授業の合間の10分間休憩―――――
次の授業に備えたり友達と話したりはたまた弁当を開け早弁する光景を見かける中
一人だけ室内で帽子をかぶっている男が生き揚々と立ちあがる。
よし!今日こそアイツを探しだしてやる!
また始まったと呆れるゆかりと、どうでもいいと言わんばかりに机につっぷす有里
その視線を気にせず拳を握り意気込む伊織順平
数日前ロビーで先輩達にコンビニであった事を熱弁し説得して桐条先輩や理事長がコネを使って探してくれるように頼み込んんだのはいいが
口頭でうまく顔の特徴を述べようとしても化物との遭遇とリアルとかけ離れた戦闘を前して脳内処理が追い付いていけず男の服装は覚えているもの顔は
あやふやで見ればわかるものの言葉で説明する程顔の特徴は鮮明ではない。
動いてもらっている先輩や理事長には悪いが数日たったいま冷静に考えれば口頭で説明できない以上第三者の協力を仰いでも意味が無いときずき自分で探そうと今に至る
「という訳でゆかりっちに有里協力よろしく!」
少しおちゃらけた笑顔で言う順平に対してゆかりは何で私達までと反論するが
「だってーオレっちよりゆかりっちの方がコネや知り合い多そうだし」
「それにゆかりっちも気にならない?召喚機を使わずに影をなぎ倒す謎の男!!」
と3分にわたる説得という名の一方的なマシンガントークと『頼む』と両足をつき教室のど真ん中で土下座しようとした事が功を制しゆかりは折れた
「で、どっから探すの」とゆかりが聞く
「えーっとほらと、あれだよ」と順平。
考えてなかった訳ね、と言いたげな目線が突き刺さる。
はははと笑う順平にゆかりの怒りより呆れが勝ったのか実力行使はなかったようだ。
「まったくもう、アンタって何時もこうなんだから」
「コンビニであったなら学園の生徒って可能性あるんじゃない?」
「おっ、ナイスだ有里」
「うーんそう簡単行くとは思えないけど……」
「他にいい考えが無いから仕方がない」
「それもそうね」
取りあえず、まずは順番に教室回ってった方がいいんじゃない?というゆかりの提案で、昼休みを校舎内探索に決定した。
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「マジで居たし!!」
「ちょ、順平!こんなに早く見つかるなんて違うんじゃないの、良く見なさいよ」
「見てるっての本物だって。俺っちを信用しろよ」
「結構、普通っぽい」
かなりびみょ―。なんだよゆかりっち。本当に強いの?そーは見えないんだけど。
いんや能ある鷹は爪を隠す的な乗りだって!普段は平凡そうに見えても実は……くーっ流石だぜ!
そんな口論をしている中、教室内へと有里は一人近づいて行った。
「昨日、コンビニに行った?」
「いや、行ってない」
有里が話しかけた人物は、心底だるそうな口調の割に強い警戒心を露わにしていた。
主人公side
あの夜から俺は可笑しくなったみたいだ。見慣れている自分の世界が全て予告なしに書き換えられ塗りつぶされ――滅茶苦茶にされた。
何時もの通りの家も通学路も教室でさえ様変わり。今ではすっかり線が無尽蔵に覆い尽くしている。
結果、シリアスとか似合わないと自覚している俺でさえ見事な程に気落ちしていた。
興味本位で、触るんだけどそれがヤバいの何の。
"ある日を境に特殊な目を持つようになったんだ。付随する目の効果で俺が触れたものは壊れるらしい"
深刻な厨二病のお知らせ。マジで乙の一言でしか片付けられない。人に相談すら出来ねえええ!
詳細としてはコンビニからの帰り、混乱して自室へ帰って来た俺は真っ暗な中でひたすら目を瞑って呆然と座り込んでいた。
実際どれだけ時間が経過してたのかは分からんけど、落ちつくためにパソコンを起動させたんだ。
で、ソレに気付いたのがそん時な訳。画面が発光し、浮かび上がる線に此処まで大きな傷が付いたのかと咄嗟に線をなぞり……
せっかくオンラインゲームのためだけに作ったパソコンが見るも無残なスクラップと化した。
テンションの低下に拍車を掛けているのはそのためだったりする。
え?悩みはパソコンかよって?どれだけ制作に手間暇とお金をつぎ込んだのかを知れば理解して貰えると思うんだ、うん。
ショックで寝られない頭で、どうやって復旧させようか。
もしくは――嫌だがどうしても諦め切れないのだが――もう一度作るなり、代わりのパソコンを買うべきかずっと悩んでいた。
教室の喧騒が遠く感じるのも寝不足のせいに違いない。……この変な物が見えるのも寝不足によって見えるって事にならない、かなー。
なりませんか、そーですか。
ったく、行ったから変なのに出くわして、行ったから変なのが見えるよーになっちまって。だったら行かなかったら…―行かなかったらそれこそ何も
「昨日、コンビニに行った?」
「いや、行ってない」
未練がましく、夜中のコンビニにさえ行かなきゃこんな事にはなどとIFばかり考えていたせいだ。
更に何もなかった事にしたい願望も相まってコンビニ=行ってないという変なベクトル――若干じゃなくかなりずれてる――の思い込があった故に、
何時の間にか前に居た奴のズバリと思考に的中させるかの様な質問に反射的に否と答えていた。
「……本当?」
「あぁ」
図星を突かれている上、元から嘘が得意とは言い難く動揺しているのが丸分かりだったんだろーな。
ソイツは距離を詰めて再確認してきた。それも目を覗きこみながら。
そこまで信用がないんだな。ま、実際違うんだけど。
ただ、一旦否定したからには後からやっぱ行きましたとは言いづらいんだって。
コンビニに行ったかどうかなんて、大した意味はないだろ。
だから、別にいいかなと返事したんだ。
教室の扉の入り口付近に立っている男に気付くまでは。
なっ―?! あの時の目撃者!?
あの時は自分以外の人間がいた事実に安堵の感情しかなかったが、冷静になって考えてみればとんでもない。
器物破損に銃刀法違反。あと動物っぽい何かをサックリ☆やっちゃったのをバッチリ知っている奴だ。
通報されても証拠不十分で何とかなりそうだけど、警察に監視カメラの映像を見られた瞬間に終わる。俺の将来的な意味で。
だから顔が引きつってるし、バレるかもという恐怖心が命じるまま距離を置いた。
というか……ちょ、マジでこっち来んな。
学校に居たら嫌でも自覚しちまうけど、至近距離で気味が悪い線を見るのは御免被る。
場所はバラバラながら、服の上からでも明確に分かる線。
それは額から斜めに頬へ。首筋から脇へと繋がっているかと思えば、腹から分岐し四方へと。
腕は勿論、太腿から曲線を描き膝を通り踵にまで達していた。
ちなみに、人間に対しても見える線はなぞったら俺のパソコンの様な末路を辿ったりすんだろーか。ははは、まさかな。
「えっとー、お話し中すんませーん。俺っちの事助けてくれた人っスよね?いやーあん時はマジ助かりました。お礼を言う暇もなかったから改めて言わせて欲しいなーなんて。ってか俺と同じ年?! まさかの同い年?!」
「馬鹿っ。 空気読みなさいよ!」
「…………」
逃げてもいいだろうか。チャンスだし良いよな。口論している隙をついて反対側の扉へとたどり着き、俺は教室を脱出した。
そして、また戻ってきてしまった自室。逃げるためとはいえ、サボっちまったんだけど。これでもクラスで真面目で通ってんのにな。
……棒読みなのはご愛嬌って奴だ。
壊れたのとは別のパソコンでネットで買い物をしていると眠気が襲ってくる。温かな日差しにつられて目蓋が重い。
瞼を閉ざした筈だというのに広がるこの青い空間は夢だからだろうか。
それにしては意識はやけにはっきりとしているんだが。大きな時計とその下の机を前にして、俺は立っているのだった。