迷い家のお椀   作:ハム饂飩

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3699文字(迫真)

結構長くなった。



でもまだ照のターンが終わらなかったゾ。

どうしてくれる!次多分仲直り麻雀させる。仕方ないね、終わらなかったんだもの(^ω^;)

テルーの可愛さ引き出せなくてスマンな


たとえ高嶺に咲かなくとも

大切な後輩とのメール。

 

それは私の数少ない楽しみの一つ。咲のことが心配だから、と言う名目。

 

お互いで連絡し合えばいいじゃないんですか?と聞かれたけれど、親しい人から見た咲を知りたい、そういう言い訳で押し切った。

 

今日も、メールが届くはずだ。

 

そう思いながら、部活中なのに、私は携帯を手放すことができないでいる。

 

 

「テルー、なにぼーっとしてるの?お菓子パワー切れちゃった?」

 

 

「…淡、あとにして」

 

 

淡の不満気な顔を横目に、携帯の新着メールを確認する。

 

新着メールはなくて、また少し気分が落ち込む。

 

今日は、来ないのだろうか。

 

 

「あーわかった!妹居るって言ってたし、そいつのことでしょ!」

 

 

「…間違いではない」

 

 

「やっぱり?まぁ高校100年生レベルのちからを持つ私だからね!そのくらいお見通し!」

 

 

咲のことを聞いているから、間違いでは無い。けれどもそれだけでもない。

 

淡は先程とはうってかわって得意げな表情に、止まらないマシンガントーク。

 

仕方がないので止まりそうもない、アホの子の後輩を構うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと部活は終了。

 

少しイライラして居たのか、止め時を失った連続上がりが役満にまで届いてしまった。

 

全国の前ということで、10万点持ちからのスタートだったのが幸運だったのか、それとも不運だったのか。

 

携帯にも着信はなく。夜にメールが来ることが殆ど無いことを思うと、少し悲しくなる。

 

 

「またテルー携帯気にしてるー。ちょっと見せてー」

 

 

反応する暇もなく、後ろから襲来してきた後輩に、携帯を奪われて

 

 

「めるめるーめーるーどんなのがあるかなー…、んん?京君?」

 

 

ややこしいことになる、直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「長野の知り合い?ほんとに?」

 

 

「じゃあ、この京君って人とはどう知り合ったの?私知りたいなー教えて欲しいなー」

 

 

「教えてくれなかったらいいもんねースミレとかタカミーとかにテルーの片思いの人が居るとかあることないこと言っちゃうもんねー」

 

 

…とても面倒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の空は澄み切っていて、遠くまでよく見える。初詣に来ていたであろう人たちが、和気藹々とした雰囲気で帰路につく。

 

そんな光景とは真逆。新年最初の日、私の気分は荒れていた。新しい年が来たことの爽やかな気分なんて、私にはなかった。

 

家族で訪れた初詣。それはいい。むしろ、家族の交流は大切なことだろう。

 

私は、毎年初詣が終わってからの家族麻雀が心底嫌いだった。

 

ほとんどの人は子供のころ、お年玉をもらうという経験をするだろう。

 

しかし、宮永家では、家族麻雀でお年玉を賭けることになっていた。

 

なぜこうなったのかは分からない。全国的に麻雀がメジャーになってからは金銭を賭けて行われる麻雀など一般的なところではほぼ見かけないのに。

 

ましてや家庭内で行われる麻雀だというのに。

 

 

そして、家族麻雀が嫌いな理由の2つ目。

 

それは、妹だった。

 

 

咲、宮永咲。私の妹。

 

よく、私の後ろをついてきて。麻雀を一生懸命に覚えていた。麻雀が好きというよりも、私と一緒に何かをしたかったんだと思う。

 

だから、私は。咲にもっと麻雀を好きになって欲しくて。咲が麻雀を楽しめるようになって欲しくて。

 

山の上に家族で行った時、嶺上開花を教えた。高い山の上に咲く、花のように強くあってほしい。咲の名前と、同じだよ、と。そう教えた。

 

麻雀でも、同じように強くあってほしい、そう思ってた。

 

 

 

 

 

 

咲は、嶺上開花を覚えてから、明らかに槓が増えてしまった。

 

嶺上開花がしたくて仕方なかったのか、役がないのに槓をして、上がれなくなる、なんてことが多くなった。

 

普段の麻雀ならば、それでも笑って居られた。でも、咲はその次の家族麻雀でも槓を繰り返す。

 

槓ばっかりして、ドラを増やして上がられたら負けちゃうんだよ。そう何度も言ったのに。

 

それでも咲は、槓をやめなくて。

 

 

そして、咲がまた槓を宣言したとき、つい、大声で怒鳴ってしまった。

 

咲が、びっくりして掴んだ嶺上牌を落とす。その牌を見て、咲は笑った。

 

 

「上がれたよお姉ちゃん!嶺上開花だよ!これで、1位だよ!」と。

 

 

そうじゃないよ。咲。上がれたとしても、今まで何回負けてきたの?

 

その1回の上がりのために、何回失敗してきたの?

 

その役を上がることだけが麻雀じゃないんだよ。咲は、麻雀を楽しめてなかったの?

 

 

そんな思いがこみ上げてきて。

 

そこでおめでとう、と。そう言えればどれだけ良かったのか。

 

私は、泣きそうになりながら、怒鳴ることしかできなかった。

 

 

咲は、なぜ怒られたのか理解できなかったみたいで。

 

お年玉をもらっても。泣きそうになるその顔は、私に似ていた。

 

 

 

その日を境に、咲は異常なほど嶺上開花を繰り返し上がるようになり。

 

最終結果が、±0に近づくようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ここ数年の咲の家族麻雀での結果は、±0。

 

±0、±0、±0。何度やっても、±0。

 

本気で飛ばしに行っても、±0。わざと私が振り込みに回っても、±0。どんな対局になろうとも、最終的には±0にされた。

 

 

咲は、強くなった。でも、それは私の願った強さとは違った。

 

 

あまりにも、虚しかった。なにをしても、咲は勝ちに来ない。私がなにをしても、無意味だと言われてるようで。見下されているようで。

 

つまらなさそうに、なんでもないように。嶺上牌で上がって点数調整する咲を見て、悲しくなる。

 

高いところに咲いた、可憐な花を摘んでいるようで。まるでそこにあるのが当たり前のように。もう、嶺上開花を上がって喜ぶ咲は、見られない。

 

 

私は麻雀が好きだった。それ故に、家族麻雀が嫌いになった。

 

 

咲との麻雀が、嫌いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人でふらりと抜け出し、出店を回る。

 

イライラとした気分を晴らすために、甘い物をたくさん買う。

 

買いすぎて、両手に溢れてしまって、歩くのも大変なほどだ。

 

こぼさないように、ゆっくりと東屋を探して回る。どこも人が多く、入る気になれなかった。

 

その中で、一つだけ誰も入ってないところを見つけた。そこに、やや小走りに入る。

 

はやく、おやつを食べたかった。

 

だから

 

 

「グェ」

 

 

座るまで、そこに人が寝ていることなど、気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い金髪に、芸能人ほどかっこいいわけではないが、やや整った顔立ち。

 

チャラチャラした見た目なのに、少し丁寧な言葉遣い。

 

でも、どこかずれた喋り方。そんな男の子だった。

 

 

 

「痛かったですよ」

 

 

「ごめんね、本当に」

 

 

「でも、あなたが咲のよく話してる『お姉ちゃん』ですか。やっぱり、似てますよ。…髪型とか、雰囲気とか」

 

 

「そう?」

 

 

「はい」

 

 

お互いの名前を聞くと、彼は咲を知っているらしい。彼は咲と同じクラスで、よく話す間柄だということを聞いた。

 

咲を怒鳴りつけてから、ほとんどまともに話すことはなくなってしまったけれど。

 

この子に聞けば、咲がどんなふうに学校で過ごしているかわかるかもしれないと思って。

 

 

「…咲は、学校でどう?」

 

 

「え?咲ですか?そうですね、元気ですよ。」

 

 

「そうじゃなくて、どんなふうに過ごしているか、聞きたい。第一印象とか、友達が居るか、とか」

 

 

「咲に直接聞けばわかると思いますけどねぇ。

 

とりあえず第一印象ですか?最初は暗いなーって思ってましたね。まぁ目立つやつじゃなかったかな。

 

委員会決めるときとかオロオロしてましたよ。それでなんとなくほっとけなくて、同じ委員会入ってあげたんですよ。

 

それからよく話すようになりましたね。」

 

 

「…君は優しいね」

 

 

「そうでもないと思いますけど…」

 

 

君は、優しいと思うよ。本当に。あまり知らない人に対して、気遣いができるんだから。

 

私とは、大違い。よく知ってる妹に対しても、優しくできない私に比べたら。

 

 

「最後に…聞いていい?」

 

 

「なんです?」

 

 

「咲から…麻雀の話を、聞いたこと、ある?」

 

 

「…ない、ですね」

 

 

「…そう、ありがとう。色々教えてくれて」

 

 

やはり、咲にとっては、麻雀はもう、どうでもいいものになってしまったのだろうか。

 

このまま、東京に行ってしまえば、咲と会うことはほぼなくなってしまうだろう。私が、謝ったとしても、もう遅いだろうから。

 

なぜ、あの時感情に流されてしまったのだろうか。それを後悔しているくせに、謝ることができないのだろうか。

 

…もう、咲と一緒に、遊ぶことは、できないのだろうか。

 

 

 

 

「どうかしました?顔が暗くなってますよ」

 

 

「え?」

 

 

「ほら、新年から暗くなっちゃダメですよ!要するに、咲と麻雀でなんかあったんですね?それならいい考えがありますよ!」

 

 

「…え?え?なにが…」

 

 

「麻雀でできたわだかまりは麻雀で解決すればいいんですよ!携帯持ってないんで、悪いですけど、これ、家の電話番号です!俺も協力しますから、咲と仲直りしましょ!

 

俺も一応うてますから、やる気になったら、電話してください!俺の家族が呼んでるんで帰ります!じゃあね、宮永さん!」

 

 

颯爽と、彼は走り去ってしまい。

 

東屋に残された私と、お菓子。

 

手に持たされたメモ帳の切れ端には、彼の家の番号が書かれている。

 

あまりにも突然な提案に私は戸惑い、断るタイミングすらなくて。

 

ようやく頭が回り始めて、彼が走っていった方向へ顔を向けてみれば。

 

そこにはお年寄りの姿。多分、祖母なのだろう。その人の手をつないで、階段を下って行く姿をみて。

 

やっぱり優しい人なんだなと。そう思った。




「ふんふん、それからどうなったの?テルー」


「…白糸台に来る数週間前まで決心がつかなかった」


「ヘタレじゃん!私と同い年の男に励まされたのにそれはないよ…テルー…」






この後無茶苦茶連続和了した

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