二次元街道迷走中   作:A。

12 / 25
第十二話

あれから昼休みギリギリまで生徒会室で時間を潰した後、教室へと戻った。視線が突き刺さるのをシカトして授業に集中してやったぜ。あれだけ授業に集中したのも珍しいっての。黒板の図形やら文字に数字を必死で書き写し、数式を解くのを繰り返す。顔を上げる真似は間違ってもしない。野郎と目が合って何が嬉しいと思うよ?

 休み時間は寝た振りをして机に突っ伏す。例えバレバレだろうがシラを切り通した。机を揺らす馬鹿が居たんでしがみつくのに苦労したし。そしてチャイムと同時にやって来た放課後に、俺は家に帰らずにとある場所へと訪れている。

 

 参道の階段を上り鳥居をくぐると真正面に拝殿が。横に御神木。やって来たのは長鳴神社だ。心なしか清浄な空気だと思って、大きく深呼吸しとく。んー、前は即刻帰宅がデフォだったんで新鮮だよな。つらつら考え事しながら歩いてたら賽銭箱の近くに来ていたみてぇだ。

 他の参拝客は全く見当たらない。巫女姿の美人が見られないのは残念だけどその分、時間を気にせずゆっくり出来るなら良しとしよう。あ、ちなみに俺は熱心な神徒ではないぜ。重大な理由があるからだ。

 

 さて、昨日の大事件の元凶でもあるモノレールに乗った時の事だった。名誉の負傷をしながらもブレーキを掛けたのに対して、不意に流れた場違いな効果音と脳裏に浮かび上がる″勇気+3″の文字。ペルソナ3でのシステムが逐一の行動にまで反映されるとは思わず、かつ存外真剣な場面にて繰り出されたタイミングから失念していたんだが、俺は気付いた。

 

そう、つまりこの世界では「学力」が、「好感度」が、「体調」に「金運」までもが――金で買えるんだってな!!

 

 しかも学生にとって良心的なお値段で、だ。ここすげー重要な。なにせ莫大な費用を使って通う塾やら眠いのを堪えて必死でやらかす一夜漬けしなくたって楽に俺Tueeeee!が可能とか、俺の時代が来たとしか思えん。確かに賽銭とは違って、おみくじは自分の金銭と体力を賭ける必要があるが、利益の方が大きいから問題ねーさ。

 学歴社会とまで言われる位だしな、将来のためにも毎日通ってやるぜ。一度でいいから主人公よろしく「て、手が止まらない……」をやってみたかったんだよ。

 

 完璧な人生計画に高笑いしそうな気持ちを堪えながら、財布を取り出す。んで、どーすっかなー。ゲームだと選択肢は5円に100円に1000円だった。それに神社で過せばもう夜になる感じだった気がする。ただ現実となると普通に2000円だろうが5000円だろうが簡単に出んだろ。

オンラインゲームしたさにバイトはしてねぇ。小遣いも限りがあるんだし、毎日通うとすると妥当な額としては100円か? いやいや、100円を投入した所で加算される学力の値は結局1だろ?なら5円でも……。確率を考慮するんなら……。

 

 暫く悩んだ結果――宝くじじゃねぇけどよっぽど当たる――おみくじで高額当選した際に多く賽銭箱に金銭を投入することに決めた。で、今回は150円だ。

 100円玉と複数の10円玉が木製の枠に当たる。50円は余分に入れる実験を兼ねて。他の予め入っていた硬貨とぶつかり音を立てるのを聞き届けると、頭上の鐘を数回鳴らす。テレビでやってた参拝客の姿を思い浮かべると二拝二拍手一拝してたよな。正直、受験やら正月以外で訪れるのは皆無なもんで知識も曖昧だ。ぎこちなく頭を下げる角度を調節しながら二回頭を下げると、今度は無駄に力強く手を二回打ち合わせる。

 さて本題の願い事だ。学業以外でも大丈夫か? 神社のご利益って限定あったっけ。願い事の内容は決めていたけどな、いざとなると迷いが出てきやがる。あれもーこれもーってな。願いなんてのは無限にありそうだったし、最終的には初心に返ってシンプルにした。

 

(学業が上手く行きますよーに、っと。ついでにイケメンになるための魅力もUPしてくれると有り難い。でもって賽銭は弾めねーんだけど出来るだけお参りに来るからその分、ご利益くれると助かります)

 

 あれだけ悩んでたのが嘘みたくあっさりと終わった。最後に一礼を済ませる。来るか……来てくれ……!

 

″学力+1″

 

 よっしゃー。俺の考えは的を射ていたぜ。余り成果はあげられなかったんだが、塵も積もれば山となる。毎日ステータスUPに勤しめばさぞや天才として俺の頭は進化を遂げるに違いない。これで勝つるッ。どこぞの悪役宜しく怪しげな笑いが出そうになるのを必死で耐える。間違いなく高笑いとかしそーだしな。腹筋がヤバいが気にしてられないんだって。口を両手で塞ぎ、体を震わせながら衝動が収まるまで待った。大丈夫だと手を離すと息が切れている。

 あ。ここで万一の懸念事項に思い至った。勢いよく背後を振り返る。良かった。やっぱし誰もいねぇって。いんや、神社でのコミュってあっただろ? そんでP3キャラも登場してんのに、んな不気味な事やってたら不審者だろーが。しかも普通に名も無いモブキャラだっていることもあるんだ。神社の掃除とかで人が居る可能性もあるしな。ふー……次回からは気をつけねーと。

 

 でもって、続いてはおみくじの方へと向かう。縁結びも大事だが今は神社への賽銭が何よりの優先事項だ。大吉を是非とも手中に収めてーもんだぜ。意気込みとは裏腹に恐る恐る一番隅にあるのを引く。――小吉だった。つまりは500円を入手。俺はマジで貰えるとは思っても見なくて、呆気に取られながら光沢を放つ500円玉を眺める。のおおおスゲー。財布にしまって、明日も来くる意識を強めた。

 なんだかんだで自問自答を繰り返していたために時間の経過が早かったらしい。ふと空を見上げると夕暮れだった。げ、見たい番組があったっつーのに。成果があっただけマシかと一つ溜息を吐くと、神社を軽い足取りで後にした。

 

 

 

 

 

 

 さてと、帰宅して直ぐにってな感じでオンラインゲームをやってた俺ですが、画面が暗転したのを機に時計を確認する。おー……ちょーど影時間ですよっと。ちなみにPCは破損したのとは別のを使ってたりするんだがそれは閑話休題。

 次のイベントとか展開ってなんだったっけかな。きっとボスを倒したんだから新しくタルタロスの上階に行ける様になるんだろうよ。って事は……ん? 探索が進んでるんならベルベットルームの依頼があるなら兎も角、わざわざ下の階まで来る訳はない。あの変な能力の謎を解明するにはうってつけじゃね?

 

 下手に強い敵が蔓延(はびこ)る階に行ったら即死亡だろ。複数のシャドウに囲まれても何とか対処するって範囲は限られてくる。ガチで俺一人ってのに不安が大いにあるけどさ、モノレールの時にレベルが上がったらしいし流石に1階なら死なないで済みそうだしな。筋肉痛に苛まれてはいるんだが――桐条グループ系列の会社で作られていた――湿布薬を貼りまくっているから酷過ぎるって程じゃない。

 それにハム子なら満月の翌日は疲労になる筈だ。俺は生徒会長殿に誘われてはいるけど、ペルソナは召喚できねーし。、適性があると思われての可能性が高い。前みたく変に出くわしても主に俺が気まずい訳。つまり不在時なら気にしなくても良いだろ。試しに行っても問題ないよな。うし、ちょっと出かけてみるか。

 

 ってのは実は建前だ。本当は好奇心のままタルタロスと化した学校を見に行きたいだけだったりする。夜道を歩けばポツリポツリと散らばる棺を横切りながら、校門を目指す。やがて到着するとまずは見上げる作業だ。ダンジョンの階数が半端無かった記憶があったけど、ここまでとか。背を反り上げているものの全然頂上がみえねー。本気で探したらひっくり返るだろ。と、判断して直立へと戻る。

 眺めは堪能したんで、早速エントランスの方へと移動した。装備はナイフとリュックに入れて背負ってきた大量の回復薬関連の品々だ。それとルーズリーフと筆記用具。これはマップを表示する機能が俺には搭載されてないんで重要なアイテムになる。

 

 存在を主張する青い扉に拳銃を返しに来ればよかったかと思うものの、またの機会にするとしよう。俺は無駄に規模がデカイ階段を上った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。