IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

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劇場と激情、永劫なる液晶の奥

今頃はきっとランドルは情報酔いに侵されている。俺は、今ランドルの(脳内)に居る。エネのアシストがなければここまでこれなかったと感謝しながら、目的の記憶を探しさまよっている。

 

「しかし理論上できるとはいえ人の脳内に入るのは初めてだな」

 

などと無駄な考えで脳内を満たしている間に、目的のそれを見つけた。その光景では…………。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

目指したのは物心ついたランドルが覚えている最古の記憶。

彼は、親がいなかった。居たのだが放棄したのだ。親族からのたらい回しそして最終的には孤児院に入った。

 

「…………」

 

心を腐らせ、巡るめく環境に何も覚えてなく、流されるままに施設にいた。だが、そこで遺憾なく才能は発揮されていく。

 

黙々と机に向かえば、ひとたび用意された問題は軽く掃ける。教わってもいないのに料理の腕は一般主婦を凌駕し、あまつさえ傾きかけていた孤児院の経営を建て直した。

 

彼はいつしか「悲劇の神童」と呼ばれるようになった…………。

 

『…………これは。』

 

少し境遇が相澤康一と似ていた。そう思いながら康一はそこから現在へと遡って行く。

 

 

 

 

見たところこれは、少し後の話らしい。今でも壮健に見えるランドルが少年に見えるほどの年齢。

 

そのときのランドルは、周りに人がいた。孤児院に居たときには考えられないほどの量でランドルは辟易としていた。

それでも、そんなことはお構いなしに人々は口々に皮肉かゴマすり交じりの天才だの神童だの勝手に頭がいいという言葉を投げかける。

 

思考は成熟した大人のそれを超えようとも、精神性は子供のまま。頭がいいという格差―――別の言葉で言えば高み―――は少年の心に危うい自尊心を植えつけるのにそう難しいことでは無かった。蟲惑的で甘美な響きが耳朶を叩く度に精神までも少年としては異質に変化していった。

 

「僕はすごいんだ」

 

だから、あれはまた別の意味を持っていたのだろう。高校生と呼ばれるような年齢になってからはすでに大人たちと肩を並べあい第一線で技術職を続けていた。高すぎるプライドをもって。

もっとも、普通の人間から見たらプライドという生易しい物ではなかったのだが。それを潰す人間が周りに居なかった、いや出来なかった。

 

 

 

記憶を見るとランドルは篠ノ之束と同じような研究をしていた。

 

そして時は流れ何時しかISが発表された。

それは高性能。ただただ高性能。何より早く何より硬く何より強く何より美しかった。

 

 

そしてそのときのランドルは美しくなかった。人々は世紀の大天才、篠ノ之束を崇めるようになりランドルはその他の凡人に埋もれ、本当に「悲劇の神童」になった。

 

「僕は…………どうすれば。」

 

腐っても神童その思考能力を使い導き出した結論は、よりISコアを研究しそれにより高みに行く。

エジソンのように光を生み出したからなんだ?ライト兄弟のように飛行機を生み出したからなんだ?それを十全の力を引き出せなければただのゴミ屑だ。そこから、人の言葉を借りればきっと「妄執のような愚考」をし続けたのだ。

 

「ISコアネットワークの自立進化影響」

「ISコアの武装偏向系統の体系化」

「ISコア独立行動」

「キメラ計画」

 

などの研究成果を挙げた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「ふうん…………」

 

ここまでは特に問題はないな。そしたらVTシステムの開発過程でもみてみようか。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「ISコア自立進化の足跡をたどってみて、そこからネットワーク内の反応を見ればいいんじゃないか?」

 

ぼそりと誰に言ったわけでもない言葉がまたも孤独な部屋に響いた。

 

「うーんでも、金がまったくないんだよなぁ。どうせなら自立進化の方向を意図的に操作したいし…………あ。」

 

それが、ことの発端なのかも知れないというかそうだ。

 

「偽のヴァルキリーのデータとか入れたら良いんじゃないか?」

 

その研究の結果は。

 

「なるほど、搭乗者はデータ入力の役割も果たしているのか…………。なんか搭乗者が死んだとか言ってたけど。たぶん戦闘時のデータしか入力してなかったから、戦闘中に入れておいたヴァルキリーのデータと競合したんだろう。」

 

陰惨たるものだったが、それを気にも留めず思考を張り巡らせる。

 

「しかし偽ヴァルキリーとも呼べる泥人形が自立行動を起こすとは…………。ふむとりあえず学会に報告だな。」

 

しかし、その研究はVTシステムとして、禁じられた。すでにISコアのその分野はブラックボックスと化してしまった。

 

そして、歯車は狂い始めた。最初から狂っていたがそれが顕著に出始めた。

その有能さを買われ、ファントムタスクに引き抜かれたのだ。悪とは時として人にしか感じない強烈な色香を発する、匂いに誘われランドルはファントムタスクに落ちていった。

 

 

「クソッ!クソッ!!あいつら僕の研究を野蛮なものに使いやがって!」

 

 

しかし、それに耐えられなかった。腐った神童の頭はフル回転していた。

 

「VTシステムに僕のデータを入れよう。」

 

それはランドルにとって、考えうる限り自分にもっとも益のある選択だった。倫理的で論理的な選択をしたつもりだった。何十にもロックを掛けてどうしても「ダメ」であるときはそれが発動する用にした。

 

それはつまりそれが発動したらランドルの思想がISを通じて世界に発現するということだ。

 

断罪の時間だ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

さて、ここまでランドルの思考や生い立ちを見てきて…………彼「相澤康一」はどう思うだろうか?

 


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