迷い家のお椀   作:ハム饂飩

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とりあえず初めてだから色々変なことになってるよ。

目を瞑れる人ならゆっくり読んでいってね!


本編
第一話


同じ地域に住んでいて、偶然会っただけ。

なぜか感性が合う年下の男の子が、偶々家が近くに住んでいただけなのだ。

 

でもその出会いがきっと、私にとっての"マヨヒガ"の入り口だったのかもしれない。

 

 

 

 

確か、小学校三年生くらいの夏休みだっただろうか。

 

その日はすごく暑かった。私は昔から自分から動くことが好きじゃなかったからね、その日もいつも通りグダグダしてた。

 

 

 

 

 

 

「あつい…だるい…」

 

 

少し古い扇風機から送られてくる生ぬるい風が体に当たるのを感じながら横になる。

 

全く涼しくない。窓も開けているが聞こえてくるのは蝉の声だけ。風なんか微塵も入らない。みんみんみんみんうるさい。ダルい。

 

どうすればいいか私は迷っていた。畳の上で窓の外を見ながら呆けながら。

 

だるいなぁ…。暑くなくなる方法はないかなぁ…とか考えている。暑いなら冷たいものを食べればいい、そうだそれがいいと自己完結。

 

時刻は昼過ぎ。ちょうど昼食の準備をしているおかーさんが目に入る。立ってるものは親でも使えっていうよね。

 

 

「おかーさん…ダルい…アイス食べたい…かき氷でもいいよ…」

 

 

昼はカレーなのだろうか、見慣れた野菜が転がっている。人参、玉ねぎ、鳥肉、じゃがいも。

 

至ってシンプルなモノで作るのにも手間がかからない。おかーさんも大分面倒くさがりだから、大量に作り置きしておいて何日かカレーが続けるつもりなのかもしれない。

 

 

「そんなものないよ。お昼ごはんの後にお小遣いあげるから自分で買ってきなさい。ただでさえ動かないんだから白望は。」

 

 

私の声は届いたけれども、思いは届かなかったようで。

 

 

 

 

 

 

昼食ができるまで本を読むことにした。読書感想文と言う小学生の間には誰もが経験する非常にダルい夏休みの宿題のために。

 

こんなものが本当に勉強に必要なのか分からない…が、しかたない。これはそういうものなのだ。長期休暇の風物詩。

 

本は…どうしようか。家にあるのでいいや。買いに行くのもダルいのだ。

 

父の古い本を流し読みして、作文用紙に適当に書いていく。

 

途中おかーさんの声が私を呼んでいることに気づく。もうごはんができたのか。顔を上げて窓の外を見上げてみる。

 

 

「それにしても…暑いなぁ…」

 

 

青い空に浮かぶのはきれいな形の雲。私の小さいつぶやきは空に消えていったような気がした。

 

「……はぁ…」

 

そして、食事のために立ち上がる私の腕には汗で作文用紙が張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ダルッ…」

 

 

迷って決めたことなのにこんなにダルくなるとは思わなかった。ジリジリと太陽が温めている。何のイジメだコレは。

 

 

 

コンビニまでの道を何とか耐え切り、やけに冷房の効いた店内で一息つく。

 

オアシスのようだと思いながら、アイスを適当につかみとってカゴに入れていく。野口さんを何人か貰ったんだ、少しの贅沢くらい許される。夏目さんだったら少し迷ったかもしれないけど。

 

こんなに暑い道を通ってきた自分に対するご褒美だ。無駄遣いするんじゃないよと言われた気がした。まぁダルいし無視してしまおう。

 

会計し終えて店から出る。その瞬間、モワッと生暖かい空気が自分を包んでくる。コレはダルい。この空気の中家に帰るんだと考えると、より一層気分が凹んでしまう。

 

ボロボロのアスファルトの先に逃げ水が見えたような気がした。

 

 

 

 

「ダルい…動きたくない…」

 

 

 

無理。通り道に有った公園の木陰にあるベンチに避難したことが間違いだった。もう一歩も出たくない。太陽と反射熱のコンボは辛かった。

 

チラッと自分の手元を見る。アイスがあるのは当たり前だ。買いに行ったのだから無いと困る。

 

コレで全部溶けてたら…という嫌な予感がする。…まさか、そんな短時間で溶けるはずはない。保冷剤だって無駄に大量にもらってきた。

 

溶けるはず無い…わかっている。わかってはいるが、確認しよう。そう、コレは単に食べたいわけじゃない。一つだけ確認のために開けるだけだ。

 

そうやって自分に言い聞かせてアイスを一つだけ袋から取り出す。

 

出てきたのはよくあるチューブ型のアイス。この手のアイスは一袋に二つ入っているタイプのアイスだったと思う。

 

まぁ一つだけ食べてもう一つは開けずに袋に突っ込んでおけばいいか。

 

そう思いながらアイスの片方を引っ張る。伸びる。取れない。また引っ張る。伸びる。開かない。

 

…イラッと来た。絶対に開けてやると誓って、かなり強めに引っ張った、その瞬間にプラスチックがちぎれ、きれいに切れた二つの蓋が一緒にはじけて飛んで行くのが見える。

 

落ちた蓋が、私へのあてつけのように転がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでだろう…今日はやけにダルいことが起きてる気がする…

 

 

空のチューブを咥えながらそんなことを考えていた。まだ食べていない二つ目のアイスの上の部分が溶けてきていて、水滴がチューブ全体に付いてきている。

 

早く食べないといけない、他に買ったアイスも溶けてしまうかもしれない。焦らなければいけない状況なのに。

 

 

それでも、なぜか私は立ち上がることができなかった。

 

そして、私は気付く。やけに静かだ。さっきまでいやに響いていた蝉の鳴き声が全く耳に入らない。

 

ゆっくりとベンチから空を見上げてみる。さっき部屋から見た空よりも青く、雲すら見えない。

 

少し目を瞑ってみる。軽く頬を撫でるような風。それが公園の中に吹いてきて、木の葉を揺らす音が聞こえる。

 

とても、気持ちが良い。今、自分が動いてしまうと、何故かこの穏やかな世界が壊れてしまうような、そんな気がした。

 

まるで、どこかの世界に迷い込んだような感覚。そんな感覚に身を委ね、眠りかけたその瞬間だった。

 

 

 

 

「ねぇ、なんでアイス持って寝てるの?」

 

 

 

そんな、ときだったのだ。彼に初めて会ったのは。




ここまで読んでくれた人にはこれからもこの小説を読む権利をやろうではないか(震え声)


まぁ続けていくと思うよ。感想書いて、どうぞ(迫真)

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