「それじゃ、特訓を始めるわよ。」
「うぃっす」
俺こと相澤康一は、今IS学園生徒会長こと更識楯無に教えを請うて(条件つき俺のほうから)最初の一声の通り特訓を始める所である。…………まあ、俺がまともにやってお眼鏡に適うような動きが出来る訳ないけどな。
「ISを展開して。」
「はい。……………カゲアカシ!」
俺はカゲアカシを呼び出した。いつ見ても地味な色合いだ、それでも透明化は出来るからそこまで地味でもない気はする。
「名前を呼ばないと呼び出せないの?」
「いや、それ以外でも出来ますが。ビックリするほど遅いですよ?」
「やって見なさい。」
俺は戻れと呟いた、実際に遅いんだけどなぁ…………。よし、確か自分がISを装着するという強いイメージを持って呼びだすはずだ。一夏とかだと長くて二秒三秒辺りだけど俺は。
体の回りが発光し始める、ここで10秒。次に、手足からISが展開し完成するのが30秒。そして、やっと出したISが体に装着されるまで20秒。一分程度余裕でかかっている。
「出している途中に三回ほど死ぬレベルね。」
「でしょう?」
もう何回も練習しているが、全く動かない。
「部分展開と武器の呼び出しだけならまだ良いんですけどね。」
「そんな馬鹿な話があるわけないでしょう?」
「ほら」
俺は右手の装甲をしまって出した。
「…………微妙な特技ね。ラピットスイッチほどは早くないけど。」
「一つずつだったら結構早いんですけどね」
そして、大きなため息を付きながら楯無はこういった。
「とりあえず、戦ってみましょうか」
「本当ですか?…………なんでです?」
「相澤君の戦い方が分からないからよ。戦い方が分からなければ、どう教えても分からないからね。」
またかよ、俺の戦わない主義によって出来た実害か…………まさかここまで出てくるとは。俺は心の中で溜息を付きながら、再びISを展開した。
「カゲアカシ」
俺のほうは名前を呼んでの装着、だが生徒会長は名前を呼ばないにもかかわらず俺の装着より早いISの装着だった。装着したISは水色を基調にした、装甲が俺のカゲアカシのような一歩間違えば全身装甲となるようなISに比べるとほとんどなく、胸や腰、頭など体の重要な部分にしか物理装甲が届いていない。まあ、正直ISにはバリヤーがあるからそこまで装甲がいらないのを分かる気がするが。
特徴といえば左右に浮いている結晶状の物体、そこから水のようなものを分泌して、自身の身に纏っている。武器は右手に持っている槍…………いやこの場合はランス、それに腰につけている剣だろう。
「行くわよ。」
その目に野生の闘志が見えた気がした。
◆ ◆ ◆
……………さて、始まったわ。この子はどれほどまでやるのかしら?
「オオッ!!」
まずはISでの打撃ね。…………体術は点でダメ、重心の移動、姿勢、殴り方、連携の仕方。言うなれば体術というよりは素手ごろの喧嘩ね。少々やっているような感じではあるけど、私ほどではないわ。
一度、生身で戦ったという情報を得たけど…………ガセネタをつかまされたかしら?
その殴って来る勢いを使って投げる。
「それでは届かないわ」
なんで、武器を使わないのか理解に苦しむわね。距離をとって、試してみるかしら?
「っち、ペトゥル!」
手に呼び出しているのは恐らく形状からしてビットね、それにビーム兵装のおまけ付き。なるほど、そんなものを渡されておいそれと使える訳がないわね。
代表候補生が血みどろになって練習している物を渡されて素人がホイホイと使えたら面目が丸つぶれですもの。
なるほど、ビットを自分の腕の周りに置いて、そのまま発射か。そうすればそこまで動かさなくても手に追従、発射のプロセスでそれなりの攻撃能力が期待できるわ。なるほど、とっさの機転は光るものがあるわね。けど。
「そんな物じゃ、アクアヴェールは敗れないわ!!」
「クソッ効かないんかい!?」
動揺を表に出してしまう詰めの甘さが出ているわね。今度はこっちから行こうかしら?
「格闘攻撃はこうやるのよ!!」
イグニッションブーストからの、超振動するナノマシンが入った水を纏うランス、蒼流旋を一撃二撃。
…………なんと言うか回避は一流ね、いじめられると言うのはそこまで回避能力を上げるのかしら?
「クソダラァ!!」
彼が手の周りに顕現させていたペトゥルという武器を、一つ残して回収し。その一つを持った、そこから、ビーム状の物が伸びて刀剣の形を作った。
「面白い武器ね!」
ランスとサーベルが一合二合打ち合わせていく、ランスを避け、その隙にサーベルの一撃を与えようとする。
まるでヤンキーが鉄パイプを持って暴れているようなワンパターンの剣筋に少し呆れてしまうわね。
完全に一般市民としか言いようがない……………けど解せないわね、それならなぜイタリアの国家代表を倒せたのかしら?となると、とんでもない隠し玉を出す機会をうかがっている?
「だぁ!!」
もう片方の手に刀剣状態のビットを呼び出させながら、攻撃。…………極限にまで普通の行動ね、もう一捻り欲しい所ね。もう少しギリギリまで削るか。
「その程度かしら?」
「オオオオッ!!」
しかし、まあ、本当に子供の遊びみたいね。右に振り切ったら左から切る、とりあえず、振り切ったらその逆としか考えていない。一夏君は剣術の覚えが多少あったからまだいいけど矯正するには結構掛かりそうね。
「…が…えた」
「どうしたのかしら?」
「色が見えたぞ!油断している色が!!」
右に振り切っていたのだが、そこから肩から体当たりしてきた…………これが切り札?そんなわけは…………っ!?
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「んな!?」
左から来る極太のビームサーベルの熱量。……………無事じゃいられないわね。
目をしかめる程度の光がやってきた。
「…………やったか!?」
纏っていた水が蒸発し、あたりは霞がかっている。
「それ、フラグよ?」
「!?」
「ねえ、少し湿気っぽくない?」
「なにが」
「これで終わりよ
指を鳴らした、あたりに爆音が響く。…………終わりね。水に含まれているナノマシンを発熱させて水蒸気爆発を起こさせる、あの距離でやったらまず無理ね。
「…………おぇ、降参」
◆ ◆ ◆
…………ほらな?俺は基本的に劣っているんだよ。まあ、手段を選ばなければこの程度だ。落し所としてはこれでいいだろう。
「はぁ…………辛い。」
「基礎的な戦闘能力を底上げするしかないわね。一夏君のようなピーキーな機体じゃないみたいだから。」
「バカ言え…………失礼、ファン○ルしかないような機体で、ピーキーじゃないってどうと言えますか?」
「ここではビットといいなさい、フ○ンネルはまた別物よ。」
俺は今から、力の無い一般人を装わなければならない。たとえ、エネと言うチートコードを持っていようとそれをおくびにも出してはならない。
『人をチートコード呼ばわりするとは君も偉くなったものじゃないか?』
俺は何にも聞こえねえ。さて、とりあえずそれは置いとき。
「で?どうするんですか?特訓とやらは?」
「基礎的な戦闘技術の向上よ。その機体は使用者の腕で強さが左右される類ではないし、何よりBT兵器とオールレンジ攻撃が出来るという特殊性を兼ね備えながら、汎用性も出来上がっちゃってる。
だから、君の戦いからしてある程度の機体の能力は引き出しきっているから、伸びしろは自身の戦闘技術だけね」
「なるほど」
いや、ただ
「…………それじゃ、今日はここまでにしましょうか。」
「へえ、もう少ししごかれるものだと思ってましたけど?」
「貴方の目が濁り切っているからよ、そんなんじゃコーチするにしても実にならないわ。」
それはご最もで…………。それでは、お目当てのものに手を出し始めますか。
彼がまともに戦ったらこんなものですよ。