ま、事件の幕開けとやらは俺の預かり知らない所から起こっているのだろうが、これは……………。
「…………不味い。」
「なにが?ッてか、なんで生まれたての小鹿のようになっているんだお前は?」
脚をガクガク震わせながら、俺のベットに上半身を倒れこませている。こうなった経緯は、ラインでの会話に遡る。
Kんざし『野良氏よ』
野良野郎『なに?』
Kんざし『エマージェンシーでござる。』
野良野郎『どっした?』
Kんざし『詳しくはあって沙汰を話す』
野良野郎『俺の同居人と合うのがいやだからって言って来ないじゃん。』
Kんざし『いる?』
野良野郎『いないが?』
Kんざし『それの事に付いて話したい』
野良野郎『把握』
そして現在に至る。
「で、どうした?」
「…………コウリャクを始めたでござる。」
名詞が無い。
「だれが?」
「…………織斑一夏」
「それで、何でそんなに体力を消耗しているのでしょうかね?」
今では小鹿ではなく胎児のように丸まっている。こんな所でサービスシーンを使うんじゃありません。因みに今、簪はスカートだ。
「…………ヤバイでござる。」
「口調がおぼつかなくなるほど追い詰められているな。それで、どういうことだ?産業で」
「…………織斑一夏が私に接触
…………近日にある全学年合同タッグマッチに出場誘われる」
…………攻略…………ッ!!」
「良かったな、ヒロイン入り確定だぞ。」
俺は適当に返した。だって、どうでも良いんだもの。口調が昔の状態に戻っていると言うのが俺の目下の問題だ。
「…………良くない。あんなことされたら私の心臓がバクバクしすぎて死ぬ。」
心臓がバクバクねぇ。…………いや、もうヒロイン入りですね乙。いやぁ、ちょっと赤飯でも炊く準備でもしましょうかね?円卓の騎士の全員が一夏に落とされたか。
「死にはしないだろう。ま、俺から言えることは…………そうだな、命短し恋せよ乙女。自分の気持ちを偽って逃げたってなんの良いこともないぞ」
因みに実体験。
「…………貴方を見ていればそれは分かる。どうやって、この気持ちを整理して良いのだか分からないのよ」
「そうやって悩むのも青春の仕事だ。俺は悩みたくないから流されるけどな」
自分で考える方向にシフトさせなければいけない。今までのアイデンティティを拭い去り、新しい自分になろうとしている。
「……………でも。弱い私が、昔の私が織斑一夏を一緒にいると今の私を刺激してくるの。こんな私に接してくれる、ヒーローが来たって勘違いしてしまう。」
別に勘違いしてしまっても良いと思うが?間違えてやり直せる年齢だし。
「ヒーローねぇ、言葉が使えると言うことは、その言葉のイメージを持っているって事だ。例えば、軟弱とかだったらカイ・シデンとかな。」
「…………それは貴方だけ。」
「まあ、ものの例えさ。それで、お前が持っているヒーローというものはなんだ?そしてなんでそれで弱い自分が呼び起こされるんだ?話はそれからだ。」
まずは、整理をさせる。それから、俺の面白違う、望む方向に思考を偏重させる。
「…………私のヒーローは、誰にでも救いの手を差し伸べるような人、だと思う。今はそれを必要としていない。…………いや、違う。」
「だろうな。お前は、問題だと思っていたのを。無理やり問題としてみていないだけだ。そんなことをやっていれば、心にがたが来る。」
結論を、俺の言葉で発する。
「…………そう、だね。」
よし、納得してくれたようだ。そんなことは非常にどうでも良いことなのだが、ちゃんと人の道に戻してやらないと。
「そうだ。…………それでさ、どんな所に惹かれたんだ?専業主夫としては最高の人材だろ?」
「うるさい。人がこうも悩んでいるのに、あざ笑うようにして。」
それが日課ですので。とはいえないので。
「そりゃ、こういう生き物ですので。」
といっておいた。それじゃ雑談でもしますかね。
「……………わかってはいたはずなんだけど。それに、今聞くけど。貴方はなにをしたの?」
「なにって?」
「一学期が始まった4月中の時。貴方が来てから劇的に私の周辺が変わった、悩みの種が一つ消えて、親との関係も良好になった。IS開発の目処が立った。
むしろそれだけなんだけど…………忙しい、と言うのを軽く超越するレベルで忙しい父が貴方が来てから私に接触してきたって言うこと自体がおかしいの。」
ああ、そうだ。簪と普通に話している理由か。これは、とりあえずむかついたから父親の所に乗り込んで、話してみたらめっちゃ良い人で意気投合したって感じだな。
ISの件は一葉に頼んでIS製作の最前線にぶち込んで成長させたってだけだ。
「いや、俺に言われても。」
「…………貴方はうそつきだからね。」
いやはや、それほどでも。
「褒めてない!」
「何にも言ってねえだろうが。」
表情読み取るの上手くなってね?
「ま、人の恋路は適度に邪魔するってのが俺の座右の銘だからさ。とりあえず応援しているよ」
「この前、ハーゲンダ○ツは少し溶けかかったほうが美味いのと同様に、人生も死に掛かった時の方が面白い。って言って無かった?」
「言ってたっけ?」
「ええ、言ってた」
「ハハッ。ま、一夏との関係は俺も応援している。安心して誘惑してこい。」
そういった瞬間、顔を真っ赤にしながら俺のところを叩く。いやはや、体術も習ってない奴のパンチは全然きかんなぁ。
「もう!もう!…………私のISが作られた時には覚えておけ」
とりあえず。模擬戦だけは受けないようにしておこう。
「うるせ。」
「ああ、話したら結構楽になった。ありがとう。」
勝手に楽になりやがった。けど良いか。
「それじゃ、後はお前で頑張ってくれ」
「血も涙も無いね。」
それから数回言葉を交わし簪は去っていった。ま、俺はどうでも良いけど恋路は気になるからな。
「応援はしてやるよ。応援は…………な。」
多分、物凄い笑顔だろう。まるで新しいおもちゃが出来たときの子供のように無邪気な笑顔だったであろう。だけど、子供はおもちゃを簡単に壊す。つまりはそういうことだ。いや特には何もしないのですが。