迷い家のお椀   作:ハム饂飩

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やっぱり遅れてるじゃないか(半ギレ)

だいぶ終わりそうなふいんき(なぜか変換できない)

残りはパパパッとやって、終わりっ!ってできればなぁ…


第十三話

ホテルの部屋に二人きり、と聞けば、少し危ないシチュエーションだけれど。

 

京太郎が引っ越す直前に泊まった時と同じ、少なくとも年齢以外は同じで。

 

二人きりになることに抵抗もないし、もし、そういう関係に成れれば、それでもいい。

 

それに、ずっと一緒に居たから、平気だと思ったけれど。

 

 

「シロさんは、何か飲む?」

 

 

「…なんでもいい、けど、お茶でもいい」

 

 

「どっちさ」

 

 

いざこうなると、うまく話せなくて。

 

何も話せないのに、自分でも何を言いたいのかわからないのに。

 

京太郎から、何かをしてほしいというのは、少し虫がよすぎるだろうか。

 

備え付けの冷蔵庫からお茶を取り出している京太郎の横顔を見る。

 

見ているだけで、胸が暖かくなる。これからのことを考えて胸が高鳴る。

 

変われるだろうか。今日ここで、今までとは違う関係まで踏み切ることができるだろうか。

 

そんな期待を持つことを、許してくれるだろうか。

 

それが、ただ不安だった。

 

 

 

 

京太郎が顔を上げる前に、ベッドへ寝転んでしまう。

 

ぼふっ…と、そんな音で私がベッドに突っ伏したことに気が付いたのか、京太郎はこちらを見ていた。

 

 

「なにやってるんだ…」

 

 

「寝てる」

 

 

見りゃわかる。そんな風にこっちへと視線を向けてくる。

 

その顔には呆れと、少し羞恥の感情が見えた。

 

 

「仮にも、男の部屋なんだから、もう少し自重というものをさ…」

 

 

「じゃあ、京太郎は、私に何かするの…?」

 

 

「なにもしないって!」

 

 

顔を真っ赤にして叫ぶ。そんな反応を見せてくれる。

 

私を姉として見ているのならば、もっと反応は淡白になるだろう。

 

つまり、今私は、京太郎に意識してもらえている。

 

 

京太郎が、私を女として見ている。そう、わかっただけで。

 

なぜこんなにも、顔が熱くなるのか。

 

なぜこんなにも、胸が熱くなるのか。

 

違う関係になれるかも知れない、という期待が、許された。

 

そんな気がして。

 

 

だから、もっと。もっと見せてほしい。

 

昔とは違う、幼馴染としての、弟としての京太郎じゃなくて、成長した須賀京太郎という男の一面を。

 

私に、他の誰でもない、私だけに見せてほしい。

 

その代りに、見せてあげたい。幼馴染としての、姉としての私じゃない、成長した、私という女のすべてを。

 

あなたに、他の誰でもない、あなただけに知ってほしい。

 

 

「シロさん…」

 

 

不意に、話しかけられて、余計に胸が高鳴った。

 

告白をされたら、どうしようか。もしかしたら、強引に迫られてしまうかもしれない。

 

そんな浮ついた思考に囚われていた私を、京太郎の言葉は。

 

一気に現実に引きずり戻した。

 

 

「今日の試合、どうして清澄(うち)だけを狙い撃ちしたんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

京太郎には、わかってしまったようだ。

 

私が、何を考えて試合に臨んだかを。

 

 

「京太郎が、馬鹿にされたから、許せなかった。それだけ」

 

 

「それだけ…って…。なんで、そんなことだけで…」

 

 

「それだけなんて言わないで」

 

 

「シロさん…俺は手加減して欲しいわけじゃない。

 

ただ、皆に理不尽に当たるのはやめて欲しい」

 

 

「理不尽…」

 

 

理不尽なものか。

 

 

「京太郎が、一人で泣いてたから」

 

 

「そ、それは今は関係ないじゃないか」

 

 

関係無いものか。

 

 

「誰も、頼れなかったから、一人だった」

 

 

「違う!情けない顔なんて皆に見せられなかっただけだ!」

 

 

「負けて、泣くことは情けないことじゃないって、あの時も言ったと思う。

 

私は、頼られて嬉しかった。どうして、清澄の人たちを頼れなかったの?」

 

 

「………」

 

 

私が会えないときも、すぐ近くに居たはずなのに。

 

予選敗退した時の、京太郎が流した涙の意味も、悔しそうな声も、あの子は知らないだろう。

 

仲間として、一緒に行きたかった。という気持ちを、全くあの子は知らないだろう。

 

でも、あの子は、京太郎を便利な道具程度にしか考えていない。

 

ならば、他の人たちは、普段どういう扱いをしている?

 

全員に、とまでは行かなくても、だいたい同じ程度の扱いしかされていないだろう。

 

 

もし、京太郎が(・・・・)、本当にあの人たちを仲間だと思えているのなら。

 

 

私が諭さなくても、京太郎は最初から泣いていたはずで。

 

一人で抱え込まないで、全員に気持ちを伝えていただろう。

 

なのに、関係ないかのように、ただ後ろで従っていればいいという環境、空気を作ってることが。

 

許せないし、許したくもなかった。

 

 

でも、京太郎が。それに気づいてない。

 

いや、気づいてたとしても、京太郎は優しいから。優しすぎるから。

 

君に対する理不尽なんて、無いように振る舞うのだろう。

 

 

「…私は」

 

 

無理をしてまで、そこに居てほしくない。

 

そう言いたい。でも、言えるはずもない。

 

その言葉で、京太郎は傷ついてしまうから。

 

 

「…なんでもない」

 

 

「…ごめん。俺のために怒ってくれたのは、すげー嬉しかった」

 

 

ただ、申し訳なさそうな顔をして、そう呟く彼を見て。

 

私が悪かったんだ、と。そう言いたくて。君は悪くないと言いたくて。

 

ようやく渡されたペットボトルと一緒に、彼をベッドに引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横に落ちたペットボトルはすでに汗をかいていて、ベッドを湿らせていた。

 

 

「し、シロさん…!?」

 

 

どくん、どくん、と自分の鼓動を感じて。

 

それと重なり合うように、京太郎からも鼓動を感じる。

 

ただ、縋り付くように。離れられないように。

 

京太郎の胸に、顔をうずめていた。

 

体温、がっしりとした体、匂い、彼のすべてに包まれているような気がした。

 

 

「ごめん」

 

 

ただ、そうしていたかった。

 

 

「…京太郎に、迷惑かけた。でも、あの子が、京太郎を”雑用みたいなもの”って言ったのが、本当に許せなかった…。

 

これだけは、わかってほしい。」

 

 

「優希が、そんなことを…?

 

でも、どうして…そこまでシロさんは…」

 

 

ただ、助けてくれた京太郎を、助けたくて。

 

支えてくれていた京太郎を、支えたくて。

 

一緒に過ごしていた時間を、また過ごしたくて。

 

ここまで来て、とぼけたような、何も知らないような態度を取る京太郎に、私はさらに強く抱き着いた。

 

 

「…京太郎が、大切だから…」

 

 

「それは…幼馴染として…じゃないのか…?」

 

 

「…ここまでしてるのに、言葉に出さないとわからないくらい、京太郎は鈍感なの…?」

 

 

こんなにも近くに、そばに居られる幸せが。

 

すぐに話せて、じゃれ合えて、喧嘩や怒鳴り合いだってできる、この距離が。

 

この瞬間がとてもうれしくて、また遠くなるのが怖くて。

 

もう、我慢なんてできなくて。

 

 

「…京太郎のこと好きだから」

 

 

ただ、その言葉だけを、伝えた。

 

 

 

 

 

赤面していくのがわかる。

 

縋り付いたまま、顔を上げることなんてできないでいた。

 

こんなに近いのに、京太郎の心はわからない。

 

当たり前のことが、もどかしくて仕方なくて。

 

 

「…返事は…ないの?」

 

 

「お、俺も…」

 

 

その声を聞いて、手を、顔を京太郎から離して、ゆっくりと目を見た。

 

京太郎の顔は真っ赤で、その目はまっすぐ私を見ていて。

 

その先の言葉を紡ごうとした。

 

 

 

その瞬間、無音だった部屋に電子音が鳴り響く。

 

お互い、体が痙攣したようにビクついた。

 

京太郎はすぐに起き上って、通話を始める。

 

あと少し。あと少しが、遠かった。

 

 

「ダル…」

 

 

そのままベッドで寝返りをうち、仰向けになった、そのとき。

 

 

「ひゃぅ!?」

 

 

首筋に、何か冷たいものがいきなり当たって、つい声が出てしまい。

 

確認すれば、お茶がそこに転がっていて。

 

ちらりと京太郎を見てみれば。

 

先ほどとは真逆の、青ざめた顔をしていた。




「ぶ、部長?どうしたんですか?こんな時間に」

『いやー今日頼んだ買い出しの荷物だけは取りに行こうと思ってね。今部屋にいるか確認するために電話したのよ。
ついでに聞きたいこともあったしね』

「い、いますけどちょっと待っててください。今すぐ準備しますんで」

『あら、お風呂でも入ってたのかしら?私は別に気にしないわ』

「それでもですよ?少し待っててく「ひゃぅ!?」」

「…………」

『…………』

「そ、それじゃあ部長下で待っててくださいすぐ持ってきますんですみ『須賀君?』」

「はい」

『やけにかわいらしい声が聞こえた気がするんだけど?』

「き、気のせいじゃないですか?」

『須賀君』

「はい」

『部屋で待ってなさい』

「はい」




ヒッサ大活躍

あと、清澄の環境云々はシロちゃんの歪んだ視界からの話だからね、仕方ないね。

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