僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第4話 羞恥プレイがご褒美なれば無敵

 

 

敵の大凡の本拠地が分かった以上、第二次調査船団を組織し派遣するのは当然の事だろう。トランスバール皇国は120を超える星系を版図に持つ広大な勢力だが、辺境に関する知識は0に等しい。黒き月の航行データに残っていたのは断片的情報であった上に、まだ文化として内部の統制を取る時期であり、外に目を向けるには早かったのだ。

しかし、外敵がいる以上、そう言っているだけで留めるのは土台無理な相談である。第一次調査船団は、すでに先のネフューリアとの戦いの後、ほぼ闇雲の全方位に向けて組織した艦を派遣し、あと数か月ほどで戻ってくる予定だった。交信可能な範囲にいる艦にはすでに一時帰還命令を出している。

その期間を待たずに出立する第二次調査船団は、ノアとカマンベールの制作した今の皇国にはオーバーテクノロジーの通信機を搭載されて派遣されるのだ。

 

船団と言っても、方向目星が立っているので、規模はそこまでではない。人員は安全性や船員に与えるストレスも相当になるであろうから、最小限にとどめている。なにせ、未知の敵地に単騎で乗り込むのである。今の皇国軍にはそういった任務に進んで志願する勇気ある戦士が多いのだが、全員が必要なわけではない。11隻の駆逐艦と1隻の巡洋艦で作られた少数の船団に対し、50人ほどの優秀な人員と彼らをサポートする10人ほどの予備要因が乗り込み、皇国の辺境へと旅立っていった。

 

 

彼等の目的は、ダイゴの証言の信憑性を確認するためであり、そこまで長期の任務ではなく、何かしらの情報を手に入れたならば帰還するといったものだ。いくら通信機が優秀でも、どこまででも連絡が取れるわけではない。

 

事実、船団の速度では本星から最短距離で約10日ほどの距離の辺境地帯からさらに10日ほどかけた所にEDENが、そこからさらに10日ほどの所にヴァル・ヴァロス星系があるわけだ。そういったおおよその情報は、混乱を招く可能性もあるため伝えられていなかったが。

 

 

そして、『エルシオール』は来る時に備えて、力を蓄えていた……

 

 

「さて、みんな、今日集まってもらったのは他でもない、ある案件を速やかに、適切に処理するためだ」

 

「どーして、お前はこういう馬鹿みたいなことをする時だけ、真面目なんだ……」

 

 

場所は司令官室。この場にいるのはエンジェル隊と司令&副指令の8人だ。現在の『エルシオール』は来る時のために力を蓄えつつ、本星から離れすぎない程度に周遊し、治安維持及び凱旋の為に航行していた。儀礼艦とはいえ、戦艦であるのだ。完全な整備によりいくつかの修理を先の大戦のあと受け、こういった通常航行をしていた。

修理にかかった期間である1か月は要するに彼らの休みだったわけだ。

 

 

 

さて、現在『エルシオール』にはそこまで多くの人員が搭乗していない。戦闘要員、整備要員、清掃、食事等の生活に必要な人員。といった程度である。しかし、万が一に備えてエンジェル隊は『エルシオール』を拠点に行動することを義務付けられていた。要するに彼女たちは暇なのである。

 

そんな中タクトが重大な話があると、普段は呼ばない司令官室に呼び出したので、これは何かあるかも知れないと、集合したわけだ。

 

 

現在の『エルシオール』の目的は、ネフューリアの被害を受けた星に向かい追悼式典に参加するタクトを送ることだ。一応出席する政府高官を送り届ける役目も帯びているが、彼等は自室で仕事に追われているので、彼女たちにはあまり関係ないのだ。

 

 

「で、なんなのよ? 」

 

「ああ……ランファ、質問だが……ラクレットの誕生日は知ってるか? 」

 

「え? うーんと……いつだったけ? ミント知ってる?」

 

「……いえ、存じ上げませんが」

 

「そーいや私も知らないね」

 

 

タクトの質問が、順にたらいまわしされていく。その光景を、なんとなくカッコいいポーズ(司令室の椅子に座り、机に両肘をつき顔の前で組むといったもの)を取りながら、見つめるタクト。そして一人ため息をつきながら、横に立っているレスターを見る。レスターも、暇なのは事実なので気乗りはしないが乗ってやることにし、コンソールを操作し、司令官室のスクリーンに映像を写す。

 

 

 

『さて、本日のトランスバール・ナイトショーにお呼びしているゲストの方々は、今をときめく少年二人、片や皇国中の女性から熱いラブコールを受けている、 No.1アイドルグループ、アニーズの『リッキー・カート君』 もう一人は、かの皇国の英雄やエンジェル隊と共に反逆者を打ち倒したフラグ・ブレイカー『ラクレット・ヴァルター君』です!』

『こんばんは』

『『こんばんは』』

『いやー、全く方向性の違うお二人ですが、実は同い年だそうで。今の皇国の若い世代の期待の星ですね』

『はい、僕とラクレットさんは、誕生日が4日違いみたいで、二人とも先月15になりました』

『ほー、15歳ですか……』

 

 

そこで映像は切られる。司令官室を嫌な感じの沈黙が支配する中、それを打ち破ったのはヴァニラだった。

 

 

「私は、誕生日をお祝いするメールを送りました」

 

「あ、私もメール送ったら、ちょうどその日が誕生日なんだって返信が返ってきたから、おめでとーって送ったよ」

 

 

タクトはその二人の様子を見ながら、重苦しく口を開く

 

「……とまあ、我々の多くは、戦友の誕生日、しかも15の誕生日を全く祝うことなく放置してしまった」

 

「……」

 

 

レスターは、別段誕生日くらいどうでもいいではないかと、思いつつ、タクトの話を大人しく聞く、これ以上絡むと無駄な体力を消費してしまうことは既に経験でよくわかっているのだから。レスターはこのように淡白であるが、タクトは違う、万一にも自分の誕生日を女の子に祝ってもらえないのは嫌なのである。まあ、どうせ最後は恋人とのんびり過ごすことになる誕生日であろうが。ちなみに、15歳はトランスバール皇国の法律的には成人とされる年齢である。

 

 

「なによりも、我々は少し、ラクレットの事を知らなさすぎる!! 」

 

「言われてみれば、私も得意な料理を知りません」

 

「まあ、それは確かに……」

 

「そうですわね……正直、人となりを除けば、軍のパーソナルデータの方が詳しいかもしれませんわ」

 

「確かにねー、あいつ自分の事を話さないから……」

 

「ラクレットさんは、聞き上手です」

 

「ヴァニラ先輩、それにしても限度があると思います」

 

 

と、エンジェル隊が、団結してきたところに、水を差すかのようにレスターが口を開こうとする。突如先ほどまでの勘が、ここで切り出さないと余計な面倒事を抱え込んでしまうと告げたのだ。彼のこの手の勘は既にタクトクラスになっている。

 

 

「おい、タクト、お前まさかまた何かやらかすつもりか!? 」

 

「やらかすなんて、ひどいなー。オレはただラクレットにちょっとした質問をするつもりなだけさ。そう、ちょっとした質問をね」

 

「クロミエにでも聞けばいいだろ、今のあいつは忙しいんだぞ! 」

 

 

実は、ラクレット、現在『エルシオール』にいる。エルシオールの行き先に同じく招かれているのだ。訓練の方は、一定の成果を掴んだが、まだ彼自身が納得している域にはない。軍学校の訓練期間は来月で終了するのだが、別段訓練の為に所属していただけでこれと言った変化もなく、『エルシオール』に戻るだけだのだが。

今回、旗艦殺しのの二つ名を持つ優秀なパイロットとしてスピーチをしに行く必要が出てきたので、政府高官と共に向かうことになったのだ。二泊三日の休日である。明日朝には到着し、明日の午後スピーチをし、そのまま旅客船で一人帰り、明後日の夕方本星に着く計算だ。

 

 

「いやね、クロミエは『ラクレットさんは格好良くて、優しい人です』としか言ってくれなくて」

 

「……あいつは、何がしたいだ? 」

 

 

それはともかく、タクトの企みの方向性が見えてきたので、レスターは自分が被害を受けないように一歩引くことにする。

 

 

「よし! それじゃあ始めようか!! 『ドキドキ!! 質問タイム!! ラクレット編』というわけで、主役のラクレットでーす」

 

「ど、どうも」

 

「おいっ!! こいつは今忙しいんだぞ! 」

 

 

タクトのその言葉で現れたのは、なぜか両腕を縛られ、MPに連行されてきたラクレットだった。タクトに、「ちょっとしたお遊びだから」と言われて付き合っているのだ。

 

 

「はい、それじゃあ質問しよう……と言っても、突然なんか出てくるわけないから、ここにクロミエが用意してくれた『ラクレットがギリギリ答えられるであろう質問』が書いた紙がたくさんあるので、1枚ずつ引いて質問することにするよー」

 

「へー、そいつは面白そうだ。引いた紙に書いてあった質問は絶対答えてくれるわけだね」

 

「そういうこと、それじゃあレスターこの箱を持ってくれ」

 

 

タクトがそう言うとレスターは渋々と言った表情で、箱を持ち上げ直立不動の姿勢を取る。もはや、諦めの境地である。なんだか巻き込まれた被害者であろうラクレットには僅かばかりの同情の視線を送るだけだ。なにせ、彼もクロミエに嵌められたのだろうだから。

ラクレットもラクレットで、休憩していたら、MPに連行されたのだ。司令がなにか面白いことを思いついたという理由を説明されなければ、タクトが自分を拘束するように判断したのかと認識するところだった。故に大人しく椅子に座っている。

 

「それじゃあ、どうぞー」

 

「じゃあ、まず私が引きますねー……よいしょっと!!」

 

 

意気揚々とミルフィーは、箱の中に手を伸ばす。そして、一枚の紙を掴み手を引きぬいた。その手に握られていた紙を広げて読み上げる。

 

 

「あなたの好きな異性のタイプは?  って書いてありますー」

 

「おお、確かにギリギリ答えてくれそうな質問だ。それでラクレット、回答は? 」

 

 

タクトが納得したかのように頷き、ラクレットに促す。ラクレットは別段この程度の質問は予想していたのか、特に気取った様子もなく答える。

 

 

「えーと、年上で、髪の毛が綺麗で長い人ですね」

 

「色は? 」

 

 

すかさず、追及がタクトから入る。ちなみにタクトも、ラクレットの好みには同意している。最もタクトもラクレットもオールラウンダーだが。

 

 

「そうですね……綺麗な金とか黒とか、銀ですかね」

 

「へー……それじゃあ次行こうか」

 

 

一瞬だけ視線が二人に集まったが、そのまますぐにランファの番になる。ランファはそこまで乗り気ではないのだが、暇つぶしには良いかと、この余興に付き合うことにした。なにせすることが無いのは事実なのだから。ゆっくり手を伸ばして紙を引く。

 

 

「好きな人が、自分じゃない人を好きになったら? だって」

 

「場合にもよりますが、潔く身を引くと思いますよ」

 

「へぇ、諦めちゃうの? 」

 

「いえ、その人の幸せが一番という事です」

 

 

お互いに腹に一物持ったような会話のキャッチボールを交わすランファとラクレット。質問が微妙にお互いに思うところのある内容だったためである。

ランファがしばらくラクレットを見つめていたが、タクトが割って入り、ミントを促したことで、場の空気は何とか元に戻った。

 

 

「それじゃあ、ミント頼むよ」

 

「承知いたしましたわ……どこフェチ? また随分マニアックな質問ですわね」

 

「……脹脛」

 

「……嘘は言ってないようですわね……いえ、全部は言って無いと言った所でしょうか? 」

 

 

ジト目でラクレットを見つめるミント。ラクレットは言えなかった。自分が脹脛と胸の谷間+黒子フェチであることを、ミントに対して言えるはずがなかった。

 

 

「それじゃあ次はアタシか、えーと……自分の好きなタイプで、その子が同性だったら? 」

 

「いや、まあ、いいんじゃないですか? 愛があれば」

 

「というか、クロミエは何を思ってこんな質問を入れたんだい……」

 

 

脱力するかのように、フォルテがそう呟く、まあ確かにギリギリ答えられる質問ではあるのだが。タクトはそろそろ本格的に気を配った方がいいのかもしれないと、一人思いをはせていた。それは後日同性婚が認められる星系一覧について書かれたレポートがクジラルームに置いてあったのを見てより強く決心することになるが余談であろう。

 

 

「次は私です……虐められるのが好きですか? 虐めるのが好きですか? ……? 虐めるのは良くありません」

 

「……い、虐められる方が……」

 

「私も虐めるよりは、虐められる方がいいです」

 

 

質問の意味がよくわかってないであろうヴァニラに、若干たじたじとしながら、答えるラクレット。これってセクハラになるんじゃないのか? クロミエと脳内で呟いている。

そして、周囲からはやっぱりとか、思った通りといった声がひそひそと聞こえる。ラクレットはなんとなく泣きたくなった。

 

 

「私の番ですね……『エルシオール』の乗組員ならだれが好き? だそうです」

 

「クロミエー!!!!! 」

 

 

ラクレットは、親友の名前を叫んだ。すると、彼の脳内に「テヘッ♥」と言いながらウィンクしている親友の顔が浮かんだ。妙にかわいいのでむかついた。

 

 

「あ、ようやく面白そうな質問が来たわね」

 

「そうですわね、どうせなら賭けでもしたら、面白かったでしょうが」

 

「そんなことしたら、ミントが心読んで勝つにきまってるじゃないか」

 

「あら、私は、勝負ごとにそのような無粋は持ち込みませんわ」

 

「良く言うよ……」

 

 

雑談もひと段落ついたのか、全員の視線がラクレットに集まる。ラクレットはここを乗り切るのはどうすればいいか考える。とりあえずまず自分だけでは難しそうなので増援、援軍をと思い、レスターを見れば、目をそらされる。面倒事だと見捨てられたようだ。タクトは最初から面白そうに見ているだけ。

すでに八方ふさがりであったようだ。

 

もう、ここまで来たら開き直って、言おうと思い息を大きく吸い込んでから、しばらく黙りためを作って、ラクレットは口を開いた。

 

 

「……ケーラ先生です」

 

「あー、やっぱり」

 

「まあ、そんなところだろうとは思ったけどねー」

 

「え? 何ですかそのリアクション」

 

 

ラクレットからすれば、もう少し驚きの様な反応がほしかったのだが、どうやら納得されてしまったらしい。

 

 

「まあ、いいじゃない、じゃあ次行ってみよー!! 」

 

「え? まだやるんですか? 」

 

「皆暇だしね、それじゃあ俺かな……」

 

 

そうして、ラクレットはそのまま箱の中身が空になるまで、どころではなく、なっても質問され、解放されたのはだいぶ後になってのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、今日のあれは、どういう意味があったんだ? 」

 

 

エンジェル隊と、ラクレットが帰り、男二人だけとなった司令室。その場でレスターは、突然親友が催した意図の見えない企画について追及する。

なんとなく、聞いてほしそうな気配を感じたからだ。何せあそこまであからさまに、レスターの存在意義があまり見いだせないようなイベントに、参加させたのだ。

 

 

「うーん……オレはみんなを信じているけどね、こういった手を打っておきましたよーってアピールする必要があるのよ」

 

「……良くわからんが、お前なりに意図はあったんだな」

 

「うん、機密で口止めされてるし、催眠暗示でミントの前で考えられないようになっているんだけどね……」

 

 

 

タクトは思い出す、ラクレットが大事な話があると、白き月で合流した時、シヴァ女皇陛下と共に現れた彼から聞いた言葉を。

 

────感情が昂るとボーっと光るんです……漫画でしょ

 

そう言って、愛機に触れ、能力を発動させたラクレットの顔を

 

 

 

 

「まあ、大丈夫さ、なんせオレ達は仲間なんだから」

 

「そうか……まあ、お前に任せるよ」

 

 


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