闇の中に生きる場所、その部屋のベットの上で古傷を触る。心象的に物理的に。
俺は、最低だ。
もともとそうであったが、最近それを痛感させられた。
相澤康一としてこの世に生を受けて、逃げて逃げて逃げてきた。突然現れた別れに心を痛めて。
それを認めようともせずに、ただただ目の前の現実を見てこなかった。目をふさぐのに、俺はおろかにも世界を見下していた、幸せなどない、安寧などない世界は糞だと。
世界の中で一番惨めな俺が、世界を見下していた。喜劇笑劇ならこれほどできたものは無いと自負できる。
俺はあらゆる手を使って逃げ続けてきた。何に対しても立ち向かったものがない。
そうやって自分を卑下する思考も自惚れる思考も、目をふさぐ手段でしかなかった。
コンコン
俺が今逃げているそれから不意にノックが二回聞こえてきた。今いる俺の場所から考えて出なければ、開けて向こうから一発ぶっ放されても文句は言えない。
そう重くない腰を上げて、ドアノブを引いた。
そこには直属の上司(つまりはスコール)という訳ではないが、まあ、名前も覚えていない上の人間との連絡役の人が来た。大体、俺の部署の一番上はあまり俺に指示を出さない。それに、伝えられるのは大方、ここに行って襲撃して来い、サポートは何人か付ける、場所はここだ、方法は任せる。
現在、信用のかけらも存在しておりません。
裏切りはいつの時代だってそういうもんでっせ。経験からわかってはいたからそこまで不利益を被ることはない。
どんな事情があれど、自分の身を守るために力を振るうのは間違ったことじゃない。
指令書を一通り目を通した。
指令書を読み終わるまで連絡役は外にいる。情報漏えいの危険を極限まで減らすためだろう、それでなくとも俺には鎖が数多く繋がれている。
その中でも厄介なのがナノマシン。まあ、反乱分子にはもれなくプレゼントしているらしいがそれにはまあ、数種類あるらしい。俺のそれは直属の上司の気分で生死が決められる。それでもこうして生きているということはまだまだ使いつぶさない気ではいるのだろう。
「それにしても、それはねえだろうよ。」
もう一度、指令書を見る。まあ、無理げーだろう。三秒ほどで前言撤回するが、俺の上司は確実に使いつぶす気でいやがる。端的にいうと。
『アメリカ軍基地を襲撃してシルバリオ・ゴスペル☆日本語名「銀の福音」を強奪してきて!☆日本語で書いてやったんだから間違えるなよ!☆ちなみにお前一人でやってこいや☆もし失敗して、捕虜になるようなことがあったらこっちでチ○ンコから順番に爆発四散させるからきをつけておけよ!☆』
どうでもいい情報だが、ファントムタスクに入る前からチン○コは不能だ。
とまあ、とりあえずその話題は横に置いておき、こんな指令を渡されたことは確かだ。
……………ここもそろそろ潮時か。
命令された事柄をアメをなめるように吟味して、リスクとリターンを考える。
選択肢は3つで、1つはここから逃げて自体を静観しファントムタスクが大きな動きを見せるのを待つ。2つに出撃しこの作戦を成功させて株を上げる。三番目にここを裏切る。
まあ、2番目だ。一番はこれ以上の探索が手詰まりになる以上やることはない、最後は無策で行ったところで返り討ちにあうだけだ。
さて、いきましょうかね。
◆ ◆ ◆
「彼は狂おしく変わった。」
「私のせいで」
「私達が、粗暴に使われるのはなれている」
「でも彼はその理不尽に巻き込まれて欲しくない。どうすればいいんだ」
でも、だが。そんな堂々巡りを繰り返し、結果何の選択もできなかった。機械だからと逃げ道を作って。
変わらなければならない変わらない変わったものは、もう元には戻らない。
嘆くだけで何も見つけられずに動かない僕らは、なんともいえないが終わってしまっているのだろう。そして、こんな堂々巡りを彼もしているのだろう。
◆ ◆ ◆
まあ、行動は早いもんでジェット機もびっくりといった具合にすでに密入国をしてアメリカにいる。かっこよく言うとU!S!A!だ。
とりあえず銀の福音を回収すればいいんだろ?楽勝じゃん。白いイヤホンに向かって俺は話かけた
「エネ。頼みがあるんだが。」
「断る。」
でしょうね。へそを曲げてしまってこの有様だ。俺は感情に任せてとんでもないことをやってしまったということを突きつけられた。
「そうか。」
忘れてた。な。
自戒の心とともに黙ってそれを振るう。女王の力を感情を外に追いやって、とても大切なものを切り捨ててガラクタを拾い上げ、俺はアメリカ軍基地に進入した。
まるでインターネットのURLを検索したかのように、一瞬でその場所に出現する。現実感がまるでないが、そこはたぶんアメリカ軍基地なのだろう、どこと無くアメリカの臭いがするし。こんなところに長居は無用、さっさと目的のものをちょろっと盗んでくるだけだ。
「目の前に立っているんですけど。」
おそらくここはISの格納庫のようなものだろう。目的のISシルバリオ・ゴスペルは目の前に鎮座していた。
「まあ、外側だけ盗っていった所で何の意味もないと思うんだが…………コアはあるか?」
一瞬でそれを確認する。エネの力を大雑把に引きだす、自分の真ん中を引きずりだすような感覚を味わいながら、俺はそのISにコアがあるということを確認した。
違和感がある。それは、とても簡単なこと。なぜ、暴走を始めたISを今すぐに人が乗れば動き出すような状態にして放置しているのか?ということだ。端的に言おう危なすぎる。
だが俺は、よく考えずに突貫することにした。これは自信だ、もっと言えば覚悟だ。何があろうともそれをぶち壊して進んでいくという意思をこめてそれに触れた。
「…………!?」
殺気、もしくは凄味というべきだろうか。俺に強い感情を向けられているということは確認できた。なぜかは、因果はわかっている。こいつを触ったからだ。
「動くな!」
アメリカンイングリッシュ。力強い声で話された言葉の元を見る。…………それは銃口をこちらに向けている女性だった。女性だったのであれば聞くことは一つしかない。
「名前は?」
「そんなことを聞いて何になる!」
「あら、残念。」
「そこで何をしている!?」
「窃盗」
といいつつ俺はIS、銀の福音に手を伸ばした。我ながらへんてこりんな受け答えだ。それでも煙に巻くような話し方には効果があったようだ。
「っ!」
彼女は決意のまなざしをこちらに送った。それと同時に俺の腕には風穴が開いていた。俺はそのとき妙な、言葉にするなら
「敵対する覚悟はできてるんだろうな?」
「それはこっちの台詞よ」
真横から別の女性の声。いやに聞き覚えのある、俺にとって聞こえてほしくない最悪な声だった。
その声に危険信号が除夜の鐘の108回を1回に凝縮したかのようにガンガンと警鐘を鳴らしまくって、左腕にIS、カゲアカシの装甲を展開して何かに備える。
「反応速度があがっているのかしらぁ?」
最悪な声は俺の強さを値踏みするような、または彼氏に甘えているような、女を前面に強調する甘ったるい口調で俺に問いかけた。もしかしたら独り言のようなものかも知れないが。
「よお、セラフィーナ・カンタレッラ。」
これは罠だ。いや、もしかしたらファントムタスクも
まともに考えて、アメリカ軍基地を襲撃して帰ってこれるはずがない。それでもなおやって来いというのは、存外に「お前はもう用済みだ。」といっているに他ならない。
ならば、なぜここにイタリア国家代表が存在するのかというと、殺すための念押しだろう。
そんなものには屈しない。俺は精一杯演技がかった口調でこの場を去ることにしよう。
「用があるのはお前じゃない」
「この子?」
そこにあったのは綺麗な星をちりばめたような銀色のネックレスがあり、同時に俺が盗もうとしていた銀の福音もなくなっていた。状況からしてネックレスが銀の福音だろう。
「早いね。」
「こっちはあくびが出そうになるわね。」
ちっ。
本来の持ち主に銀の福音が手渡される。ここには敵が二人、それもかなりの手練れだ。
「おいおい多勢に無勢が過ぎるだろう?」
「味方でも呼べばいいじゃない」
「おあいにく様、裏切り者には味方はつかず、ひどい目にあうっていうのが紀元前ぐらいから言われてるぜ?。言ってて悲しくなってきた…………。」
なかなか警戒を解かない。これが代表候補生とかになると少しは隙が生まれたりするんだが。すると突然、約束が頭の中に閃いた。
「おい、セラフィーナ。お前『食事に行ってくれたら何でも言うことを聞くわ』って言ってたよな?忘れたとは言わせねえぞ。銀の福音を渡せ」
「……………フ」
「約束だろ?」
「ウフフフフフフフフフッ」
セラフィーナは突然何かを含んだように笑った。そしてもったいぶるように銀のネックレスを隣の女性に渡す。
「ナターシャ。展開しなさい。」
「え、ええ。」
少し困惑したような感じでそれを受け取ったナターシャはISを展開した。そして、二人とも凛とした毅然な顔つきになった、頭が戦闘モードに切り替わり視界の意識が一点に集中するような心地よい感覚が二人を包んでいる。
無遠慮なまでの殺意が俺に突き刺さる。
「いい?相澤康一。」
「何だ?」
「銀の福音がほしければ……………私たちを倒してからにしなさい!!」
「倒せばいいんだな?」
いつの日かのことを思い出した。冗談交じりに思った言葉が本当になったなぁと考えながら俺は加速するISをみていた。
「来い!!!!」
壁の爆発的な破壊が起こり、晴天から降り注ぐ日の光が俺の目をさした。
「っく!カゲアカシ!」
日の光に向かって俺はとんだ。こんな閉鎖された敵の陣地より外で戦ったほうが効率的だ。背中の仏像の後輪のようなものを展開させずに、俺は外で戦うことにした。
「敵襲よ!至急応援を頼むわ!」
当然のごとく応援を呼ばれた。リミットはそう長くない。そして、漆黒のISが俺に突っ込んでくる。それは一回
「ワンパターンすぎて萎えるね!!」
俺はペトゥルを振るって二、三撃食らわす。終焉の者はものっそいスピードで自在な場所から格闘攻撃ができるという機体だそれゆえに、いったんタメを作らなければいけない。
そのタメがくれば攻撃がくるということなのだが、それを早すぎるスピードでガードや回避が間に合わないようにしている。
「でも致命傷を受けないだけで精一杯なように見えるけど?」
その実そうだ。ギリギリよけているに過ぎないジリ貧だし、それに。
「アアアアアアアアアアアッ!!!!」
ナターシャが纏うIS背面の翼から、ビームをばら撒いて俺の動きを止めて、離脱しそこに黒のISが強烈な加速をした打撃を浴びせかかってくる。
とっても銀の福音との相性がよすぎるんだ。銀の福音が持つ、そこらへんにショットガンなぞ比較にならないほどのビームをばら撒く特殊兵装はすごくめんどくさい。唯一の救いは二人とも強烈な切り札を持っていなさそうなところが救いか。
エネからの助けがこないことには…………。
いや、エネを
「
カゲアカシの後輪を取り出し、そこからワイヤーを射出する。ちょうど福音のビーム攻撃が始まったとたんにだ。
虚口とは、空腹のこと。つまりこれで防御したすべての攻性エネルギーは無効化され吸収する。
「逆効果!?」
ワイヤーが二本あれば網は作れる。だが、そう何度も使えない。
「せええええええい!!」
終焉の者が俺が出したワイヤーをちぎった。
ワイヤーは線の攻撃だ。だから切られやすい。ぶちっといった大きな音が聞こえた。ワイヤーは灯火の周りに方角のように16本おいてある。2本切られて今は14本だ。そして、その攻撃で大体の居場所はわかり、動きを止めた。
「十五夜!!」
すべてのビットを推進力に変える。ラグナロクの一撃のようにあの馬鹿げた威力がすべて推進力に変わる。プラス、不完全ながらに
攻撃により足を止めていたセラフィーナはさながら蜘蛛の糸に絡められたようだ。
「捕まえた!」
セラフィーナの首をつかみ、渾身の力をこめた。一応死なないくらいの強さにはしてある。当然のごとく振り払おうと思ったのか、まっすぐ加速した。味方すら振り切って……………。
今すぐには援護できないほどの距離を一瞬で行くあたり、さすが世界研究者クラブの作品だな。うれしい限りだね。
「あせってるところ悪いんだけど味方いなくなっちまったぜ?」
「それでいいのよ。」
手首をつかまれた。がっちりと、つかまれていて動かない。
そして、並みの加速ではないISが急に上昇し始めた。俺の十五夜の加速に合わせてちょうど真上に加速していく。雲が横を見たら存在し、天井のようにそこに存在する実感のない青が頭をぶつけそうなほどに近づいている。景色がだんだん景色を変えさせていき……………空と
「きれいでしょ?」
まるで、行楽地に連れて行った子供に聞くようなやさしい声だった。
「これが成層圏…………。」
「そうよ。」
いつの間にか、俺はこの光景に目を奪われ、俺は首から手を離していた。
「人間が気軽に行けて。そして簡単に感じられない場所。」
脳に電流が走るかのように感謝が流れ込んできた。それを糧にして俺は。
「ここにきてインフィニット・ストラトス…………お前らの意味がやっとわかったような気がする。」
ISは成層圏つまり人が気軽に行けるところを広く、まさに無限大にしてくれる。それだけなんだ。武器も何も争いも目をふさいでいただけなんだ…………。
確証がなかったから俺は動けなかった。大体、エネをフル活用していればこんなことにならなかった。
「すまねえ。」
「どうしたの?」
と聞きながらセラフィーナが俺に寄り添い抱きついた。振り払えない、いや、振り払う必要がない。
「少し借りる。」
一人しかいない二人言をつぶやいた。俺は手をセラフィーナの後ろに回した。
「ねえ?どこに落ちたい?」
「俺に似合ってるのは地獄ぐらいしかないね。…………こんなことをするぐらいだから。」
目の前がゆがむ。スピードがありすぎるのだ。自分の身さえ危険な加速が俺の身を蝕んでいく。
「いただきます。」
狙ったのは、ナイフで心臓を一突き。絶対に抜かない。セラフィーナは何も物言わぬ人形のように俺の目を見据えていた。このままいけば地面に衝突するだろう、その前にセラフィーナを消滅させる。
こればかりは気合で何とかなる物ではない。
死へ向かう抱擁を受け、なすことをなしすべてを受け入れた。
爆音。
見えたのは濃密な土ぼこり。知るものが見ればバンカーバスターと見間違うほどのエネルギーがある一点を基点として広がっていった。
「セラフィーナ!!」
この馬鹿げた惨状の発生原因はひとつしか考えられない。ナターシャはその原因の主を呼ぶ。ISのスーパーセンサーでも捕らえきれないほどのこの土ぼこりは、警戒するに値する。万一にでも敵が奇襲してきたら命はない。
「答えなさい!セラフィーナ!!」
「無理だよ。」
土ぼこりが晴れナターシャの目には一人の男を見た。見た目は青いジャージといった普遍的なものだったが確実に爆音の中心地から出てくる男の格好としては異常だった。
「もう、聞こえることはないだろう」
男はそういって、ナターシャをみた。敵は目の前にいるのに、一仕事終えた後のような爽快感を持った佇まいでまるで「お前なんか敵じゃないと」いっているかのようだ。
「何を…………したの?」
「答える必要がないね」
睨み、見る。熱情と冷徹な二つの対極な感情が交差し混じる。それらが溶け合った瞬間、ナターシャが動いた。ビームをばら撒きけん制した、がそれを歯牙にかけずただ、ぼうっとした目で見ているだけだった。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
加速し距離を縮める、狙うは胴体。凶悪そうな爪が康一を襲う。
ぶちゅり。
擬音語にするとこんな感じだろう。突然腹に風穴が開き、力ない人形のような死体を見たナターシャは、一瞬だけ考えるのをやめた。
「それが命取りだ」
いきなり出現した大太刀を胸に刺した。
「まったくこんなことしなくてもいいのによ。」
数秒たった後、そこに残ったのは
「任務完了だ畜生め。」
手を伸ばして、気高い銀に触れる。
「少し借りるぞ。」
何に言ったのかわからない誰に言ったのかもわからない。どことなく無骨な手の中に銀のネックレスがあった。