか姿は見えないが兆弾を使い俺のあばら骨に弾丸を撃ち込んできた。衝撃からして、IS用の武器に匹敵する。
奥の曲がり角からショートカットの女が出てきた、ボーイッシュな感じがするがたぶん女だ。
「ネル。さっさと来てほしい。」
「何度も言ってるけど君が乗らなきゃただのバイクだよ。」
女が殴って飛ばしたバイクに向かい歩きながら喋っている。銃口は此方に向いたままだ。
超精巧な腹話術でもなさそうだ。だけど、やっている意味が分からない、合理的に考えたらISの自己成長による何かの副産物と思っていいんじゃないか?
「おい、そこのIS。」
「おおう、お兄さん。僕をISだと認識してくれるのかい!?」
「ネル、この人は敵だ。」
「そうだったそうだった。」
話が進まない。それに、このバイクはISであることに間違いはない。それで聞きたい事がある
「お前、ISの意識が外にあるのか?」
「…………もしかしてお兄さん、女王様?」
「ネル、君は性別すらも見分けられなくなっちゃった?」
それにいたってはあたらずも遠からずだ。
「半分正解、半分不正解。って所か。確かに俺は女王の能力を持った物であるが、俺に女王の意思はない。喧嘩別れしちまってそこから引きこもりさ。」
「ふうん。ならボコボコにしても問題ないよね。キイやっちゃおうよ」
「最初からそのつもり」
女はバイクにまたがり俺を見据えた。バイクも同じなようだ。
「そうそうお兄さん。僕はISの意識じゃない。けどそれを伝えることは出来るぐらいの能力は持ってしまったんだよ。僕も、兄さんの質問には、YESでありNOであると答えておくよ。」
アクセルを吹かした。それは戦闘の合図。狭い室内では大きな獲物は扱いづらい、右手に拳銃を出し左にはナイフを構えた。おそらく、世界研究者クラブの贋作だろう。テストとして作ってみたんだろうが…………。
キイと呼ばれた女は銃口をはずしてまったく別の場所に撃った。耳に響く銃声と跳弾の音が視線を誘導させた。
「どこを見てるの。」
声が後ろから聞こえた、遅れて風が顔に叩きつけられた。
「ここだったら私の独壇場。」
左手のナイフを振り向きざまに切りつけるがすでにそこにはいない。置き土産とでもいいたげな手榴弾が俺を襲った。キンキンする耳を無視して一直線に進んだ、爆発の圧力で内臓が押し上げられながらも距離を詰めて虚を突かない限り勝機はない。
無駄に突っ込みながら発砲する。
「悪趣味だから嫌い」
爆発の光で焼けた目が治る。すると前にはバイクはなかった。ただ、ISの力で全方位見られるといっても、普段処理している脳が追いつかなければ意味がないし、人間の形をしているということは真後ろは確実に隙ができる訳でバイクは俺の真後ろを捉えていた。
おまけと言わんばかりに、何処から出してきたかわからない特製の刃が付いたタイヤになっていた。
近接戦闘は俺の独壇場だ。滑り込んでくるバイクを見ながら、跳躍し俺のISをすべて解除する。ISと人との差で俺は宙に浮いた。
相手は冷静に対処していた。銃口が俺の眉間に向かっていた。
「クレイジーストリッパー。」
腕にISの装甲を顕現させる。手が鋼鉄になるような一体感が心地いい。それで殴ったただの原始的な攻撃、だが圧倒的な科学力その威力を底上げさせる。
眉間に銃弾が吸い込まれるような気がしたが、そんなものも認識できない。伸ばした鋼鉄の拳も届かなかったがさらにその距離を短くして距離を詰める。
狙うのは顎、狙い脳を揺らせば死なない、だが、動けないの二つは達成される。
「ラァッ!!」
成功した。相手は平衡感覚を失って死に体となって、俺は呼び出したナイフを突き刺す。本来ならISの絶対防御によってやられはしないが、バイク型のISだ多少の衝撃でバイクと操縦者がバラバラになってしまった。
こうなればもうただの人
「あちゃー。まさかそんな手があったとはねぇ。」
「正直賭けだったがな。」
ISコアネットワークでこの脆弱性はなくなってると思ったが。というかバイクが喋る喋る。
「一回コレをやったことがあるのかい?」
「ああ。」
「ならそいつはステルスモードで動いていたんだと思うよ。だけど僕は違う。」
なるほど、この技はもう使えないって事か。…………はったりかもしれないが。
「で、相談何だけどさ。」
「もうあいつには手を出すなってか?」
「そういうことさ。」
出すつもりはないんだけどねぇ。
「キイ、やめろ。」
バイクが搭乗者の名前を呼び何かを制した。どうしたんだと見てみると、拳銃をこっちに構えていた。
「ネルに手を出すな!」
友情劇みたいなのが生み出されようとしてる。もしかしなくても俺が悪役だ。
「お前愛されてるな。」
「それ君が言うかい?」
ちょっとした皮肉を混ぜたのだが、案外訳のわからない言葉が返ってきた。
「君に少し嫉妬してるんだよ。だって、喧嘩別れって言っても君は女王の力を使えているって事は、女王サマは君に力を貸しているって事なんだよ。だから、君は僕に悪いようにはしないと思うんだ。場合によっては力を貸してもいい位の理由だよ。」
その言葉は脳天からハンマーを振り下ろされたような感覚だった。その言葉が何処まで真実を言い当てているのかはわからない釣りえさほどの大きさの希望が見えた。
「それじゃ」
「人の心を踏みにじって奪った結晶の回収を」
「…………完了させていただきますか。」
苦笑交じりに俺は、ラファールのスラスターを最大限にしてここから離れた。
手には弾丸が連なったような腕輪を持ちながら・・・
◆ ◆ ◆
そうそう、こんなことがあったんだよ、俺が一人でこっけいなダンスを踊っていた時期が。
そして今さっきの話をしている現在へ………
非常に異常な事態だ、本当に世界は広い。
「君が現実逃避をしたくなるほどにはね?」
心を読むな。
「大変過ぎてそこまで過去じゃねーのに走馬灯が見えたよ。」
コレも、ひとつの走馬灯になるときがくるのだろうか。
「しっかし私も世界を相手取るなんて初めてだよ。」
目の前にあるのは世界。中に散らばっていたIS。いまざっと数えたけど全部で100機ぐらいあるんじゃないか?しかも見知った顔もいる。
「大丈夫だ、俺も初めて。」
「まったく油断ならないね。君が。」
今動かせる実戦配備されたISの量は以外に少ないらしい、それに相手からしてみたら敵は俺のたった1人のヌルゲーでスライム倒したらクリアレベルで「この程度でいい」と判断されたのだろう。
「俺らもなめられた物だ。」
「いやいや、私たちは最弱のISに最低の人間だぞ?舐める要素しかないさ。」
「…………それじゃ覚悟はできた。」
思考は下種、体は卑怯、心はいつでも悪に。演じきる、このうれしさを現すために!
「いくぞ」
「おう」