僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第30話 ギャラクシーエンジェル~光の天使たち~ 前編

 

 

 

 

 

 

 

王、それは絶対なる君臨者。全てのモノの上に立ち、万物を支配し、世界を塗りつぶす。力の体現、強者の終着地。比喩でもなんでもない。王とは、最強を示す言葉。

 

銀河を支配する圧倒的な暴君。それがゲルン

15世紀を生きてなお、野望は止まることなく邁進し続け、強さは肥大化し続ける。

銀河における最大の毒であり、法であり、そして平和の前に立ちふさがる壁であった。

 

 

彼の手札、それはこの銀河の誰よりも長い時を刻んだ躰の持つ『知識と経験』

絶対的な統率によって支配される『配下の軍勢』

悠久の時のみが、対抗策になりうる『時空震爆弾』

 

この三つだ。軍勢は、もはや語るべきものはない。これに関してはすでにトランスバール軍も比類する力を示している。勝負は水物、勝敗は神のみが知る。相対してみねばわからないのだ。

知識と経験。これもアドバイザーについたダイゴ、そしてブレイクスルーを数々生み出している、その子孫たちによって、同じ土俵に立たされているといえよう。

 

そうこの二つにおいては、すでに勝敗がわからない。

絶対なる王、それを倒すべき勇者一行はそろっているのだ。

そう、王の最後の切り札、時空震爆弾(クロノクェイク・ボム)それ以外に対しては。

 

 

ここで、もう一度確認したい、CQボムとはそもそも、どういったものなのか。

一言でいうのならば、クロノ・スペースを相転移させるものである。

 

この世界において、すべての人工天体、宇宙船はクロノストリングエンジンを使用しており、それはクロノ・スペースを介するものであるのだ。クロノ・スペースからどういった原理かは不明だがエネルギーを引き出しているとされている。長距離間の通信もこれを使い行われている。

クロノ・スペースを相転移させ、それらをすべて封じることで、宇宙船や人工天体のほとんどは破壊され、人類はその星から移動する手段も連絡を取る手段も失ってしまう。これは数百年の間続き、復旧後は何事もなかったかのように使えるようになるのだ。

一見すると互いを痛み分けにする自爆スイッチのようなものだが、種族間の寿命に大きな差がある時点で、それとは全く別物に変容する。考えてみてほしい、ある日突然地球上の電子機器すべてが動かなくなった。そのまま200年復旧しなかったら、人類の文明レベルはどうなるであろうか? 当然大きな混乱が起こるであろう。情報の伝達すらままならなくなるのだ。結果集団はより細分化してゆき、主としての力は緩やかに低下していく。しかし、仮にこの電子機器の混乱が200年でなく2日であったら? それなりの混乱は起こるであろうが、1年もすればおおよそ落ち着く。もっと加えて、これが事前に予測できていたら? きちんと対策を持っておき、混乱は最小限に終わり、何事もなかったように元の生活に戻るであろう。この二つの人類が、混乱の明けた後、戦争を行ったならば勝敗など、一目瞭然だ。CQボムとはそういったものだ。

 

話を戻そう、そうゲルンという絶対王者は、CQボムという無敵の兵器を持っているという、絶対的なアドバンテージの上に立っているのだ。名実ともに、銀河最強である。彼の野望の第1段階に過ぎない、EDEN銀河の平定も、トランスバールというイレギュラー勢力をそぎ落とせば完了。勇者一行は、すでに将棋やチェスでいうところの詰みにはまっているのだ。

 

だからこその、王は寛大な言葉で勇者を迎え入れた。

 

 

 

 

 

「最終通達だ。エルシオールよ、我が軍門に下れ。優秀な人材と認める貴様らへ、酷使による死までの時間を与えてやる」

 

 

これが、王の最大限の譲歩であり、相手を尊重する宣言であった。

 

 

 

 

 

 

 

そして勇者一行(エルシオール) がそんな言葉(あく)を認めるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなもの、認められるか!! 」

 

 

 

白き月と別れ、最終決戦のための仕込みを少しばかりした『エルシオール』一行は、敵の軍勢と対峙していた。重戦艦、巡洋艦、駆逐艦、攻撃機、戦闘機と、今まで見た敵の編成に加えて、巨大な浮遊防塁まで確認できる。ここからサーチできる情報だけで、その堅牢な装甲とシールドが確認できるのだ。かなりのモノであろう。

そして、その布陣する敵のはるか向こうにある、巨大な要塞からの一方的な通達を、いまタクトは堂々と蹴ったのだ。ここに来る前に、白き月に残るシヴァ達と、すでに話はつけてきた。こちらの方針はタクトが決めてよいと。もちろんそれは細かいところであり、大筋では、抵抗でありCQボムによるリセットの阻止であった。仮にタクトが独断専行しても、白き月からシヴァ達はこの周辺を見ている。そう、奇しくも戦力を前面に配置し、お互いのトップがそのはるか後方に控えるという共通の形をとっているのだ。

 

 

「銀河は……人々の命は、生きとし生けるものは、お前の一存で如何にか出来る玩具じゃない!! 」

 

「寛大な通達をあえて固辞するか。滅びを望むならば、与えてやろう。それが為政者の務めだ。去ね」

 

 

もはやここまでくれば、無駄な言葉はいらない。魔王は構えをとった。勇者は天使に出撃を命じた。巨大な翼をもつ天使たちが、駆け出した。

 

 

「総員!! 戦闘開始だ!! 魔王の要塞までの道を切り開くぞ!! 」

 

────了解!!

 

「塵と成れ、下等生命体」

 

「引きずり降ろしてやる!! 傲慢な化け物」

 

 

 

 

何百年もの間、語り継がれる史劇のクライマックスが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! 行くわよー!! 」

 

 

蘭花・フランボワーズは、まず接敵した戦闘機と攻撃機への対処を始めた。速度が優れるこの敵機たちは、母艦である『エルシオール』に取り付かせてはならないのだ。黒い装甲に紅い光の筋が入った、蝙蝠のようなそれを、搭載されたガトリングガンで牽制を始める。向こうは当然のごとく無人機、恐怖による怯みは存在しない、しかしすでに敵がとる回避パターンなど飽きるほど見ている。リミッターをリリースされ、翼の生えた、愛機カンフーファイターは、回避した先に正確に近距離用ミサイルをばらまく。降り注ぐスコールのような弾頭をよけることができずに、4機の敵機が撃沈する。振り返らずにそのまま、カンフーファイターは進む。いまので脅威度が上がったのか、2機ほど後ろからついてくる。この時点で、敵は戦闘機に対してまで、細やかな指示ないし、Vチップによるコントロールを現在は行っていないことをランファは理解した。

 

 

「それなら、これでも食らいなさい!! 」

 

 

彼女は機体を瞬時に上方向に180度旋回させる。進行方向は慣性飛行によってそのままであり、スラスターにより鉄棒で逆上がりをするような起動で小さく反転したのだ。

敵と向かい合った瞬間、機体左右に搭載してある、粒子ビーム砲を斉射する。薬莢のようなエネルギーカートリッジがマシンガンを撃った後のようにはじき出され、その数のエネルギーが放射される。突然すぎるマニューバに解答を得る前にハチの巣になる、戦闘機。

接近してきた8機はこれだけの間にランファのスコアを6伸ばすだけのものになったのだ。

 

 

 

「ちとせ!! あと頼むわよ!! 」

 

 

 

 

 

 

 

「承りました」

 

 

敵の遠距離攻撃を回避しながら、烏丸ちとせはそう答える。目の前には変則的な軌道を始めた、攻撃機2機。目的は『エルシオール』への強襲のようで、こちらへは見向きもしない。

ちとせは精神を研ぎ澄ませる。愛馬……シャープシューターの操縦桿を握りしめて、照準を絞る。H.A.L.Oシステムのサポートによって、スローモーションのような、俯瞰視をしているような、不思議な視界情報を彼女は手にする。息を小さくはいて、彼女はトリガーを絞る。

次の瞬間亜高速の弾丸が、1撃で2機を沈める。敵の軌道が重なった、コンマ0.1秒に過ぎない刹那を彼女は射抜いた。回避運動をとりながらである。

 

 

「正射必中です……先輩方、後詰はお任せください」

 

 

神がかり的な腕前で、そのままこちらを斉射している、敵の駆逐艦に狙いを移す。彼女の狙撃ですでに敵の前衛であろう、戦闘機部隊は文字どおりの意味で壊滅している。『エルシオール』も安心して予定されていたポイントに動き始めることができる。そしてなにより、これからほかの紋章機たちが、彼女の正確な援護を受けながら進むことができるのだ。

ほかの紋章機の戦闘可能距離まで、最大の支援砲火で送り届ける。

 

 

「ミント先輩!! 」

 

 

 

 

 

 

 

「了解ですわ」

 

 

すでに互いの距離を縮め、敵の一団と接触を開始し始める、紋章機達。各自少しばかり散開して、最低限の敵を相手取りつつ、目標とされている敵浮遊防塁まで進む中、目覚ましい活躍を上げているのは、やはりミント・ブラマンシュであった。

この1年の戦いで、もはや自分の体よりも精密に操作できるのではないかという程の自信を培ってきた。そんな彼女が動かすのはもちろんフライヤーである。通常形態では3基が限度だが、今の翼の生えた状態ならば、5基ほどを常時展開できる。特殊兵装時の21基には及ばなくとも、砲門の数は随一であり、稼働角も360度全方向というこの兵器は、今までと同じように素早く敵の手足を払う。

蟻のように寄ってくる、駆逐艦、巡洋艦は彼女の蒼いカーテンを突破できない。砲門を向けようと減速し旋回すればその時点で潰されるのだから。

 

 

「数だけが多くても、運用が伴いませんことには」

 

 

神出鬼没の速度と変幻自在の軌道。両方を併せ持つ彼女の機体が、群がる敵を効率的に屠る。それはすなわち、敵の布陣に穴ができるということなのだ。ミントとトリックマスターが華麗に舞うダンスフロアでは、主役の華々しさに、周囲が空白になってしまう。そう、さながら次のゲストを呼び込むように。

 

 

「目標エリア確保しました、フォルテさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいよ!! 任せときな! 」

 

 

部下たちが確保したここまでの道。それを最も足が遅い代わりに、もっとも多彩かつ多量の武装を搭載した、さながら移動要塞であろう、ハッピートリガーがフォルテ・シュトーレンを通り抜ける。目標であった、浮遊防塁と相対することになる。敵は未知数の防御力を持っている、魔王の城を守る城壁のようなものだ。だが、それがどうしたのだ? 防御というのは、攻撃に備えるもの。攻撃があるから、防御があるのだ。そういつだって防御というのは、攻撃に突破されてきているのだ。

 

 

「とりあえず、全弾打ち込むよ!! 景気付けだ!! ストライクバースト!! 」

 

 

ここに来るまで、貯めに貯めたテンションを開放する。その瞬間だれがどう見ても機体の装甲にしか見えなかった部分がスライドし、大量のミサイルの弾頭が現れる。外部装甲に搭載されている、ミサイルもレールガンもレーザーポッドもビーム砲も電磁砲も粒子砲もすべてが単一の目標に砲塔を向ける。そして、溢れんばかりの光と、聞こえないがおそらく生じているであろう轟音を響き渡らせながら、全てが飛んでいく。怒涛の侵略が、浮遊防塁を包み込んだ。

しかし、敵もさすがに意地があるのか、シールドがはげ、所々で火花が見えるような大きな損傷を受けているが、それでもまだ破壊し切れてはいなかった。

 

 

「っく、これでも沈まないか!! ヴァニラ!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解です」

 

 

その言葉とともに、すぐさま、ヴァニラ・Hとハーベスターがハッピートリガーに取り付く。瞬時に癒しの光で機体が受けた損傷を修復していく。まるで逆回しの映像を見ているようにふさがっていくが、これはナノマシンによる応急の処置に過ぎない。それでも戦えれば十分であり、気力十分といった形で、フォルテは浮遊防塁のとどめを刺すべく、接近戦に持ち込みに行く。

修復ができるという点で、やはり敵にとって厄介であるのか、すぐさま敵の巡洋艦がヴァニラに向かって攻撃を開始する。

 

 

「この位……躱しきれます」

 

 

弾丸とミサイルを受けながら、いやすべて紙一重で回避しながら、彼女は次に耐久の低い、カンフーファイター目掛けて飛行を開始する。天頂方向からのレーザーを、機体を前方左下に機体を滑らせることで回避し、反転し第二射をエネルギーシールドで受け止める。機体についていた、このエネルギーシールド。これをうまく使用できるようになったのはつい最近だ。それまでは小回りが利くハーベスターは回避を優先としてきたのだ。しかし成長する先輩たちを見て、彼女はより高みを目指した。こうしてシールドで止めることができたのならば、大きく軌道をそらさずに、目的の位置に素早く到達できるのだ。

 

 

「負けません、絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

そういった彼女たちの健闘はすさまじいものであったが、数だけは多いそして圧倒的に硬い、浮遊防塁によって少しずつの足止めを食らい。真綿で首を絞めるように、周囲を囲まれ始めた。

そう、この堅さを生かした、足止めこそが敵の狙いだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標、予定位置に到達。防塁を抜くために、その場所近辺で戦線を展開しています」

 

「ふん、確かに強さは認めよう。だが」

 

 

そう、紋章機は強い。単一戦力としては銀河でも比類する物は、皆無に等しい。6機で戦線を維持しているというのは、すさまじい戦果だ。だが、その強さというのは、一瞬で100の敵を屠るものではない。時間をかければ一騎当千かもしれない、しかし攻撃力には上限がある。単純に硬さに特化したものを、そう簡単に突破できる強さは、また別の方向のモノなのだ。

そういった物理的な瞬間的で大物に対する破壊力を有するといった面で警戒していた、練習機の剣の機体は、修理が間に合わなかったのか戦場にはない。油断はしていないが、それでも予定通り、いやそれ以上に進んでいる盤面を見ると、満足感を覚える。

 

 

「よし、やれ」

 

「了解」

 

 

そしてゲルンは、握っていた死神の鎌を、目の前の『障害』に目掛けて振り下ろした。

その瞬間、浮遊防塁の近辺に緑色の光があふれだした。

 

クロノドライブアウト時に生ずる、特徴的な光であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵増援!! 多数の重巡洋艦および、重戦艦です!! 」

 

 

敵の増援、それほど味方の士気を下げるものはない。そう、その報告は有体に言えば、最悪のモノだ。現在浮遊防塁を突破するために、短い直線状に並んでいる防塁へと攻撃を仕掛けている紋章機達。そしてそれを、扇のように半円状に取り囲んでいる、周囲の戦艦といった布陣だったのだ。定期的に近寄ってくる戦艦を処理しているが、単純に浮遊防塁が固すぎて突破が難しいのだ。

そしてそこに追い打ちをかけるように、敵の増援である。天頂方向に近い方向から、敵が一斉になだれ込んでくる。そして当然のように、浮遊防塁へと向かい、戦艦と挟み込むような陣を敷いている。有体に言えば挟み撃ちだ。挟撃は最も単純で効率的な兵法だ。単純だからこそ、破りづらく、そして強力なのだ。数を揃えて囲んで叩く。戦術とは結局の所それを局地的にどう実現するかという物なのだから。

 

 

「皆!! 」

 

 

タクトが声を張り上げる。この状況は、どう見ても不味い。左右には巨大な氷の塊などで構成されているアステロイド帯であり、後ろは戦艦、前は増援艦隊だ。完全に囲まれてしまっている。

この状況、相手は最初から狙っていたのであろう。浮遊防塁によって足止めし、真綿のごとくじわじわと戦艦でなぶるように見せて、伏兵を使い挟撃し、一気に殲滅する。最初に防塁まで比較的容易にたどり着けたのも、狙いだったのかもしれない。そしてそれは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにとっても、予定通りだ!! ラクレット!! 撃てぇ!! 」

 

 

「────了解!! 」

 

 

 

 

 

 

その瞬間凄まじい光が、綺麗に隊列を組んでいた増援艦隊に向かって真横から殴りつけるように降り注いだ。それは只の光ではない。天文学的なエネルギーを含有する。破壊の光線。クロノブレイクキャノンである。

『エルシオール』に搭載されていた時のように、星を砕くような出力まではいかないものの、10隻以上の艦を同時に一撃で薙ぎ払うには十分な威力である。

 

 

それを打ち込んだのはもちろん。

 

 

「秘儀!! 伏兵返しだ!! 」

 

 

ラクレットヴァルターと愛機『エタニティークロノブレイカー』である。ソードをCBCに換装した結果、機体の名称が一時的に変更となったのだ。永遠の剣じゃなくなったので特殊兵装もないし、名前もついていないのだ。

 

 

「予定通り、増援をすべて排除した!! 」

 

「ああ、よくやってくれた、ラクレット」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、増援を読んで、敵陣地での戦闘にもかかわらず、伏兵を置いたか」

 

 

ゲルンも、さすがにこの強襲は読んでいなかったようで、素直に敵のリスクの高い戦法に感心する。リスクは結果を得てしまえば、いくらあっても全くなくても同じなのだ。そういった意味で『直接戦闘をする機体を一機減らすリスク』と『敵のホームにおいて、戦力を分散し配置するリスク』の二つを背負いながら、ここまでの状況を勝ち取ったトランスバール皇国軍は、素直に賞賛に値するであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

このような戦略がとれた理由。それはヴァインによる功績が大きい。彼はヴァル・ファスクの本土防衛シミュレーションの作成に一枚噛んでいたのだ。そう、浮遊防塁による時間稼ぎなどはさすがに知らなかったが、それでも『どのポイントにクロノドライブによる強襲を仕掛けることができるか』という情報は持っていた。これに関してはあくまで地形のデータなのだ。少し調べればヴァル・ファスクならばわかることである。

そして、それをもとに、増援によるコンバットトリックと敵が行う可能性をEDEN本星から、白き月に対して示唆したのだ。

結果、タクトは思い切った作戦に出た。ヴァインからさらに詳しく情報を聞き出し、戦闘宙域になるであろう場所、そしてドライブアウトするであろう場所を検討し、もっとも彼の直観が囁く位置を戦場と定めた。そして、敵の増援を狙える位置で、なおかつドライブアウト可能なポイントを割り出せたのだ。そしてその10億kmほど後方にラクレットを機体とともに (他にも味方の残存戦力である艦隊も) 待機させたのである。

10億kmは時速0.1光年である『クロノドライブ』において3秒強の距離だ。増援を見てから、通信で指示をだし、余裕で間に合う距離であり、敵が戦闘の形態をとれば、レーダーにぎりぎり引っかからない、そんな距離だ。

 

そこに『エタニティークロノブレイカー』を置いておいたのだ。『エタニティークロノブレイカー』の装備は、いたってシンプル。エンジンからエネルギーを一時的に保持できるストレージとジェネレーター。クロノブレイクキャノン1丁である。ジェネラータートストレージによって、少しでもリロードを早くすることを目的としていたのだが、それでも100%の状態から4発が限度だ。威力を落とせばもう少し行けるが。

タクトはエネルギーの半分を使ってでも、クロノドライブによる強襲をすることを選んだ。これによって機体は、2発ほどオリジナルの30%程度の威力の砲撃を撃てば、補給が必要となってしまう程のエネルギーしか残らないが、それでも、今回のようにかっちりはまれば強い。

 

 

「ザーブ艦隊は浮遊防塁を、装甲は堅いけど、火力は大したことないから、戦艦向きだ」

 

「了解ですぞ」

 

 

タクトはラククレットの後方に控えていた5隻のザーブ艦に対して指示を飛ばす。そう、浮遊防塁は、紋章機で相手するようなものではない。それこそ戦艦で集中砲火するものであるのだ。

 

 

「ラクレット!! 第二射!! 目標は────あそこだ!! 」

 

「了解!!」

 

タクトは、ラクレットに対して、斉射すべき目標を指示する。その射線上にいた、数機の紋章機は素早く退避。ラクレットが素早く充填を完了させるまでに、安全圏へと移動する。

 

 

「クロノブレイクキャノン!! 発射!! 」

 

 

そして再び、すさまじい光が機体の下の巨大な砲門から発せられた。その目標は。

 

 

 

「巨大小惑星群────破壊されました。予定通り破片が一体に拡散しています」

 

「よし、ミルフィー頼んだよ。君ができるって思えば、絶対にできるよ!! 」

 

 

そうラクレットが砕いたのは、アステロイド帯に存在する巨大な氷や何かしらの材質でできている、無数の星々であった。

当然狙いはある。そう、この戦闘において、最大戦力でありながら、今まで沈黙を続けていたラッキースターとパイロットミルフィーユ・桜葉。女神と称される彼女と彼女の機体には、ある特性があった。

彼女のラッキースターは理論上誰も動かすことができない機体だ。なにせ絶対安定しないクロノストリングエンジンが1つしか搭載されていないのだ。それは絶対的にアンバランスということであり、同時それを乗りこなすということはどんな確率も無視できる、どのような未来も作りえる。あらゆる事象を起こすことができる。神に等しい機体なのだ。

現に、彼女は今まで停止してしまったクロノストリングエンジンを瞬時に復旧し、周囲の戦艦と機体のステータスを回復し、天文学的なエネルギーが必要なクロノブレイクキャノンを1瞬で再充填させるといった離れ業をしている。

そして、彼女たちの特殊兵装『ハイパーキャノン』は曲がる、伸びると物理法則を無視した光学兵器である。これから彼女が行うことは、今までずっと集中してきたテンションを一気に解き放つこと!!

 

 

 

「バーンとやっちゃいます!! ハイパー! ブラスター! キャノン! 」

 

 

 

そして彼女は、目の前のひときわ大きな氷の塊に対して、その光を解き放った。次の瞬間まばゆい光が、その塊から拡散した。拡散したいくつもの細い光は、なぜか小惑星や何かしらの氷の破片にあたるたびに、『無数に乱反射』している。

そう、数千数万の破片がすでにこの戦場に散乱している。クロノブレイクキャノンで砕き、その余波で拡散したのだ。そしてその破片は、さながらプリズムのように、絶対起こりえない現象を起こす。

すべて彼女が、ヴァル・ファスク本星ヴァル・ランダル周辺画像を見たとき、青白い小惑星帯を見ていった感想『氷みたいでキラキラ反射しています』の言葉から始まった、この作戦。

ミルフィーがそうなると強く思えば、その願いを付与した光になる。それが、ラッキースターの特殊兵装だ。

そして今、この戦場は真の意味で『光のシャワーが降り注いでいた』

 

桃色の光は、無限に乱反射し続け、敵の戦艦に当たり、爆発を起こす。この宙域にいる無数の戦艦たちは、光の雨を回避することなどできなかった。なにせ、比喩なしに空から矢が降ってきているようなものなのだ。そして、この光はミルフィーの望み通り、一切味方に当たらない、フレンドリーファイアーを起こさない素敵仕様であった。

 

 

「敵艦……全滅です。そして浮遊防塁もザーブ艦隊の集中砲火で、あと少しです」

 

「よし!! ラクレット、ミルフィーは補給に!! あとの皆で一気に片づけて、ゲルンのもとに向かうぞ!! 」

 

「了解!! 」

 

 

ヴァル・ファスク本星防衛軍を、彼らは突破した。残るは、ゲルンの乗る『特別戦闘艦 ギア・ゲルン』とその護衛のみだ。彼らは心を一つにして、敵に向かい前進を開始する。

 


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