二次元街道迷走中   作:A。

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第十五話

主人公side

 

 視線を感じる……。気のせいなんかじゃねー。っと、野郎共の嫉妬の視線は除くけどな! 気にしたらキリがねぇし、段々殺気すら混じっている。ただ、それとは違うと思うんだよなー。只、只管に見られてるって感じだからさ。コロマルも学園からの帰り道でしきりに後ろを気にする素振りを何度もしてたから確信だってある。鬱陶しさから人気が少ない道を案内して貰っている身だから尚更だっての。それが数日前から続いてる。

 勿論、今日だってそうだ。俺は昨夜が雨だったせいで、未だに水がアスファルトに浮いている道を歩む。靴に水気が染み込むせいで至って歩き難い。つま先で鬱憤ですら蹴り飛ばせれば良いんだけどな、と思考を巡らせながらポケットから折り畳み式の手鏡を取り出した。うん、ベタだろうが何だろうが出来そうなことから始めないとな。

 

 でもって密かに俺の腹部まで持って来て、ブロック壁の曲がり角を左折した瞬間に勢いよく振り向いてある程度の位置を把握する。タイミングから上手く後方を確認した事はバレてないだろうが、はっきり相手が分かったなんてとんでもない。人影が電信柱に慌てて動いた位しか把握は出来てねー。不自然にならない程度にしか動けないのが縛りになるんだよな。こればっかりは下手にやると逃げられるから、匙(さじ)加減が難しいっての。

 さて、ここからが肝心だ。一呼吸置いてから数を数える。三、二、一 ――今だ!! 素早く手鏡の角度を整える。まず映り込んだのはオレンジがかった茶髪のポニーテール。次いでパッチリと開いている目と勇ましく引き締まっている口元が脳内に刻み込まれた。ここまで理解した脳は、即座に判断を下して手鏡を元のポケットへ乱暴に突っ込む。

 

(やっべ。主人公自らお出ましとか俺、疑われてんな……。監視。監視なのか? 生徒会長殿は好意的だったが、主人公には怪しいのがお見通しってか?)

 

 悶々と浮かび上がる嫌な予感と、不審な行動の心当たりに頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。そして現実を認めたくないが故にもう一度、振り向きたくなる衝動を飲み込んだ。あれは絶対にハム子だった。紛うことなくハム子だ。頭が混乱する俺をコロマルがそっと足に擦り寄って現実へ引きとめてくれる。

 何なんだろうな。悪い事はしてない筈なのに、パニックになるとか逆に疑いを深めるだけだってのに。落ちつこうとしても不安定な気持ちが強くなった俺は、コロマルを一撫ですると町並みを駆け抜けたのだった。

 

 

 

 

 

公子side

 

 ある日から桐条先輩の様子が可笑しい。あからさまに携帯電話を眺めながら溜息ばかり付いている。それも切なそうな今にも思いが溢れてしまう目をして。ぼーっと何もない宙ばかりを眺めて時間を消費しているの。だからといって影時間での行動の指揮は桐条先輩が問題なく通常通りだけど、明らかに変!

 私が此処に来てからまだまだ日は短いかもしれないけれど、其れ相応にペルソナの件を通して行動を共にする事も多い。色んな姿を見てきた。基本的に堂々と凛々しいのが桐条先輩だというのに見る影もなくて……。それも一人で部屋にいる時なら兎も角、それが皆の居る前だろうとお構いなし。他者の前で弱みを見せるだなんて、あり得ないと思ってた。

 

 勿論、私以外も桐条先輩の人物像は若干の違いはあっても統一されているから「これは夢、夢に違いないと俺ッチは思う訳よ……」だとか「き、桐条先輩、熱でもあるんじゃ?」「一体どうしたんだ美鶴!」とか叫んで揺さぶる人で溢れてる。つまり寮は、阿鼻叫喚の渦に包まれているんだよね。

 原因を知りたくても私達には心当たりがない上に、張本人に尋ねても返答は生返事ばかりで意味を成していないから考えもの。順平なんかは、学園で聞き込みをして悩みを解決してやろうぜ! って息巻いているけれど、前にも同じことをして凄く目立って噂になっているから駄目だと思う。ゆかりへ最近告白してくる人が「盗られる位なら」って勢いをつけて増えているって言ってたし。今、意味も無くふら付いていたら絡まれるに決まっているし。一応は、ゆかりを外してでもって手もある。……あるけど、それは成るべくしたくないかな。順平と付き合っている噂が蔓延(まんえん)しちゃって、消すのが大変だもん。順平は喜ぶんだろうけど。

 

 だから結果、謎は謎のまま。居づらくなった雰囲気の寮には戻りたくない。なら、時間を有効に使おうっと。私は放課後の予定を決めると学園か街の中を探索してコミュを上げられる人を探そうと思う。うーん、曜日によっては居る人と居ない人がいるのは何時もの通りなんだよね。更に仲良くなるために一緒に時間を共にするのも良いし、新しく誰かと友達になるのも捨てがたいな。って、あ。真田先輩だ。

 今回はポロニアンモールの方面にしようかと思って校門を出たら遠くに真田先輩が見えた。相変わらず周囲には女の子が押しあい圧し合いをしながら、少しでも自分をってアピール合戦の真っ最中みたい。日頃訓練をしているせいか気配にも敏感なのか真田先輩が私に気付いた。軽く頬笑みながら無駄に爽やかに手を振る行為は、彼女達の癪に障らない訳がない。鈍感もここまでくれば普通に迷惑だと思うのって私だけじゃないと思う。睨みつける視線を背に、立ち去ったのは極当たり前じゃないかな。真田先輩には申し訳ないけど。きっと、困り果てた中に来たから助けて貰えると思ってなんだろうなー。うーん、複雑。

 

 待って訂正するっ。立ち去る事に集中をして中々通る事がない道に入り込んだのが良かったみたい。本当は不運だけど例外ってあるよね。あの暴走したモノレールと、学園内で一回だけ直に会った人物を発見しちゃったら話は別だよ。こんな美味しい機会は滅多にないもん。只、まさかこんな不意に遭遇するとは思わなくって、咄嗟に隠れちゃったけど……。う~…ちゃんと話しかければ良かった。逆に今更出ていくのが出来なくなっているんだもん。

 でも、このチャンスを逃す手はないと思う。助けて貰えたし、個人的に興味もあるし、それに彼ともし接触して新しくコミュが生まれたら、絶対に物凄い力になる!! って、あ。もう居ない。そっと彼が居た場所を除いても姿が見えなかった。気合いを入れた矢先だったから尚更、私は落胆して肩を落とす。

 

(明日もここで待ってたら会えるよね。偶然を装って話し掛けて今度こそコミュをゲットしなくちゃ)

 

 

 


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