魔法少女リリカルなのはZX   作:bmark2

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※ジルウェ視点



第4話 遺跡に遺された謎の金属

 朝食の時間、ヴァンがオレにこんな事を聞いてきた。

 

「明日、父さんの職場に行ってもいい?」

 

 ……いったいどうしたんだ、息子よ。

 

 オレは思わず顔をポカンとさせてしまうが、エールから理由を聞いて少し感動してしまった。

 何でも昨日夕飯を食べた後、オレとエールがどんな仕事をしているのかエールに聞いたらしい。リンディと話しているのを見て詳しく知らなかったと感じたようだ。

 

 その中でエールがデバイスの研究も少ししていると言うと、目を輝かせて「行きたい!」と叫んだそうだ。

 オレはちょうどシャワーを浴びていてその場に居合わせなかったが、エールが言うにはそれは可愛らしい姿だったのだとか。オレも見たかったな……。

 

 オレとしてもヴァンに色々なデバイスを見せてやりたい。

 しかし今はとてもじゃないが無理だ。何故なら一週間前にやっと、ヴァンを見つけた遺跡の最深部にまで到達することが出来たからだ。

 あの一面砂漠に囲まれた謎の遺跡は、かなりの技術力を秘めていた。

 進む毎にある電子ロックの扉。入り口にあった電子ロックはさほど時間もかからずに解け、オレたちは悠々と中に入ったのだが入って数メートルでまた電子ロックが立ちふさがったのだ。またかと思いつつそれを解く。

 

 少し難しくなったか? と感じながらも特に問題なく扉を開ける。その次の扉から解くのに時間がかかり始めた。

 一つ進むごとに電子ロックは難解になっていく。先日やっと最後の扉を開ける事が出来たが、それを解くのにはきっかり3年かかった。管理局の技術力を持ってしてもだ。

 

 その奥には、今までとは違うロックも何もかかっていないただの古びた巨大な扉があるだけだった。

 オレはすぐにでもその扉の奥へと進みたかったが、流石に仲間たちの疲労の事もあるのでその日はそこまでにして一週間後まで休暇を取ることにした。

 今日がその一週間後。これからその古びた扉を調べる事になっているのだ、これからはその探索が終わるまでほとんど家に帰れなくなるかもしれない。

 

 だからこそ先週はヴァンと遊びに行ったりしたのだが……リンディと会ったのが運のつきだったな。

 

 しかしこればかりは手を抜く訳にはいかない。

 何故なら──ヴァンの出生の謎が分かるかもしれないからだ。

 

 息子の事だからこそ、本気であたらないといけない。

 

「うーん……悪いな、ヴァン。また今度にしてくれると助かる」

「いつならいい!?」

「そうだな……上手くいけば1か月くらいかな?」

「じゃあその時に!」

「期待はするなよ?」

「分かった!」

 

 とても嬉しそうな顔をして頷くヴァンの姿に思わず頬が緩んでしまう。

 隣を見るとエールも同じようで、彼女もデレデレとしながら笑っていた。 

 

 似た者同士だなぁ、と内心苦笑しながらオレはまだ残っている朝食に手をつけるのだった。 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「じゃあ開けるぞ」

 

 場所は例の扉の前。

 オレとエールはあの後ヴァンが学校に行くのを見送った後、すぐにあの遺跡まで足を運んだ。

 

 仲間たちは充分に休暇を楽しんだようで前よりキビキビと動いているように見えた。

 逆にそこまで疲れさせてしまった事に少々申し訳なく感じながら、オレは最後の古びた扉に手をかける。

 ギギギッ! と金属を擦るような重厚な音を立てながら扉が開かれる。

 ほんの少し開いてその中に魔法で探知をかけた。一応入る前にかけてはいたが、もしもの時のためだ。

 

 反応は特にない。つまり罠の類は設置されていないという事だ。

 オレは仲間に目で合図をして少し離れさせる。そして腰に力を入れ、一気に扉を引く。

 仲間たちは中から何が出てきてもいいようにそれぞれのデバイスを構えているが、中に誰もいない事を確認すると一斉に安堵のため息をついていた。前に一度同じような場面で襲われたことがあるので気が気ではなかったのだ。

 その時は何とか撃退することが出来たが……出来ればあんな体験は2度としたくない。

 

 昔の事を思い出しながら中に入ってみると真っ暗で、持ってきた明かりが無ければ1メートル先も見えないほどだった。

 とりあえず全員で明かりを灯し、中の様子を確認する。 

 

 しかし中は予想以上に広く、オレ達が持ってきた明かりでは全容がどうなっているのか今一つ理解できない。仕方なく、仲間にもっと大きい照明器具を持ってきてもらう事にした。

 

「それにしてもデカいっすねーこの場所」

 

 仲間の一人、ユー・リトルフォレストがデバイスで壁のあたりを照らしながらそう呟いた。

 狙撃の能力が高い彼女だが、変なところでおっちょこちょいだったりするので見てるこっちは冷や冷やする。

 仲間が危険に陥るミスはしないので、そこのところは安心できるのだが。

 

「そうだな……。変なところ触るなよ?」

「へへっ、大丈夫っすよ。そんなヘマ、ウチがするはず……」

 

 笑いながら壁に手をついてこちらを見る。

 その時、彼女が手をついた場所から電子音が鳴り響いた。

 

「…………えへ」

「総員退避ぃいいいいいい!! ユーがまた変なの押したぞぉおおおおお!」

 

「またかよ!?」「……やれやれだな」「逃げろぉおおお! 前みたいにパイ塗れになるのは嫌だぁあああ!」「ちょ、押すな押すな!」「誰かアタシのお尻触ったでしょ!? ぶっ飛ばすわよ!?」「誰もエール姐さんのを触ろうとする度胸無いですよ!」「早く出ないとまずいってー!」

 

 全員が唯一の出口に向かって走り出したもんだから、ギュウギュウ詰めになって出られなくなっている。元凶であるユーはアワアワと口を押えながら震えていた。とりあえずオレはユーを担いで出口に向かう。が────。

 

「ん?」

「お? 明かりがついたっすね」

「と、いう事は……」

「ユーが押したのは照明のスイッチだった訳ね……」

 

 エールが疲れたようにそう言うと、全員から今日2度目の安堵のため息が吐かれる。

 そしてギロリ、と一斉に視線がユーに向いた。思わずといった様子で彼女はビクッ! となっていた。

 

 どんどん小さくなる彼女に少し苦笑しつつ、俺は顔を引き締める。

 

「ユー。今回も運が良かったとはいえ、もしかしたら危険な目に合ってたかもしれなかったことを忘れるなよ?」

「うぅ……申し訳ないっす……」

 

 がっくりと項垂れた彼女を見て、これなら安心かな? と周りのみんなを見ると笑顔でサムズアップを返してきた。おしおきとしてはこれでいいらしい。

 

「じゃ、調査の続きをしますか」

「「「了解!」」」

 

 みんなにそう声をかけると、それぞれが仕事をこなすために動き出した。

 

「それにしても……」

 

 オレは明るくなった室内を改めて見渡す。

 巨大なディスプレイとその下にあるコンソール。埃をかぶっているがどこかに予備電源でもあるのか、まだ充分に使えるように感じる。

 そしてその周りには棺桶ほどの大きさの箱が6つ並んで置いてあり、そこから少し離れた場所に2つ、他のものより大きい箱が置いてあった。

 それにはスクリーンの横にある機械に繋がっている。耳を近づけてみると低い機械音が聞こえるので、これも中身は死んでいないのだろう。

 

 しばらくすると、一人の科学者がオレに声をかけてきた。

 

「ジルウェ、これを見てくれ」

「どうした、アル?」

 

 コンソールを眺めながらオレを呼ぶ彼の名前は“アルベルト・シグマール”。

 昔からの付き合いで、いわゆるオレの幼馴染だ。頭の出来はすごく良く、研究者として様々な表彰もされ、魔導師としてのランクもAAAと結構なエリートだ。

 6、7年前くらいから付き合いが悪くなったと感じたが、今日は一人でも人材が欲しいと思いダメ元で連絡してみたらきてくれたのだ。

 

 オレはアルベルトに近づくと、彼はある場所を指さした。

 指先を追っていくとそこには妙に目立つ赤いスイッチがあった。

 

「どう思う?」

「そうだな……自爆スイッチ、とかか?」

「止めろ、縁起でもない」

 

 顔を顰めたアルベルトは待機状態にしていたデバイスを展開する。

 そして隊員たちに一つのところに集まるよう命令すると、アルベルトは腕に環状魔法陣を取り巻かせ手のひらに魔力を集中させた。

 

「ともかく転移魔法の準備は出来たがどうする?」

「押してみるよ。このままじゃ何も分からないからな」

 

 隊員たちが固唾を呑んで見守る中、オレはそのスイッチを押す。

 

 すると電子音が鳴り響き、ディスプレイに電源が入った。

 しばらく青い画面が流れたと思ったらいきなり多くのデータが映り始めた。

 

「ジルウェ、これはもしかすると……」

「ああ。この遺跡にいた人の記録だろうな。おそらく次に電源をつけた時に映されるように設定されていたんだ。急いで記録作業に入ろう!」

「了解だ」

 

 ディスプレイに映される文字の羅列をデバイスでそのまま写し取っていく。

 文字はミッドチルダのものと似ている節があるので、解読はそう困難ではないだろう。

 腕を組んでディスプレイを眺める事しばらく、全てのデータが流れ終わったのか画面が消える。

 

「よし、後は研究所に戻ってデータの解析を──」

 

 オレがみんなに撤収の命令を出そうと口を開きかけた時、消えたはずのディスプレイにもう一度光が灯る。しばらく光を発すると、今度はテレビの砂嵐のような映像が流れた。

 

 なんだ? と全員が首を傾げた時、映像が鮮明になり一人の女性が映し出された。

 スレンダーな身体の上に身に纏った白衣に、腰まで伸びた金色の髪。そして優しげな瞳が特徴的なその女性は軽く咳払いをするとこちらを向いた。

 撮った場所は今オレ達がいるこの場所なのだろう、画面の中では少し機材が真新しく見える。

 彼女は軽く礼をすると真剣な表情になって何かを話し始めた。

 

『この映像を見……る人が心優……者である……願いながら、わたし……こに記録を遺します』

「これは……」

「どうやら自動翻訳機能がついているようだな。だが少し壊れかけている……」

 

 この人物が先程の記録を作った人だろう。

 オレたちがディスプレイを眺める中、ところどころで画面がブレながら20代前半と見られる女性は話し始める。

 

『わた……願い……だ一つ。“ライブメタル”を悪……ない……しい』

「ライブメタル?」

 

 画面の中の女性が言ったその単語が何なのか分からず首を傾げる。

 他のみんなも分からないようなので、この世界の固有名詞なのだろうと判断した。

 

『彼らは……た方の……渡っ……、行……き者のとこ……行く事……るでしょう』

 

 何かを願うように両手を重ねながら、女性は話を続ける。

 

『彼らは……た方の近……ある8つの……中に封印処理されています。

 特に朱色のライブ……ルと白色のライ……タルだけは、慎重に……そ……きけ……』

 

 それだけ言うと、プツンと切れるように画面が暗くなり、青い画面に戻った。

 どうやら映像はそこまでらしい。

 するとオレ達の背後から空気の抜けるような音が聞こえ、振り返るとあの棺桶のような箱から煙が出ていた。

 

 あの中にライブメタルなるものが入っているのだろうか?

 オレはディスプレイから離れ、箱のそばに近づく。

 箱のロックは外されており、ただ開けるだけでいいようになっていた。仲間に目で合図をして、オレはそれを一気に開く。

 

 

 中には青色の、手のひらより少し大きいサイズの金属の石が入っていた。

 

 

 オレは持ってきた特製のグローブをつけ、それを取り出す。

 特に何か罠が作動するという事もなかった。

 手に取ったそれを深く観察するが、特に気になるような事はない。

 

 何がそんなに危険なんだ? 

 

 疑問に思いながらも、とにかくオレはそれをトランクケースに入れ封印処理を施す。

 既にこの箱の封印処理は解けてしまっているので、どちらにしてもこのまま放っていく訳にはいかない。

 アルベルトや仲間たちと協力して他の箱も同じように開けていく。 

 6つは封印処理が解かれていたのだが、大きい箱のうちの1つに入っていたモノは幾重にも封印処理が施されており、取り出すことは出来たのだが全容を見るにはかなりの時間が必要だろう。

 

「うーん……どっからどう見てもただの金属片だよね……」

「だけどあの女性の真剣さを考えて、これには何かあるはずだ。封印処理をするほどだからな」

 

 後ろから覗きこむようにオレの手元を見てくるエールにそう返すと、彼女は考え込むように顎に手を添えて宙を見上げる。

 が、何も思いつかなかったのか軽く頭を掻いてニパッとオレに笑いかけた。

 

「まぁ詳しい話は研究所で調べてからにしましょ。データも確認したいし」

「ああ、そうだな」

 

 残ったデータの収集を仲間に任せ、オレはライブメタルを一つずつ別々のトランクケースに入れる。

 7つ目のライブメタルを入れたところで最後のライブメタルが手元にないことに気づいた。

 あるのは青、紅、緑、橙、濃青、紫、そして厳重な箱の中で封印状態になっていて何色か分からないライブメタル。無いのは朱か白のライブメタルだろう。

 既に箱は全て開けたはずだと、オレは周りを見渡す。と、ある1つの箱の前で残り最後のライブメタルを手に持ち、それを眺めながら佇んでいるアルベルトの姿があった。

 

「アル、後はお前が今持っているそれだけだ。持ってきてくれ」

「…………」

「アルベルト?」

「……あ、ああ、すまない。少しぼうっとしていた」

 

 ハッと我に返ったように謝るアルベルトの姿にどこか違和感を覚える。

 しかしオレはその違和感が何なのか、その場では判断する事は出来なかった。

 

「大丈夫か?」

「ああ。それよりジルウェ、この白いライブメタルの解析を私に任せてくれないだろうか?」

 

 アルベルトは手に持ったライブメタルをジッと見つめながらそう言った。

 その目は焦点が合ってないようにも見えて、オレは訝しげにアルベルトを見つめる。

 

「アル、お前本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だと言っている。それより、どうなんだ?」

 

 アルは早く答えが聞きたいとでも言うように、声に少し苛立ちを混ぜながらオレに尋ねる。

 オレは彼のそんな姿を見るのは初めてだったので、少し不思議に思いながらも何とか答えた。

 

「まぁ何とかなるとは思うぞ。色々と申請する必要があると思うが……」

「分かった、やっておこう」

 

 彼はそう言うと、手に持ったライブメタルをトランクケースに入れてオレに手渡しさっさと出て行ってしまった。

 大方の作業は終わっているので文句はないのだが……いきなりどうしたのだろうか?

 十中八九、今さっきオレが言った申請をしに行ったのだろうが、何が彼をそんなに駆り立てたのだろう? オレは思わず手渡されたトランクケースに目をやる。

 

「惹かれる何かでもあったのか……?」

「ジルウェー、ちょっといいー?」

「ああ、今いく」 

 

 エールに呼ばれ、オレはとりあえず考えていたことを頭の片隅に追いやり彼女の元へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 ──オレのこの考えがある意味間違えていなかったことを知るのは、それから一か月後の事になる。

 




※設定を一部改変してます。

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