沸き上がるように、歓声が響く。頭を揺らす程の音響にうんざりとしながら、4位の表彰台の上に立つ。つーか、4位で表彰って。
それより俺は元々うるさい所は(場合によっては)好きじゃない、さっさとこんな所からおさらばしたいところだぜ。
「あー疲れた。帰りたい。母なる大地へ帰りたい」
自然にそんな声が出てくる。マジで帰りたい。寝たい。
「俺はお前のせいで死にかけたけどな。」
「いいか?勝負事には汚い手を使うこともある、弱い奴は綺麗なままでは居られないのだよ一夏君。まあ、あんなことをしているのは俺だけだったがな。」
つまり、ここに居る全てに置いて弱い。
この大会に置いて、あんなド汚い手を使うのは俺ぐらいしか居なかった。つーか他の試合を見たかといわれるとNOと言うのだが。
「普通にや「ったら俺は普通に負けるから。記録にこそすれ、それこそ記憶にすら残らないねぇ」……………はぁ」
少しでも存在感を上げ置かないとこの先どうなるか分からないからな。悪名でも、高名でも何でもいい。使える手札を多く増やしていく。
「強情だな」
「年寄りになってくるとな、頭が固くなって来るんだよ。もっと年取ると腐っていくがな。」
ほんとそう。まったく、嫌になってくるねぇ。
「貴様ら。喋ってないで受け取れ。」
ボーットしていたら担任殿から、賞状を渡された。…………はぁ、結果か。右にいる一夏の横顔を見る。
結果だ。
そのまま俺たちは壇上から引き下がり、俺はすぐさま控え室に引きこもり、他の人たちの周りには人だかりが出来ていた。
少し、羨ましくも思わなくも無い。この学園生活で得られなかったもの、いやこの人生でか。この気持ちを知らない振りしてここを出る。
「ふぁぁ……………ねむッ」
大きな欠伸をした。さてと着替えて~さっさとゲームでもやりたいんだけどなぁ……………。あれ?何かを忘れているような気が。
大地を蹴る力強い音、空気を切り裂く足の速さ、そしてそれらを全て余すことなく使い果たした、唸りを上げて遅い来る拳。そして打たれる頬。
「アプサラスッ!?」
綺麗なキリモミを描きながら俺は吹っ飛ばされた。つーか、誰もその事に気がつかないのって不味いよね!?
「ああ?コラァ!お兄さん謝罪の準備は出来ていますか?」
俺の(義理の←ここ重要)妹。相澤一葉が俺を殴っていた。
「ごめんなさ」
殴られた…………。
「謝れば済むと思っているんですか?」
「謝罪とかいうなし。」
いてえ。
「一番怒っているのは折角作ってきたのにあの物理剣を使わなかったことですよ!!」
「そこ!?」
一葉では考えられなくはないが、そんなことで「ナハトッ!?」殴られた…………。
「お兄さんには何度言っても直りませんからね、とりあえずそのカゲアカシくらいは直してあげますよ。」
はぁ。
「すまんな。本当に何時も何時も。全く円を切ってもいいんだぞ?そうなりゃカゲアカシも返すし。」
「歯を食いしばってください」
「マジすみませんでした!」
俺は、カゲアカシを渡しながら土下座を敢行した。さっきの般若のような表情から一変物凄いにこやかな顔になった。お前が恐ろしいわ。
「…………じゃあ、俺は用意してくる」
一葉にそういって踵を返して、選手専用の控え室に戻っていった。
◆ ◆ ◆
織斑一夏は、その時「お疲れ様会をやろう!」などと、彼に接触する為の合コン会を開こうとしていた女子達に揉みくちゃにされながらも、選手しか使えない待合室に辿りついた。
控え室には先客が一人、IS学園のもう一人の男、相澤康一だ。康一は一夏に気がつくと、片手を軽く上げて話しかけた。
「よっ、早いな。」
「…………いや、康一何時も思うけどお前の方が早いからな?何時も来たときには準備万端だろうが。」
一夏は不満げに、待ってくれたっていいだろ?と言った。
お前に合わせると碌な事がおきない、まあ、ちょっとした知り合いレベルで過ごせば良いと思うんだけど。一夏はそういう訳には行かなさそうだ。
「それに、なんで青いジャージを着ているんだよ。」
「あ?ここから抜け出して遊びに行くんだよ。そのための服装だ。」
「センスの欠片もないな。」
「まあ、おっかなーい人たちも居るもんさ。その時に逃げやすい格好をしないといけないだろ?」
「そういうもんか。」
一夏が勝手に、変な姿に納得する。康一と一夏は雑談をしていた。
「あー。そうだ、一夏話があるんだが」
といい、康一は視線を彷徨わせる。何かおびえているような、教会に懺悔をしに行くような心弱い人のような印象を受ける。
「どうした?金なら貸さないぞ?」
何時もの意趣返しと言わんばかりに、意地悪く笑った。
「いや、金じゃない借りるのはお前の「お疲れ、一夏」」
康一の発言がシャルロット・デュノアによって遮られた。その時、康一は少し笑ったような気がした。
「おう、お疲れ。」
「お疲れっ。そうだ、お前ら水でも飲む?」
康一がポケットからスポーツドリンクを二つ、一夏とシャルロットに放る。
「「ありがとう」」
「どういたしましてそれより他の奴らは?」
「少し遅れてくるよ。」
「俺は見てないが、優勝者にこれでもかと群がってそれを担任殿に怒られる絵がありありと見えるな…………。」
康一はそういいながら、何処か遠い所を見ていた。
「ああ、うん。その通りだよ。」
「かわらねえなぁ」
ずいぶんと年寄り臭いことをのたまわっていた。
「今日は誰かのおかげ疲れたな。」
「今日は、一度どっかの誰かを思いっきりぶん殴りたいわね。」
すると、凰と篠ノ之箒がそんなことを言いながらやってきた。もうすでにIS学園の制服だ。
「全くどこのどいつだそいつは。おい凰、俺が思いっきり殴って来てやる」
「鏡を見とけ!このスカポンタン!!」
凰 鈴音からの罵倒を、笑いながら受け流した康一は、黙って二つペットボトルを放り投げた。
「っと。いきなり投げるな。」
「……………貰っておくわよ。」
「すまないね、それでも飲んで落ち着きな。」
康一はその場から腰を上げて一夏に手を振る。
「それじゃ、一夏。俺は遊びに逝って来るわ。」
「漢字が違うぞ!?」
「まちがってねえよww」
康一は笑いながら、出口へと目指す。するとその途中で鈴が話しかけた。
「この後、普通に学園に変えるじゃない。勝手に遊びに行ったら織斑先生に怒られるわよ?」
「なぁに、先生に言った後でゆっくりと羽を伸ばして来るさ。」
鈴はその言葉に「あっ、そう」とだけ言って、興味を失ったように康一に背を向けた。間違いと言うのならここが間違いだったのだろう。いや、すでに間違えているのかも知れないが。
「それじゃ、いただきます」
「それを言うなら行ってきますで「鈴!後ろ!!」」
刀が、胸から出ている。肉を食い破り、骨を絶ちながら。さもそこにあるのが当たり前と言わんばかりに大太刀がそこに鎮座していた。
唐突に訪れた冗談のような、妙に現実味のある光景に固まる、人が、物が、空気が、そこを構成する全てのものが動きを止めた。その間にも、無限に感じられる危機という信号が鈴の内側を蝕んでいく。
「……………なん・・・で?」
だが、不思議と鈴の顔は目を見開き、驚いたような顔をして、そう呟いただけだった。
「犬がどうして食べるのかと同じ質問だな。」
同じく康一はただ呟いただけだった。
「おい…………康一、何の冗談だ!?」
「おいおい、これが冗談に見えるんだったらすぐさま頭の病院に行って来い。手の施しどころがねえって医者に返されるぞ」
「っ!?あああああああああああああああああ!!!」
何かに弾かれたようにシャルロットが動いた。目標は、手。無理に引き抜くと出血しそのままだと死ぬ。この状況を長引かせない為の措置だった。
「おめでとう、デュノアの娘っこ。」
歌うように、喋る。なぜか、その言葉はまるでグロテスクで残虐な童謡を歌っているようだった。
「君は今までで一番正しくそして間違った行為をしてしまった」
消えた。
なにが?
凰 鈴音の体がだ。
先までそこにあったものが消えて。康一の視界は少なからず開ける。見える金の輝き、IS部分展開をしたシャルロットが持っているナイフが鈍い光を放ち、先ほどまで手があった場所を切り裂く。
「真っ先に動いた君には、ご褒美をあげよう。」
「まっぴらごめんだね!!」
「褒美は感動。内容は……………死だ。」
代表候補生さながら高い錬度を持ったナイフ術を、涼しげな顔で避ける。
「甲龍」
見慣れた、青龍刀。そう、鈴のISの装備の一つである大きい青龍刀。問題は、見慣れない所持者だ。日本刀とは違い、肉厚の断ち切る刃が上からシャルロットを襲い、そしてそれを受け止めた。
「甘い」
片手から見えない砲弾が飛び出す。それは……………レース用に改造された低出力のもの。部分展開をしてがら空き、むしろ裸と言った方がいいほどの柔肌に砲弾が突き刺さる。
「これを盗ったのはな、今一番に効果的だからだよ。」
無表情に鈴のIS甲龍を霧散させ、鈴の胸から生えたのと同じ、大太刀をその手の中に顕現させる。
「死ね。」
「させるか!」
篠ノ之箒がシャルロットの殺しを阻止する為に切りかかる。大きく跳び退って、直撃は免れた。
「コイツは流石に多勢に無勢だね。最後に、勝ち名乗りを上げてから去る事にするよ。」
「俺は
今一番聞きたくない言葉が、さして大きな音でもないのに劈くように聞こえた。康一はその言葉を残して振り向き、控え室を飛び出し全力で走った。もっと分かりやすく言い換えよう、相澤康一は全力で逃亡した。
「逃げるな!」
そういわれて逃げない奴はいない。その声で康一の逃げる脚をさらに早くさせた。廊下を全力で逃げる康一と全力で追う箒。そう、それはまるで…………。
「おいおいww何時までたっても追いつかねえぞ!」
「っ!?」
箒がなぜかしらの表情の変化を見せる、その原因は視界に写る人物セシリア・オルコットとラウラ・ボーデヴィッヒだ。箒はそれに声をかける。
「おい!ラウラ!セシリア!相澤を止めろ!」
「「え?」」
その状況は酷く酷く既視感を覚えた。何のと言われればIS学園でのこと、誰が見たかと言われればセシリアとラウラなのだが。
「ちょっちょwwwwww一夏を小バカにしたからってそこまでは無いでしょwwwww」
その瞬間相澤康一はそう言った。それは、二人に「ああ、なんだまたか。」と言った感想を言わせるのには『十分過ぎた』のだ。結果、性格を利用した裏技的な方法でそこをすり抜けた。すり抜けた時にダメ押しとばかりに、康一は挑発を繰り返す。
「少しは普段の自分の素行を考えて見るんだな!!」
「お前は今の素行を考えろ!!」
箒が半ば叫びながら、遠隔攻撃をする。目的は足止め以外の何者でもない対して康一は、その攻撃を大太刀で受け止め、その攻撃が霧散した。
すると、康一は何かタイミングを掴んだのか顔を誰にも悟られないように少しだけ輝かせ、持っている大太刀をISに収納し。康一は脚を止めた
「油断のつもりか!」
「少しは周りを見ろよ。熱くなってるのは分かるがもちっとクールになろうぜ……………ねえ、織斑先生?」
もう一度だけ言う、篠ノ之箒は「ああ、なんだまたか。」と言った感想を言わせるのには『十分過ぎた』そんな人間が今、まさにISを持って人を襲おうとしている。
それを先生と呼ばれる人間が見たら『教育的指導』をしてやらねばいけない。
足止めをするのには十分だ
「篠ノ之…………何か言うことはあるのか?」
後ろでそんな声が聞こえる。そんな声を振り切るように康一は走った。目的地はすでに分かっている整備室にいる相澤一葉だ
「よっ。一葉。」
「あれ?お兄さんまだ整備終わってませんよ?」
「良いんだよ。テロが起こっている。それを出撃しろっていうお達しだ。」
流れるように嘘を付く。それが本来の、と言うより康一と言う人だ。
「まあ、そういうことなら仕方ありませんね。少し装備に細工をしたかったのですが。」
「ふざけるな。まあ、しっかり戦場に出て壊れなければいいや」
と言って半ば奪うようにカゲアカシをその手から取った。
「それに、一つこれでなきゃいけない仕事が出来た。」
「なんですか?」
「こういうことだよっ!!」
人間の認識度外の速度で一葉の腹部を殴り昏倒させる。華奢な崩れ落ちるその体を抱きとめて、ゆっくりと床に下ろした。まるで、彼女が寝落ちした彼氏のような手つきでそれをした。
「あまり寝すぎんなよ、夜起きれなくなるぜ?眠らした本人が言う言葉じゃないな。」
その場を去った。自身のISの名を呟く。悲しげな灰色の鉄鋼が康一の身を包んだ。一つ、通信用のガラケーを耳に乱暴に開き、災禍の引き金を引いた。
「パーティーの時間だぜ野郎ども……………クハハッ。奪え奪え根こそぎな。」
閉じられた室内が揺れる。錯覚ではない。
破裂音、爆発音。斬裂、殴打、銃撃、人々が逃げ惑い命の危険を感じる音を濃縮してぶつけたような。部屋の外では何が行われているのか、具体的には康一は分からないがどう考えても喜色があるわけがないということはありありと分かる。
「……………帰るか。『男』が帰還しますよ~」
俺のいや『男』の仕事はもう終わった。そう、これで一歩前に進んだ