「我々は亡国企業だ。」
「目的は、世界征服。」
◆ ◆ ◆
IS学園は揺れていた。世界のTV局がジャックされ、まるで子供の空想のような目的を話すテロリストがいたからだ。もちろん、今は4月1日ではない。本気で世界征服しに来ている可能性を示唆していた。
「ただそれだけだ。何の冗談かと思っている者は平和ボケした目で見ているといい。」
「そういった者は、ただ我々の手で死ぬだけだ。」
テレビには数人が映っている。その中には相澤康一が映っていた。それを見ていた一夏は康一の言った言葉を思い出した。
『「俺たちは戦うしかないんだ。もうその状態まで進めてしまって、絶対に後戻りはできない。それに、お前はいまだに日和見な考えでいるようだがそれは捨ててくれ、お前のためにも。それに。IS学園上部はすでに裏切り物がいるということは予想しているだろう。この対話自体も、もしかしたらお前も裏切るかも知れないという可能性を浮かばせる。自分の命を削るようなことはするな。もう、俺は敵になったんだよ」』
その意味を再認識した。
「我々の要求は全ISの譲渡。その上で世界征服をする。」
何をバカバカしい事を言っているんだと大勢の人が思ったことだが、口に出せなかった。
「やろうぜ、康一」
◆ ◆ ◆
合図だ。カメラが映る範囲外にいたやつが目配せをした。
「繰り返す、我々は亡国企業。その目的は世界征服だ。我々は今ここに全世界に宣戦布告する!」
「我々にはこれまでに約1割のISを所持し、男性にISを使わせる技術も開発した。」
俺が前に出て、ISを起動させた。
「それに、篠ノ之博士の確保。」
そのままISで隣にあった黒い布を引き剥がした。後ろ手に拘束された篠ノ之束博士だった。
◆ ◆ ◆
「……………」
世界研究者クラブにて、相澤康一の「義理の」妹である相澤一葉はその様子を良く見ていた。腹が疼く。散々馬鹿にして、散々笑いあった3年の日々を壊すのには十分な痛さを味わった。
「冗談でもなんでもない、我々は本気だ。」
「これより、全世界に向けて攻撃を開始する。」
これから、私の兄もその攻撃に参加するのかと考えるだけでも頭と、殴られた腹が痛み出す。
「何で、なんですか。」
大切な人の裏切りとはここまで辛い物だったのかと、痛みを意識の外に追いやった。ヒトゴトにしなければやってられない。
「私だけなんですかね。」
「私だけ。」
どこまでも、一人だった。
◆ ◆ ◆
「おつっしたー」
今俺の耳には、堅苦しくむさ苦しい軍人然とした口調がこびりついている。カメラの前で台詞を言った者が、血管がぶち切れる位に声を張り上げていたからだ。
そんな撮影をすでに終わり、後片付けの手伝いをした。正直な所この撮影で俺の仕事はもうほぼ終わったと言ってもいい。それはたぶんここの成り立ちにも関わってくる。
ファントムタスクの異常性は、「強い」その一点に限る。ここの規模なら、大国と張り合えて小国なら二、三個は潰せる勢いで、経済的な力も俺が所属している実行部隊、もといテロ部隊の金も国と比肩する程だ。
これは、俺が事務的なことをやっていて知りえた情報だ。
だが、その強さはどこから来ているのか。国籍も、思想も、人種もバラバラすぎる亡国企業がなぜここまで来ているのか。それは「亡国企業」滅びた国の会社。ここにすべてのヒントが隠されている。
亡くなったんじゃない。すでに無いんだ。
思想が、人種も、ありとあらゆる国たる物がない。まるで「画一化されたシステム」のように。
ここにいる人をすべて調べた結果。軍属や国に使えていた者ばかり。
「画一化されたシステム」
なら世界を相手取るシステム、各国が諸手を挙げて賛同するようなシステムとは何か。
それは保険、つまり救済措置のシステム。
第二次大戦以降、国のパワーバランスが一変し某A国などがのし上がって来た。だが盛者必衰の言葉の通り落ちぶれることもあるだろう。
だから、戦争というリセットボタンを使う
弱い国も、強い国も関係ないすべてを巻き込んだ、大戦争。戦争で金は回り鉄屑が金となる。混乱に乗じて敵を殺し、そうなっている間に亡国はすべてを飲み込んでいく。そして、負けて新たなパワーバランスが生まれる、そこで勝った物が次の盛者だ。
つまり、亡国企業は「世界を相手取った、保険ビジネス会社」という訳だ。
その上で、今この世界にある問題は。ISだ。ISという新たな戦争ビジネス。それでいて一人の気まぐれで経済、国のパワーバランスさえも変えてしまう、人という核弾頭より不安定なそれでいて強力すぎるもの。
その上、女尊男卑といった性別でのパワーバランス。俺は、そのパワーバランスを直すための言わば調整機みたいな物だ。俺がISで戦っているというのも評価の一助となるのだ。
だから、俺の仕事は上からも言われたが「自室待機、呼ばれるまで待て。」といったものだった。
「残念だなぁ」