魔法少女リリカルなのはZX   作:bmark2

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少し短め。申し訳ない……


第7話 氷龍の煌めき

 二人の魔導師が激突する少し前。

 旅館の寝室で寝ていたヴァンは巨大な魔力反応を感じて目を覚ました。すぐに起き上がり周りを見ると、なのはとユーノも気づいたようで彼らも布団から立ち上がろうとしていた。

 

『なのは、ユーノ!』

『うん!』

『分かってる!』

 

 ヴァン達は音を立てないように気をつけながら寝室を出る。その後、急いで着替え外へ飛び出すと、ある方向で光の柱が見えた。木に囲まれた道を進みながらヴァン達が進んでいると前方で何かが光る。それを見たヴァンがライブメタルを構えたと同時に光弾がヴァンに直撃し、大きな音を立てて爆発した。

 

「ヴァン君!?」

「大丈夫!?」

 

 爆風で砂煙があがる中、ヴァンの後ろにいたなのは達は思わず声を上げる。しかし煙はすぐに消え、そこにはロックマン・モデルZXとなったヴァンがセイバーを横に振った状態で立っていた。

 その身体に傷はひとつもない。それを確認したなのはやユーノはホッと息をついた。しかしその表情もすぐに改められることになる。

 

「……ふう、危ない危ない」

「ヴァン君、平気!?」

「ああ。なのは、ユーノ、お前らは先に行ってくれ。俺はこいつらを倒してからだ」

 

 そう言ったヴァンの視線の先には二体のレプリロイドが腕を組んで佇んでいた。

 なのははその姿を見て少し反応するが、首を振ってヴァンの顔を見る。  

 

「……分かった! 気を付けてね!」

「了解だ。ユーノ、なのはを頼んだぞ」

「任せて!」

 

 なのははバリアジャケットの姿になり、その肩にユーノが乗る。そしてヴァンがチャージショットを撃ち、相手が避けたところをなのはが飛び抜けた。

 二体はなのはを追うことなく、ヴァンに立ちふさがる。まさかこんなにもあっさり通してくれるとは思っていなかったヴァンは、思わず怪訝な表情になった。

 

「随分と簡単に通してくれるんだな。何を考えている?」

「フン……最優先は貴様を倒す事。それが我が主の命令」

「あの娘を消すのはその後でも十分だ」

 

 赤いカブトムシをモチーフにしたレプリロイドと青いクワガタをモチーフにしたレプリロイドは角を揺らし、そう話す。その様子からは、余裕と自信が溢れていた。

 ヴァンは不敵に笑うとセイバーを構え、二体に向けた。

 

「そう簡単にいくかな?」

「笑止。我ら兄弟の連携に貴様が勝てる道理はない!」

 

 青いレプリロイドがそう叫んだ途端、彼らの全身に紫電が走る。それと同時に魔力も溢れ出し、近くの木々を大きく揺らす。

 

「主に仇名す不逞な輩は、このヘラクリウス・アンカトゥスと!」

「クワガスト・アンカトゥスの刃の錆にしてくれる! 覚悟しろ!」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 ヘラクリウスは魔力刃を煌めかせながら、クワガストは自慢の顎をカチカチと鳴らしながら、瞬時にヴァンを挟むように移動した。ヴァンは相手の出方を窺うようにセイバーを構える。しかしそれを見たクワガストはヴァンを嘲笑する。

 

「ははははは! 我ら相手に様子見とは、どうやら死にたいらしいな!」

「ならば思い通りにしてくれよう!」

 

 ヘラクリウスはヴァンに向かって魔力弾を飛ばしてくる。的確なその射撃をヴァンは冷静に避けていくが、避けた先でクワガストが待ち構えていた。クワガストは顎をプロペラのように回転させ、竜巻を生み出しヴァンを吸い込んでいく。

 

「死ねぃ!」

「そんなあっけなく死ねるか!」

 

 足に魔力を込めて残像が出るほどの勢いで空中を移動し、何とか竜巻から抜け出す。その時、ヴァンは反射的に顔を後ろに動かした。瞬間、魔力刃がヴァンの目の前を通り過ぎる。見るとヘラクリウスが腕をアンカーのように使い、ヴァンに向かって投げていた。

 その連携に、ヴァンは思わず舌打ちをした。先程のように動きにくくなった隙を狙ってくる戦法やそのタイミングなど、かなり息があっている。

 

 どう対処するべきか──ヴァンがそう考えていた時、二体は同時に動き出す。

 

「ほう、避けたか。しかしそれもいつまで続くかな!」

 

 ヘラクリウスの投げたアンカーをクワガストが掴み、ヴァンを囲むようにして回転する。

 それは丸いドーム状になり、逃がさないと言わんばかりの雷の檻になる。そして中心にいるヴァンに、先程以上の量の魔力弾を撃ちだした。

 

「これで終わりだ!」

「無様に墜ちるがいい!」

 

 三百六十度すべての方位からの魔力弾。それを見つつ、ヴァンはフッと笑って懐からライブメタルを取り出した。

 そしてヴァンを水色の光が包んだ時、全ての魔力弾が命中し大きく煙を発生させる。それを見たクワガストはヴァンを鼻で笑った。

 

「フン……主から聞いていたより余程弱いな」

 

 未だに煙に包まれているヴァンを見ながらクワガストはアジトに戻ろうと背を向けるが、ヘラクリウスは怪訝な表情をしながらジッと煙を見ていた。一向に動こうとしない兄に不思議に思いながら、クワガストは声をかける。

 

「どうしましたか、兄上?」

「おかしいと思わないか? 何故、煙がまだ晴れない?」

 

 そう言われ、クワガストは兄の視線の先を見る。確かに煙は晴れていなかった。そして同時に違和感に気づいた。

 

 ──辺りの温度が下がっている。

 

「兄上……」

「弟よ、油断するな。まだ生きているやもしれん」

「は、はい!」

 

 ヘラクリウスの言葉にクワガストは慌てながら構える。するとようやく煙が晴れてきた。

 そこにあったのは巨大な氷の球体だった。クワガストは思わず首を傾げる。あんなものがあっただろうか、と。そんな時、氷の塊の中から魔力の反流を感じた。

 

「アレは……?」

「ッ! 来るぞ!」

 

 その瞬間、氷塊から放たれる、氷の砲弾とも言うべき破片の数々。

 危険にいち早く気付いたヘラクリウスはその場からすぐに移動した。しかし一瞬の反応に遅れたクワガストは飛んできた氷塊を避けきれない。まるでガラスの破片のように尖ったそれは、クワガストの身体を抉り取る。

 

「がぁああああ!」

「クワガスト! くっ!?」

 

 クワガストの元へ行こうとするヘラクリウスを阻むように氷塊が飛んでくる。それらを避けながら氷の球体があったところを見ると、そこには蒼海の戦士がいた。

 全身を蒼い鎧に身を包み、手には身の丈以上の大きさを持った、柄の両端に刃が付いている槍──ハルバード。そしてヘルメットにはモデルHXとは違った二本のスラスターがついている。

 ヴァンはハルバードを回転させながら、氷塊に振り下ろすことで氷のつぶてを放っていたのだ。全ての氷塊を飛ばし終えた後、ヴァンはハルバードを肩に担ぐ。

 

「さて、このまま決めるぞ」

「舐めるな!」

 

 ヘラクリウスは激昂しながら弾を乱射する。クワガストを墜とされた怒りによってなのか、弾速が上がっている。

 ヴァンはそれに慌てることなくハルバードで弾きながら、ある場所へ移動した。

 

「どうした! 先程より遅くなっているではないか!」

「元々このモデルは水中で真価を発揮するんだよ!」

『だからといって、陸で弱いと思われたくはないわね』

 

 敵の言葉にムッと来たモデルLがそう呟いた。ヴァンは少し苦笑しながら、ある場所──湖まで来るとヘラクリウスに向き直る。

 

「逃げるのはおしまいか?」

「ああ、終わりだ」

 

 ヴァンは不敵に笑うと湖の水上に立ち、ハルバードの切っ先を少しだけ水の中に沈めた。すると刃が輝きだし、辺りを急速に凍らせていく。ヴァンの魔力が高まる事で、周りの温度も下がっていき、ゆらゆらと揺れる木の葉も硬くなっていった。

 

「出でよ、氷龍──フリージングドラゴン!」

 

 そう叫びハルバードを切り上げると、先端から流れる水がライブメタルの力によって冷やされ形を変えていく。それは氷の龍となり、敵に向かって飛んでいった。しかし大きすぎる巨体故にそのスピードは遅い。ヘラクリウスはこれを隙と見て突撃していった。

 

「この程度の攻撃、避けられないとでも思ったか!」

「思っちゃいないさ。一体だけならな」

 

 ヴァンは流れるようにハルバードを回転させ、もう一体の龍を放つ。二体に増えたことでヘラクリウスは思わず怯みかけるが、主人から承った使命を思い出し自分自身を奮い立たせる。

 

「主からの命令は絶対! たかだか氷で出来た二体の蛇など──」

「──ならこれならどうだ?」

 

 しかし、現実は非情だった。最後の覚悟を持って全てのアンカーを解放したヘラクリウスが見たものは二体程度では済まされない──無数の龍。ヘラクリウスの決死の攻撃も無かったかのように飲み込んで、彼を喰らう。龍は氷の牢獄に変わり、ヘラクリウスを閉じ込めた。

 ヴァンはそれを一瞥すると、右手でハルバードを肩に担ぐようにして持ち、狙いを定めるように左手を相手に向けて投擲の構えを取る。そして右手を魔力で強化すると、それを思い切り投げた。煌めく星のように真っ直ぐな線を描きながら、ハルバードはヘラクリウスを閉じ込めた氷の牢獄を貫く。

 

「砕けろ」

 

 氷は音を立てて砕け散り──中にいたヘラクリウスも同じように崩れていった。

 ヴァンは回転しながら戻ってきたハルバードを肩に担ぎ、ため息を一つつくとある方向を向く。そこでは桃色と金色が入り混じり、鮮やかな光を放っていた。

 

「さて、と。行きますか」

 

 加勢するため、ヴァンがそちらに行こうとした時、背後で何かが近づいてくる音がした。ヴァンはすぐに振り向いてそれをバックステップで避けると、そこにはボロボロになったクワガストがいた。

 

「キさまダケは……許さンぞ! 兄上の敵!」

「まだ生きてたか」

 

 片方の顎は折れ、飛ぶこともままならないクワガストだが、その闘争心だけは折れていなかった。爛々と光る赤い瞳でヴァンを睨みつける。ヴァンはハルバードを構え直し、チャージを開始した。

 

「ヨクも、ヨくも兄上を殺シてクレたなぁあああ!!」

 

 クワガストの脳裏に映るのは、未熟な自分を厳しく叱りつつ、時に優しい言葉をかけてくれた兄の姿。

 何事も兄に劣る自分。劣等感、そして嫉妬心で押しつぶされそうになったこともある。そんな時、助けてくれたのも兄だった。

 

 クワガストはその時、決意した。

 兄の隣に並んでも、恥ずかしくない戦闘用レプリロイドになろうと。そのために研鑽を積み、ようやくその時が来たと思っていた。

 

 しかし、この結果はなんだ? 自らの油断、満身、驕り。それらのせいで、兄は死んだ。クワガストはその様を見ていた。そう、自分の目の前で、最愛の兄が氷と共に砕け散った様を見ていたのだ。

 それを見た瞬間、自身の魔力が増大したことを理解する。その力の源は怒り。自身の力のなさ、そして兄を殺した敵に対しての怒りだ。機械が感情だけで強くなる。そんな事はありえないと理解しながらも、クワガストは確かに上昇した自身の魔力値を見て、直感的に理解した。

 

 そうか……兄上が力を貸してくれているのか。

 

 そう感じずにはいられなかった。

 限界だと思っていた身体も動く。そう、まだ動かせる。クワガストは復讐を胸に抱いて、こうしてまた立ち上がったのだ。

 

 そして今、眼前にいる敵を見据える。

 この満身創痍の身体では、相手を殺す事は叶わないだろう。しかし、せめて一撃、一矢報いなければ気がすまなかった。

 クワガストは自身のアンカーを構え、敵に向ける。魔力が全身に流れ、魔力弾を撃つ準備が完了した。

 

 このクワガスト・アンカトゥス、ただでは死なん……!

 

 兄を失った弟は最後の攻撃を繰り出そうと魔力を解き放つ。

 クワガストはこの一瞬だけ、完全に兄を超えた。そして自身最高の一撃を繰り出そうとアンカーを相手に向けて──

 

 

 

 

 ────ガッ!

 

 

 

 

「ナ……に……?」

 

 その時、クワガストはおかしい事に気づいた。魔力弾をいくら放とうとしても、身体が動かないのだ。それになんだか、身体から力が抜けていく。

 そんな馬鹿な、多大なダメージはあれど、限界はまだ迎えていなかったはずだ──とクワガストが驚きに目を見開いた時……ふと自身の腹部に目が行った。

 

 そこには、身に覚えのない白色の魔力刃。

 

 それが自分を貫いたのだ──そうクワガストが理解した瞬間、意識が暗くなる。

 

「アニ……う……エ……」

 

 目の前が暗くなっていく。

 消えていく意識の中で、最後に映ったのは凛々しい兄の姿。クワガストはその姿を追うために手を伸ばし──その機能を停止させた。

 そんなクワガストに興味の欠片もないように、乱入者はその腕を横に振るう。串刺しの状態から振り落とされ、クワガストの残骸は地面に叩き付けられた。乱入者は貫いた()をダラリとおろしてヴァンを見据え──そして一瞬でヴァンの背後に回り込み、その凶刃を振り下ろした。ヴァンは何とか反応してハルバードでガードする。

 

「こんな雑魚を一撃で仕留められないとは……まだまだ力が使いこなせていないようだなァ? 青のロックマン!」

「お前は──!」

 

 魔力刃に照らされたその顔は三年前の研究所襲撃事件の時、アルベルトに召喚された一人、プロメテだった。プロメテは邪悪に笑い、持っていた鎌をもう一度振り下ろす。ヴァンはそれに耐えきれず、後方へ吹き飛ばされた。

 

「ッ、仲間だったんじゃないのか!?」

「フン、面白い事を言うなぁ。あんな雑魚はああやってゴミにでもなっていた方がいいのさ!」

「こ、のッ野郎!」

 

 その言い様にヴァンは激怒する。それによってハルバードを振るうスピードも速くなった。そんなヴァンの怒りが心地良いかのように、プロメテは邪悪な笑みを浮かべながら、鎌を薙ぐ。

 

 湖の上まで戻り、ヴァンは氷龍を生み出してプロメテに放つ。プロメテはそれを鼻で笑うと、鎌に魔力を込めた。それによって魔力刃が赤黒く染まり、鎌周辺の温度が急激に上昇する。

 

「そんなチンケな攻撃がオレに通用するかァ!」

 

 プロメテが鎌を振ると、斬撃が氷龍全てを溶かしながらヴァンに向かってきた。

 

「ッロックオン!」

 

 ヴァンは咄嗟にモデルZXに変身し、その場から離れる。その瞬間、ヴァンの下にあった湖をプロメテの斬撃が一瞬で蒸発させた。

 

「どうした!? その程度か!」

「まだまだぁ!」

 

 ダッシュを使ってプロメテの懐に入ると、ZXセイバーを斬り上げる。パンドラはそれを笑いながら鎌でガードし、カウンターを放った。ヴァンも負けじと、鎌をセイバーの刀身に滑らせるようにして逸らし、勢いを殺さず反撃に出る。

 セイバーを横して斬るが、プロメテはそれを後方に回転しながら躱す。そして一瞬の間を置いた後、二人は得物を交じ合わせた。鍔迫り合いになる中、プロメテは口角を上げてヴァンを見る。

 

「ハァーッハッハッハ! ……そうだ、もっとだ! もっと強くなれ、青のロックマン! そうなることであの方も喜ばれる!」

「ッチ! なんでアルベルトが喜ぶのかッ、教えてもらいたい、ねッ!」

 

 ヴァンはチャージセイバーをプロメテに放つが、紙一重で躱されダメージを与えられない。いつまで持つかと考えた時、プロメテが構えを解いて鎌を下ろした。いきなりの行動にヴァンは驚くが、警戒は解かぬままプロメテを見る。

 

「フン、今はまだそれでいい……その認識(・・)でな」

 

 プロメテの言葉にヴァンは思わず眉を寄せる。その言い方ではまるで──。

 

「それより、お仲間を放っておいていいのか?」

「……ッ、まさか!?」

「ここに来たのはオレ一人じゃない。今頃はどうなっていることかな?」

 

 そう言うと、足元に魔法陣が生まれ、プロメテはどこかへ転送される。

 ヴァンは舌打ちを一つすると、モデルHXになりなのはの元へと急いだ。




※12月16日修正

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