清澄高校麻雀部が団体戦女子の部で優勝し、全国への切符をつかんだ。
優希も部長も、染谷先輩も、和も咲も、全員が全力を出して何とかつかんだ全国。
男子にはあんなに強い力を持ってる人はいないけれど、それでも、俺が全力を出して全国に行けるかはわからない。
たった六人の麻雀部、しかも、その中のただ一人の男子部員の俺が、予選で負けて、応援のためだけにみんなに全国についていく。
そんな不甲斐ないことは避けたい。だから、勝って一緒に全国に行く。
女子だけじゃない。男子にも強い奴が居るんだってことを見せつけてやる。
そして、個人戦の予選は通過することができた。運が悪い俺なのに、めずらしく運がよくて、頭も冴えてた。
咲たちも喜んでくれた。
だから、本選もこの調子で抜けて行く。
って意気込んでたんだ。事実、あと少しで全国圏内でもある。
女子より、少し多い上位5人までが全国に進むことができる。全体の人数が多いから。
俺は最終戦前で7位。上位との差は殆ど無く、10位辺りまで団子状態。
つまり、最終戦でトップを取れば、確実に全国に上がれる。
昔、テレビで見た全国という名の舞台に立つことができる。みんなといっしょに。
次で泣いても笑っても最後。気合入れていけ。
「うっし、行くか」
バシッと、自分に喝を入れて。少し強く叩きすぎたかもしれないけど、痛みは気にならなかった。
最終戦の面子は、全員全国に進む可能性がある人だけだった。
だから、みんな気合が違う。『俺が出るんだ!』って気配で打ってきた。
俺も勿論、あがったけれど、周りに多くツモられてしまって、軽く一人だけ沈んだ状態。
それでも、ほとんど1位との点差はない。次に誰からでも構わない。5200で上がれば。
俺が全国に行けるんだ。
南四局0本場 親 東家 ドラ{一筒}
東家 26400
南家 26000
京太郎 22000
北家 25600
東家 打{9}
南家 打{②}
京太郎
{三四六七二筒
第一ツモがドラの{①} 赤で更に1翻足される。この{①}かタンヤオを絡めて手を作っていけばいい。
この手、絶対に上がってみせる。
打{北}
次順、俺がツモろうとしたとき、
「ぽ、ポン!」
東家 {■■■■■■■■■■■} {東東横東}
打{一}
鳴かれた…!親はトップ…上がられたら負けだ…!
南家はもう手が揃っているから東を切ったのか…?なんにせよ、周りも早い…!
南家 打{九筒}
{三四六七一筒二筒
{3}…もっと良いところが欲しかった。だが、コレでどうあろうと{[5]}は使いきれる形になった。
もっと早くテンパイしないと勝ち目がない…何でもいい…手が進んでくれれば…
打{中}
北家 打{北}
東家 打{1}
南家 打{九筒}
{三四六七一筒二筒
来た…!嵌張に入った!でも、まだ遅い…まだ二向聴…!東家、南家はツモ切りだから、手は進んでいないだろう。
それでも、聴牌している可能性だってある。悪い方を考えて打つんだ。
生牌の{發}は…少し切りにくい。鳴かれてしまえば、更に辛くなるだけだ。それに、もう四面子一雀頭は確定している。
{七筒}にくっついて両面になって、タンピンになったとしても、ドラを切ってしまえば同じことだ。リーチが要る。
だから…今一番いらないのは
打{七筒}
もう、ツモ運の勝負になってきたな…もう少しだけ、運が欲しい。
次順、俺は{五}を引いた。今日はツイてる。そんな気がする。
しかし、他の三人全員がツモ切りを続けていた。つまり、ほぼ確実に一向聴以上なんだろう。
もう、時間はない。
このツモで、聴牌してくれないと…!
{三四五六七一筒二筒
ここで、この引き。運がいいのか悪いのか、分からない。聴牌はした。
でも、コレでは出和了りで三十符三翻。つまり、3900点。ツモれば、二十符四翻で5200点。
誰から上がっても、トップにはなれない。2位じゃ、確実に上がれるとはいえない。ツモれば勝ちだが、今の、全員押してくる状況なら、やることは一つだろう。
打 {横發}
「リーチ!」
…生牌の{發}は、鳴かれなかった。
北家 打{東}
東家 打{八筒}
南家 打{2}
全員ツモ切り、もう、東家と南家は聴牌しているとしか思えない。
だから、一発でツモる…!
思い切り、山から牌を持ってきて、見る。
{南}
和了り牌じゃない。しかも、生牌。
鳴くな…上がるな…!と、そんな願いとともに、南を切る。
「ポン!ポンです!」
鳴いたのは、北家。打ったのは{九}。これで、全員が聴牌だろう。あとはめくり合うだけ。
それなら、俺の三面張が有利のはず…!
東家 打{西}
南家 打{五筒}
引けっ!ツモれ!
そう思って引いても、来たのは{中}
違う…コレじゃない!早くツモらないと!誰か出してくれ!
打{中}
そんな願いも虚しく。
「つ、ツモった!ツモです!三十符二翻で500、1000です!」
北家の手牌は広げられて。
{一三五六七八八④[⑤]⑥} {横南南南} ツモ{二}
俺は、頭が真っ白になった。
俺は、みんなみたいに、不思議な上がり方ができるわけじゃない。
咲みたいに、嶺上開花できない。優希みたいに、東場で吹いたりできない。部長みたいに、悪待ちで、上がりきれない。シロさんみたいに、手が高くなったりしない。
和ほど、期待値みたいなものは計算できない。染谷先輩みたいに、場の状況を読んだりできない。
何もない。ないないづくし。
でも、それで嘆いていられない。男子には、そんな打ち方をする人はいないんだから。
だから、不思議な力も、運も無い俺は、まっすぐに行くしかなかった。
俺なりに、勉強して。頑張ってきた。
でも結果は、負け。
三面張で、嵌張に負けた。しかも、南を引かなければ、上がり牌は北家ではなく、俺に来ていたという現実。
「俺って、ホント、運ねえんだなぁ」
勝ちたかった。けれど、勝てなかった。
みんなに、どう伝えればいいのだろう。ヘラヘラした態度で、負けちまった。なんて言えるほど、俺は強くない。
悔しかった。でも、なにもできない。みんなに、顔向けできない。
震える手で、携帯を開く。
咲や、部長に『負けたから、今日はそのまま帰る』と、手早く送った。
メールなら、俺の泣き顔は、見られないだろうから。
返信が、すぐ返ってきたことを、携帯が告げてきた。でも、読む気にはなれなかった。
涙は止まらなくて。
俺の手は、自然と。あの人へメールを送っていた。
『負けちまったよ。全国行けなかった。格好いいとこ、見せれなかったな』
おどけたような、メール。でも、コレでいい。泣いてるなんて、思われたくなかった。
携帯を、ポケットに突っ込んで、家に帰った。
夜、部屋で、携帯が震えた。咲達からのメールには返信していない。
今回も無視しようと思っていたけれど、やけにバイブレーションが長い。
仕方なしに、携帯を開く。メールではなくて、電話だった。
仕方ないから。深呼吸して、いつも通りに。意識するな。そして、通話ボタンを押した。
『京太郎』
「シロさん…わざわざ、電話してくれるなんて、珍しいね。いつもなら、短い返事だけなのに」
『…京太郎』
「あ、ごめんな。負けちまったよ。昔からだけど、俺運ねーよな!やっぱ、全国なんて無理」
『京太郎!』
「………」
『泣いても、いいんだよ。京太郎、辛そう。そんなに、空元気出されても、ダルいだけだから』
「……でも、俺は麻雀部のみんなにも、」
『全力で、やったんでしょ。それなら、誰も笑わないよ。もし、泣いてる京太郎をみて、笑う人がいるなら、私は許さない。
ダルいけど、今日は、愚痴聞いてあげる。今泣いて、笑って会おう。私達は、団体で全国に行くから。京太郎も、団体の応援で、ついてくるよね?』
「…うん。そうだな…ありがとう。シロさん。たった一人の男子が、女子の応援だなんてかっこ悪いけど、なにもできないわけじゃ無いよな」
『…溜め込んじゃ、駄目だよ、京太郎』
俺の中で、何かが弾けた。一気に涙が溢れてきて、嗚咽がこみ上げてきて。
なんて情けない。なんて運が無い。なんて恥ずかしい。
でも、シロさん。ありがとう。
泣くことを許してくれて、ありがとう。
クソ眠い(白目)
ひょえー
シロちゃんのヒロイン力を上げておく()