もし京太郎がシロちゃんを選ばずに咲ちゃんを選んで、シロちゃんが完全に壊れてしまったら、という妄想。
(ほんへはまだかけて)ないです。
誰にも見つからない場所、高いところから見渡しても森以外何も見当たらないような、そんな場所。
木々に囲まれた少し大きめな茅葺き屋根の家がある。そこには一人の青年が住んでいる。
広い庭に、畑、何故かある水田、野生動物を捕まえる罠。テレビや電気はないが、必要な明かりは、いつも夕方になると帰ってくる女性が居て、その人が持ってきてくれる。
女性は、青年にとって子供の頃からの付き合いで、友人であり、家族であり、姉弟であり、初恋の人でも有った。
青年の一日は、畑や罠の確認などで終わってしまう。
何の不満もなく、何の疑問もない。ただ、満ち足りた生活がそこには有った。
今年も、たくさんの野菜が取れた。これで今年の冬も野菜が足りずに、白望の稼ぎを無駄に使うことにはならないだろう。
もう、秋も終わるころだろうか。家の周りを囲んでいる木々は赤くなって、少しづつ葉も落ちている。
そうだ、落ち葉を集めで焼き芋でもしようか。さつまいもも採れたし、ちょうどいい。きっと喜んでくれる。
それなら、落ち葉を集めておいたほうがいいな。掃除はこまめにするので箒はあるが、あれは落ち葉を集めるのに適した形じゃない。
熊手はどこに置いてあっただろうか。さっき出てきたときに見た玄関には無かった。物置小屋のほうだっただろうか。
もう箒でいいや。別に、集められないわけじゃない。
そういえば、最後に熊手を使ったのはいつだったか。めったに使うことは無いシロモノだが、去年も、その前も使ってない気がする。
あれ?そういえば俺が最後に買い物に行ったのはいつだっただろうか?
年単位で出ていないのは確実だ。まるで思い出せない。獣道は何箇所かあるが、どれが街に続いていただろうか。
白望がよく使う道にいけば出られるだろうか。そうだ、明日は久しぶりに街に出掛けてみるのも良いかもしれない。
そう決心して、青年は落ち葉を集め始める。手際よく、穂先がやけに曲がった箒で器用に集める。
森に囲まれているだけ合って、数十分で落ち葉は山のように集められた。
そのままでは生乾きの葉で、火が弱くなってしまうので、集めた落ち葉を乾燥させる場所に移動させる。
その青年は、久しぶりの街への外出に心が踊っていた。幸い、お金は少しづつもらっている物がずっと貯められている。
その途中で、突風がふいた。
青年が顔を咄嗟に腕で守り、目をつぶる。落ち葉が舞い上がり、体中に木の葉が当たり、カサカサ、ベチベチ、そんな音を立てる。
少しすると、風が収まったのか、青年は目を開く。いつも通りの、夕暮れが見えた。
すごい風だった、集めた木の葉もどっか飛んでったなぁ。もう一回集め直しか。
箒をまた取りに行かなきゃな。
…あれ?俺は明日何をするつもりだったんだっけ…?
「焼き芋でしょ」
あ…白望、お帰り。仕事お疲れ様。どうだった?今日の試合。
「問題ないよ。ダルかったけど、いつも通り勝たせてもらった。ちょっと厄介な人も居たけど…勝ったよ」
白望が苦戦するなんて結構すごい人だな、その人。なんて名前?
「………言う必要、ある?」
そ、そんな不機嫌そうな顔するなよ、ちょっと聞いてみただけじゃん。
「そんなことより、いつものあれは?」
う…またあれやるのか…?
「当然」
二人の会話は、少しだけ止まる。無言で二人は見つめ合い、距離を近づけていく。
お互いに、唇を合わせ、その柔らかい官能に浸る。
甘い、香り。嫌でも、いや、不快ではないが、鼻に入ってくる女性らしい香りに、青年の心臓が高鳴る。
仕事帰りのはずなのに、まるで汗の匂いや、タバコなどの臭いも感じさせない。二人は、ただ夢中にお互いを求めた。
青年の意識がぼうっ…とし始めたその矢先、その口の中に舌が入った。
それに驚き、後ろにのけぞると、そのまま口を離す。
女性は目を少し潤ませて、青年は気恥ずかしそうにその目線を逸らす。
「これで終わり…?」
お、お帰りのキスだけで恥ずかしいのに、どうしてそこまでしなきゃいけないんだ!
「ここには、私達しか居ないのに、恥ずかしいの…?」
恥ずかしいわ!
「…そう。ま、いいか。後で、埋め合わせしてもらうから」
そう言って女性は微笑んで部屋に入っていった。
一人残された青年は、頭を掻いて後を追う。
この人は、いつまでたっても俺を困らせたいのか…なんて。
多分、なんだかんだ言って、お世話して、されての関係は変わらないんだろう…そう思いながら。
そういえば、ここに来る前は、どうやって過ごしていたんだっけか。
白望もそうだけど、もともとはこんなキスなんてする関係じゃ無かったと思うんだが、どうなったんだっけ。
確か…本当に喜んで欲しい人がいたような…そんな気がする。
ドアを締める前にまた突風が吹き荒れる。
危ないと思い、すぐに青年はドアを締めた。
…今まで自分は何を考えてたのか、そのことすらも忘れたことに青年は気づかない。
夕餉を用意し、二人で食べる。ちょっとしたことで喧嘩して、すぐに許し合って。
夜が遅くなると、二人は一つの布団に入る。
何の不満もなく、何の疑問もない。ただ、満ち足りた生活がそこには有った。
須賀京太郎は私を選ばなかった。長野で会ったって言う、同い年の女と付き合うと決めたらしい。
誰にも邪魔されなければ、自然と私と京太郎は結ばれていたはずなのに。
でも、私は京太郎を諦めるなんて出来なかった。どうすれば良いのか、何度も、何度も迷って、答えを得た。
この世界は、須賀京太郎と、小瀬川白望だけで出来た世界。
正確には、私だけが必要だと思ったものしか残らない。いつの間にか、そんなふうに力を使えるようになった。
迷うことなんて無い。ただ、幸せなだけの世界を、未来を望んだ。
誰もこの世界を見つけることは出来ないし、京太郎も外には出さない。もし、いらない記憶が戻ったら、どうなるかわからないから。
何でもあるし、何もない。そんなシアワセな世界。
京太郎も、一人だから余計なことを考えるのかも知れない。
子どもでも産めば、寂しくなくなるかな。
「京太郎」
ん?
「好きだよ」
俺も、好きだよ、白望
あぁ、やっぱり、私は幸せだ。
「あなたがっ…!あなたが何かしたんでしょ!?
私、知ってる…!京ちゃんがあなたに会いに行ってから失踪したってこと、知ってるんだからっ…!」
「…ダルいなぁ…良いから試合始めようよ。京太郎が居なくなって悲しいのはこっちも同じ何だから…」
「ふざっ…ふざけないでよ!」
試合前にこんな会話が有ったかもしれない。
ヤンデレっぽいのかけて僕、満足!