話題。これに沿って語れば、大体のことは会話に乗る。それには例外があるが。それは置いておこう。
俺が言いたいのは、その話題が自分に聞くに堪えなかったら凄いやだよね。
「康一、キャノンボールファストって知ってるか?」
「は?キャノン・ボール・ファスト?」
その、なんちゃらが話題に出たのは、俺がIS学園に囚われていた二週間後の朝のSHRの前の時だった。俺はIS学園に微塵も興味も無かった為に、そんなお祭りごとには疎い。
そもそも、祭りというのはリア充のためだけにあるようなもんじゃ。それなので、俺は知らないと答えておいた。
「ああ、なんかIS同士で妨害ありのレースらしい。」
「IS版のマリカってことか。」
多分、それを専門家に言ったらぶちぎれて往復ブラックジャックをかまされるだろう。それに伴い一つの懸念が。
「…………ああ、もうそろそろ俺にも祭典のお鉢が回ってくるのか。」
俺のイベント回避の免罪符であったカゲアカシによる骨折はもう完治して使えない。元々あって無きような物だったがゴネて押し通した。
それは置いといて、俺になにをやれと・・・。
「お前でも緊張するんだな。」
「バカ言え、俺が表舞台に立つって言うことは。恥辱により爆死体が一体生成されるってことだぞ?」
「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「おい、コラ!オルコットォ!喜んでんじゃねェ!!差し押さえんぞ!」
突然聞こえた叫びの主に康一が切れた。因みに、この場合の差し押さえると言う言葉の意味は、一夏の写真データをハッキングして消すと言う意味だ。
「差し押さえるって…………なにを?」
「いや、何でも無いさ言葉の綾だ。」
これを、一夏にばらしてしまうと俺の収入に直撃する、痛恨の一撃なるだろう。俺からのトカゲの尻尾切りは一応用意しているから抜かりは無い。…………はず。
「っと、それよりお前は出るのか?」
「強制じゃないのか?」
「強制だろうな。」
個人的には出場したくないが仕方ない。
前提として学校行事として出ているものだ、そりゃ強制的にやらせるだろ。つーか概要を完璧に把握していないと、どうするかも分からんし。
「はぁ…………まあ良いや。負けようが負けなかろうが俺に問題はさほど無いだろ。」
「真面目にやれよ。」
一夏は嘆息しながら、そういった。いや俺がやったら。
「バカいうな。俺が勝つために真面目にやったら本当にリアルマリカになるぞ。」
前にセラフィーナとか言う変人バーサーカーとマリカやってたけど、その時に妨害しかやっていなかった(できなかった)からなぁ。妨害は俺の生きがいなのだ。
「ルール上ありでも倫理的にダメだからな?」
男が女性をレースそっちのけで妨害していたら精神衛生上良くなさ過ぎる。なんと言うか人としてそれだけはしてはいけない。…………という固定概念がいまだに男女間にあるからな。
「分かってるよ。めんどくさいけど」
そのセリフを言った瞬間に、学校のチャイムが鳴った。蜘蛛の子が散るように女子達が席につき、我らが
「朝のSHRを始める。日直号令。」
その一言で今日の日直は号令をかけ、そして担任殿が出席簿を投げた。一つの音で全ての動作をしているのが美しくてしょうがない。汚い俺の鼻血は出ているが。
「今日やるのは、キャノンボールファストの大会要項の連絡と、それに当たっての機体選択だ。」
俺は出席簿をできるだけ取り辛く投げ返した。なんてことはない、ただの日常の一部だ。
それよりも俺が一番びびっているのは、もう要項が出てくるような時期になっていることだ。詳しい情報が入ってくるとなると、後一ヶ月ぐらいでやる事になる。
それに、俺が詳しい情報を持っていないからよくは分からないが、機体選択とは?
「機体選択は、読んで字の如くだ。自分が操作してみたい機体をIS学園内から選び、それを操作することだ。本年度から実施した。さっさと書かないと適当な機体に割り振られるぞ。」
口頭で説明しておいてなにを読むというのだろうか?
それは置いといて、専用機持ちはどう対応するのだろう?まあいっか、とりあえず説明を聞いてそれから取捨選択すればいい。
んっと…………なになに?
◆ ◆ ◆
「まあ、総合すると。キャノンボールファストは、この(IS学園がある)市が開催するISレースってことか。当然、市のイベントであるのだから、市で用意したISアリーナを使いそれをやるらしい。」
時は全授業が終了した放課後。俺たちは歩きながら駄弁っていた。
「襲撃ですね分かります。」
「不穏なことを言うなよ。」
俺のつぶやきに一夏が反応した、それでも俺にはそういいたい事情があったりなかったり。
そもそもIS学園と言う国家のお膝元でもぽんぽんと襲撃されているんだから、市が開催した所でそれは変わらないしむしろ酷くなるぞ。
「とはいってもな。毎回イベント時に襲撃されるじゃねーか。」
「いいだろ、お前は毎回逃げているし。」
一夏の表情に怒りが見えた。それを俺は加速させる。一夏は意外と老成している、そこを付く努力をバカにしているような姿を見せれば大丈夫だ。
「ま、俺が出張っても足手まといになるだけだからな。」
「そうならない努力をすればいいだろ?」
「これは、努力で何とかならないからなぁ。」
俺は臆病が過ぎるんだ。
「だったら、何か文句を言うな。」
「へえへえ。分かりましたよ。」
とりあえず、折れた。地味に一夏が怒ると怖いんだよね。そこから話題を変更しよう。
「それでさ、今もお前、生徒会長のコーチ受けてるの?」
「ああ。お前も受ければよかったのに。」
「俺は生徒会の方の手伝いもしているからな。そういえばお前も生徒会に籍を置いているんだったか。」
描写こそしていなかったが文化祭終了後、一夏は生徒会に居る事になっている。いつだったかに話した、IS学園には部活に所属していないといけないと言う校則があり、それに俺達二人は引っかかっていた。
だが、部活に入れるにしても俺のほうは問題がなかったが、一夏の方に問題があった。曰く、部活動に入れたらその部活が一夏を独占してしまうと言うことで、暴動が起こりかけたのだ。
最も、入学三週間後にこの話が出たのだ。本気で一夏を好きでそんなことを言っているわけでもなく、ハニートラップの餌食にこれでもかとしてやろうと言う魂胆がみえみえである。
とまあ、そんなことはおいとき事の顛末は一夏を副会長として生徒会に参入、俺は雑務係として隷属したという結末を迎えていた。
「業務の内容は全ての部活に日替わりで顔を出すって物だけだったけどな。」
「お前は居るだけで価値のある人間だからな。それだけでも大助かりさ。」
一夏のお願いってだけで部活から生徒会の欲求不満を解消することも出来るし、それにお前らの所にはもう織斑一夏を派遣しないと言う交渉カードを全部活に与えることが出来た。
「買いかぶりすぎだ。」
「俺は正当な評価しか下さない。と言ってもそこまで信用できるわけではないが。」
まあ、俺の中でならうそは付かないぜ。
「基本的に嘘つきな奴に言われたくはない。この前だって、お前が嘘ついたせいで箒、シャルロット、鈴に3対1だぜ?」
「あの時はお前死ぬと思ったもん。つか、それでそこまでするあいつらもおかしいと思うがな。」
一夏に殺意を抱いた時に、俺は良くその手法を使っていた。三人にボコボコにされる姿は実に愉快で一夏が気が付いて居なかっただろうがちょくちょくやっていた。
「んじゃ、俺は部屋に戻ってるから。そっちも頑張れよ」
俺は一夏に別れを告げた。それに一夏は一言「おう」とだけ。その背中を見送った。
「こちとら、色々やってて大変なんだがねぇ。」
俺は頭をかいて、寮へ向かった。
「さてさて、今度はどうすることやら。」
まだ気が付いていなかった。いや、気が付いてるはずなのにそれを見誤ったと言うところだろうか。結局の所俺は。
俺はどうしようもなくおろかだったと言うこと。
そして、どうしようもなく馬鹿であったということだ。