二次元街道迷走中   作:A。

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第十七話

 後ろ姿がこんなに近い。手近にあった壁にそっと身を寄せながら彼を見守る。風花を庇って訳の分からない生命体と戦う彼が正しく輝いて見えた。最初は此方ばかりを見て気付かっていてくれたのだが、今は全くその気配は無い。

 風花の大丈夫だから心配しないでという言葉を信じてくれたからだ。

 

 非現実ぎみているのだが、何となく影の化け物の気配や同行が本能で理解出来るからの言葉だ。決してやせ我慢ではない。普段だったなら絶対に口にしない類のものだった。これ以上、馬鹿にされたり呆れられる顔は分かっていてもされたくないからだ。

 それを告げても良いものか不安に戸惑うばかりだったにも関わらず、様子を逐一心配してくれて、あまつさえ状態を瞬時に見抜き、何かアイツの存在とか感じる?と指摘までして貰う始末。

 

 隠すまでもない事実であって、彼にはお見通し。あぁ、最初に何故、一緒に体育倉庫の中に居たのかという疑問がったのだが、きっと風花が危ないと察知して様子を伺っていたに違いない。巻き込まれたにも関わらず、元凶の風花に――前回だけじゃなくて今回も救ってくれようとして……私の……私のせいなのに――一切怒る素振りすら見せずそれが決定打となる。

 大きく胸を手に当てて深く深呼吸をした後、風花は重々しく口を開き「あの化け物について分かるかもしれません」と、ついに告白するに至った。

 

 彼は驚く訳でも怪訝そうにする訳でも不審がる訳でもなくたった一言「……そう」と納得し、思考を巡らせつつ一緒になって力について考えてくれた。彼ならという希望を砕かれなかった現実に背筋に震えが走る。

 緊急事態から風花の隠れた能力が覚醒し、影の化け物に対抗しえる能力を持っているのだと聞かされて胸がときめいた。これで彼の助けになれるのではないのだろうか?と。

 

 今まで救われてばかりだった恩を少しでも返せるのではないかと憶測が過り、期待に胸が膨らんだ。一方で、ハッと気付けば彼は化け物と既に対峙していた。どうしよう、せっかく力になれると嬉しく思っていたと言うのに、それで警戒心が削がれ一気に足手纏いへと転落していい筈がない!

 その一方で彼は一心不乱に化け物相手に果敢に飛びかかるばかりだった。途中で苦戦すると、慌てて手を握り。必死で彼の勝利を祈り続けた。危ないと思ったのも何度も何度もある。

 

 しかし、彼は決して諦めたりせず、祈りを本当に感じているかの様に時間こそ掛けてはいるが必ず最後は勝ちを得るのだ。一般的に考えて怯えもせず、あんな化け物と対等に戦うなんて不可能だろう。たが、やりのけている。

 つまりは普通の並大抵な人間ではないのだ。なのに、そんな人間が風花を信じてくれるという心地よさに身を浸した。

 

 家庭環境を始めとした数々の学園生活の思い出を踏まえてみるとこんな気持ちは初めてで戸惑うばかりだ。凄い、嬉しいっ。慣れない感情に戸惑うより早く、溢れる膨大な感覚に支配されるのが分かる。脳内が処理する前に、気持ちが先走ってしまうのだ。

 今まで生きてきた人生の中で余りに根底を揺さぶる事態だったのだ。そう――それ程、風花の中では大きな出来ごとだったと言っても過言ではないのだ。なにせ、こんな強くて勇気に溢れる救世主様が風花というちっぽけでとるに足らない人間の応援なんてものを大切に扱ってくれるだなんてあり得ない。

 

 あんな凄い人に気にかけて貰えるだけでも夢だと見まごうばかりだというのに、こんな自分でも必要としてくれる事を知り、目の前が滲んだ。

 歓喜に打ち震える中、曖昧で四散していた力が急激に集中するのを感じた。今までは弱くて自分の意思すら見いだせなかった自分にほんの微かにだけれども、受け入れられ、役立てる部分があると理解して、初めて目的意識を確立したせいだった。纏う力をありのままに取り込み、ついに覚醒させた。

 

 

「っ!左脇から奇襲を仕掛けようとしています。前方へと回避して下さい」

「…………」

 

 

 刹那、付近の空間に存在する化け物の位置の把握範囲が拡大した。視界が一気に開ける。変に上から押さえつけていたのが解放されたせいなのか、より相手の行動すらも分かった。

 死角になりそうな左隅から気配を殺し、他の化け物に気を取らせている間にスピードを上げて迫りくる存在に気付くのだから。

 

 

「私に……こんな力が眠っていただなんて……」

 

 

 ふと、憶測が湧き上がる。何の取り柄もない自分を気にかけてくれるとは思えない。ならば特殊な能力を持っていたのだとしたら?――全てに納得がいくのだ。彼はきっと仲間を探してた。

 でも、風花が能力を自覚できずにウジウジとしてばかりだったから様子をそっと見守っていてくれたんだ。平和に過ごせるのならそのままで。確かに虐められていて世界は暗黒に彩られている。

 

 ただ、あの化け物達と戦うのと比較したらどうだろうか?少なくとも前者の方が日常に近い。更に本当の日常へと戻すべく、虐めを解消させてしまったなら?両親との不仲はあるものの、完全に平和そのものになる。

 虐めをなくすなんて出来る訳がないけど、彼ならば別だろう。救世主様は風花に日常を与えようとしてくれていたのだ!ちっぽけな自分を本当に救おうと尽力してくれていた!!

 

 所が風花が巻き込んでしまったから今度は化け物に対抗するための力が必要になったのだ。非力なのだから戦える術などないに等しい。苦肉の策として救世主様は敵探査(サーチ)能力を目覚める手助けをして与えてくれたのだ。

 

 戦う勇気もない軟弱なちっぽけな人間がせめて逃げ延びられる様にと。全てを理解して目から涙が溢れた。……神様……ありがとうございます……神様。


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