IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

112 / 167
こいつを出せたことが一番喜ばしい


闇 《キョジュウ の ウイジン》

そこは闇。

闇といっても、物理的な闇ではない。概念としての闇(つまりはダークファイガのようなもの)でもない。

そう、社会的な闇だ。この時代が生み出した、社会から反した化け物ども。

 

かくいう僕も、その中の一人になったんだがな。

僕は、ファントムタスクの構成員が一人。

 

「おい男、作戦会議中だ。聞いているのか。」

 

「えー、へいへい聞いていますよ。」

 

ファントムタスクの構成員『男』だ、コードネームが『男』だ。他は『スコール』だの『M』だのカッコいい名前をつけているにも関らず、僕は『男』だ。

今は、仕事の打ち合わせ中だ…………はぁ、やっぱり女だらけの職場はきついぜ。

 

僕の上司、『オータム(・・・・)』とかいったか。そのおっかない女が、こちらに目をつけてきた。

 

「別に、聞きたくなけりゃ。お前を先に行かせて無駄死にさせても良いんだぞ?」

 

「無駄死にしないようには頑張りますがね。」

 

僕の机を挟んで向かい側にいた『オータム』が脅しを掛けた。

いっぺん無駄死にしかけたが、気まぐれで拾われた命で行きつないでいる奴が何言ってやがる。

 

との言葉を飲み込んで、考え事をしぶしぶと言った感じに中断する。

 

「それで、この基地の襲撃の事に付いてだが…………Mと男に一任する」

 

うわぁい、さっきの意趣返しかい?

えっと、僕も新参者の部類だからそこまでは詳しくないのだが『M』が強過ぎと言うほどには強いことは分かっている。十回やって一回死ぬぐらいだ。

 

「はい、分かりました」

 

僕は、肯定の言葉を。そして『M』は首肯でそれを返した。…………多分、僕のファントムタスクとしての初陣だからな。いっぺんヤキを入れようということなのだろう。

 

「決行は二日後、ISの整備をしっかりして置け。」

 

ここでは、NOの二文字は存在しない、言った瞬間に消し炭にされるからだ。

 

「……………腐れサイボーグババアめ、今に見てろ。」

「あら?何か言ったかしら?」

 

前言撤回、NOではなく失言の二文字だ。現在進行形で消し炭になりそう。

 

「いいえ?何も。何もないので、その金色の何かをしまってくれませんかね!?」

 

ISを出してまで怒ることかい!?スコールの笑顔に殺気を見え隠れさせながら、展開した金色の腕から炎の弾を出している。

 

「スコールお姉さんは、綺麗でナチュナルな英国淑女もビックリの完璧人間です。はい、復唱」

「スコールお姉さんは、綺麗でナチュナルな英国淑女もビックリの完璧人間です。はい、復唱」

 

「おわっ!?あちゃちゃちゃちゃっ!ほわちゃ!あっちぃなコノヤローぉ!」

 

「なんでカンフーの掛け声みたいになってるんだよ」

 

結果はお察しだ。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

「特筆することも無かったので二日後へ」

 

「…………」

 

多分、その後で違う誰かと一緒になるのでろうが、暫定的な僕の相方『M』は寡黙だ。突っ込みも入れないし顔も見たことが無い。最も年がら年中ISのバイザーをつけているのではないかと思わせるぐらい、顔を見る機会が無いが。

 

「それで、僕への命令は?」

 

「…………先行、私はフォローだ。」

 

訳:お前を無駄死にさせて少しは陽動として役に立って来い。

なるほど、死にますね。まあ、僕の戦い方は、コイントスのようなものだ、二分の一で勝つ。

どこぞの魔人ですかって話ですよ。

 

「了解。作戦予定時刻に変更は?」

 

「なし。」

 

「把握。」

 

物凄い気まずいでござる。ま、それでもやるしかないんだけどね。世界のどこに逃げようとも自分の居場所は存在しないから、逃げても意味が無いことは分かりきっているからね

潜んでいた場所から姿を現し、作戦を遂行するとしよう。

 

僕が今纏っているのはイタリア製のIS《テンペスタ》だ。

ISのカラーリングは青、黒、白が混ざった迷彩柄で、特徴として、他のISとは頭一つ抜けた馬力と、手足のリーチの長さが挙げられ、その馬力から繰り出される長いリーチからの攻撃は、近接戦では一日の長を得られる機体といっても過言ではないだろう。

 

だが。そのようなコンセプトで作ったが挙句、他国家の軍事オタクどもから「お前の国家は基本戦術が重歩兵から変わってねえな」と揶揄される原因となったのだが、それは別の話。

 

「っと、じゃなかった。」

 

行かなければならないんだった、俺は観測地点ギリギリのところまで上昇する。

 

「ここら辺かな?」

 

真下に襲撃するべき基地がある。そこにある全てのISの奪取、それが僕に課せられた任務だ。

 

「じゃ。」

 

僕は僕を殺す。いや、もう死んでいるような物なのだが、それは触れないで欲しい。指を銃の形にして僕のこめかみに人差し指をつける。

 

「ばーん」

 

PICを解除して自由落下。スカイダイビングの感覚をじかに浴び、そして俺は、行動を開始した。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「…………なにをしている?」

 

Mはそう呟いた、行動が不可解なのだ。

襲撃するにしても陸路で十分だし、空路を使うにしても迎撃されるのに自由落下していく必要は無いはずだ、加えて落下していく前にやった謎の行動、それに何の意味があるのか。

 

ISのハイパーセンサーでその行動を見守る。

 

そして地面に激突仕掛けそうな瞬間。体を捻り四肢を余す所無く使って着地する。吐息が聞こえる、そして。

 

 

「GRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

獣の叫び声を最大限大きくしたような音。音で大気が振るえ、腹のそこから原始的な恐怖が鎌首をもたげて潜み上がる。

『M』と『男』の距離は離れ過ぎと言うほどに離れているが、それでもMの耳朶を叩き、耳を塞がせるには十分だった。

 

そして、一匹の人間だった獣が、風の如く侵略していく。

 

そしてISが出る。通常、相手が生身であれば、対応した人間を出してくるのだろうがISの襲撃そして、『人の形をしているが人とは思えない、謎の敵』と言う、人間が想定をしようもはずもない一つの概念をほんの少しだけ対応を遅らせた。

 

結果、進入を許してしまった。

 

彼、もっとも彼と形容できるのかどうかは分からないが『彼』としておこう。

 

彼の道の前に人の壁が出来る。だが、彼にとっては。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

獲物に過ぎない。

人は恐怖の表情を浮かべさせるが、相手も(軍事的な)基地にいる人間だ、一瞬でその表情が霧散し軍人の顔になる。

 

撃て!だの装填!だの喧々囂々の騒ぎだが、それを掻き消す獣の咆哮に否応無く注視させられる。そして、咆哮から転じて攻勢に移る。

 

車のような四足走行。だが説明するまでも無く、車輪などは付いていない。象の如く悠然に、しかして豹の如き速さで人の壁の距離を詰める。

 

 

切り取られた脚、ちぎれた腕、噛み千切られる頬。彼が起こした惨劇に枚挙にいとまがない。

 

 

彼と相対する敵も、彼が普通(・・)であればここまでの被害を出さなかっただろうが常識外の行動を取られたら如何しようも無いのだ。

 

そして、人の壁を突破する頃には、辺り一面鮮血があり、彼の口には血の色を少し薄めたような色。

 

いつの間にか死屍累々の有様であり、その風景に天国と言えるものではない。

 

機械も、人も何もかもが獣によって殺しつくされてしまった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

ああ、終わったか。よしよし。ISもかなり持ってきたし、篠ノ之束も『オータム』が誘拐してきたとかいったし、我がファントムタスクはこれで安泰だなぁ。

さて、そんなことは置いていて相方に戦果でも報告しましょうかね。

 

「もどったぞ。『M』戦果はどうだ?」

 

「…………」

 

「なんで一歩下がってるんですかね!?そんなに生臭い?」

 

確かに血の味とべったりと付いた返り血はあるけどそれだけじゃないか!

 

「いや、なんでもない」

 

「…………そうですか。じゃ、これ多分ISの待機状態ですね。国が抱えている研究機関とはいえ数が多過ぎやしませんかね?」

 

「たまたまだろう。」

 

へえへえ、そうですかい。

 

「作戦は終了ってことで。これにて帰らせていただきますよ~」

 

こうして俺の帰る場所に帰った。初陣だったが、結構動けたな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。