二次元街道迷走中   作:A。

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第七話

 せっかく止まっていた筈のあの赤い不気味な線に支配されているのを見てしまう目が影時間と共に戻って来た。唯一、頭痛が治まっているのが救いだろうか。黒光りする物体は結局は効果が及ばなかったという事だ。大切に扱っていたのが馬鹿らしくなり、乱暴に床へと放り捨てる。何故だか無駄な焦燥感へと駆られ、手にしたのは護身用のナイフ。次いで俺は部屋に閉じこもっていたかったのだが、何かに導かれる様に街中をさ迷い、気付けばモノレールへ乗り込んでいた。

 広がるのはペルソナの適性のある者が見れる空間。乗客は棺へと変化を遂げており、かつ視界が不気味な緑色だ。それが赤い線と混じり合い一層、不快感を醸し出すのに一役も二役も買っていたのだ。だったのだが……

どうしてあれだけ忌々しいと感じていたんだと今更ながらに思う。

 

 込みあがる興奮がが収まらない。こんなに気が高ぶっているのにも関わらず、握りしめた柄のひんやりとした感触が脳内をクリアにしていく。俺は迷いなく赤い亀裂にナイフを突き立てた。口角が吊りあがる。そのまま片腕のみの力で振り下ろす。切っ先は寸分たがわず狙い通りに吸い込まれ、敵を分断していく。宙に放り出されたシャドウ上半身、目が合った気がしたが思い返す前に四散する。楽しい。でもまだまだ物足りない。この時をもっと感じていたいからだ。

 欲望のままに次の対象を探す。足を動かすまでも無く、相手が攻撃しようと近寄るのを幸いとしか考えられない。片足を前に出し、技を出されるよりも早く腕を奮ってやるだけでいいのだ。攻撃をしようと能力を使う直前、不完全な状態――俺に体の一部を切り取られた事――で強制的に遮られたシャドウは咆哮をあげる。中途半端な行き場を失ったエネルギーが体内で行き場を失っているのだろう。転がり悶えているのをしり目に、返したナイフで今度は胴体を薙ぐ。下から上へと振るわれた後、シャドウの尚も轟き響き渡る絶叫が闇に溶けた。俺はただ、モノレールの奥へと足を運ぶ。

 

 いうなれば、アクションゲームだった。それも単にボタンを押せばいいだけの。目の前に無数に蠢く有象無象を切り刻んでいく遊戯。倒せば倒すだけ快感が増すのだ。なにせ自分に敵う奴など存在しないのだ。目に映る全てを思うがままに蹂躙していく事が出来るなんて最高じゃないか。気分が高揚したまま力に酔いしれる。

 

 前提として相手は人間じゃない。牙を剥き、襲いかかってくる敵なのだ。その敵を圧倒的な暴力で倒す自体が普通に許される世界だ。寧ろ、シャドウの場合は人間に害をもたらす存在であるが故に滅するのを推奨し正しいとすら肯定してくれるお膳立てが付いている。これ以上のご都合主義はなかった。

 

 刃物を突き立てるというのに一切の抵抗感なく滑る武器は、自身が今までロクに使う機会が無なかったとはとても思えない軌道を描き、切れ味を遺憾なく発揮してくれた。亀裂に添わせると意識せずとも吸い込まれていくのだ。まさに自由自在、思うがままに使いこなす事が可能だった。今まで目の敵にしていたあの不気味な線へと当ててやりほんの少しの力を加えてやるだけでいい。長く愉快でたまらない感情を味わいたく思っていた俺は時折、ワザと一撃で屠る真似をせず、嬲りながら一心不乱にシャドウを倒し続けた。

 

 ペルソナの世界なだけあってか、シャドウを一体消すたびに経験値とやらが得られるらしい。最初は能力値が低いため直ぐにレベルが上がる。そして数値が上昇するに連れ倒す必要があるシャドウの数は増えるものの、レベルの恩恵により体力が衰えず、息切れすらしなかった。更に反射能力すら上昇し、寸前で避ける無様な真似をせずに済む様になったのだ。攻撃の前に余裕を持ち移動するかナイフを持つ手を振るうだけで事足りる。やがて幾度か凶器を突き立て解体しなければ倒せない敵ですら同種と次に出くわした時は一撃で屠る事すら可能になった。

 

 しかし、空間が限られている電車内。シャドウの数も同様に限定されている。

恐らく最後のモノレールを動かしているであろうボスを残した段階で全て片付けてしまったようだ。周囲を幾ら見渡してもさ迷う影が見当たらないのに肩を落とす。気を取り直してボスに挑んでやろうかと思うものの、ドアの前の塞いでいる奴が邪魔で通れない。何か喚いているらしいが、聞こえない。口を開けている姿しか目で捉えられない。頭が正常に働いていないのだ。近頃、見た事があるだろう顔だったが誰だっただろうか。

 

 ぼんやり考えていたせいだろうか、背後から抱きつかれ思考が遮られた。勢いが余り、上体が揺らぐ。誰だと振り向けば……って、男に抱きつかれる趣味なんざねえええ!全身に鳥肌が立ち、衝撃が脳髄を刺激する。何故か、今まで動きまわった際とは別段な疲労を覚えた気がする。拒否反応ぱねぇ。

 そして我に返ると俺は絶賛今直ぐに逃亡したくなった。うはw俺ってばテラ厨二病wwな所業を思い返して背中から冷や汗が噴き出しているけど、構ってられねーよ、切実に。ってか、ここモノレールで走行中なら外に出られねー……。そろりと見やると、ペルソナ3の初期パーティメンバーが揃い踏みで俺を凝視してた。オワタ!


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