二次元街道迷走中   作:A。

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第十一話

 事件とは予告なく発生するものだ。――そう。平和な学園生活に終止符が打たれるとは思わなかった。

 

 購買や弁当などをグループ単位で仲の良い連中と食べながら、次の授業までの少ない自由を満喫していた時、ドアを生徒会長殿が開け放った。やがて周囲を見渡したかと思えば俺と目が合う。真っ直ぐにこちらを目指して歩きだし、机の前まで来ると爆弾を投下したんだ。

 

「すまない。少し時間を貰えないだろうか」

 

 集まる視線。呆気にとられる顔。大きく開く口。静まり返った空間にクラスメートの手に持っていた箸が落下する音がやけに響いた。俺といえば硬直して、思考すらも相手が相手なだけに氷結してたりする。

 普通に生徒会長殿の放送での呼び出しやら単なる用事での突撃ならば、ここまで甚大な被害は出なかったんだ。なにせ仕事の一言で済む。だがしかし、頬を染めて何処か緊張した面持ちで告げてくるというオプションが付属したらどーなる。 オマケに声が若干震えていて、それも緊張からかトーンが上がった話し方をするのが、美人で有名な高嶺(たかね)の花だとしたら? 生徒会長という役職柄、人前に出て話すのは日常だ。代表としての挨拶ですら顔色一つ変えずにあっさりとこなせる人物が緊張する理由は?

 

 それぞれの疑問を脳内で自問自答した野郎共の声にならない悲痛な叫びが聞こえてくる。音が無い分、顔芸の方が的確な例えかもしれん。一部、悲鳴にお姉様っつー単語が混じっているのは……あー間違いだろ。

 

「遠野誠だな?」

「はい」

「生徒会室の方へ一緒に来て欲しい」

「分かりました」

 

 廊下に出てドアを閉める折、教室内に音が戻る。その惨劇たるや混沌を絵に描いたようだ。…………俺、帰ったらヤバいよなー。ま、内心では困ってはいるんだけど、あれだ。まるでギャルゲーの主人公みたいでニヤニヤが止まらねぇ。この世界ではハム子だったけど湊だった場合、羨ましくて仕方なかった日常とかこんな感じだったのか?と想定するから余計にだ。

 

 時々ついて来ているのかを確認して来るから緩む顔を見られない様にポーカーフェイスを意識しつつ、生徒会長殿の後ろを歩きながら目的地へと向かった。到着したのは生徒会室。中に進み、勧められるままに適当に空いている席へと座った。生徒会長殿は隣へ。そして椅子だけ方向をずらして向き合った。他の教室やら廊下での喧騒が遠く聞こえるんで、ますます一種異様な空間が形成されている気がしてならない。手に汗が滲み、強く拳にして握りこんだ。

 

「その……だな。突然だと思うが礼を言いたい」

「俺にですか?」

「あぁ。昨日の夜に助けて貰っただろう。ありがとう。遠野は命の恩人だ」

「えっと、そんな大した事じゃないです」

「いや、それでも私達が助かった事には変わりない。怪我は大丈夫だったか?」

「情けない所を見せてしまった様で」

「勇ましいの間違いだろう?」

 

 やっと本来の人間らしさが出てきた生徒会長殿が俺に向かって頬笑む。目を細め、優しさとは別のやや悪戯っぽい印象を受ける。喉を震わせて笑う姿が似合っていた。

 俺としては確かに多少は役に立ったと思うけど、感情の込め方が凄くて大げさ過ぎると思うんだ。元々、介入しなくても成功している件にモノレールの止め方が格好良くないもんだから褒められても素直に喜べなくて複雑なんだよなー。あ。ちなみに最初は人違いだって惚けようかと考えたけど、あれだけ確信を持って断言する様を目の当たりにすると抗っても無駄だと思わせる。うーん、その辺りの手腕は流石って感じだな。

 

「あ。でもよく俺の学年とクラスが分かりましたね」

「全学年のデータベースを調べたんだ」

「ぜ……っ」

「関わりのある生徒ならば全員の顔と名前は一致して覚えているんだがな。残念ながら遠野との接点がなかったんだ。それで昨夜から理事長の協力を得て探していた、ずっと」

 

 ″ずっと″って文字通りに受け取っても良いのだろうか。この月光館学園はクラス数が多いために全校生徒の人数も相当だ。タルタロスでの戦闘後から俺を迎えに来るまで永遠と画面と睨めっこしていたってか。……マジで?俺の心境がそのまま顔に現れていたらしく、一旦生徒会長殿が咳払いをして、空気を引き締めた。眼差しが真剣さをヒシヒシと物語る。

 

「そこでだ。遠野、実力を見込んで頼みがある」

「?」

「私達に力を貸して欲しい。どうか、特別課外活動部へと加入して貰いたいんだ!」

「俺が、ですか?」

「あぁ。遠野だからこそだ。仲間になって貰えるならこれ以上、心強いことはない」

「え、あ、ちょ……桐条先輩、冷静になって下さいよ」

 

 口調にやけに熱が入っていると印象を抱いてから、俺は直ぐに両手が暖かさに包まれた。絡められた指が……指がヤバい。俺が握られた手を凝視しているもんだから生徒会長殿も釣られて目線を落とし、慌てて離した。頬に朱が走り目を逸らす。ゲームで思っていた気が強いという印象とは真逆の反応が新鮮だ。あと、正直勿体ない。

 

「つい実力がある者と出会えた興奮が抑えられなかったようだ。と、兎に角、返事を考えておいてくれ。それから皆にも紹介したいんだ。無論、遠野の都合もあるだろうからそれは今度で構わない。しかし一度、話を聞きに寮の方へと来てくれないだろうか?細かな説明もする。遠野が以前コンビニで助けた伊織という者が居て、モノレールでも会っただろうがきっと喜ぶだろう。後で連絡をくれないか?私が迎えに行こう」

 

 羞恥心を紛らわすために早口で一方的に全ての要件を話し、生徒会長殿は俺に何かを押しつけて退出した。走り去る足音が断続的にして、やがて分からなくなる。

 生徒会室に取り残されたのは俺一人でイマイチ現実味がねーんだけど、手に握っている携帯の番号が記された紙の質感が、リアルだと主張していた。


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