第1話 天翔ける神槍との戦い
「ちょっと! ヴァン、起きなさいよ! もう授業終わったわよ!?」
「ヴァン君ぐっすりだね……」
「にゃはは……ほんとにね」
「──……んあ?」
身体を揺さぶられている感じがして、ヴァンは目を覚ます。
まだ少し眠気が残っている中、重たい瞼を何とか開き周りを見た。
窓から入ってくる光で教室は茜色に染まり、他には誰もいなかった。──ヴァンと、彼女ら3人を除いて。
「まったく、なんでいつも寝てるのかしら? 一昨年初めて会った時はそうでもなかったわよね?」
「仕方ないだろ……授業が退屈で仕方ないんだから」
「何であんたはそれで学年1位を取れるのよ!?」
「そうだな……ノリと勢い?」
「それで取れたら誰も苦労しないと思うの」
そう彼女、高町なのはに突っ込まれながら、ヴァンは帰る準備を始める。
しかし、あながちヴァンの言っていることは嘘ではなかった。元々ヴァンの頭の中には高校生までの知識が入っている。それに加えてずっと高校の勉強や大学の勉強も続けているため、小学生くらいの問題は簡単に解ける。
まぁ、言ってしまえばズルなんだけど、と心の中で少しばかりの罪悪感を感じていると、一連の様子を苦笑しながら見ていたもう一人の女の子、月村すずかが不思議そうな顔でヴァンを見ていた。なんとなく気になったヴァンが彼女に声をかけると「うん、あのね……」と両手を身体の前で組みながら、
「最近疲れた表情してる時があるから、どうしたのかなって」
「あ、それは私も思ったの。なんだか目の下にクマも出来てるみたいだし……」
すずかの言葉に思わずドキッとする。何もしなくてもバレないと思ったが、すずかはそういうところに目ざとかった。
確かに最近は
「どうせ夜ふかしでもしてたんでしょ? ほら、さっさと帰るわよ」
アリサはそう言うと、鞄を背負って教室の扉まで歩いて行ってしまう。
が、扉に手をかけた状態で振り返り、チラチラとこちらを見ていた。
「ちなみに、俺も一緒に帰ってもいいのか?」
「ほ、ほら。私となのはとすずかは塾に行かないといけないけど……あんたは途中まで一緒でしょ。だから帰ってあげるわ」
「ヴァン君。アリサちゃんね、ヴァン君が起きるの待っててくれたんだよ?」
「ちょっ、すずか──」
「あとニコニコーッてしながらヴァン君の寝顔を見てたよね?」
「な、なのはまで……」
顔を真っ赤にしてあたふたと慌てているアリサは何とも言えない可愛さを纏っていた。
ロリコンじゃないぞ。だけど可愛いものは可愛いよなぁ……ヴァンはそんな事を考えつつ、ちらりと他の二人を見ると、どうやら同じだったようで二人ともニッコリしている。
とりあえずヴァンは鞄を背負い、アリサに近づく。
「なんにしても待っててくれてサンキューな」
「べ、別に、いいけど……」
「顔真っ赤にしちゃって……まったく、アリサは可愛いなぁ」
「いきなり可愛いとか言うなッ!?」
ヴァンがそう言うと、アリサは真っ赤だった顔をさらに赤くした。紅茶とクッキーを頂いてからよく遊ぶようになったが、成長しても褒められ慣れていないのは相変わらずだな、とヴァンは苦笑する。
こういう反応も可愛いなぁ……父性的でだぞ? 誰に言い訳するでもなく、心の中でそう呟きつつ教室を出た。
「……ヴァン君のあれって、ワザとなのかな?」
「分かんない……でも聞くっていうのもどうかと思うの……」
「どうしたんだ2人とも? 遅くならないうちに行こうぜ」
「「はーい」」
今まで友達というものを知らなかったヴァンは、男女のスキンシップの線引きが出来なかった。しかし恋愛事情にはとことん疎いくせに、時折こうして女の子を褒める事がある。
彼が男女の機微というものを理解するには……もう少し掛かるだろう。
それを直感的に理解しているなのはとすずかは、苦笑いを浮かべるのだった。
※※※
そんなこんなで帰り道。
なのは達とは途中で別れ、ヴァンは商店街を抜けてそのまま家を目指す。
そして周りに誰もいないことを確認すると、相棒たちに話しかけた。
「やっと今日の学校が終わったな……疲れがとれたよ」
『ちゃんと授業は受けないと駄目だよ、ヴァン?』
『坊やも悪い子ねー……』
『拙者にはよく分からぬが、良くない事だというのは理解できる』
『あれだろ? 授業態度ってぇ奴に響くんじゃねぇか?』
『まったく……オレたちを使うのならば、それ相応の人物になってもらわないと困るというのに』
『お前がいいのなら、文句は言わないがな』
彼らの言葉に思わず項垂れる。もしかしたら同調してくれるかと思ったが、思いのほか厳しかった。ヴァンは気を取り直して話を再開する。
「ま、まぁいいのいいの。というより家で勉強してるんだからいいだろ?」
『そういう事を言ってるんじゃないんだ。まったく、ヴァンはいつもそうなんだから……。いいかい? 学校というものは──』
どうやらモデルXの琴線に触れてしまったらしい。こうなってしまっては満足するまで終わりそうにないので、ヴァンは仕方なく話を聞く姿勢だけ取った。あくまで姿勢だけというのがキモである。
そんな相棒の説教を右から左に聞き流しつつ、暗くなってきたアスファルトの道を歩いていく。空が藍色に染まっていくのを見上げながらヴァンはあの時の出来事を思い出していた。
──あれからもう2年か、早いもんだな……。
思い浮かぶのは傷だらけになった両親。そして呆然と佇む自分の姿。
あの後ヴァンは、モデルXの能力である合体変身──ダブル・ロック・オンによって危機を脱することが出来た。
その力を使って敵を退け、両親を連れ出し急いで外を目指したのだ。
ヴァンは途中で見つけた
そして騒然としていた玄関前に待機していた局員に両親を預けると、ヴァンは意識を失いそのまま病院に搬送され、意識を取り戻したのはその日から三日後の事だ。
目を覚ましたヴァンが最初に確認したのは両親について。
それを聞いた時、治療を行っていた医師が思わず顔を歪ませたのを、ヴァンは見逃さなかった。──あの時の自分は、本当にやばかったなぁ。当時の事を思い出し、苦笑が漏れる。
勝手に両親が死んだと勘違いした自分は本当にアホだった、とヴァンは独りごちる。しかしそれも仕方ない事かもしれない。目の前で両親が殺されかけるというあの状況の後で、容態を聞いたら俯き出す医師。そりゃ勘違いもするわ! というのはヴァンの談である。
意識はまだ戻っていないものの実際には命に別状はなく、怪我の方も数ヶ月の間入院してゆっくり休養を取れば治る程度だった。そしてリンカーコアの件だが、検査の結果、幸いにも再生を始めているので問題なく復帰は可能らしい。が、完全な再生には時間が掛かるようで、数年近く必要だという。
泣き喚いていたヴァンはそれを聞いた後、毛布に包まりしばらくの間出てこなかったのは完全な余談だ。
一応の診察を終えたヴァンは、あの後の顛末を聞いた。
事件を起こしたアルベルト・シグマールは、ロストロギアを使って大規模な災害を起こそうとしている事で次元犯罪者として指定。
幸い今回の事件での被害はそれほど大きくなく、死者は一人も出なかった。
一番の被害はジルウェ達の研究データでほとんどのデータを破壊されていたらしい。
そんな話をいくらか終えた時、ヴァンの病室にトランクケースを手に持ったリンディが入ってきた。どうして彼女がここに? そう首を傾げるヴァンに、リンディは「詳しい情報を聞くためよ」と返し、いくつかの質問をしてきた。
とは言ったものの、話せる事は特にない。ヴァンは偶然あの場に居合せただけで、どうしてアルベルトが暴走したなどは分かっていないのだ。が、アルベルトが少し気になる事を言っていたのを思い出した。それはアルベルトが去り際に放った言葉。
『後は私の野望を達成させるため、各世界に散らばったモデルVを集めるだけだ』
なんとなく、それが手がかりになるのではないかと思ったヴァンは、それを教えると、彼女は考え込むように顔を伏せ、すくっと立ち上がった。そしてすぐ戻ってくるとだけ告げて、病室から出て行ってしまった。その速さに思わずキョトンと目を丸くするヴァンだったが、もっと驚いたのは本当にすぐ戻ってきたことだ。多分、三分かかってない。
戻ってきた彼女は「ごめんなさいねぇ」と一言謝った後、「あの姿について聞きたい」と言ってきた。
一瞬、何のことかと頭を悩ましかけたがすぐに何の事だか分かった。彼女はモデルX達の力を借りて変身した姿の事を言っているのだ。なぜ知っているのかと聞くと、ヴァンは気がついていなかったが、実は両親を医者に預けた時、リンディはその場所にいたという。
しかしこれについても何とも言えない。必死に両親を護ろうとしたら、突然何かに話しかけられ身体が輝き、結果的にああなっただけなのだから。そう話すと、リンディはまたもや考え込むように顔を伏せた。またか? とヴァンがリンディを半眼で見かけた時、
「ヴァン君、話しかけられたってこれに?」
「え、ああ、はい。そうですけど……」
最初に持ってきたトランクケースを開け、そう聞いてきた。中に入っていたのはヴァンに力を貸してくれた、青と紅の金属。他にも緑や橙と様々な色の金属が入っている。確か、名前を……ライブメタルと言っただろうか? リンディに確認すると、彼女は重々しく頷いた。
「これはジルウェさん──あなたのお父さんが発掘したロストロギアでね。その内の一つを、アルベルトが持っていったのよ」
ライブメタルについては何一つ分かっていないから、それぞれの名称は判っていないのだけれど。リンディはそう言って溜息を吐く。
それを聞いてヴァンは不思議に思った。ならば直接ライブメタルに聞けばいいのではないか?
そう言うヴァンに対して、リンディは苦笑混じりにその答えを話した。
「ヴァン君……実を言うと、ライブメタル達が喋った、なんて事は一度もなかったの」
そんな事はない、自分は話したのだから。思わずトランクケースに入っているライブメタルを見ると、呼応するように煌めいた。同時にケースから浮かび上がりヴァンの周囲を回りだす。
そしてその中の一つ、ライブメタル・モデルXがヴァンに話しかけてきた。
『ヴァン、怪我のほうは大丈夫かい?』
「ああ、特には。元々治りは早い方なんだ」
念話と同じように頭の中に語りかけてくるモデルX。しかし、会話の時に魔力を感じることはない。一体どうやって話しているのかと思考が飛びかけた時、真剣な表情で考え込んでいるリンディが視界に入り、思わずそちらを見た。
彼女はじっと浮かんでいるライブメタルを見つめ、ブツブツと何かを呟いていた。
「……特定の人物にだけ使用できるユニゾンデバイスのようなものかしら? それならヴァン君が使える理由はまだ分かるとしても、アルベルトの方は──」
「あのー、リンディさん?」
「ヴァン君、ライブメタルたちに自身について聞いてみてくれないかしら?」
「あ、はい……」
有無を言わせず告げられ、ヴァンは肩を落としつつライブメタルに様々な事を質問していった。
君たちは何者なのか、あの変身はなんだったのか。矢継ぎ早に聞くヴァンに、モデルXは一つ一つ丁寧に答えていく。
いわくライブメタルは適合者だけが使える。
いわくライブメタルは発掘された世界の、ある科学者がモデルV──アルベルトが持っていったライブメタルだ──の研究データと過去の英雄たちのデータを基に作ったもの。
いわくライブメタルと話す事が出来るのは適合者だけである、などなど。
それらの情報を、ヴァンを経由して聞いたリンディは最後に「ヴァン君とアルベルト以外にライブメタルを使える者はいないか」と聞いた。その問いに、モデルXは
言ったとおり、ライブメタルは適合者にしか使えない。しかしこれから他の適合者が現れないとも限らない。だから現状はモデルXの適合者である、ヴァンが所有していたほうがいいだろう。ライブメタルたちはそう話した。
ライブメタルたちの言葉に頷いたリンディは、すぐさまどこかに連絡を取った。そして時間もかからず終えると、ヴァンに笑顔で向き直る。
「ヴァン君、そのライブメタルたち、君のものになったからよろしくね?」
「はぁ……はい!?」
ライブメタルって重要なものなんじゃないんだっけ……? 思わず聞き返すが、彼女は笑顔のまま「上が決めたことだからー」と詳しい話をしてくれない。
……何か裏ワザでも使ったのだろう。ヴァンは深く考えず、そう納得することにした。そうでもしなければ後が怖そうだ、と感じながら。
そんな訳でヴァンのものになったライブメタルたち。
ヴァンは今日までの二年間で、彼らのチカラに振り回されないように特訓を続けてきた。
時にはクロノにも協力してもらい、特訓相手にもなってもらった。
まだ自分でも納得のいけるレベルまで行っていないが、せめて自分の手が届く範囲の人達は守れるようになろう。
ヴァンはこの世界で生きる選択肢をくれた“彼”にもそう誓いながら、今日も生きている。
『──という事なんだから。聞いているかい、ヴァン?』
「ん? ああ、えっ、と……うん! 聞いてる聞いてる!」
『聞いてないよね!?』
※※※
「……ふう」
濡れた髪をタオルで拭きながら、ベッドの上に座る。
今日の分の勉強は終わったし、魔法の特訓もやった。最近の一番の成果といえば、飛行の魔法を取得することが出来たことだろうか。
リンディ達に頼んで専用の訓練をやらせてもらい、試験は一発合格。
思い出したくないほど特訓したのだから、もし合格できていなかったら俺は1週間はへこんでた自信がある、といささか格好悪い事を考えていた。
ちなみにそれの過程で嘱託魔導師の試験にも合格している。
「今日、他になんかあったっけ?」
『いや、特にないね。後は寝るだけさ』
『明日に向けてしっかりと身体を休めておくんだな』
「了解。お休み、モデルX、モデルZ」
起きていた2人にそう声をかけ、電気を消す。他のライブメタル達は既に寝ているのか声は聞こえなかった。
機械なのに寝るってなんか変だな、と感じるが、それは自分もか、と思い直したところで軽くあくびが漏れる。どうやら疲れは完全には取れてないらしい。
少し早いが、さて寝ようかとベッドの上に寝転がった時、ヴァンはふと机の上で携帯が光っている事に気づいた。
とりあえずバインドを上手く使ってこちらに手繰り寄せてそれを開く。メールの送り主は、なのはだった。
「なになに……『実は今日、フェレットを拾いました! うちで預かることになったのですが、怪我をしていたので病院に預けています。明日一緒に迎えに行きませんか? なのは』……なるほど」
フェレットを拾うとは珍しい。飼い主から逃げ出したとかそんなところだろうか? まさか野生のフェレットがこのあたりで生息しているとは思えないし……。
ヴァンは笑顔でそのフェレットを撫で回しているなのは達の姿を想像しながら軽く伸びをする。
明日は特に用はないし、ぜひ連れて行ってもらおう。可愛い生物なら大歓迎だ。
そんなことを考えつつ、なのはに返事のメールを打とうとした時──。
『────!』
「……ん?」
『ヴァン? どうしたんだい?』
「いや、なんか念話っぽい声が……」
突然頭の中で鳴り響く、謎の声。
遠いところにいるのかその念話はノイズのように掠れていた。
ヴァンは何を言っているのか聞き逃さないように、神経を研ぎ澄ませる。
『────えますか? 僕の声が聞こえますか? 聞いてください、僕の声が聞こえるあなた。お願いです、僕に力を貸してください!』
「……こいつは穏やかじゃないな」
『ボク達には念話が聞こえていないからよく分からないけど──もしかして緊急事態かい?』
「ああ。声の主は大分切羽詰った状況らしい。とにかく急いで向かおう」
ヴァンはどうして魔導師がこの地球にいるのか不思議に思いながら服を着替える。そしてライブメタル達を懐にしまい、玄関から外に出た。
その時、周りから少し色彩が抜けていく。
「──結界か。襲われてるとかそんな感じか?」
ヴァンは足に魔力を込めて、空を飛ぶ。結構な高さまで飛んだあと、軽く周りを見渡し聞こえなくなった声の主の居場所を探した。
と、ヴァンの数百メートルほど前のところで、巨大な魔力の柱が見えた。その魔力の大きさに思わず呆然と立ち尽くす。
あそこまでの魔力を持った人物が助けを求める必要なんてあるのだろうか……?
とはいえ、仮にも管理局員として、助けを求められて助けない訳にはいかない。
その場から一気に加速すればさほど時間もかからず到着するだろう。そう考え、ヴァンは空を駆けようと足に魔力を込め──背後から現れた影に行動を中断される。
咄嗟に身体を捻り初手は回避したものの、次の一手までは避けきれなかった。
自分の喉元を狙う、謎の槍。ヴァンはそれを見ながら、ポケットに手を入れ──。
バチィ!
電気が放たれたような音が、海鳴の空に鳴り響く。
後方に飛んだヴァンの身体に傷はない。しかし迎撃しようと取り出した、魔力刃のついたデバイスを持つ手には、小さな火傷の跡があった。ヴァンは空中で体勢を整えつつ、攻撃の主を睨みつける。
そこには白銀の天馬を模した、敵の姿。機械的な翼、足についた鋼鉄の蹄、そしてゆらゆらと揺れる金色のたてがみ。それだけならばただの羽のついた馬だが──それは人型を持っていた。
砲台のように穴の空いた両腕からは雷がちりちりと光を放ち、赤く煌く瞳からは見下したような視線をこちらに向けている。
その全貌を見た瞬間、ヴァンは驚きの声を上げた。
「レプリロイド……! どうしてこんなところに!?」
「フン、何故それを貴様のようなムシケラに話さねばならない?」
レプリロイドはさも不満げに口元を歪めて、目の前にいる“ムシケラ”を睨みつける。
その眼に映るのは、理解できないという不快感だった。
「どうしてアルベルト様はこんな奴の相手をしろなどと命じたのか……我が主の御考えは全くもって想像できない」
やれやれと肩を竦めるレプリロイド。ヴァンは敵の一挙一足を見逃さないよう、眼を逸らさずに睨み続ける。
その視線が気に食わなかったのか、レプリロイドは不愉快だ、とでも言うように腕の砲台をヴァンに向け──攻撃を放つ。
煌々と輝くそれは、雷を纏った菱形の槍。ヴァンはそれを避けつつ、
相手の攻撃に照らされ映し出されたのは、二つのライブメタル。
ヴァンは両手に持ったそれに魔力を込めながら、前に突き出した。
片方の手に持った青いライブメタルが、ヴァンの願いに呼応し、青空のように透き通った色で輝きだし──
もう片方の手に持った赤いライブメタルが、ヴァンの意志に共鳴し、夕日のように眩い色で煌めきだす!
「ダブル・ロック・オン!」
『『適合者確認。R.O.C.K.システム、起動開始!』』
その瞬間、ヴァンは2つの光に包み込まれた。
しかしそれも一瞬。光が払われると、ヴァンの姿はまるで変わっていた。
額から後頭部まで続く、翡翠色のクリスタルがついたヘルメット。
そして全身に纏った赤と白を基調とした鎧。
本来であるならば変身できないはずのモデルZの力を、モデルXの能力である“
変身したことで現れた金色の髪をたなびかせ、ヴァンは右手に武器、ZXセイバーを出現させる。それは灰色の柄と白色の鍔だけという、何とも締まらないもの。しかしそれに魔力を込めた瞬間、半透明の刃が現れた。それでいて存在感溢れる翡翠色の刀身は、全てを斬り裂けるのではないかと思えるほど鋭い。
ヴァンは見る者がぞっとするほど冷たい瞳で白銀のレプリロイドを射抜きながら、その切っ先を向ける。
しかし向けられた張本人はまるで歯牙にもかけず、ただ不敵に笑うだけだった。
「まぁいい。貴様のような醜いムシケラは地べたに這いつくばってこそ映えるというモノ……美しいワタクシの前にひれ伏すのがいい! このペガソルタ・エクレールの雷で奈落の底へと落ちたまえ!」
宣言するように高らかに声を張り上げたペガソルタは両腕を左右に払う。すると砲台と思っていた武器から電撃槍が飛び出した。
それを見たヴァンは武器を構え──ペガソルタが懐に入り込んできているのを目にする。
喉元を狙う必殺の一撃。
それをセイバーで逸らしつつ、ヴァンはカウンターで迎え撃つ。ヴァンの放つそれも、必殺と言えるほど十分な威力を持っていた。
しかしカウンターが決まることはなかった。ヴァンはセイバーを振り切った頃にはペガソルタは既にヴァンの攻撃範囲から離れ、こちらを見据えていたからだ。
そしてヴァンが近づこうとした瞬間、ペガソルタはまたもや接近し雷槍を突き立てる。ヴァンももう一度カウンターを狙うが、結果は先程と同じ。
思わず眉を寄せるヴァンだったが、なんとなく敵の戦い方を理解する。
恐らくペガソルタの主な攻撃方法はハイスピードを利用した、ヒット・アンド・アウェイ。
相手を見下すような性格をしているにもかかわらず随分と慎重だな、と思わず笑みが漏れる。ならば、とヴァンはある方法を試すためセイバーを持つ手に力を込めた。
一方、距離をとってヴァンを見ていたペガソルタは愉快そうにほくそ笑む。
──奴め、ワタクシの速さに手も足も出ないではないか。どうして他の奴らはあの程度のムシケラにやられたのやら。
過去にやられていったレプリロイド達を思い返し、蔑むように鼻を鳴らす。
が、それらの事もすぐに忘れ、ペガソルタは槍先をヴァンに向けて、疾駆する。雷槍は電気を放ちながら、敵の喉笛を貫こうと輝きを増していった。
しかし一直線に向かっていた槍は、紙一重で避けられる。どうせ性懲りもなく剣で迎撃してくるのだろう。ペガソルタはそう考え、同じように後退していく。
だが、ペガソルタの眼に映ったのは翡翠色の刀身ではなく──白色の
それから飛び出してきた水晶のように透き通った魔力弾は、ペガソルタの片腕と翼をもいで空高くへと消える。
思わぬ反撃を受けたペガソルタは、鬼のような形相でヴァンを睨みつける。
その顔に先程までの余裕は、ない。
「ッこの、ムシケラ如きがぁ! このワタクシに手傷を負わせるとは何様のつもりだ!」
「それはこっちのセリフだ、馬面」
そう言うヴァンの手には一つの銃が握られていた。それはZXセイバーの柄と鍔をそのまま変形させた、ZXバスターと言うべきもの。
ヴァンはペガソルタの性格から考えてこちらを見下している、つまり油断しているだろうと考えた。そこでセイバーと思わせて飛び道具で攻撃してしてみた所……結果はこの通りだ。
ヴァンの返しが何かの琴線に触れたのか、ペガソルタは憤怒の表情を浮かべながら──自身の魔力を解放する。それによって空気は震え、彼の周囲には紫電が走る。
ペガソルタは片腕を上げ、荒れ狂う魔力を集中させた。やがて魔力は渦を作り、それは自身を包んでいく。雷の塊となった天馬は、不敵な笑みを浮かべて自らを汚した愚者へと目を向ける。
「クククッ、謝ったってもう遅い……! 貴様はここで! 消えてなくな──」
超高電圧、超高電流を身に纏い、ペガソルタは敵を貫き殺さんと力を込める。
そして突撃の構えを取ったペガソルタが見たのは──バスターをこちらに向けているヴァンの姿。
月夜が照らす街中に響く、一発の銃声。
中の機械をブチまけながら、ペガソルタは纏っていた光を失っていく。驚愕の表情をしている敵に対し、ヴァンは冷めた視線で告げる。
「俺が攻めきれなかったのはお前が素早かったからだ。動かないお前は、格好の的だったよ」
「ア、アア……! このワタクシが……ムシケラ如きにィ……!」
「じゃあな」
「グッ、アァアアアアアアアア!」
ぺガソルタは最後にこちらを呪い殺すと言わんばかりの強烈な視線を向け──閃光と共に爆発し、跡形も無く砕け散った。
その場に残るのは静寂だけ。
ヴァンは終わった事にため息を吐いた。そして手に持ったバスターが光の粒子となって消える。
同時に変身も解き、力を貸してくれたライブメタルたちに労いの声をかけた。
「ありがとう、今回も助かった」
『ううん、気にしないで』
『それより、助けを求めていた奴の事はいいのか?』
モデルZにそう言われ、一瞬何のことか分からなかったヴァンだったがすぐに思い出す。
「あ、あの声の人!」
慌ててそこに向かうと、こちらを見上げている1人の杖型のデバイスを持った女の子と小動物がいることに気づいた。
周りはボロボロでアスファルトや路地の壁にヒビが入り電柱は折れているという散々なものだったが、女の子の方に怪我はないらしい。
「すいません、遅くなってしまいました。私、時空管理局嘱託魔導師のヴァン・ロックサイトという者です」
「わ、私は──って、え……?」
「はい?」
いきなり戸惑ったような声が聞こえ、ヴァンは思わず聞き返した。
怪訝に思いながら顔を上げるとそこにはつい先程、ヴァンにメールを送った人物がいた。
まさかこの場にいるとは思っていなかったので、思考が一瞬止まる。
「……なのは?」
「ヴァン……君?」
「え、知り合いですか?」
なのはの肩で交互に顔を見比べているフェレット。
ヴァン達は2人して固まりながら見つめ合う。それは遠くからサイレンの音が聞こえるまで続いたのだった。
※11月25日少し修正