そこはとある雑居ビルの地下レストラン。そこで女性が二人、机を挟んで対面している。
一人は、妖艶なドレスに身を包み、顔に映える金髪が印象に残る美人だった。
対して、その向かい側にいる女性は、頭にウサ耳、体に常人が着たらきつそうなメイド服、脚には実用性が皆無そうなブーツなど、印象に残り過ぎるほどに残る、美人だが町で通り掛かったら完全に目を合わせたくない人間だった。
そして、その二人は机に並べられている料理には一切手をつけず、言葉を交し合っている。
「それでぇ、君たちの束さんへの要求はなんなのかな?」
「私達ファントムタスクにISの技術提供をしていただくことです。」
らしい、ISを作れるのは世界に篠ノ之束、ただ一人。つまり、この人と、資源さえあれば世界征服も可能だ。それを手中に入れようとしているのだ。
「ヤダ。それにこのスープ睡眠薬入ってるし、それを加味しなくても私の技術を悪用しようとしている。と言うことは、人間に詳しくない私でも分かることだよワトソン君」
「スコールです。」
謎の人物が登場し、それをスコールと名乗った女が切り捨てた。
「で、ドゴールちゃん。君たちの目的は何なのかな?」
「スコールです。それにはお答えできません。」
「君は、人にものを頼むときは腹を割って話せといわれなかったのかい?」
篠ノ之束の主張と、ファントムタスクとしての主張がかみ合わない。それゆえに篠ノ之は、たたきつけるような論調で話を進めていく。
見るものがこの光景を見たら、篠ノ之束が会話を成立させていることに驚くだろう。
「……………本来は、このような手を使うということは予定に無かったのですが。」
半ば溜息をついたようにそういった、その表情を見て篠ノ之束は口角を常人には分からないほどに吊り上げた。
「そんな訳ないだろう。これ、舐めきってるよね?」
といって、懐から取り出した手紙を机の上に叩きつけさらに言葉を繋げる。
「クーちゃんの誘拐に、睡眠薬味のスープ、そして近くに居る一機のIS反応。これが敵対の意思が無いと言い切れるのかい?ドモホルンリ○クルちゃん」
あからさまに怒気を見せる。常人で有ればそれだけで泣き崩れてしまいそうなそれを受けてスコールは平然とした顔でその言葉を返す。
「いえ、そういうことであるのなら。十二分につれてきた意味はあると思います。それと、スコールです」
スコールは指を鳴らした。その音と一緒に、黒い服の人達が出てきて一人の少女を連れていた。
「私も舐められた物だね。」
「どうです?私達に協力していただけないでしょうか?」
口角を吊り上げながらそう言った。その顔には勝利を確信したような色が見える。
「はぁ、こんな言葉があるのを知っている?」
篠ノ之束は、呆れたように溜息を付いた。もはや呆れ過ぎて絶望しているようにも見えなくも無い。
「彼を知り、己を知れば百戦危うからず。」
「なにが言いたいのです?そして「彼」では「敵」では無いんですか」
「君の戦いはもう勝利すら危うい。」
そういった次の瞬間、黒服たちが爆発した。周囲に肉片が飛び散る。
「なっ!?緊急用につけておいた人間爆弾が誤作動した!?人質は!?」
さらっと下衆な行為を暴露しながら、人質の安否を確認する。
「はぁ、無能にも程があると思うけど?」
気が付いたら、束は人質を確保しながら、スコールたちにそういった。呆れてものも言えないように。
「M!迎撃して!」
そして、壁を突き破りISが登場する。そのISの名はサイレント・ゼフィルス、イギリスから強奪してきたISだ。それの砲門を開き、束の急所を外しながら射撃する。
「ま、種明かししちゃうと、束さんは細胞レベルでオーバースペックなんだよ。」
そのISの攻撃を特に目立った装置も付けずに、軽々と避け続けている。
「なぜ、生身で避けられる!?」
「そりゃ、技術者が自分の作った技術に足元すくわれたら、商売上がったりだからだよ。」
百人が百人とも問いそうな答えをわけの分からない論法で、問いを返していく。
「だから、ISを解体するのもこの束さんにとっては、ちょちょいのちょいってものだよ」
気が付くとISに肉薄し、両手の袖からマニュピレーターを伸ばす。そのマニュピレターの一本一本が、意思を持っているかのごとく縦横無尽に彼女のISの装甲を走りわたり、ISを解体していく。
「なっ!?」
顔が驚愕に染まるが、それを無視して彼女が被っているISのバイザーにも機械の手を伸ばしていく。瞬く間にバイザーが床に落ち、その素顔を見せる。
「ちーちゃん?」
そう、篠ノ之束は織斑千冬、相澤康一に言わせれば担任殿の名前を出した。
理由は簡単、目の前にある素顔は、織斑千冬そのままだったのだ。
「束様!!」
急に呼ばれた名前に、そのまま振り返る。そして。
「君は報告じゃ !?」
後ろから出現したISに後頭部をなぐられそのまま気絶した。
こうして、闇の部分は、ゆっくりと牙を向いていく。そして、そこには誰も居なくなった。