魔法少女リリカルなのはZX   作:bmark2

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第5話 おいでませ、海鳴温泉

「ふぁあ……なんだかんだで時間かかったな」

『お疲れ様、ヴァン』

 

 周りに誰もいない公園の一角で、月の光を体で受けつつヴァンはあくびをかみ殺していた。

 

 ブリザックを倒した後、特にガーディアンベースの中でする予定もないので地球に帰ろうとしていた。しかし近くで新たなモデルVの反応があり、すぐさまそちらに駆けつけることになったのだ。

 

 なんとかモデルVを破壊したが、その後の事後処理などを済ませていたら六日もかかってしまった。学校には両親が連絡をしてくれたらしく、無断欠席とはならなかったのだが少し気が重い。ある意味ズル休みのようなものなので、内心ビクビクしているのは秘密だ。

 

「仕方ない……幸い明日、っていうか今日は休みだし、一日中寝させてもらうか」

『そうだね。でも起きた時にはなのはちゃん達に連絡しないと』

「いつ帰ってくるとか言わなかったしな。ま、それも目が覚めたらって事で」

 

 閉じそうになる瞼を無理やりこじあけ、ヴァンは自宅へ足を進めていった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 そんな訳でその日の昼過ぎ。

 ヴァンはしっかりと睡眠をとり、遅めの昼食を摂ろうとキッチンへ向かう。

 

「さて、何を作ろうかね……ん?」

 

 ヴァンが冷蔵庫を漁ろうとした時、ふとテーブルの上に置いておいた携帯電話が目に入った。基本的に連絡手段はデバイスで済むことなのだが、学校で目立たないようにと両親に買ってもらったものだ。ちなみに機種は少し古い。あまり使うこともないだろうし、と安さを重視したからだ。

 

 その携帯が光っていたのでヴァンはそれを手に取って確認すると、アリサやすずか、そしてなのはからほぼ一週間前の日付でメールが届いていた。

 

「なになに──『今日、すずかの家でお茶会するんだけどアンタも来ない?』『どうなの? 連絡してくれると助かるんだけど』『ちょっと! 連絡くらいしなさいよ!』『ごめん、なのはから事情を聞いたわ……』──……とりあえず返しておくか」

 

 ヴァンはアリサに謝罪のメールを送り、次はすずかからのメールを確認する。

 お淑やかな彼女らしく、丁寧な文面だった。

 

「すずかは二件か……──『今日、私の家でお茶会があるので暇なら遊びに来ませんか?』『なのはちゃんから用事がある事、聞きました。頑張ってね』──なるほど」

 

 そのメールには画像が添付されており、見てみるとなのは達三人とユーノが写っていた。なのはがユーノを抱え、その隣でアリサが猫を抱き寄せている。二人の間にいるすずかは楽しそうに笑っていた。 

 ヴァンはそれを見て穏やかな気持ちになりながら、すずかに『ありがとう』とメールを返す。

 

「最後はなのはか。……ん?」

 

 そのメールには、本文に『帰ってきたら連絡をください。なのは』と一言だけしか書いていなかった。

 いつもだったらもっと他に書いてあるはず。一体どうしたのだろうかと首を傾げながら、ヴァンはとりあえずメールを返信する。

 

「ジュエルシードの件で何かあったのか……?」

 

 思わず不安に駆られるが、ひとまずはメールが返ってきてから考えることにしたヴァンは昼食を作るために冷蔵庫を漁る。しかし中にあったのは卵が二つにジュースがいくつかあるだけ。おかずになりそうなものは他に何もなかった。

 卵かけご飯という手もあるが、育ち盛りである今の身体にとって物足りなく感じる。仕方なくヴァンは自室で着替え、財布を手に取り玄関へ向かった。

 

「ちょっと遠いけど隣町のスーパーまで行ってみるか……あそこなら安いし」

 

 今から行くと帰ってくるのはきっと三時過ぎになってしまうが、仕方がない。ヴァンは家を出ると、何を作ろうか考えながらスーパーへ歩き出した。

 

 

※※※

 

 

「もやしが一袋五円か……買っとこう」

『ヴァンはそれで満足するのかい?』

「いや、結構うまいんだって。醤油と塩胡椒でパパッと炒めればそれだけでもう……」

 

 かごを持ってモデルXと話していると、近くにいた大人がこちらを見て笑っていた。少し気恥ずかしくなり、そそくさとその場を離れ別の売り場に移る。

 ホッと息をつくと、今度は周りに聞こえない程度の大きさで話を再開する。

 

「……まぁ、もやしだけじゃ物足りないから肉も買ってくけどな」

『流石に少ないよね』

 

 適当に安めの肉を買おうと精肉コーナーに向かった時、ヴァンはふと立ち止まった。

 

『? どうしたんだい?』

「…………」

 

 モデルXは懐から少し顔を出してヴァンの視線の先を辿ってみると、そこには二人の女の子がいた。

 一人は橙色の髪をした十六歳程度の女の子。額についた宝石が気になったが今は置いておく。もう一人はアリサとは違った綺麗な金髪の髪をしているなのは達と同世代くらいの女の子で、ヴァンの視線はその子に向けられていた。

 

『あの子が気になるのかい?』

「ああ、いや……んん?」

 

 モデルXにそう聞かれたヴァンは歯切れが悪い返事をする。珍しい彼の反応にモデルXは興味を持った。

 

「……アリサ達と同じくらい可愛い子だなぁと思っただけなんだけど」

『けど?』

「つい見てしまうというか、目を向けてしまうというか……」

 

 頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げるヴァンに、モデルXは思わず口を噤んだ。モデルX自身は人間ではないが、人間の感情についての知識はある。

 もしやと思いながら、モデルXはヴァンにこう尋ねてみた。

 

『あの子の事を考えると胸がドキドキしたりする?』

「うーん、そういう事はないけど……」

 

 それを聞いて、本当に“気になる”程度なんだな、とモデルXはため息をついた。

 

 ──ヴァンもそろそろ10歳になるのだから、そういう感情が芽生えてもおかしくないよね。

 

 少し嬉しく思いながら、ヴァンに声をかける。

 

『気になるんだったら、声をかけてみれば?』

「……いや、なんて声かけるんだよ」

『そうだね……「俺と友達になってください」とか?』

「初対面で怪しすぎるわ」

 

 周りの目がある事もあり、大きな声で突っ込めない。ヴァンは半眼でモデルXがしまってある懐を見た。

 

『坊や、そういう時はこう言うのよ。「御嬢さん、お茶しない?」ってね』

『ヴァン。そこは「あなたの瞳は美しい。私とそこの喫茶店にでもどうだ?」と言った方がいいんじゃないか?』

「モデルLとモデルHも何言ってんの!?」

『お前ら分かってねぇな。相手が女なら「俺と勝負しろ!」って言やぁ一発だろ?』

「モデルFまで……」

 

 普段はここまで一気に話しかけてこないため、ヴァンは思わずたじろいだ。そんな中、モデルZが呆れたようにため息をつく。

 

『……お前たちがそんな事をしている間に、もう行ってしまったようだぞ?』

『『『『『……あ』』』』』

 

 見ると既に女の子たちの姿はなく、代わりに白髪交じりのおばあさんがバラ肉を品定めしていた。それを確認したライブメタル達は残念そうに口を閉じる。

 そんな彼らに、ヴァンは額を抑えて首を振った。

 

「いったいどうしたんだお前ら……」

『……なんでもないよ、ヴァン』

「いや何でもない事はないと──お?」

 

 詳しい話を聞こうとした時、ポケットに入れておいた携帯が震えた。買い物かごを腕にかけて携帯を取り出し差出人を確認すると、『高町なのは』と書いてあった。

 

 メールの内容は、明日アリサやすずか達と一緒に海鳴温泉に行かないか、というもの。

 ヴァンはそれを見て少し考えた後、了承のメールを返す。最近はモデルVの破壊やジュエルシードの探索などで忙しかったので、ここらで休んでもバチは当たらないだろう。

 

「──っと、これでいいか。さて、これ買って帰るか」

『……まぁ、まだ機会はあるよね』

「何を狙ってんだ!?」

 

 

※※※

 

 

 そして次の日。

 ヴァンは簡単に荷物を確認した後、すぐに家を出る。玄関前には既に車が停まっていた。

 それを見たヴァンは急いで車に向かう。

 

「おはようございます! あと二泊三日の間よろしくお願いします」

「ああ、おはよう。なのはから話は聞いているよ。そんなに堅苦しくしないでも大丈夫だからな」

「私達の事は気にせず、楽しんでね?」

「はい。わかりました」

 

 大きめのワンボックスカーに乗る。運転席とその助手席に座っているなのはの両親である高町士郎と高町桃子だ。そして後ろの席にいるのは、なのはとケージから顔を出しているユーノ、そしてなのはの姉である高町美由希と兄の高町恭也。

 なのはの家族は美形が多いな、というのがヴァンから見た高町家の第一印象だった。

 

 ヴァンはなのはの家族に挨拶した後、とりあえず空いていた席に座り、荷物を収納スペースに置いて一息ついた。

 ふと視線を感じ見てみると、そこにはニッコリとした笑顔を浮かべたなのはの姿があった。

 

「おはよう、なのは、ユーノ」

「おはよう。『ヴァン君、用事の方は大丈夫だった?』」

『ほとんど一週間ぶりだね』

『そうだな。用事の方も問題なかったよ』

 

 念話で話しかけられたのでヴァンも念話で返す。一週間ぶりに会った彼女たちは特に変わりなく、いつも通りだった。

 メールの感じからして悩んでそうだったのに……と不思議に思いつつ、なのは達に例の件について聞いてみた。

 

『ところであのメールだけど、何かあったのか?』

『あ……うん。実はジュエルシードを集めてる魔導師の子と戦って……その子とはいい勝負だったんけど──』

 

 話を聞くと、どうやら新たに現れた魔導師と二体のレプリロイドが現れて、ジュエルシードをひとつ取られてしまったという。それを聞いて、ヴァンは思わず舌打ちをしそうになった。ジュエルシードを取られてしまったことに対してではない。新たに現れた魔導師に対してだ。

 ただでさえレプリロイドがジュエルシードを狙っているというのに、それに加えて別の敵対勢力とは……。多少の予想していたとはいえ、これはなかなかにきつい。

 

 これからは出来る限り、彼女達と行動を共にした方がいいのかもしれない。そう考えながら、ヴァンはふと思い出したように念話を送る。

 

『それで、怪我とかは大丈夫だったのか?』

『うん。少し身体を打ったけどユーノ君がすぐに治してくれたから』

『そうか、よかった……』

 

 特に大きな怪我はないと分かり、ヴァンはホッと息をついた。……と、いうよりレプリロイドから一撃食らって少し身体を打っただけとか。少し見ない間に随分と成長したなのはに、思わず口元が引き攣った。

 そんなヴァンの様子になのはは苦笑した後、少し落ち込んだように続きを話す。

 

『でも、ジュエルシードを取られちゃった……』

『次は取り返せばいいさ。それより大した怪我がなくてよかったよ。治療したユーノもお手柄だな』

『いや、僕はこういう事しかできないから……』

 

 少し照れくさそうに頭を掻くユーノ。少し前だったら「手伝ってもらってるんだから当たり前」みたいなことを言っていただろうなぁ、とヴァンは微笑ましそうにユーノを見ながらそう感じた。その表情は兄が弟の成長を喜ぶようなものだったが、幸いにもそれを見た者はいなかった。

 そんな中、思い出したようになのはに顔を向ける。

 

『あんまり無理しちゃ駄目だからね。その時だってまだ怪我が治しきってないのに相手に向かっていこうとするし……』

『なのは……』

『えーっと……ははは』

 

 誤魔化すように笑うなのはを呆れた表情で見ていると、前の座席から美由希の顔が出てきた。

 美人の部類に入る彼女の顔が急に出てきて、少々ドキリとしたのは秘密である。

 

「そうそう、ヴァン君。これから二泊の間よろしくね?」

「ああ、はい。よろしくお願いします」

「うんうん、よろしく~」

 

 眼鏡の下にある優しげな瞳がヴァンを捉えた。

 年上(身体年齢で)にそんな眼を向けられ、ヴァンは思わず顔が熱くなる。しかし、美由希のニヤニヤした顔を見て冷静になった。

 

「おや~? 顔を赤くしちゃって~……もしかして、見惚れちゃった?」

「……ええ、美由希さんが綺麗でドキッとしちゃいましたよ」

「えっ!? いや、そう? あははははは!」

 

 ヴァンの思わぬ返しに逆に顔が赤くなる美由希。その様子を見ていたなのはの両親と恭也はクスクスと笑い、なのはも苦笑いをしていた。

 

「ヴァン君もなかなか言うねぇ。こういう美由希を見るのは久しぶりだから面白いよ」

「美由希~? あんまりからかおうとしちゃだめよ?」

「これはお前の負けだな、美由希」

「にゃはは……」

 

 家族からもそう言われ、ますます美由希の顔が赤くなっていく。ヴァンも少し満足した時、車がゆっくりと速度を落としていく。窓から外を見ると、そこには大きな屋敷があった。

 その玄関の前に車が一台停まっており、その近くにアリサやすずか、そして他にも何人か集まっていた。停車すると恭也がドアを開け外に出ていく。

 

「あれ? 恭也さんはなんで出て行ったんだ?」

「ああ、それはね──」

「すずかのお姉さんの車に乗るのよ」

「おはよう、ヴァン君」

 

 そして入れ替わるようにアリサとすずかが車に乗る。彼女らは士郎たちに挨拶した後、ヴァンと同じように座っていく。

 

 視線を彼女達に移すと、アリサは白一色のブラウスに明るめの色をしたスカート、すずかは黒いワンピースに渋めのカーディガンをかけていた。

 普段は制服姿しか見ていないため、少し新鮮だ。ヴァンは思わずじっと見てしまうが、彼女達の視線がこちらに向きそうになり、目をそらす。

 

「ちょっと、少し詰めなさいよ」

「いや、これでもギリギリなんだけど……それより、なんですずかのお姉さんの車に?」

「お兄ちゃんとすずかちゃんのお姉さん、とっても仲良しさんだから」

「ああ、なるほど……」

 

 なのはの説明でヴァンの眼に理解の色が浮かぶ。ようするに、あの二人は恋人同士ということなのだろう。

 と、ヴァンはふと気になった。

 

「(恋人か……)」

 

 元の世界ではまるで縁のなかった存在だ。この世界で初めて友達が出来た時、自分の中で様々な喜びの感情が溢れだしそうになったのを覚えている。

 ならば恋人が出来た時、自分はどんな気持ちになるんだろう?

 

「……いずれにしても、自分には早い話かー」

「ヴァン君? どうしたの?」

「いや、なんでもない。それより、そろそろみたいだぞ」

 

 首を傾げながら尋ねてくるすずかにヴァンはそう返し、窓の外に目を向ける。その先には青い瓦屋根の日本屋敷らしい旅館があった。

 

「さぁ着いたぞ。皆、外に出よう」

「「「「はーい」」」」

 

 士郎の言葉に全員が外に出る。その時、ユーノがケージの中から顔を出した。

 

『この後、温泉に行くけどユーノはどうする?』

『うん、僕もついていくよ』

 

 そう言ってヴァンの肩に乗る。そしてチェックインを終えて荷物を部屋に置いた後、そのまま温泉に行こうとした時、なのは達に呼び止められた。

 

 振り向くとそこには、仁王立ちで立っているアリサ、控えめな感じで笑っているすずか、そしてニコニコと笑顔でこちらを見ているなのはの三人の姿があった。

 

「あれ、三人とも。美由希さん達と一緒に温泉入りに行ったんじゃなかったのか?」

「そうなんだけどね。ちょ~っとそいつを渡してほしいのよ」

 

 アリサは効果音がつきそうな勢いでヴァンの肩を指さした。そこにはもちろんユーノがいる。

 ユーノは身体をビクッ! と震わせるとそそくさとヴァンの服の中に入っていった。

 

「……嫌だってさ」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

「ユーノの精神がすり減るから止めてくれ」

 

 苦笑いを浮かべながらアリサにそう言うが、彼女はどうやら納得しそうにない。どうしたものかと考えた時、なのはが口を開いた。

 

「ま、まあアリサちゃん。ユーノ君とは後で入ればいいし、今回はヴァン君に譲ってあげてもいいんじゃないかな?」

『ナイスだ、なのは!』

『ありがとう、なのは! ……あれ、これってもしかして問題を先送りにしただけなんじゃ』

『ほ、ほらほら二人とも! 早く行っちゃって!』

 

 なのはのフォローを上手く活用して、早足で男湯に入る。後ろからアリサが何か言っているようだが気にしない事にした。

 そんな訳で早速ヴァンは温泉に入る為に服を脱ぎ、浴場に足を踏み入れる。そして桶で身体を流した後、タオルを浸からせない様に持って温泉に入った。

 

「ふぃ~……極楽極楽」

『ヴァンって結構おじさんっぽいところあるよね』

『それは聞き捨てならないぞユーノ』

 

 お湯を入れた桶の中で、額に小さいタオルを乗せているユーノを軽く半眼で睨む。ユーノは誤魔化すように笑ってお湯に身体を沈めるとブクブクと空気を漏らした。

 ヴァンはそれを見て少し笑い壁に背を預けると、空気が抜けるようなため息をつく。

 

『ところで相手の魔導師はどんなやつだった?』

『そうだね……歳はなのはやヴァンと同じくらい、バリアジャケットは黒一色、髪の色は金色。あと使い魔を連れていたっていうのが特徴かな』

『強さは?』

『今のなのはじゃ勝てないけど、負けもしないと思う。だいたい同じレベルだった。使い魔の方は僕がなんとか抑えていたしね』

『なるほどな……』

 

 軽く伸びをした後、ユーノの入った桶を持って浴槽から出る。そしてシャンプーを軽くつけるとユーノを洗っていく。

 ……あれ、この温泉て動物入れてもいいのか? ふとそんな事が頭によぎるが、まぁいいか、と気にしない事にした。

 

『なのはがどうしてジュエルシードを集めているのかを聞こうとした時、レプリロイドが現れて……』

『漁夫の利を狙ったってことか?』

『ううん、それがおかしいんだ』

 

 ユーノの身体についた泡をお湯で流す。身体を震わせ水を飛ばすユーノに軽くチョップして、ヴァン自身も頭を洗うためにシャンプーをつけた。

 

『おかしいって?』

『うん……その二体のレプリロイドが現れた時、相手の魔導師も驚いてた。けど、その二体はなのはだけに襲い掛かってきて……』

 

 なのはが二体を相手している間に、ジュエルシードを取られてしまったらしい。レプリロイド達は魔導師がジュエルシードを回収したことを確認すると、役目を終えたかのように攻撃を止めて退いていったという。

 ヴァンは訳がわからないと言うように首をかしげた。

 

『魔導師と協力関係だったって事か?』

『分からない。けど、これから相手が増えるのは間違いないみたい』

 

 頭を洗い流して、もう一度湯船に浸かる。肩まで浸かると、疲れが一気に取れていくように感じた。

 ヴァンは首元にお湯をかけながら、同じように桶の中でお湯に浸かっているユーノに目を向けた。

 

『なら俺は出来る限りユーノ達と一緒にいるようにするよ』

『そうしてくれると助かるよ』

 

 

※※※

 

 

 二人が風呂から出ると、ロビーには妙にイライラした表情のアリサとそれを心配そうに見るすずかの姿があった。

 その近くでは、なにやら考え込むようにして椅子に座っているなのはもいた。

 

「どうしたんだ?」

「あ、ヴァン! 聞いてよ、さっきムカつく女の人がいたの!」

 

 プンスカと頭から湯気が出そうな勢いで怒っているアリサに少し引きながら、事情を知ってるようなすずかに目を向ける。すずかは少し困ったような表情をしながら苦笑いを浮かべ、

 

「実は、なのはちゃんに絡んでくる女の人がいて……人違いだったみたいなんだけど」

「そうか……大丈夫だったか、なのは?」

「ま、まぁ大きい旅館だし、色々な人がいるから仕方ないよ」

「なのははいいかもしれないけど……まぁいいわ。戻りましょ」

 

 なのはもすずかと同じように苦笑いをして、誤魔化すようにそう話す。アリサはそれに呆れた表情を浮かべながら、自室に戻る為歩き出した。

 ヴァンが安堵のため息をつきかけた時、なのはから念話が届いた。

 

『ヴァン君、ユーノ君。その人、この前戦った子の使い魔さんだったみたい』

『は!?』

『えっ!?』

 

 その報告に思わずヴァンとユーノは目を見開く。

 まさかこんな早くに仕掛けてきたのか?

 

『大丈夫だったの?』

『うん。その場で襲われはしなかったけど……「これ以上オイタが過ぎるとガブッといっちゃうよ」って』

『忠告って訳か……』

 

 そんな会話をして歩いているとすぐに自室につく。

 中では恭也とすずかの姉である忍、そしてすずか家のメイドであるノエルとファリンがいた。アリサが鞄からトランプを出しているのを見ながら、ヴァンはなのはに念話を送る。

 

『とりあえず、注意だけはしておこう。ここにいるって事はジュエルシードも近くにあるかもしれないからな』

『うん、分かった』

『そうだね。僕も気を張っておくよ』

 

 チラリとなのはとユーノを見ると、同じようにこちらを見て頷いていた。

 それに返しながら、ヴァンとなのはは皆とトランプを楽しむのだった。

 




うーん
※12月11日修正

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