二次元街道迷走中   作:A。

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第八話

視線が痛い。突き刺さるっての。ちょ、せめて何でもいいから話せ、気まずいから。薙刀片手に制服姿の女の子が他の仲間達よりも先に一歩出る。前言撤回しよう。やっぱり何も言わないで欲しい。重々しい雰囲気と相まって告げられる内容に不安を覚えるんだ。

 思案するのに時間は掛らなかった。背を向けると徐に、モノレールを暴走させているシャドウのボスが待つドアを開け放つ。だってな、気まずさから逃れるには移動すんのが手っとり早いんだよ。それもこんな俺に今の貴重な時間を消費すんのは勿体ねーし。ペルソナのシナリオならタイムリミットの瞬間、お陀仏(ゲームオーバー)だろ?

 

 俺(イレギュラー)が居る自体に驚いて先に進めないんなら、せめて注意を惹きつけて我に返る手伝いでもしとくべき。中へと入り込むと同時に複数の足音がこちらに向かってんのを聞いた。うし、上手くいったか?

 

 足を踏み入れた途端に周囲の気温が急速に冷えていくのを感じた。肌寒さを超え、視界に氷の粒が飛び交うまでに至る。不自然なその現象はプリーステス――このモノレールを支配しているシャドウ――からの手厚い歓迎だった。宙に散らばっていた物が一斉に俺目掛けて飛来するのを横にジャンプして回避する。ブフとはいえ、痛いのは御免被るっての。しかも生憎、回復薬関連は根こそぎ部屋にあるしな。……せっかく買い込んだっつーのに。

 不意打ちとか危ねーと内心で呟いていると背後から小さな悲鳴があがった。確か公式ではハム子だったっけか?さっきもそうだったが、リーダーの役目を背負っている彼女が先だって行動をしているらしい。とばっちりを受けてしまったようだ。

 

 振り向くと入口でへたり込んでいるハム子の姿。他のパーティーメンバーは怯んで、後方で慌てふためくばかりで現状が見えてないっぽい。ぼーっとしてんのは大変宜しくないんで腕を引っ張って移動を促す。ちょっとだけ、非常事態だからと女の子と接触するのを許された事に感謝した。普段やらかしてみろ、普通にセクハラだの変態だのと糾弾されるのは目に見えている。ただしイケメンは除く。……はー、事実なだけに傷つくぜ。

 ブフが望んだ効果が得られないと知ったプリーステスは、口からどす黒く赤色い空気を吐きだしながら囁くティアラを呼び出す。宙に浮かびながら揺れる足だか手だか分かんねーのを見てるとしみじみ奇妙だと思っちまうよな。だとしても、体の半分から左右対称に白と黒で分かれているこのシャドウには負ける。髪が逆立っているのもそーだし、座り方を考えろとも切に思う。きっと、巨大な体躯を活かして先に進めない様に道を塞いでいるつもりなんだろうが、せめてもっと可愛い感じになって出直して欲しーんだけど。 

 

「来てっ!」

 

 タルタロスの探索で慣れたらしいハム子が反応して米神へと召喚銃を押しつけた。独特の発砲音と共に透明な破片が舞う。実を言うと本当に直に見たのはこれが初だ。ゲーム画面上よりもよっぽど大きいな、オイ。ボスがあれだけデカイせいで当然の比率かもしれない。視点が三次元へと変わったせいで見上げなければなんなくて首が地味に痛む。茶髪のロングヘアーに背負うマークがハート型と女の子らしさを前面に感じるペルソナだよな。それでいて滲み出る勇ましさは宿主を反映しているっぽくて、微笑ましくなる。

 あ、落ちついてんのが珍しいかもしんないけど、もう俺の出番て終わりだろ?こっからは主人公達が活躍して倒してめでたしめでたしだよな。

 

「私だって」

 

「ペルソナァ」

 

 ハム子に触発されたのかドアの外に居た二人も合流してイオとヘルメスを同様に出すと、囁くティアラに一斉攻撃を仕掛ける。反撃の隙は与えず一体を容易く消失させた。

 

「この調子で行くよ! 順平とゆかりはボスのプリーステス。私は囁くティアラを何とかするから」

 

「オッケー」

 

「ちょっと待てよ。だから勝手に決めんな、雑魚相手なら俺一人でも充分じゃんか。一撃で楽勝だから見てろって」

 

『待て、伊織。ソイツは炎を無効化するぞ』

 

 上手に連携しているかと思ってたらさっき俺に抱きついてた野郎が、勝手に暴走し出した。仲間割れの場面って確かにあったけど、流石にボス面でも尾を引くとは驚いた。ペルソナといいターン制のボタン操作だったからな。

 端の方にて他人事で傍観してた俺だが、ナビゲートしていた人の声が響きそうもいかなくなった。緊迫した声が耳に入ると同時に野郎のアギを受けても平然とした姿を晒したシャドウが、ヘルメスへと斬撃アタックを仕掛ける。回避率をあげた訳でもないペルソナが直撃を喰らい、ダメージを負った。続いて野郎も吹き飛ばされ壁に激突して叫ぶ。

 

「い、痛ってえぇえぇええ」

 

「しっかりしてよね、もう」

 

 回復魔法のディアを使ったイオと、呆れ顔した岳羽ゆかりが野郎を見降ろしていた。傷は癒えたが、苦々しい顔をした野郎が睨む。敵の攻撃を掻い潜ってサポートしたというのにそんな態度で接してくるもんだから大いに不服そうだ。岳羽ゆかりは踵を返しハム子の元へと向かった。野郎は力を込めて壁を一殴りするとまたボス目掛けてアギを放つ。

 分かるわ。男として幾ら強くても女の子に庇われるのはさぞやプライドが傷つくんだろーよ。転生前に体験した経験が蘇ったのと野郎の気持ちがテレパシーで伝わって来たんで戦闘に戻っていった野郎を生温かい目で見てしまう。と、今がチャンスだと気付いた。

 

 それぞれ個別で戦闘を繰り広げている個人の武器やペルソナのスキルなどはまちまちでも、それを受けた側はその威力の分はさっきの野郎見たく吹っ飛ぶ。その後は元の所へ行くものの、それまでにロスがある。つまり幾ら道を塞いでいても穴が出来るんだよな。ちと頑張れば運転席に辿りつけるんじゃね?

 タイムトライアルで時間制限があるのに、互いに噛み合わない主人公達の苦戦を見てそう思う。モノレールを支配してんのがシャドウなのは理解しているけどさ、ほら平行して能力使うのって骨が折れるだろーし。俺に気を取られて主人公達にフルボッコされるべきだろ。逆だと主人公達へ夢中になって集中力が途切れて運転台機器の操作が可能にあるかもしれない。本当なら俺も混じって戦うべきだけど、未だに先の実力通りに出来ると言う保証がない以上は迂闊に出ばれねーし。意地を張ってどうなるかは既に野郎が体現してるしな。

 

 決まれば早い。まごまごしている時間は無駄。手に汗で張り付いたナイフを片手に握ったまま、通路の隅からタイミングを見計らい座席上を駆け抜ける。ハム子のオルフェウスの奮闘でプリーステスが仰け反り、体を傾けて苦しんでいる最中だからって言っても囁くティアラが――倒したけど再び呼び出されて――二体存在している。注意してたけど、イオとヘルメスにより大丈夫そうだ。ペルソナを召喚した時から主人公達も俺を見てないし問題ないよな。

 

 目論みは兎も角として何とかシャドウらの背後へと到達した俺は、最後のドアを開けて運転台機器へ一直線。後ろから何時来るか冷や冷やしてっけどさ、溌剌とした声と一緒に殴打する音が聞こえる辺り、きっとハム子がクリティカルさせて皆で総攻撃をしているっぽい。

 やっと到着した先にはメーターが幾つかとボタンにレバーが出迎えてくれる。ゲームやってて良くブレーキを勘で分かったよなと思ったが、成程。思ってたよりも分かりやすいからか。まず減速や停止がボタン一つでスピード調整出来るとは考えられないから除外だろ。これはドアの開閉のためだとみた。次はレバー。これは複数あるからどれが目的のなのかは不明なんだよなー。ただ、一際存在感を放つものがある。握る部分が大きい作りをしているし、横に数字が書かれたラベルが貼り付けられてるのがどーみても怪し過ぎんだろ!

 

 確信を得た俺はナイフを一旦置き、全体重を掛けて――レバーにぶら下がる方法で――レバーを手前の位置に戻そうとする。スゲーかてぇ。押しても押しても鬩(せめ)ぎ合いで負けて意味を無さねー。主人公達の活躍でHPが削れたのか力が弱まったと安心してもシャドウが抗い、モノレールが左右に激しく揺れた。その拍子に手が離れて床に倒れる。打撲と筋肉痛が襲うものの、タイムオーバーしたらぶつかると最悪の事態が頭を過って負けじと再チャレンジしてやった。で、なけなしの力を振り絞っていると脱力を誘う効果音が。

 

″勇気+3″

 

空気嫁!!

 

 ぶら下がるのも限界で今度は上に乗りあがる。これでどーよ。という気持ちになって直ぐだった。レバーが動いたと同時に俺の体重に負けて折れたのは。ぶら下っても無事だったのはまだ支配力が強かったせいらしい。主人公達がボスを倒した事で制御がきく様になったのは良かったんだが、ヤバい。見事にバランスを崩した俺は、二度目になる床へ激突するという経験をした。

 激痛に耐えながら運転台機器にある赤いボタンを押してモノレールのドアを開く。ちなみに青は閉じるだったらしく反応は無かったんだよな。

 

 薄汚れた洋服を手で叩き、埃を落とす。擦り傷って地味に痛ぇ。俺はナイフを回収すると、勝利に湧き上がる主人公達――順平とも仲直りした様子だった―――を尻目に運転席付近のドアからひっそりと退散した。


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