さて、前回色々な意味で佳境を向かえ、その続きが気になる人も居るだろうが、今はIS学園の学食に存在する織斑一夏のワンシーンをお見せしよう。
学園祭が終わって、そのほとぼりが冷めきった9月の時。学食の一つのデーブルには織斑一夏が座っている。だが。
「……………」
「「「「「……………ど、どうしたの?眉間に皺よって?」」」」」
織斑一夏が、とんでもないプレッシャーを放ちながら夕食に選んだ学食、Bセットの味噌汁を啜る。その姿になぜだか萎縮するような怒りが込められており、姉が姉なだけはあると思う。
見るものが見なくても、不機嫌だと言うことが分かる。
「…………食べ終えるまで、待ってくれ。」
やっと長い沈黙から解かれた言葉は、そこに居るメインヒロイン5人、具体的には、篠ノ之 箒、セシリア・オルコット、凰 鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの5人。それら全ての行動を止めるには十分過ぎた。
長い長い、王のような風格を漂わせる食事。見ようによっては貧相に見えるかもしれない織斑一夏が食べている日本食も、節制ではなく自制にも及ぶような、その男がこの空間を食べるだけで支配していた。
そして、持っていた箸を置き、手を合わせ口の中でご馳走様と呟く、思い出したかのように5人に向き直る。
すると、なぜだか先ほどとは違い、なきそうな顔になりながらこういった。
「康一が元気ないんだ…………」
「「「「「は!?」」」」」
悩みのようなものを織斑一夏から、打ち明けられたが呆けるしかなかった。それの詳細も聞かずにまくし立てるようにして情報を喋っていく。
「なぜだか、打ち上げの時には元気をだしていたような気がするんだが、その後は寮では物凄いダウナーなんだ、教室ではあまり喋らないし、俺としゃべるのは寮でだけなんだけど、全く口を閉ざしている。何か、心当たりは無いか?」
と、聞かれても、知らない物は知らない。だが、悩みを無下に扱うのも気が引ける。最初に、箒が口を開いた。
「私は、奴に何かしてもらったことはないが、面白がっている所は最近見ないな。」
「面白がる?」
「ああ、私も
「気が付かなかった・・・。誰か、他には居ないか?」
物凄く棘のある言い方だ、すでに彼女は相澤康一の真意を分かっているのかも知れない。
「わたくしは、やられたことはありますが、その一回だけですわね。連絡事項や学園祭では気さくに接してくれましたし。」
セシリアはそういった。
「鈴、何か無いか?」
「なんで私に聞くのよ。…………そうね、絡むときは。ああ、箒と同じよ。アタシと一夏が
ぶっきらぼうに、そういった。次にシャルロット・デュノアが口を開く。
「僕は、そうだね。やっぱり学園祭のときに接触して、それまでだったね。」
「そうか、ラウラは?」
頭を抱えながら、最後の綱だとラウラに聞く。
「私は、康一さんとは…………ああ、そうだ私用で話しかけたのは嫁の写真をくれないかと交渉した時、物凄い笑顔になっていたな。」
「「「「「いや、何時も相澤(君)(さん)は笑っているでしょう?」」」」」
総員から、ツッコミが来た。
「む?そうだったか?」
「ああ、その康一から笑顔が消えた。」
「「「「「なっ、ナンダッテー!?」」」」」
棒読みの驚愕と言う器用なことをしながらその話を聞いていく。
「わたくしが戦っているときには口角を吊り上げるといった感じでしたが、基本的に笑顔ですわね。」
「アレが笑顔を絶やすなんて、槍かビームでも降り注ぐのかしら?」
「にわかには信じられないけどね、相澤君もなにか悩みごとでもあるのかな?」
「(あいつのことだ、もしかしたら、本当はどうでもいいことで悩んでいるのでは?)」
「…………私も康一さんの琴線に触れるようなことはしたが、それでも少し真顔になっただけだったな。」
と、過去の自分がやってしまったことを懺悔するかのように、口々に思い出す。そこで、一夏が気が付いたように口を開く。
「お前ら、康一にどんな印象持っているの?」
箒が先にその答えを言った。
「気が付いたら近くに居るいけ好かない奴。」
次にセシリア
「わたくしの印象は、女尊男卑に染まった男。ですわね。…………まあ、そのようなものがあること事態がいけないのですが」
謎のフォローを言った。そしたら凰が。
「日本人の変態を象徴するような人間ね。」
それを聞いて思いついたようにデュノアが答える。
「私からみたら普通な人だね、普通に人と接して、普通に食べて、普通に行動するような。(普通に脅迫するような人間でもあったけど。)」
「私は、絶対に怒らない、怒らせてはいけない人…………その表現が一番しっくり来るな。」
最後にラウラが答えた。
「ここまで、印象が違うって逆に凄いな。」
「まあ、つかみどころの無い人ではありますわね。」
困ったように頬に手を当てて、そういった。そんな中、箒が結論を言った。
「直接聞くしかないだろう。それだけつかみどころの無い人間であればなおさらな。」
「…………そうだな。聞いてみるよ。」
一夏のその顔は晴れ晴れとしていた。
◆ ◆ ◆
「ああ、眠い。なんで神様は世界を48時間にしなかったんだ…………。」
マジで疲れた。本当に、勘弁してくれよ。もうさ、一夏の写真がたまりに溜まって、売りさばくのが面倒になってきたとか。
それ以外にも顧客は居るけど、IS学園の顧客の方が一番安全牌って奴だ、わざわざ離す理由は無い。
ガチャリといって、部屋のドアが開く。一夏か、簪か、生徒会長のどれかだと思うが、確認する。
「ただいま。」
「お帰り。」
一夏だった。因みにここに来る人間は少なくない、頻度が多いのは先の三人だけだと言うことだ。
一夏は、一回目はただいま、二回目以降は無言で開け閉めしてくる。
簪は、ゲーム返しに来たと言い。
生徒会長は、一夏君居る?だ。
その他ノックでここに来る。
「なあ、康一。へんなこと聞くけど、何か困ったことでもあるのか?」
「こまったこと?」
困ったことか、面白そうなことしかないけど。そうだな強いて上げるなら。
「歯医者行かなきゃならないからヤダ。」
「子供か!」
本当なのに・・・。
「それ以外か…………そうだな、恋の悩みかな。」
「マジで!?」
「ああ。(どうやってお前に)恋(させるか)に悩んでいるな。」
全く、朴念仁の相手も楽じゃないぜ。
「結構想像がつかないんだが…………。で?相手は誰だ?」
「は?目と鼻の先に居るわ。」
「学園内か、何年生なんだ?」
「結構グイグイ来るなぁ、一年に決まっているだろ?」
そもそも、こいつはなにに対して聞きたいんだ?
「で?どんな感じの子なんだ?」
つーか、嬉々として聞いて気ますね。ていうか、何かがずれている気がする。
「それ以上いけない。と言うか、なんだ?いきなり?」
「なんか、最近元気ないなって思ってな。」
「ああ、そうか。」
そうか、ま、色々と仕事が立て込んで来て、俺も忙しくなってきた所だ、睡眠時間を削られているからだろう。ま、寝るのは一日だけでいいし、学校を出てもいいことはなさそうだしね。
「まあ、恋の悩み云々は嘘だ。最近、疲れが取れなくなってきてな、まだジジイと呼ばれる年齢ではないと思うが。」
「ん?それじゃ、マッサージでもしてやるか?」
「マジで?」
オルコット嬢にやった時は気持ちよさそうだったし、体験してみるのも良いだろう。
「それなら、見せてもらおうか、織斑一夏のマッサージとやらを。」
と言いつつ、うつぶせになった。
「なぜに赤い彗星さんのような言い回しをしているんだ?」
「気分。」
「そうか、それじゃ始めるぞ。」
一夏が俺の腰に触る。
「硬っ!?」
「そんなに?」
「弾にマッサージしたときより数倍は硬い。気合入れていくぞ。」
まあ、色々あったからなぁ。……………つか、気持ち良いんだけど。
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ。あーそこそこ凝っているんだよねぇ全身。」
「ダメだ、こっちが疲れる。」
「ま、しょうがないよね。ありがとう。」
「どういたしまして。」
終わったか。
「ま、良いや。俺は寝るぞ。お休み。」
「おう。」
早く寝ないと…………。
多分疲れているのは、闇の足跡を探しているからだろう。VTシステム、どうやって出所の人間をつぶすことが出来るか・・・。
その方法を、俺は知らない。