たぶん高校は京ちゃん視点だよ
やったね咲ちゃん!出番が増えるよ!
『 白望さんへ
こんにちは。お元気ですか?
長野は最近暑さが続いています。もう少し涼しいものだと思っていました。そちらはどうですか?
なんて、仰々しく書くのはここまでにしておく。
風邪は引いてない?きちんと生活出来てる?俺はすごく心配です。
この前の手紙でも書いたけど、ハンドボールの大会があったんだ。
決勝まで行けたんだけど、そこで負けちまった。
ってかすげー悔しい。もう少しだったのに。中学最後の大会で、勝てなかった。
なんとなくで始めた部活だったけど、三年間頑張って練習したし、本気で取り組んでたと思う。
それでも負けちまうのは、練習が足りなかったのかな?
全国行ければ、俺が頑張ってる姿、シロ姉ちゃんに見せられたかもしれないのにな。
ところで、シロ姉ちゃんの入ってる麻雀部の進展はどう?
出場校とか、出場選手を調べたけど、今回も出てなかったね。その様子だとまだ人数は増えてなさそうだね。
シロ姉ちゃんが個人戦に出なかった理由は察しが付くけど、流石に次は出ると思ってる。
シロ姉ちゃんは麻雀強いんだから、インターハイに出るところが見てみたい。
格好いいところ、見せてくれよ、期待してる。
でも、それだと俺が置いて行かれたみたいで悔しいから、俺も高校では麻雀部に入ることにするよ。
もちろん俺はそんなに強くないけど、インターハイに出られるように頑張るから。
また、決勝で負けて悔しがるなんてこと無いようにね。
それでは、お返事待ってます
追伸
携帯、買いました。メールアドレスと電話番号、書いとくから、電話かメールください。
京太郎より 』
手紙としては、少し口語で書きすぎている。
でも、俺はこっちのほうが直接話しているような感じがして好きだった。
自分が小さい頃から一緒に過ごしてきた人との会話。取り留めもない、日常的な会話がなんだか楽しいのだ。そういうものだろう。
白い髪をした、面倒くさがり屋の女の人。
最後に会ったとき、名前で呼んで欲しい、と言われたのに、手紙にはつい『シロ姉ちゃん』と書いてしまう。
あの人の言いなりになることへのちょっとした抵抗、みたいなものになっている気がした。
便箋に入れて、切手を張り、ポストに投函する。三年近く続けたこの手紙のやり取りも、たぶん今回が最後だろう。
ポケットには念願の携帯電話。慣れてないからだろうか、やけに重たく感じる。
街の郵便局から、歩いて帰る途中、聞き覚えのある声が、俺を呼ぶ。
「京ちゃん、こんなところでなにやってるの?」
髪型がやけに尖っているけれど、どこか小動物的な印象を与える女の子、宮永咲。
中学からの仲だけれど、なんとなく、お世話する機会が多くなった。
ってかポンコツオーラ出し過ぎなんだよなぁ…咲は。
咲の姉も、一見クールなんだけど、少し見てるとすぐポンコツの部分が出てくる。似たもの姉妹だなぁと思ったり。
「あぁ、手紙出してきたんだ。ところで、咲はどうしたんだ?こっちには本屋なんてないぞ?」
「え!?あ、あの、ほら、今日はちょっと天気いいから、お散歩が楽しいなーって…」
「あぁ…迷子か。」
「断じて違います!」
ほら、こいつはすぐに意地を張って、方向音痴なのに無茶をして。
道に迷って涙目になりながら助けを求めてくるんだ。
「しゃーねぇなぁ。家まで連れてってやるよ、お姫様」
「お姫様…って別に迷子じゃないって言ってるじゃない!もう!」
プンスコしながら、それでも俺の後をついてくる。こいつちょっと素直すぎるから、誰かにだまされないか不安になる。
「そういえば、聞いたことなかったけど、お手紙誰に出してるの?」
「あー…岩手にいた頃の知り合いな。大分お世話したし。」
「された…じゃなくてしたなの?」
「あぁ。した、なの。すんげー面倒くさがりな人でな。一人じゃまともに動こうともしなかったんだぜ。こたつに入ったり、ごはん食べにくるときは素早かったと思うけど。」
うん、こたつをうちにリヤカーで運んできた時は目を疑ったね。
「ふーん…なんか嬉しそうだね、京ちゃん」
「そりゃな。なんだかんだ言って一番長く一緒に居た人だからな。もう姉みたいなもんだよ」
「…まさかお姉ちゃんのお世話も良くしてたのってその人の影響!?」
「あー…そうなのかもしれないな」
そんな、なんでもない会話をしながら、咲を家に送り届けてた。
その途中、明日学校終わったら勉強教える、約束をして。
別れ際に、忘れないでよ!と咲の声が聞こえた。そのとき、
"私のこと、忘れさせないから"
声が聞こえて、唇に柔らかさが、温かい感覚がして。
目を見開くと、視界がほとんど、彼女の顔で。
姉のようだなと、思っていた人からの、思ってもみない行動を思い出して。
あぁ…くそ、どういうつもりであんなことしたんだ…『シロさん』は…
と。
俺は、未だにあの時のことを忘れることができないでいた。
手紙で、料理を覚え始めた時とか、友達と同じ所に進学するとか、麻雀部に入った、なんて報告がくるたびに。
俺は、彼女の顔を、あのときの感覚を思い出してしまう。いつもお世話してあげた人に、主導権を握られた感じがして、俺は恥ずかしくなった。
くっそ…男の子には毒だぞ…恨むからな…と。
どこかで彼女が、無表情で舌を出して、バカにしてきた気がした。
シロは京ちゃんの心に深い何かを植えつけたようです。
でも不快なものじゃないからね、仕方ないね。