二次元街道迷走中   作:A。

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第二十三話

岳羽ゆかりは実の所疑問を抱いていた。やけに誰もかれもが遠野誠を凄い奴やら、強い奴と評しているのだが、イマイチ実感が湧いていなかった。実のところどうなの? というのが本当だったりする。

 

しかし、空気を読んで口には出さなかった。何故なら、今まで進展せずに沈黙を保っていた場の雰囲気が瞬く間に変化をしたからだ。負から正への転換。それは思ったよりも大きなものをもたらしていた。

 

ちなみに、次々と――女子がメイド服で接待してOKを貰おうなどと訳の分からない――作戦を言う順平は論外ではある。勿論、桐条先輩に処刑を喰らっていた。

 

桐条先輩は、やけに遠野誠を支持しているようだった。話を聞くに、見えない所でこの特別課外活動部の為に常に動いて尽力しているとの事。曰く、モノレールの件。陰で命を救ってくれたらしい。

 

順平も師匠師匠うるさい。コンビニで助けて貰った経験は既に話して貰っている。鮮やかな太刀筋が見事の一言に尽きるとの事。

 

公子はなぜか、目をギラギラさせ捕食者の目をしている。新しい仲間も気になっているらしいが、それよりも遠野誠に興味津々と順平と情報を交換し合っていた。

 

真田先輩は純粋に新しい戦力が増える事に喜びを感じているらしく、戦闘のバリエーションが……などと呟いている。

 

どんな人物なのか、ゆかりは想像を巡らせる。が、想像がつかずにやめてしまった。桐条先輩の話ではペルソナ使いを2人もスカウトに成功させてしまったらしい。珍しくはしゃいている様子だった。戦力になり、かつ説得済みなら期待が持てる。

 

もうすぐ時間だ。ゆかりは緊張が高まるのを感じた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「何か……想像と違う感じしませんでした?」

 

ゆかりの問いかけに場は静まりかえり、応答する声はなかった。

 

皆の期待に反して、遠野誠はペルソナ使いを二人連れてこなかった。それも、説明をしようと待ち構えていたにも関わらず、桐条先輩から召喚器――内、一つは特殊な形状――を受け取ると、一言お礼を告げるとその場から去ってしまったのだ。

 

そう―――これからの期待を見事ぶち壊されてしまったのだった。

 

一気に皆が沈み込むのも無理はない。前とは違い暗い空気をぶち壊す様に敢えて先程大声で問いかけてみると、順平が真っ先に声を上げた。

 

「ちげーよ何かちげーよ?! あれ、師匠じゃない別人とかって落ちな訳?」

 

「いや……あれは間違いなく遠野誠だった。姿も声も間違いはないな」

 

沈んだ声で告げる桐条先輩の顔も暗い。逆に元に戻る所か余計に悪化した気がする。どういうことか暫く皆で思案するも結論は出なかった。

 

しかし、皆に浮かんでいるのは一様に落胆の二文字だ。お通夜状態と言っても過言ではない。

 

「提案です。落ち込んでても始まらないですし今夜、タルタロスに潜入しませんか?」

 

「ゆかりの言う通りだと思う。探索を進めるべきだよ」

 

公子が同意する。異常なまでの重い空気を払拭するにはそれ以外思いつかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

午後十一時―――長鳴神社にて。そこには遠野誠、コロマルの姿があった。事前に、コロマルには遠野誠がこれから行く場所についての説明、回復の道具は予め用意した話、同行の許可を申請する一幕が見られていた。最も、許可を得る際には二つ返事でOKを貰っていた様だ。

 

「す、すみません。遅れちゃいました」

 

鳥居に待ち人の山岸風花が現れた。制服姿でショルダーバックを斜めに下げている。

 

「大丈夫だって。時間通りだから」

「でも……」

 

気にする風花を宥め、コロマルに説明した内容を再び行う。彼女は一言一句を聞き逃さない様真剣な面持ちで聞くと大きく一つ頷いた。タルタロスに行く同意を得たのだ。

 

「えっと、じゃあ問題が唯一あるんだけど、午前0時になったら行くとして、もしかするとエントランスに特別課外活動部の人達がいるかもしれないな……だとすると……」

 

誠は語尾を濁した。タルタロスを探索するのは良いとしてその場では出くわしたくない。主人公組と遭遇しては困難しか待ち受けてない様な、そんな漠然としたイメージを抱いていた為だ。ここは別行動を取りたかった。

 

「はいっ!あ、あのっ。私が見てきますっ」

 

そんな誠を気遣ってか風花が申し出る。確かに大勢で行っては見つかる確率も高くなってしまう。また最初は一人行かせるのも、と渋っていたものの、強引に行きます! 行かせて下さい! といった主張を受けて、依頼する事にしたのだった。

 

「無理だけはしないで、危なくなったら絶対に逃げろよ! いいな?」

「はい」

「念のため、これを持っていってくれ。あ、形状は違うもののコロマルの分もあるんだけど、これは召喚器といって……何て言うか…銃の形状をしているけど、兎に角、弾は出ないから安心して欲しい。えっと、頭につきつけて引き金を引くことでペルソナを召喚出来る……らしい」

「はい」

「上手くは説明出来ないけど、索敵・探査に特化した能力を持っているから」

「はい」

 

二人に見送られて神社から一旦一人、タルタロスへ向かう山岸風花。その顔は―――満面の笑顔だった。

 

「初めて任されたお仕事ですもの完璧にこなさないといけません。学校の理科室で作って来た瓶の準備も大丈夫だし。ここは何としても役に立たないと。遠野様の計画通りに進めてみせますっ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

予想外の展開になってしまった。ゆかりは、呆然と光景を目の当たりにする他なかったのだ。桐条先輩と二人で今回の探索はサポートとして残ったものの、突如大型のシャドウが二体同時に出現してしまったのだ。

 

現在は一人、桐条先輩が応戦する構えを見せているが二対一では分が悪い。ゆかりは応戦したかったが、現在は不可能だ。背後からの奇襲。まっさきに狙われてしまった岳羽は盛大に追突を受け、ダメージを負ってしまった。

 

「岳羽! 無事か?」

 

「私の事は気にせずに、桐条先輩はシャドウを…っ」

 

これ以上の攻撃を避けるために取りあえずはと急ぎ敵から距離を置いて避難をしたものの、見ているだけというのは歯がゆい。なにせ自らを回復しようにもその隙を敵は逃さず狙ってくるのだ。

 

その度に桐条先輩がおとり役をして気を引きつけたり、ペンテシレアの能力を使って対抗するものの、全くと言って良い程、シャドウに攻撃が通じる様子は皆無だった。否、攻撃は確かに当たっている時もあるのだが、全くと言って良い程効いた様子が見られない。

 

一旦距離を置いて出方を見るしかないと判断した桐条先輩が牽制を中断する。

 

「大丈夫です。絶対にお役に立ってみせます」

 

すると、突如場にそぐわない明るい声色が響いた。それは自信に満ち溢れ、喜色を帯びている。それは待ちに待った瞬間が来たと言わんばかりに語尾が弾んでいた。

 

慌てて声の主を探ると、あれほど説得に行ったにも関わらず平然と拒否していた筈の山岸風花が居た。召喚器を片手に構えている。

 

「なっ、なんで此処にいるの?」

 

面食らう。そんな場合ではないのに思わず問いただしてしまうも、山岸風花に全くと言って良い程存在を無視された。声が届いているにも関わらずシカトを決め込んでいるのだ。アウトオブ眼中。こちらにどころか実は目の前の敵――大型シャドウにすら目線すら寄越さないなんてどうかしているとしか考えられない。

 

「ちょ、ちょっと聞いてる?!」

「聞いていません」

「明らかに聞こえてるでしょ」

「聞く気がありません」

 

一応は返事をしているものの、一転し感情は全く込められていなかった。目を白黒してしまう。

 

そんな最中、躊躇いなど微塵もなく、それが当たり前とばかりに召喚器の引き金を引いたのだ。

 

桐条先輩と共に目を見開く。パリンと砕ける音とともに出現したのは紛う事なきペルソナだった。

 

「うふ。遠野様は無理をするなと心配して下さったけど、力を示さないとお役に立てない所か認めて貰えないもの……一緒にご同行させて頂く前に力の事前学習は必要。これはテスト。絶対に合格してみせる――ハイアナライズ」

 

どうやら山岸風花は包み込む様に展開されているペルソナの能力を見事使いこなしているらしい。うっすらと口角を上げて笑っている。

 

「もしかしたら、上手くいったら褒めてくれるかもっ」

 

能力を一旦収めた風花は肩に掛けるタイプの鞄から手にビンの様なものを両手に取りだす。未だに何やらブツブツと呟いては、薄っすらと微笑みを浮かべている様は一種異様な雰囲気を漂わせていた。しかし、不思議と敵と相対する恐怖心や怯えなどの負の感情は一切伝わって来ないのだ。不気味な程に喜色満面の顔をしている。

 

やがて、そのまま大型シャドウ相手に突っ込んでいく。桐条先輩が危ないと叫ぶも彼女には届かない。

 

まず先手。ある程度の距離まで駆け寄りビンを器用にも片方ずつ大型シャドウへ向かって投げつけると、同時に退避行動をする。ゆかりの疑問は一拍置いて氷解した。―――轟音がエントランス一帯に響き渡ったのだ。あれは爆発物だったらしい。

 

爆風が吹き荒れ、収まりを見せると、二体はひっくりかえり鈍い金属音を響かせていた。よく見てみると左腹部と首の付け根の損傷が激しい。それからだ。山岸風花が再び接近をみせたのは。

 

馬乗りになると、その損傷部分を抉るように包丁を取り出し、突き刺していた。ガンッガンッと鈍い音が響く。

 

繰り返し繰り返し、その損傷が激しい一部分をピンポイントで狙い切りつけていく。余り殺生能力はないようだが、幾度となく繰り返されるその行為についに限界に達したらしい。

 

一体が輝きを帯び始めついに破裂した。ちゃっかり退避行動を取っていた山岸風花はゆったりともう一体の獲物の方へと向かい行く。該当する大型シャドウと言えば、破裂に巻き込まれ未だ他の部位の損傷まで増えている始末。……彼女から逃れる術はない。

 

「うふふふふふふふふふふふ。全ては遠野様のお導き」

 

包丁の刃が光を反射して輝いた。

 

そのまま暫く一方的に切りかかっていく光景を呆気に取られてみていると、隣に桐条先輩がやってきていた。

 

「一体これはどういう事なんだ?」

「わ、私にもわかりません。ただ、彼女は皆で説得しても耳を貸して貰えなかった山岸風花です」

「こうまで戦えるとはな……」

「今まで彼女がタルタロスに来ているなんて知りませんでした」

「適合者の一人……まさかっ」

 

急に何かに思い当たる事があったらしい。桐条先輩は勢いよく山岸風花の元へと走り寄る。明確な無視をされてしまったため余り好感は抱いていない。気が進まないものの、ゆかりも後を追った。

 

「君は山岸風花なのか?」

「そうですけど何か」

 

相変わらずの返し方だ。淡々と、包丁を鞄に仕舞いながら一瞥すらしない。

 

「遠野誠という名ま…―」

「名前を呼び捨てにするだなんて一体何を考えているのですか?」

 

一転した。今まで何の感情もこもっていなかったものが、急転したのだ。無感情から嫌悪へ。眉間に皺が寄り、侮蔑の表情でこちらを見てくる。そんな表情で見られるいわれはない。思わず、反抗心が大きくなる。

 

「貴女方は何も分かっていない。どれ程までに素晴らしくて偉大なのかを! 今回の一件でもそう―――全てが計算通りの出来事に過ぎません」

「なっ……では、遠野はこれを見越してわざわざ、召喚器を持っていったというのか。しかし、ならば何故一言説明をしてくれなかったんだ」

「さぁ、単純に貴女達が信用出来ないんじゃないですか?」

「……そうか。そうだったのか。我々は遠野を頼り過ぎていたのか、それで」

 

正直、気に食わない点もあるにはあるが言われてみればそうかもしれない。皆は、遠野誠という人物に大なり小なり依存をしていたのだ。彼がいるなら大丈夫。自分たちが駄目でも彼が説得してくれたから大丈夫。何かあっても彼が助けてくれるから大丈夫。

 

今現在、話を聞いて再度冷静に周囲を見渡せるようになったからこそ、分析して気づいたといっても過言ではない。しかし、果たして該当者である本人だったらどうだろうか?

 

それを知って遠野誠は呆れてしまったに違いない。陰で只管淡々と尽力する日々だったにも関わらず、表舞台に引っ張り出し自分たちの期待の通りに望むがままに助けて貰おう等と都合が良いにも程があるというものだ。

 

つまり、遠野誠はそれをワザと示したのだ。あのペルソナ使いを連れてくるという行為をしなかったのは、特別課外活動部の面々がこれ以上増長するのを防ぐため、必要悪を買って出たに違いない。

 

ゆかりは思い至らなかった自分を恥じた。恐らく桐条先輩に連絡した段階では迷いがあったに違いない。だから敢えて一人で来たのだ。見極められ、それで落胆されたのだ。だから、何も言わずに召喚器だけを受け取って去って行った。

 

桐条先輩も同じ考えに至ったらしい、愕然と自分のしでかした押しつけがましい感情に対し絶句をしている。山岸風花の話は以上で良いのかという問いかけにすら返答が出来ない状況だ。ゆかりには肩を竦め、颯爽と去って行く彼女を見守る他ないのだった。

 

 


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