転生 思考 発見
そこは真っ白い何もない空間
ただ、空間と認識できるだけの空間だ。
そこに一人の女が居た、彼女はふらふらになりながらも虚空に向かって指や足を動かしている。
そこに人が居れば、その滑稽な姿を見て笑い飛ばす人も居るだろうが、彼女の執念とも呼べる行動を見れば多くの人が口を閉ざすだろう。
そんな彼女が口を開いた。
「ふ・・・ふふふっ、もうすぐ・・・わたしの”世界”が作られる・・・」
おもむろに手を上げ、やはり虚空に指を置いた。
その時、いきなり彼女の目が見開かれ口を震わせ、叫んだ。
「やっちまった!!」
急に彼女が慌てだし、右往左往に動く。
「はぁ・・・法に触れるしなぁ・・・。物書きの宿命だからなぁ」
困り果てた表情をした彼女だが何か、決心したような表情をして言った。
「じゃあ、仕事してきますか。」
彼女は虚空に手を伸ばしその手をスライドさせる。
その時、扉が開かれたかのように一条の光が差し込みそこに彼女は吸い込まれていった。
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・・・眩しい。
いや、なにここ?俺は・・・人間観察をしていたはず・・・。
寝てたらここに?・・・んなわけない。目の前に広がってるのは足元が白色それ以外は全部青色の世界だ、ここがウユニ塩湖ならまだしも、そんなところに行く余裕もないし俺なんかをそんなところに連れて行く理由がない。・・・なら何のために?
「知りたい?」
急に声が聞こえ後ろを向いた、そこには美女・・・いや絶世の美女と形容できる女性が居た。
・・・え?何を?
「君がここに来た理由だよ?」
「俺まだ何も喋っていないが?」
・・・まさかな。
「・・・ここまで来たら分かるんじゃないかなぁ、私が心を読む力があるってことを」
「予測は出来たがな・・・じゃあ、早く本題に入ってくれないか?」
まどろっこしいのは嫌いだそれに腹の中一方的に探られるのは性に合わないからな。
「・・・はいはい、実は私が間違えて君のいた”世界”から君を乖離させちゃったからなんだ。」
「乖離?消滅とか、死んだとかならまだ分かるが・・・。」
なぜ乖離と称した・・・。
「あぁ、君から見たら死んだで間違いはないよぉ・・・言い方が悪かったね、間違えて君を殺してしまったんだ。」
・・・乖離、俺から見たら?世界?何だ?何かが引っかかる・・・。
「そうか・・・で俺はなんでこんなところに呼び出されたんだ?・・・俺を乖離させたと言うならそのままにしておけばいいだろう、呼び出す意図が分からん。」
「それは、私の”世界”にも法律って言うものがあるんだよ、具体的には。『君を私が殺してもいいけど別の”世界”に飛ばすこと』って感じだね、まあ早い話が転生させろってことだよ。」
「はっ神様気取りか?・・・まあ俺には、本物か偽者かどうかは確かめるすべもないがな・・・。」
「正確には神様じゃあないんだけど、似たようなものかな・・・。」
「そうか、ここでのたれ死ぬ選択肢はないのか、じゃあ早く決めてくれ。」
「何を?」
「なぁにをすっとぼけたように・・・お前の言う転生?・・・だったかその行き先だよ、別の、と称するからには俺の居た”世界”に似た”世界”が複数存在しているんだろう・・・いや存在じゃあないな。恐らく正確に言うと
「!?・・・よくそんなことが読み取れたねぇ。」
初めてこちらが相手方の感情を揺らした。
「半分ぐらいは妄想だけどな。」
「それじゃあ、早めに決めるよ~あ、正解とは言わないよ?逮捕されちゃうからじゃあ転生先は?ちなみに、小説の世界でも全然オッケーだよ!」
「適当で。」
「・・・えっと、転生するときに能力がつくんだけど「適当で。」・・・」
「転生先の世界でなにか「適当で。」・・・」
何を言いたいんだ?ったくめんどくさいな。
「・・・いいの?自分の世界で好き勝手できるんだよ?」
・・・めんどくさいなぁ、人の心は読めるのに嗜好も分からないのか?
「いいんだよ、俺はそこまでされるほどいい人生送ってきたわけじゃあない、それに俺は俺の手で平穏を掴み取る今までもやってきたことさ。」
叶う事なら当たり前の人生が欲しい、必死に働いて日銭を稼いで、子供として大人として親として生き、そして死んで行きたい。
だが、それを人の手で与えられるのはいやだ、自分の手で掴み取る。まあ能力の想像ができないのが大きな理由なんだけどね。
「ふっ・・・ふふふっ・・・あはははははははははははっ。」
急に彼女が笑い出した、俺は、なんだ?と首を傾げるしかなく数十秒ほど笑っていた彼女の笑が納まるまでその状態が続き終わった後に真剣な目つきで俺を見た。
「いい?君の居たところとは全然違う全く別の世界になる、君の常識は通用しない・・・多少はするかもしてないけど・・・それでもいいんだね?」
「いい、それでも。・・・まあ死にに行くわけじゃないさ、昔も今も”今度”も。」
絶対に生きる誰よりも何よりも。それが俺の信条だ。
「ならいいや。」
表情を崩し俺に向き合い言葉を続けた。
「じゃあ、君はせっかちさんのようだから早めに”世界”に送るね。あ、適当に能力は付けとくよ。」
といいながら、俺の首を掴む。
「え?いやなんで?ここで殺されるパターン・・・っか!?」
細い指が俺の首に食い込む、少し苦しい、いや少しどころではないぐらいに苦しい。
「全然違う、君をこうして・・・。」
と、俺を首から持ち上げ振りかぶりそして床に叩きつけた。
「何で!?・・・え?」
受身でも取ろうかと思っていたのだがいつまで経っても衝撃が来ないのだ、あるのは背中に当たる風のみ。
そこで、俺は恐る恐るうつぶせになってみた・・・。
「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
そこには航空写真のような光景が広がりそれを確認した後、意識が飛びそして俺は転生した。
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「あー、仕事終わり!!」
彼女が大声を出して宣言した。
「しかも、いいものも見れたし大収穫だよ、私は好きだったし・・・さて彼はこの物語にどんな傷跡を残すのかな。」
彼女は手を虚空に伸ばし、スライドさせるように動かし・・・。
満足げに笑いながら”世界”からその身を消した。
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これは、記憶の始まりの話。