迷い家のお椀   作:ハム饂飩

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お前夏しか書いてないな?

ってことでほんへとは全く関係のない文章です。

読んでもいいことないゾ♡


一部修正しました


里帰り

少し前までは紅葉狩りだの食欲の秋だの、いろいろと騒がれていたけれど。

 

最近は冷たい風があたりを冷やし、はらはらと雪が降っては地面で溶けていく。

 

気がつけば、あたり一面が枯れ葉に包まれていて、なんとなく寂しい。

 

枯れた紅葉の上にだけ少し残ったべた雪を、踏んで歩いていくと、少しだけ開けたところに出た。

 

いつもより息を大きく吸えば、夏とは少しだけ違う澄んだ空気が。

 

少しだけ息をゆっくり吐けば、いつもより寒い空気に息が白くなる。

 

久しぶりに戻ってきた実家。山の中にある、小さな町の一般的な家。

 

そんな家の少し裏に入口がある、小さな山の小さな広場。

 

ぽつんとさみしく置かれている少しだけ古いベンチの雪を払い。

 

そこで少しだけ横になる。

 

上から落ちてくる雪が目に入りそうで入らなくて。

 

どこから落ちてくる雪なのかと、少しだけ考えたけど、きっとどこから来たかなんて関係ない。

 

ここに落ちてきた理由なんてなくて。

 

私とおなじだな、なんて思った。

 

 

私は。

 

なんとなく目が覚めて、なんとなく手持ち無沙汰で。

 

なんとなくだけど、外に居たい気分だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校を卒業してから、東京の大学へと進学した。

 

その大学が自分に合っているかどうかと聞かれると、なんとも言えず。

 

ただなんというか、一種の目的を達成してしまったから、だろうか。

 

 

今まで無くしたと思っていたものが、意外とすぐ近くで見つかったり。

 

遠くて届かないと思っていたものに、すんなり手が届いてしまったり。

 

それなのに、それ以前のように会えない生活をしなければいけなかったり。

 

 

そんなことがあってからというもの、以前にも増してダルく感じることが多くなった。

 

 

授業は最低限、単位をとるために行く。

 

買い物は1週間分の食料を通販で。

 

バイトは無理のない程度に。

 

 

そんな普通の。誰でもできるような生活を2年続けた。

 

そして、ふと気づいたら。

 

生活の中に麻雀が入って来ることはなかった。

 

 

思い出せば、麻雀を始めたきっかけも、続けていた理由も、飽きなかった環境も。

 

ほとんどが、友人や大切な人との関わりがあったからで。

 

なんとなく高校時代を思い出して、少し悲しくなって。

 

 

「久しぶりに…帰ってみようかなぁ…」

 

 

そして、少しだけ。

 

昔に戻りたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、シロさん?

 

なんで俺は呼び出されたんでしょーか?」

 

 

「…1人で帰っても暇だし…」

 

 

「…」

 

 

 

帰省も兼ねて、岩手へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家についたときには、もうすでに夜だった。

 

2年ぶりに会った両親は、相変わらず。

 

いや、少しだけ老けたかもしれない、そんな小さな変化。

 

いつから、そんなに細かいことに気づけるようになったんだっけ。

 

そんなことを思いながら、自分の部屋へと向かう。

 

久しぶりの自分の部屋なのに、綺麗に掃除されていたり、キチンと仕舞い込んでたはずのおもちゃの指輪がおいてあったり。

 

有り難いけど、少しだけ恥ずかしい。

 

 

安心する、部屋の匂い。

 

なんとなくわかる、部屋の広さ。

 

ダルくて、ダルくて、もう動きたくなくて、ベッドに体を放り投げる。

 

お風呂に入る気力もなく、着替えるのが精いっぱいだった。

 

ただ、意識を失う前に。

 

昔に戻れた、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた、と思ったけど。

 

窓の外は薄暗くて。

 

時計の針も、ちょうど上と下を指しているくらいで。

 

せっかく実家に戻ってきたのに、目が覚める時間が変わらないことに、少しだけだるさを感じた。

 

こんな時間では、まだ両親も、京太郎も起きては居ないだろうし。

 

せめての暇つぶしにと、綺麗にしまわれている漫画を何冊か引っ張り出して、めくってみる。

 

楽しい冒険や、儚い恋愛、悲しい悲劇、いろいろなものがあるけれど。

 

何度も読んだせいか、どれを見ても前に読んだ、という感覚が邪魔をする。

 

元の棚に、順番なんて気にせず押し込んで、またベッドに倒れこむ。

 

 

前は、どんなことをして時間をつぶしていただろうか。

 

なぜか思い出せなくて、またダルくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ上からの雪を見ていただろうか。

 

少しだけ厚手のコートや、ベンチの上には、気づけば雪が積もっていた。

 

起き上がって座りなおせば、雪がふわりと落ちていく。

 

周りの木に残っている枯れかけの葉も、風と一緒に落ちていく。

 

軽く目を瞑り、耳を澄ませる。

 

夏場に聞こえてた蝉や、鳥の声がほとんど聞こえず。

 

聞こえるのは、風の音だけ。

 

 

そう思ってたけれど。

 

誰かが走って、少しだけ乱れた息と、枯れ葉を踏む音。

 

でも、それを聞いても、少しもダルいと思わなかった。

 

 

ただ少しだけ、心配を掛けたかな、なんて。

 

心の中だけで、反省はしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪の乗った頭を叩かれて、家へと連行される間。

 

どちらからともなく、会話が始まる。

 

 

 

「あのさぁ。朝からいきなりどこかに行くのはやめて?」

 

 

「…なんとなくだし、暇だったし、しょうがない」

 

 

「しょうがなくない」

 

 

 

すぐにつくはずの距離なのに、なんだか回り道をしているような気がして。

 

 

 

「朝はもうおばさんたちが用意してくれてるみたいだし、昼は作るつもりなんだけど、なにが食べたい?」

 

 

「んー」

 

 

「なんでもいいぞ」

 

 

「…じゃああれ、前も作ってもらった鳥のやつ」

 

 

「いきなり肉?」

 

 

「お酢のやつ」

 

 

「昼から煮込みを要求するのやめてくれない?」

 

 

 

ほんとうに、何でもないことを話して歩いているだけなのに。

 

なんでこんなに懐かしいのか。

 

 

 

「…皆も連れてくればよかった」

 

 

「俺、その人たちとそんなに会話したことないんだけど…」

 

 

 

そして、ふいに二人とも足が止まって。

 

 

 

「戻ってくる前、すごくダルそうだったけど」

 

 

「…うん」

 

 

「…こっちに来て、どう?」

 

 

 

親も、高校のみんなもそうだけど、うん。

 

今一番近くにいる人との思い出が一番多くて。

 

前みたいに一緒に居られるから。

 

 

 

「…ダルくない」

 

 

 

「…そっか」

 

 

 

一緒にいるだけで、少しだけ温かい。

 

全然、ダルくない。

 

やっぱり、私は今が一番幸せだ。

 

そう思えた。




「なんか機嫌良い?」


「…そう?」


「うん」


「…そっか」


「あ、買い物ついでになんか買ってきてほしいものある?」


「じゃあアイス。レモン味の」


「もう冬なのに?」


「…冬だから」


「…」


「…」


「…やっぱりなんか機嫌いいな

何か隠してない?」


「………まだ秘密」


「…」


「…」



「まぁ…うん、買ってくるよ」


「よろしく」













何が秘密なのかは永遠の謎です

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