迷い家のお椀   作:ハム饂飩

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眠い(白目)


第九話

清澄高校麻雀部が団体戦女子の部で優勝し、全国への切符をつかんだ。

 

優希も部長も、染谷先輩も、和も咲も、全員が全力を出して何とかつかんだ全国。

 

男子にはあんなに強い力を持ってる人はいないけれど、それでも、俺が全力を出して全国に行けるかはわからない。

 

たった六人の麻雀部、しかも、その中のただ一人の男子部員の俺が、予選で負けて、応援のためだけにみんなに全国についていく。

 

そんな不甲斐ないことは避けたい。だから、勝って一緒に全国に行く。

 

女子だけじゃない。男子にも強い奴が居るんだってことを見せつけてやる。

 

 

そして、個人戦の予選は通過することができた。運が悪い俺なのに、めずらしく運がよくて、頭も冴えてた。

 

咲たちも喜んでくれた。

 

だから、本選もこの調子で抜けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って意気込んでたんだ。事実、あと少しで全国圏内でもある。

 

女子より、少し多い上位5人までが全国に進むことができる。全体の人数が多いから。

 

俺は最終戦前で7位。上位との差は殆ど無く、10位辺りまで団子状態。

 

つまり、最終戦でトップを取れば、確実に全国に上がれる。

 

昔、テレビで見た全国という名の舞台に立つことができる。みんなといっしょに。

 

次で泣いても笑っても最後。気合入れていけ。

 

 

「うっし、行くか」

 

 

バシッと、自分に喝を入れて。少し強く叩きすぎたかもしれないけど、痛みは気にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終戦の面子は、全員全国に進む可能性がある人だけだった。

 

だから、みんな気合が違う。『俺が出るんだ!』って気配で打ってきた。

 

俺も勿論、あがったけれど、周りに多くツモられてしまって、軽く一人だけ沈んだ状態。

 

 

それでも、ほとんど1位との点差はない。次に誰からでも構わない。5200で上がれば。

 

俺が全国に行けるんだ。

 

 

 

南四局0本場 親 東家 ドラ{一筒}

 

東家  26400

南家  26000

京太郎 22000

北家  25600 

 

 

東家 打{9}

 

南家 打{②}

 

 

京太郎

 

{三四六七二筒四筒四筒(横①)七筒[5]7北發中}

 

第一ツモがドラの{①} 赤で更に1翻足される。この{①}かタンヤオを絡めて手を作っていけばいい。

 

この手、絶対に上がってみせる。

 

打{北}

 

 

 

次順、俺がツモろうとしたとき、

 

 

「ぽ、ポン!」

 

東家  {■■■■■■■■■■■} {東東横東}

 

打{一}

 

 

鳴かれた…!親はトップ…上がられたら負けだ…!

 

南家はもう手が揃っているから東を切ったのか…?なんにせよ、周りも早い…!

 

 

南家 打{九筒}

 

 

{三四六七一筒二筒四筒四筒(横3)七筒[5]7發中}

 

{3}…もっと良いところが欲しかった。だが、コレでどうあろうと{[5]}は使いきれる形になった。

 

もっと早くテンパイしないと勝ち目がない…何でもいい…手が進んでくれれば…

 

打{中}

 

 

 

北家 打{北}

 

東家 打{1}

 

南家 打{九筒}

 

 

 

{三四六七一筒二筒四筒四筒(横6)七筒3[5]7發}

 

 

来た…!嵌張に入った!でも、まだ遅い…まだ二向聴…!東家、南家はツモ切りだから、手は進んでいないだろう。

 

それでも、聴牌している可能性だってある。悪い方を考えて打つんだ。

 

生牌の{發}は…少し切りにくい。鳴かれてしまえば、更に辛くなるだけだ。それに、もう四面子一雀頭は確定している。

 

{七筒}にくっついて両面になって、タンピンになったとしても、ドラを切ってしまえば同じことだ。リーチが要る。

 

だから…今一番いらないのは

 

 

打{七筒}

 

 

もう、ツモ運の勝負になってきたな…もう少しだけ、運が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次順、俺は{五}を引いた。今日はツイてる。そんな気がする。

 

しかし、他の三人全員がツモ切りを続けていた。つまり、ほぼ確実に一向聴以上なんだろう。

 

もう、時間はない。

 

このツモで、聴牌してくれないと…!

 

 

{三四五六七一筒二筒四筒四筒(横三筒)[5]67發}

 

 

ここで、この引き。運がいいのか悪いのか、分からない。聴牌はした。

 

でも、コレでは出和了りで三十符三翻。つまり、3900点。ツモれば、二十符四翻で5200点。

 

 

誰から上がっても、トップにはなれない。2位じゃ、確実に上がれるとはいえない。ツモれば勝ちだが、今の、全員押してくる状況なら、やることは一つだろう。

 

 

打 {横發}

 

 

「リーチ!」

 

 

…生牌の{發}は、鳴かれなかった。

 

 

 

北家 打{東}

 

東家 打{八筒}

 

南家 打{2}

 

 

全員ツモ切り、もう、東家と南家は聴牌しているとしか思えない。

 

 

だから、一発でツモる…!

 

 

思い切り、山から牌を持ってきて、見る。

 

 

{南}

 

 

和了り牌じゃない。しかも、生牌。

 

鳴くな…上がるな…!と、そんな願いとともに、南を切る。

 

 

「ポン!ポンです!」

 

 

鳴いたのは、北家。打ったのは{九}。これで、全員が聴牌だろう。あとはめくり合うだけ。

 

それなら、俺の三面張が有利のはず…!

 

 

東家 打{西}

 

南家 打{五筒}

 

 

引けっ!ツモれ!

 

そう思って引いても、来たのは{中}

 

違う…コレじゃない!早くツモらないと!誰か出してくれ!

 

打{中}

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな願いも虚しく。

 

「つ、ツモった!ツモです!三十符二翻で500、1000です!」

 

 

北家の手牌は広げられて。

 

{一三五六七八八④[⑤]⑥} {横南南南} ツモ{二}

 

 

俺は、頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、みんなみたいに、不思議な上がり方ができるわけじゃない。

 

咲みたいに、嶺上開花できない。優希みたいに、東場で吹いたりできない。部長みたいに、悪待ちで、上がりきれない。シロさんみたいに、手が高くなったりしない。

 

和ほど、期待値みたいなものは計算できない。染谷先輩みたいに、場の状況を読んだりできない。

 

 

 

何もない。ないないづくし。

 

でも、それで嘆いていられない。男子には、そんな打ち方をする人はいないんだから。

 

 

だから、不思議な力も、運も無い俺は、まっすぐに行くしかなかった。

 

俺なりに、勉強して。頑張ってきた。

 

 

でも結果は、負け。

 

 

三面張で、嵌張に負けた。しかも、南を引かなければ、上がり牌は北家ではなく、俺に来ていたという現実。

 

 

 

「俺って、ホント、運ねえんだなぁ」

 

 

 

勝ちたかった。けれど、勝てなかった。

 

 

みんなに、どう伝えればいいのだろう。ヘラヘラした態度で、負けちまった。なんて言えるほど、俺は強くない。

 

 

悔しかった。でも、なにもできない。みんなに、顔向けできない。

 

 

震える手で、携帯を開く。

 

咲や、部長に『負けたから、今日はそのまま帰る』と、手早く送った。

 

メールなら、俺の泣き顔は、見られないだろうから。

 

返信が、すぐ返ってきたことを、携帯が告げてきた。でも、読む気にはなれなかった。

 

 

 

涙は止まらなくて。

 

俺の手は、自然と。あの人へメールを送っていた。

 

 

『負けちまったよ。全国行けなかった。格好いいとこ、見せれなかったな』

 

 

おどけたような、メール。でも、コレでいい。泣いてるなんて、思われたくなかった。

 

携帯を、ポケットに突っ込んで、家に帰った。

 

 

 

 

 

 

夜、部屋で、携帯が震えた。咲達からのメールには返信していない。

 

今回も無視しようと思っていたけれど、やけにバイブレーションが長い。

 

仕方なしに、携帯を開く。メールではなくて、電話だった。

 

仕方ないから。深呼吸して、いつも通りに。意識するな。そして、通話ボタンを押した。

 

 

 

 

『京太郎』

 

 

「シロさん…わざわざ、電話してくれるなんて、珍しいね。いつもなら、短い返事だけなのに」

 

 

『…京太郎』

 

 

「あ、ごめんな。負けちまったよ。昔からだけど、俺運ねーよな!やっぱ、全国なんて無理」

 

 

『京太郎!』

 

 

「………」

 

 

『泣いても、いいんだよ。京太郎、辛そう。そんなに、空元気出されても、ダルいだけだから』

 

 

「……でも、俺は麻雀部のみんなにも、」

 

 

『全力で、やったんでしょ。それなら、誰も笑わないよ。もし、泣いてる京太郎をみて、笑う人がいるなら、私は許さない。

ダルいけど、今日は、愚痴聞いてあげる。今泣いて、笑って会おう。私達は、団体で全国に行くから。京太郎も、団体の応援で、ついてくるよね?』

 

 

「…うん。そうだな…ありがとう。シロさん。たった一人の男子が、女子の応援だなんてかっこ悪いけど、なにもできないわけじゃ無いよな」

 

 

『…溜め込んじゃ、駄目だよ、京太郎』

 

 

 

 

俺の中で、何かが弾けた。一気に涙が溢れてきて、嗚咽がこみ上げてきて。

 

なんて情けない。なんて運が無い。なんて恥ずかしい。

 

 

でも、シロさん。ありがとう。

 

 

泣くことを許してくれて、ありがとう。




クソ眠い(白目)

ひょえー

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