銃声。静かなる劇音が肌を叩く、しびれるようなその音に命は失わなくとも相澤康一と織斑一夏の日常は、ただいまをもって完全に殺された。
「…………お前は。」
相澤康一は背後から話し声が聞こえた。
「私は…………ファントムタスクの織斑マドカ」
そんな呟きが聞こえてくる。康一はまだ伏兵はいないかと探している最中だ。
「いきなりなんだ!それに訳のわからないことを言うな!」
「ああ、お前はまだ何も知らなかったな。…………ファントムタスクは第2回モンド・グロッソ決勝戦にお前を誘拐した組織だ」
一夏の顔が驚愕に染まる。
「いまさらそんなことを言ったところであまり関係はないか…………。織斑一夏お前の命をもらう!」
「一夏!!」
動いたのは康一だった。一夏の前に立ちはだかり凶弾から守ろうとし、その間に…………襲撃者を見た。
時間が遅くなるような感覚。見慣れすぎてもう見たくないほどの整った顔立ち。そして、強烈なデジャヴ。何の記憶かは分からないが奥底からさらうように頭が掻き回される。
そして、それと同時にリボルバー拳銃の撃鉄を打ち下ろしたような「ガン!」といったような音が鳴ったような気がした。
◆ ◆ ◆
「ナァァァァァァァァァァァァァァニィィィィィィィィィッ!!」
大きな声がそこらに轟く。だけど、それはどちらかと言うと、喜色が強いようだ。
「ねえねえねえ!なにこの子!かわいいんだけど!?天使なの!?」
女の子に俗に言うあすなろ抱きをしながら一夏君に話しかけた。
「い、いや俺も知らないんだが」
「貴様!いつの間に!」
抱かれていた(どちらかといえば)少女はその抱擁を振りほどき、持っていた拳銃を突きつける。
「私的には、銃と女の子も良いけどやっぱり邪道なんだよねぇ。かぁいくしなきゃ!」
銃が鉛色の死を吐き出そうとしたその刹那。持っていた拳銃はバラバラになっていた。
「!?」
「ねーぇ。そのエッチな女戦士みたいな格好も良いけど。もっとかわいいのは…………はっ、合成!?それだ!」
「おい、康一!如何したんだ!?」
半ばパニックになりながら一夏は康一もとい香を静止させようとするがそんなものでやめられないとまらない。
「康一じゃないです☆香DEATH☆」
「いつにも増してウゼえ!!」
そこはシリアスな雰囲気など微塵もなかった。また、これは素顔を見せなかったのであればこのようなことはなかったはずなんだが…………。あすなろ抱きをしながら、頬ずりをしている。
「邪魔だ!!」
香の被害者はISを展開した。いやしてしまった。
「むむっ。あらまぁ。」
「止めろー!!香の前でISを出すな!!」
「うるさい!」
一夏が被害者に注意を喚起した。だが、貸す耳は持たない。
「香!逃げさせろ!」
「やだ!」」
こっちも貸す耳を持たないようだ。そして生身VSISと言った異種格闘技戦が行われるのだが…………。
ゴリュゴリュゴリュッ!!
捕食だ。ISを一切の躊躇もなく純粋な力のみで破壊する。
脚を、引きちぎる。腕を、刈り取る。兵器を、押し殺す。
決して操縦者を傷つけないようにISを破壊している。まるで、えびを食べるために殻を剥ぎ取るかの如く容易く剥がされている。
「んっふっふっふ。なんだか興奮してきましたよ」
『おい、そろそろ止めろ。ISを直すのが難しくなる。』
本当にそれ以上やってしまったら自動修復で一年は掛かるであろう状態にまで破壊していた。それぐらいだったら普通に直せるが木っ端微塵はだめ…………というかめんどくさいのだ。
例えるなら100000000ピースのパズルをやっているようなものだできなくはないがめんどくさい。
「……………馬鹿な。」
絶望に染められたような顔でそう呟いていた。ISという最終兵器をぶっ壊された時点で絶望に値するが。彼女側の状況も鑑みれば、ここで身バレするのは最も避けたいことだろう。
「にゃーやっぱりいいねぇ。」
手に頬ずりしながら、そういった。なぐられながら。
「変態かお前は。」
「ぶーぶー、愛でているだけだよー。」
一夏が止めるが、やはり聞かない。その間にも被害者に徒手空拳を喰らっているが、猫に引っかかれたかのように気にしていない。いや、人体の急所と言う急所に当身をしていたが、大丈夫だろうか?あ、ちゃんとガードしてたわ。
「くっ!!」
「はい、ざんねーん。」
くるくると避けながら、バカにするかのように言い放つ。この上なく腹立つ人間を体現しているかのようだった。
「ねえ!名前は?しっかり聞いてないよね?」
「むしろこの状況で名乗り上げるんだったら逆に凄いわ。」
相手にとってみれば、少し自分に責任があるのではあるが、ただ不審者に絡まれているだけのことだ。普通の人間だったらまず逃げる。
「黙れ!」
「疲れるまで放置プレイだね~」
「言い方って物があるだろうに…………この場合如何したら良いんだ?」
一夏君は学校に来た不審者をどう対応するか頭を抱えていた。今現在危険性は皆無であるし、かといって引き渡さないわけにも行かない。
「嫁!」
「おっラウラか!丁度良いところに来た!」
そこに一人のラウラと呼ばれた銀髪美少女が一夏君に駆け寄り話しかけてきた。
「嫁、どうしたのだ?」
「それが、」
かくかくしかじかで、なぜか俺のところを襲ったけど、瞬く間に康一が武装解除してこうなっている最中だ。と、絶賛バトル中のところを指差す。
「…………で、どうしたら良いと思う?」
「…………師匠や。師匠がご降臨なされたでーッ!!」
「ラウラが壊れた!?」
だが、それは新たなカオスを生み出す結果にしかならなかった。
「ほーれ。なーでなーで」
「止めろ!」
「香!私にも!」
「ほーれ。なーでなーで」
「キタコレ!」
男が女のケツを追っかけながらも追っかけられていると言う奇特な状況に、一夏は頭を抱えるしかなかった。それは、長くは続かなかった。
「アーもうらちがあかない。写真撮影でもしましょうか。」
「なにをする!!」
もう抱きかかえていた。荷物のように肩に乗せながら。
「ラウちゃん、一緒に来るかい?」
「どこまでもついて行きます!!」
「良い返事だよぉ~それではエデンへレッツらゴー!!」
「「ゴー!!」」
そうして風のようにして去っていた。
「…………一体なんだったんだ?」