IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

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闇と断罪

寝て、起きて。飯を調達し、そして血なまぐさい闘争へ……………。なんてことはなく、俺こと相澤康一は結構忙しかった。

 

その原因はといえば結構俺の所属している部隊はバリバリの武闘派で、事務仕事ができる奴が少なく俺の力的には潜入捜査が一番いいのだが、事務仕事ができるとわかると簡単な簿記計算が怒涛の勢いで流れ込んだ。

 

そして次に、俺が度重なる出撃…………の補助を担当していた時、火事場泥棒的に相手側の武器や研究中であろう代物を奪っていたら、肝心のISの整備研究班に一目おかれてガキがおもちゃを強請る様に俺に武器を強請ってきやがった。そしたらなぜかそれが仕事になった…………重要なものはネコババしているけど。

 

それに、糧食。適当な料理を作れるということが知れたときそれが追加の仕事になった。ぜってえあのババア俺に恨み持ってるよ。

 

とまあ実働時間15時間ぐらいの仕事を終えて、俺は眠りにつき起きて仕事といったサイクルを送っていた。ブラックもびっくりだが、ここは自営業でしかも命がベットだそのくらいは仕方ないかもしれん。

この過酷労働をやっている中で信頼も勝ち得ていると信じたい物だ、だが収穫がなかった訳ではない、きちんと研究班のめぼしは付いている。一日の終わりに、俺は白いイヤホンを耳の中にブッ刺した。

 

「…………ふう」

 

「お疲れ」

 

エネの声がイヤホンから聞こえてくる、スマホから音を出しているのはもういうまでもないことだと思う。

 

「ウィッス。そっちではどうだ?」

 

「進展見込めずだね、ISのほうに挨拶はしに行っているけど芳しくはない。」

 

作戦会議のようなことを話し、俺は状況を整理した。

 

「それでも状況は悪くない、マジベットあるだけでも違うわ。」

 

研究班の場所にいけた。それだけでも大きな収穫だ。

 

「なるほど。…………今度は仕事の件だが。」

 

「ああ、そっちは十二分だ。俺の露出だけで何がかかわってしまうのかばれてしまうような仕事は回されなくなってきたけど、ばれてもいい物であるのなら余裕で使われると思う」

 

仕事自体難しいのを数件処理するような状態となっている。ひとつ潰せた少しは時間が取れる。

細かい仕事を続々と持ってこられるようなものだったら、時間を確保する所から始めなければいけなかっただろう。

 

「そんな意味では君の身分を明かすことは布石のひとつだったのか?」

 

「いや?うれしい誤算ってやつよ。」

 

結構裏目に出ていた。俺の情報からIS学園側にファントムタスクがちょっかいを出し始めているということは知られている。

だまし方としては非常にスタンダードだ。推理作家のように情報を書き込み本に対して誤認させるように動けばいいのだから。

 

「そうか…………。あ、それじゃ私は井戸端会議にせいを出すことにするさ。」

 

ああ、ISとの対話をしてくるのか。ファントムタスクには俺のおかげでかなりのISが存在するし、むしろそれを改造してくれる腕のいい技術者がいないだけだ。

 

そのまま使ってもいいと思うのだが、それでは隊としての調整が成り立たなくらるらしい。

軍はそれぞれが個性を出しながらも一定の力を出さなければならないとの理屈で、ファントムタスクの方で調整するというのだ。

わかりやすくいうとあれだ、ガンダムMk-IIを鹵獲してもエゥーゴカラーにしなくちゃいけないのと似たような物と考えていいだろう。

 

とまあ、エゥーゴカラーならぬファントムタスクカラーにする為の技術者が足りないらしい。

 

「…………また私たちは作りかえられるのか。」

 

「すまん。」

 

「いや、構わないさ。それが本来の使い方だ。」

 

人間は大まかには思考と肉体で出来ている。脳というCPUがなければ肉体は動かないし、肉体がなければ脳はただの軟い肉だ。

肉体に与えられた境遇に、脳が変化を起こすのは前例としてある。父親に性的暴力を振るわれた女性は、性的暴力を与えられなければ生きていけない状態になるのと一緒だ。親から与えられた物は無条件に『愛』と感じるらしい。

また逆に、思考が肉体を変えることもあるがこちらはもっと健全に筋トレとかと同じ類だろう。

 

これをISコアというCPUに書き直すとどうだろうか?つまりファーストシフトは筋トレと同じようなものでありISの改装は、コアの性質をまったく変えてしまう虐待みたいなものだ。

 

「それに、私たちはネットワークでつながっている。無くなった私たちもまだ残っているさ」

 

たぶんその言葉も気休めだろう。

 

「さ、そんなことより始めよう。」

 

「ああ。」

 

 

俺は、その空間から姿を消した。最後の仕上げだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

静か。そこは静かだった。

 

音がひとつも無い訳ではないし、部屋自体がとても理路整然としている訳でもないが、部屋を一つの意思によって完璧にコントロールされているような印象を受ける。

 

結果として、一言で言えば生活観の無い部屋というだけのことだ。

 

部屋の主である男は今部屋にいる。外見からして28といった所だろうか?青年なのか大人なのか曖昧な年齢の男性がモニターを見て、それは居るだけであるのか、それともまた別の何かをやっているのか判断が付かない。

 

そこに一つ気配が。話は簡単で女王が居た。(宇宙)の如く青く気高く美しい女が蒼衣に身を包みそこに立っていたもしかしたら宙に浮いているのかも知れないほどの存在感、いや生存感の無い女性だった。

 

「やあ、久しぶりだね。」

 

「…………僕の知り合いに、この密閉空間に突然現れて土足でズカズカと入り込んでくる人はいないはずなんだけどねぇ」

 

この部屋の主は、嫌悪感を隠そうともせずに女王に向かって言葉を振るった。

 

「あらら。仮にも私に手を組もうと言って来た人間がリアルに顔を合わせたら金「言わせねえよ!!?」が縮みあがってしまうフニャチ「だから言わせねえよ!?」野郎だったとは恐れ入った。」

 

久々にエネがぶち込んできやがった。

 

「…………なんだね?まさか君のようなISが女王だとでもいうのか?」

 

「理解度が足りないようだ。まさかもう一度核心的な言葉を言わないと理解できない低脳だとでも言うのか?」

 

挑発的な言葉を爆撃機のごとく投下していくエネ、それにはさしてもこの部屋の主も額に青筋を浮かべているようだ。

 

「…………で、その女王が何のようだ?手を組んでくれるのなら大歓迎だが。」

 

少し息を吸った後そういった。プライドによる怒りを自分で自分をなだめながら抑えて言葉を吟味していた。

 

「その案件は前向きに検討させてもらっているよ」

 

普通の人の感性であるのなら、それは大体断るという意味だ。

 

「それはそれは有難う、こちらとしても至極恐悦」

 

「それで名も知らぬ君にある用事はね、人に合わせたいんだよ。」

 

この部屋の主は、頭の中でまだ見ぬ初めて自分を蹴った理由となった男を想像した。

 

「女王の契約者か……………さしずめ哺乳類の王者といったような風格を持った人間なのだろうな。」

 

「奴隷だ」

 

「えっ?」

 

「奴隷だ」

 

「」

 

思考停止。見た目はいいのだ、絶世の美女といってもいいくらいだ。だが言動がひどい。

 

「確かにそんなようなもんだけどよ言動を考えろよ。相手側もポカンとしていらっしゃるじゃねーか。」

 

突然まったく違う別の声が聞こえてきた。

 

「いきなり出てくるな。」

 

「前置きが長すぎるんだよお前は。…………まあ、自己紹介しておきます。女王の奴隷で今はファントムタスクに所属している。『男』こと相澤康一です。よろしく」

 

非常識な出現の仕方をした男が慇懃無礼にこの部屋の主に挨拶をした。

 

「僕はファントムタスク技術部門の元トップ、ランドルだ。ランドル博士などと呼ばれている」

 

「君は今始めて自己紹介をしたな、やはり技術者という者はコミュニケーション能力が欠如しているようだ。」

 

挑発するようにランドルに対し辛らつな言葉を投げかける。

 

「ただ腕のいいやつが裏に流れているだけだろ?すみませんこれがこんなやつで」

 

「い、いや良いんだ。僕も女王には頼む側だからね」

 

「命乞いか?」

 

「エネお前はいっぺん黙ってろ。うちの大将に何か御用なんですか?」

 

康一が流れをぶった切って交渉に入った。

 

「ああ、僕の研究の手伝いをしてほしいんだ」

 

「それはTVシステムのことですよね?」

 

「知っているなら話は早い!あれはISの自己形成を「ビンゴだエネ。」っ!?」

 

突然康一の左腕がなくなった。それはISの機能量子変換の一部だバラバラにし尽くして、ランドルの体を拘束した。それでも強度が足りなくなったのかそこらへんにあった鉱物粒子を使ったのだろう。

瞬時に即席の金属拘束具を使っていた。

 

「お前は次に『これは何の真似だ?』と言う」

 

「これは何の真似だ?…………ハッ!?」

 

勘だ。長年人を見続けた観察眼が、こいつは嘘をついているということを分からせた。だが、そんなことは康一以外には分かる訳がない、捕虜のような扱いを現在進行形で受けているランドルは口を閉ざし、代わりにこの凶行の理由をエネが問うた。

 

「コードが来たから反射的に拘束してしまったが…………どうしたんだ?」

 

「瞳孔の拡張、全身の緊張状態、興奮、血圧に血色。ほら、かなりの情報があるぞ。」

 

嘘の根拠をもてあそぶように挙げていく。追い詰めてやるという気概がひしひしと感じられる。

 

「でまあ、これからランドルさんを拷問…………ギリギリの苦痛で嘘かどうか聞き出すから」

 

「……………止めはしないけどねぇ」

 

「いや、止めてくれよ!?冗談だ冗談。でも今回は拘束しながら額に銃を突き付けて交渉してもまだ足りないぐらいだ。」

 

「それ、ただの脅迫だ!?」

 

と、エネは言ったがそれを目で封殺して、話を続けた。ランドルの目には女王が指示、康一が交渉役といった風に見える。

 

「とまあ、こいつは信用できないという訳ではないが。少し慎重に交渉する必要がある。」

 

「僕のほうが信用できてない!」

 

「お前の信用なんぞ要るかァァァァァァァ!!!!」

 

「「ナニィィィィィィィィ!?!?!?!?!?!」」

 

暴言にもほどがある。

 

「大体、研究者や技術者って言う人種は有能であればあるほど自分の研究のことしか考えられなくなるものだ。俺は、その妄執のような愚考だけは信頼しているからな。」

 

「…………」

 

「しかも、まだこいつは自分の目的を話してない。」

 

「一理ある…………か。仕方ない電脳ダイブを」

 

エネがランドルを冷えた眼差しで見つめながら

 

「了解だ。」

 

次の瞬間ランドルの拘束が解けた。だが、意味はない。性格には拘束しても意味がなくなったのだ。

 

 

 

 

「グッ…………がぁ嗚呼ああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

ア!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 


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