IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

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決勝と汚い結晶

突然に話すが、俺はこういうところに立って初めて思うのだが、試合場に立っていると言う感覚が無い。

 

分かる、隣にはレース相手として真剣な表情をしている級友たちがいるということは分かっているのだが。本当に立っていると言う実感ができない。

 

心の奥底を探って、それらしい理由をつけることは出来てもそれに疑念を覚えてしまう。だから試合に何の影響があるのかというと、何の影響もありはしないが俺の気持ちの問題だ。

 

相手が真剣に俺を通じて試合に対峙しているのに、俺は全く別のところで全く別のことで頭を埋めながら試合に臨んでいる。これがなんとも不誠実ではないか?と自己嫌悪に陥る。

 

常日頃から自己嫌悪している俺にとっては、さしたる問題は無いのだが。悩みの種を一つ減らせるのには越したことが無い。だからと言って、この試合が始まる一歩手前にそんなことを考えても仕方がない。

 

『決勝戦を開始します。出場選手は開始位置まで進んでください。』

 

まあ、今こうやって悩んでいるのも。試合に対しての逃避なのだろう。全くもって俺は不誠実だ。アナウンスの通りに開始線まで進む。

 

『5』

 

こうやって自分の弱い所に対面するのは久しぶりだ。カゲアカシと呟き俺のISを出した。

 

『4』

 

そうする事によって、「ちゃんと自分を見つめている俺カッケェ!!」と自己陶酔しているのだろうか?

今回は五個を背中に推進力、四個を四肢につけ、一つを拳銃状態にして手に持つ。レースとして丁度いいバランスのとれた状態になっておく。

 

『3』

 

ダメだな、俺は。

 

『2』

 

それでも、やってやらなきゃ。交渉は済んだ、これで一位になれれば大万歳なんだが……………そんなわけにはいかないよな。

 

『1』

 

覚悟を決めた。

 

『スタート』

 

スラスターを最大限吹かして、五個のマックススピードをたたき出す。俺は瞬時加速は出来ないので、一歩二歩遅れる。今回は追撃戦だぜ!

 

「チッ。」

 

全ラップ数として5ラップ。一ラップ目の中盤、ここでかなり差が出てきている。現在一位は、篠ノ之箒。二位は三位の入れ替わりが激しいのが凰 鈴音、織斑一夏。そしてドベが俺だ。やっぱり五個じゃ出力が足りないか?

 

最初にやった虚口も警戒されてつかえないし、一夏の零落白夜で全部無効化されてしまう。タイミングが合えば使えるかもしれないが……………。

 

作戦何ぞ、この(・・)戦いに何の意味も成さないからな。

 

 

1ラップを終えた。俺以外の全員がちょくちょくと妨害しながら、レースをしている。

 

それに混ぜてもらおうか。背部スラスターの出力を上げる。IS操縦技術で開かれたその差を強引な力技で押し殺す。体が軋むような音が聞こえる。

 

この俺が。訂正、この妨害が大好きすぎる俺が、このレースを滅茶苦茶にしてやる。標的は。

 

「しッののッのッ サァァァァァァァン!。遊びましょ!!」

 

背中しか見えなかったが一瞬だけ篠ノ之箒の背中が硬直したような気がした。理由は一番この中でスペックの高い機体を持っているからだ。強い奴から潰すのは常套手段だ。

 

何回か持っている銃で無差別に妨害する。一発二発当たるが、相手側にさし当たったダメージは無い。

 

何も考えて撃っている訳じゃない。これは布石。

 

人間には弱い所がある。これは生物として当然だ。あの不死身と謳われるようなクマムシですら、指で潰されて死んでしまう。

そしてそれを庇おうとするのは当然で、各部の弱点に危険を察知させるとどうなるか。具体例を出すと、いきなり顔面をなぐるそぶりを見せたら、大抵の人は顔を守るか、避けるなりするだろう。俺はそれを利用する。

 

長ったらしい言葉を使わずに説明すると、俺がやっているのは回避予測ではなく回避操作だ。立ち位置、ポイントを押さえて撃てば回避を操作することは可能だ。

そしてコースの端に誘導する。

 

「虚口!」

 

それを呼び出し篠ノ之箒の少し前に二本ワイヤーを撃つ。フックショットのように対象に張り付き、二辺から射出場所と張り付いた所の三角形ような形にビームの幕が張られる。

 

回避されるがそれも想定内。アンカーを解除せずに巻き取り、箒に後輪の面の部分を向けて体当たりをする。先に回避した加速をそのままに先ほどまで居た場所から消え、その体当たりも回避した。その側面が見えて俺も篠ノ之箒を確認する

 

 

 

「湯花」

 

 

 

そのタイミングで懐刀を取り出した。全てのペトゥルをつけたラグナロクの一撃程では無いが、手痛い一回であったのは間違いないだろう。まだ残っていたペトゥルから五個全てを取り出し、その状態での弱攻撃。

 

それに、聞いた話だと、白式と同じように燃費が単一仕様能力を使わなければ悪いと言う話を聞いたことがある。それで無制限に使えるのであれば勝ち目は無いが…………。ダメ押しに追撃を喰らわせる。

 

その時殺気を感じた。常にさらされている者と同じような、なんとも言えない剃刀のように濃厚で切れ味のあるそれは俺の首を刈るために俺に肉薄してくるのが本能的に分かった。

 

「チイッ!」

 

一夏が光の刃を携えて俺の首を刈りとろうとする。

 

「おいおい好きな女傷つけられて激情しちゃったのかい!?」

 

零落白夜のぼうっとした光が物理剣の中に収まる。だが、殺気は収まりがつかない、暴れ狂って俺に憎悪の視線を向けている。それにいたっては心理的にも物理的にも逃げるしかない。

 

「待てェ!!」

 

うひゃあ!?一夏がこれ以上ないと言うぐらいの殺気を垂れ流していた。俺はその追撃から逃れるために、背を向けてスラスターを吹かす。

 

そろそろスラスター残量が心配になってきた。あ、まず…………いや大丈夫か。

 

「誰が待つか!」

 

といって逃げる時に持っていた後輪『灯火』で一夏をぶん殴る。そのまま投げ捨て逃げる。

 

逃げ追われ、後ろから一夏の荷電粒子砲が唸る。その度に肝を冷やしながら避ける、に手足のビットを使い横転のようにして後ろから一夏、俺、篠ノ之箒が一直線上のラインを作るように位置取りをして流れ弾を誘発させる。

 

そして三週目に入る。

 

今現在俺は三位。一夏が最下位、箒さんが一位、その後ろに引っ付いて凰が二位だ。

 

俺たちは喧嘩のような争いをしていた。

 

 

「当たらねーぞバーカ!ちゃんとした目がついているのか一夏くぅん!(若○ボイスで)」

 

「うるせえ!死ね康一!」

 

「そんなんだと女の子にもてないぜェ!」

 

「どの口が言うか!」

 

「もてない男の哀しみを知らぬ男に、そんなことを言う資格無し!!」

 

「そっちも、もてる奴の苦しみを分かっているのか!?」

 

「なに!お前もててるって自覚しているのかよ!!ぶっ殺すぞ!」

 

「お前が死ね!もてないと言う失意の果てに死んで行け!!」

 

「だったらテメエはお姉ちゃんのオッパイでも吸いながら死んでけ!テメエの死に場所はそこだけだ!」

 

「お前は!冗談だとしてもゆるされないことをした!それは千冬ねえの名前を侮辱したことだ!お前だけは絶対にブッコロス!!!!」

 

「出来るんならやってみろ!!」

 

「後言っておく!「テメエ」っていうのはな元々自分のことをさす言葉なんだよ!!無知をさらすな!」

 

「だったらテメエは縄文時代にでもタイムスリップしてろ!!」

 

 

 

レースをしながら喧嘩をしているもてる男とそうでない男の生々しく、俗世に塗れ過ぎているその光景は失笑を買っていた。喧嘩をしながらもう一周した

 

が、やっている俺たちにとっては真面目にやっている。何処かで、「あいつらはなにをやっているのだ…………」とか言っているような気がした。そして罠が、作動するそれは、最初に箒さんに攻撃を仕掛けた所と同じ場所。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 

俺は全てのビットを加速にまわすそして一躍トップへそして、いつの間にか宙へ浮いている灯火。それに近寄りそれを持ってさらに加速し、ワイヤーからワイヤーへ辺を作れば、口の大きいコップのようになった。

 

 

 

「起動しろ!虚口!」

 

 

 

虚口本来の使い方、罠としての能力が作動する。

 

「あ」

 

だが、張った罠を嘲笑うかのように一夏が左手で罠を切り裂いていく。血走り、赤くなっている目がぎょろりと俺を見る。

 

「うっほ、ヤバヤバッwww」

 

興奮で頭の中から変な汁が出てきそうだ。灯火を持って尻尾巻いて逃げる。

 

「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「後ろからこんにちわ!ってなぁ!」

 

俺はワイヤーを巻き取ってアンカーを篠ノ之箒に絡め捕り、一夏にたたきつけた。言葉で激昂させたのは、冷静な判断をさせないためだ、出なければ必要以上に一夏に構ってやる物か。そしてぇ…………。

 

 

「BOOOOOOOOOOOOON!!」

 

 

灯火を爆発させた残り少ないとはいえ、効果は推して図るべし。それに灯火にも代えはあるだろう。

 

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!あのバカがァァァァァァァァ!!あれ、どれだけ作るの大変だと思ってるんだよ畜生めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 

恨み言が聞こえてきたような気がしたが気にシネェ奥の手があるし。それより、さっさとこの場をずらかって…………あれ?

 

 

『しかも抜かされんじゃねーかァァァァァァ!!!!!妨害に生を出しすぎじゃボケナスぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

恨み言の主。相澤一葉がそういったような気がした。

あ、そうじゃん。その声で忘れてた物が思い出した。なにがあろうとも、これは先にゴールした方が勝ちなのだ。それで、空気となった凰にはあまり妨害は行っていない!

 

距離を詰めようとさっさとレースに戻ろうとする。慌てていったが時すでに遅し、だが、俺はまだ諦め。

後ろから、感じる気配。今俺中での最大火力をぶつけたんだ、そんなわけ…………

 

「ウオォォォォォォォォォッ!!」

 

荒々しく煌く暴力的なまでの光の刃が俺を襲う。

まさか!忘れていた!篠ノ之箒のワンオフアビリティ『絢爛舞踏』はエネルギー増幅能力それで作ったエネルギーを一夏に譲渡してッ!!

 

 

 

 

俺は結局の所4番手に落ち着いた。

 

 

 

この、レースの結論を言おう。

 

「みんな…………脚の引っ張り合いと言うものは、醜いものだよ…………」

 

表彰台、4位の場所で俺はそういった。

 

 

「本当に、醜いものだね」

 

 


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