悲鳴のような歓声、怒鳴り声のような応援。鳴り止まない拍手。大きい大会にはこれらのようなものがつき物だ。ワールドカップやそれらが準じるものだろう。
そんな規模の大会に、俺は立つのだ。選手として。ほんの数年前だったら興味も示さなかっただろうが今は違う立てる、いや、立ってしまうのだ。
っと考えごとをしていたら何かアナウンスで呼ばれたぞ?そろそろ時間だし、そろそろ行くか。
俺は入り口付近で待機し、そして出場する為に階段を登った。気分ははじめの一歩だ。
微かに震える手を、強く握って誤魔化した。
◆ ◆ ◆
『それでは第1リーグを開始します』
妙に丁寧な説明口調のアナウンスが入る。相手は一年の専用機持ち半分、セシリア・オルコット、篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒそして俺を含めた四人。残りのリーグは一夏と凰、その辺りが勝ち残るといいんだが。
次々と、ISを展開していく俺は「カゲアカシ」と呟いた。
『3』
おっと、無駄話しているうちにカウントダウンが始まっているぞ。俺は、小細工のために全15このビットを右拳につける。俺以外の全員は、宙に浮いているが俺は地に脚をつけたままだ。
『2』
小細工は隆々。思考を臆病物のそれから、勇者のような勇猛さを持つそれに。体を絶対零度のように冷めているそれから、煉獄の炎のように熱く。
『1』
さあ、反芻しろ!全てをこの場の全てを飲み込め!
『スタート!』
呼び声と同時に俺は全ビットをフル稼働させる。ギチギチと自分の腕の関節と言う間接が軋み悲鳴を上げているのが分かる。そして暫定トップをもぎ取るそして。
「
罠を展開する圧倒的な距離と言う名のアドバンテージ。ワイヤー自体に引っかかってくれたら御の字、それで無くともこれは、大型バックパック『灯火』のエネルギーを半分吸って攻撃性エネルギーの罠を張る。スタートダッシュそしてこういうレースでスピードが出過ぎているつまり。
「「「卑怯だっ!?」」」
吸い込まれるように虚口に突撃する。
「フハハッ!引っかかったなバカめェ!!」
「クッ!?かなり削られた!?」
あの灯火はあの「ラグナロクの一撃」を十発は撃てる代物だぞ?それを半分使って広範囲に攻性エネルギーフィールドを張る。普通にレースするぐらいだったら問題は無いが特種兵装はほぼ全て使えないと言ってもいいだろう。
しかしこれは止まっていないと発動できない物理的に止めるわけではないので俺は最下位に。
「そこで掻っ攫っていくのがいいんだよね」
俺はワイヤーを回収しそれを再び射出した。それは、一直線に篠ノ之箒の機体に絡みつく。それをアンカーにして回収、ゼル○の伝説におけるクローショットのような加速を見せる。
それを繰り返したワイヤーの射出自体にそこまでエネルギーは食わない。それに兵器用のエネルギーとシールドエネルギーは完全に独立している
そして、俺は
◆ ◆ ◆
「ふう、何とか勝ち残れたな」
「なんですかあの兵装は。」
疲れたようにラウラがそういってきた。勝ち残ったのは、俺と篠ノ之箒。この二人だ。
「まあ、なんだ。お疲れ」
「康一さんはこれからお疲れてくださいね…………」
弱弱しく呟いたラウラの言葉は何処か恨み節が篭っているような気がする。
「いや、一番妨害していたのは、お前が一番に居るとめんどくさいからだからな?」
言外に、だからお前を狙っていると付け加える。認めながらも、コイツは否定せざるをえない。
「よく言いますよ…………あ、嫁の試合が始まっている。」
「あ、本当だ。」
第二リーグは、織斑一夏、凰 鈴音、シャルロット・デュノア、更識簪。この四名が戦う。
そして試合が始まり何秒後のモニターに移る試合の様子は圧巻の一言で埋められる。見るもの全てを興奮させる、力、技、魂のぶつかり合い。それは一方的なワンサイドゲームのような爽快感ではない、一瞬の駆け引きが生死を分けるような綱渡りの緊張感。それを、レースの舞台で作り上げられていた。
俺のとは違う。俺は奇襲、不意打ち、虚偽、欺瞞、この四種が揃ってようやくあいつらに比肩できる。心の中で自虐しながら俺は試合の展開を見ている。
「しかし、簪のISのパッケージも、よくもまあ作られたばっかだってのに高速戦闘用のそれが作れたな」
「感心する所がそこですか!?」
まあ、そこぐらいしかないね。相当なデスパレードを経験しただろうな技術者さんよ。と、どこの誰だか分からない奴のために心の中で十字を切っておいた。
「誰が勝つと思う?」
ただ見ているだけであるもの暇なので一つ質問をした。暇つぶし以外の意図は無い。
「個人的には嫁、シャルロットが勝ち残って欲しいのですが。現実的には、凰、シャルロットの確率が高いでしょう。」
嫁とは一夏のことだ。なるほど、そのISに乗っている時間が物を言うか。確かに簪はISが出来て日が浅い、一夏は言うに及ばずだ。それでも練習をしまくったが凰やデュノアの娘っこよりかは動かす時間が少ない。
「経験が物を言うのはあるかも知れんが……………俺としてはその二人が失格して欲しいね。」
冗談交じりにそういった。嘘偽り無い本音だ。それに、凰の装備している高速機動パッケージ「
「そうですか。」
と言ってラウラが微笑んだ。
「あ、もう終わりか。……………ああ、ニアピン賞だな、ラウラ」
「嫁、鈴が勝ち残ったのか」
俺もラウラも、感慨深くその結果を見つめていた。専用機持ちのリーグは、相澤康一、篠ノ之箒、織斑一夏、凰 鈴音。この四名となった。
さて、どうなるかな。
「あ、お兄さん。」
いきなり町のポン引きのような声を掛けられた。俺のところをお兄さんと呼ぶのは、春を売っているような頭のねじが二、三本緩んでいるような馬鹿な人か、俺の義理の妹である。
「一葉、なんて所まで姿を出しているんだ?」
相澤一葉だ、俺にとってめんどくさいことこの上ない人間であることは間違いは無い。それにしても、なんでこんな所まで部外者が居るんだ?セキュリティはどうなっていやが…………ああ、まずそんなことを言うのは酷だな。
「ええ、お兄さんが言っていた馬鹿でかい剣。作っておきましたよ。」
おお、2週間位しかなかったのによく作れたな。心の中で関心しながら、実物を見せろとせかした。俺の妹は「ハイハイ」と気だるげな返事しかしない、そして何処かに引っ込んだ。
「あの、康一さん?」
なんだ?いきなり?ラウラが一葉が用意して何処かに行った途端に話しかけてきた、何かあるのだろうか?
「あれ、ニコル・ハウアーですよね?」
妙に引きつった顔で俺に質問した。
「いいや、相澤一葉さ。」
「さてはて、持って来ましたよ~。これがブレードです!」
持ってきたのは、刀剣のミニチュアのようなものだった。非常に正確に作ったプラモデルのようなちゃちなところはあるが、それを見れば実物を想像できるようなものだった。
「なんでそんなものを持ってきたんだ?」
「そのまま持ってこれるわけ無いじゃないですか」
それもそうだな。なんで、簡単な事に気が付かなかったんだ……………。
「でまあ、説明しますと特種形状刀『ハイダーブレード』これはまあ、ぶっちゃけ言ってしまえば精巧な鉄の塊です。」
どっちだ?と突っ込みを入れる暇も無く、一葉は『ハイダーブレード』とやらの説明をしていく。
「このハイダーブレードはですね、特殊な形状ククリ刀の形状が特徴です。それでなにが特種なのかと言うとこれ空を飛べるんですよね」
空を飛べようと俺には意味が無いんだけどそれでも、まあ、聞いてやろう。
「形状が飛行機の羽と同じ効果があって振るだけで揚力を生み出すんですよ」
なんてめんどくさいものを生み出しているんだ…………。
「と言うわけでですねこれをインストールしますのでカゲアカシを出してください。」
俺は放りなげた足輪を見送り、その足輪に一葉はUSBをぶっさした。
「!?」
一瞬、一葉の顔に陰りが刺した。なにが起きているのだろうか?
「どうした?」
「いえ、何でもありません。気のせいでした。」
笑いながら、俺にカゲアカシの待機状態である足輪を手渡した。手に返る重い金属質の冷たさが、興奮している体に染み込んで行く。
「よし。やれる」
「なんか元気ですね。」
「ええ、何時も以上に。」
二人の妹分から、俺の態度について総ツッコミが来た。はて、俺がやる気を出すのがそこまで珍しいか?と恨み言を言いながら自分に足輪を付けた。
「それじゃ、お前ら俺は行って来るぜ。」
呼ばれた、後ろから俺の宣言に答える声がする。二人とも同じ言葉だった。そんなに俺、頑張ってないですかね?
まあいい、俺は頑張ってくるよ
試合場に出て空を仰ぐ、眩しく無限に広がる青い空。
俺は笑った。
そして、死にに行く決勝戦。これで決まる。俺を含めた四人のレースが今始まる。