転生して原作キャラと仲良くなりたい。@異世界から問題児がくるそうですよ?   作:冬月雪乃

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第7話

コミュニティ“ノーネーム”本拠入口前。

 

「こちらが私達のコミュニティでございます。しかし、本拠にしている館はこの入り口からも更に歩かねばならないので、御容赦ください。この近辺はまだ魔王との戦いの名残りがありますので………」

「戦いの名残り?噂の魔王って素敵ネーミングの奴との戦いだよな?」

「は、はい」

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてちょうだい」

 

うぅ、と黒ウサギは躊躇いがちに門を開く。

そこは、想像を絶した世界があった。

--死んでいる。

一言で表せばこうだろう。

廃墟は風で削られ、土は渇ききり、瓦礫は風化している。

私達が指の一本でも触れようものなら。

それは砂の様になって形も残らない。

なるほど、最厄とは言い得て妙だ。

 

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは--今から何百年前の話だ?」

「僅か三年前でございます」

「三年……?」

「ハッ、そりゃ面白い冗談だ。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」

 

十六夜が辺りを見回して、苦虫を噛み潰した様な顔で再び口を開く。

 

「……断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はしない。この木造の壊れ方なんて、膨大な時間の末自然崩壊したようにしか見えない」

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「……生き物の気配が全くしない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

「……魔王とのギフトゲームはそれほどに未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間もみんな心を折られ……コミュニティからも、箱庭からも去って行きました」

 

顔を伏せ、悲痛な声で当時を説明する黒ウサギ。

 

「ふむ。予想以上で倒しがいがありそうな敵ではあるね。そう思わないかね?十六夜」

 

だが、そんな事でやる気が折れる私達ではない。

 

「全くだぜ詩織。魔王--か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか……!」

 

むしろ十六夜はやる気が迸ってる。

飛鳥と耀が引くレベル。

 

「ありがとうございます、お二方。十六夜さん、水樹の苗を植えたいのですが、良いですか?」

「十六夜、風呂に入りたくば了承したまえ。まず間違いなく水がないぞこの周辺」

「そりゃ日本人には死活問題だなオイ!もちろん良いぜ黒ウサギ!」

 

ほ、と安堵の吐息を吐く私達女性陣。

 

「み、水は子供達が運ぶので問題はないのですが……」

「……一体何往復させる気かね?前の世界で鬼畜だ外道だ悪だと言われた私でも、流石に心が厳しいのだが」

 

うんうん、と飛鳥と耀が頷く。

 

「う……」

「ま、とにかく、これ植えれば良いんだろ?不毛な議論してねぇで、さっさと植えようぜ」

 

違いない。

貯水池に向かう。

居住区は素通りだったので、子供達は貯水池で掃除でもしているのだろう。

実際その通りだった。

黒ウサギの一声で整列した子供達の数、百人越え。

飛鳥と耀の顔が引きつっている。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、七海詩織さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えているのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「中々身分差が激しいのだね?」

「そうしなければ彼等のためにもなりません。働かざるもの食うべからず。ギフトゲームに参加できない代わり、参加資格を持たない彼等には相応に働くのが義務なのです」

 

我々プレイヤーが命を賭してコミュニティに利を齎すのが義務の様に、かね。

 

「ではみなさん!プレイヤーの皆様に挨拶を!」

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

おお、大音量。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

「そ、そうね…」

「……………」

 

笑っているのは十六夜だけだ、

飛鳥と耀の二人はなんとも言えない複雑な顔をしている。

見て聞いて触って実感したが、コミュ障な彼女達は子供が苦手なのだろうね。

 

「さて!自己紹介も終わりましたし、それでは水樹の苗を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんはギフトカードから苗を出してくれますか?」

「はいよ」

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

確かに大きい。

これだけあれば水の問題は何も無いだろう。

 

「最後に使ったのは三年前ですよ。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

私も欲しい。

 

「さて、何処でしょう?知っていても十六夜さんには教えません」

 

教えたら取りに行きそうだ。

 

「水路も時々は整備していたのですが、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは無理でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけ開きます。此方は皆で川の水を汲んできた時に時々使っていたものなので問題ありません」

「あら、数kmも先の川から水を運ぶ方法があるの?」

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

「半分くらはコケて無くなっちゃうんだけどね」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになぁ」

「……そう、大変なのね」

「……ふむ。諸君らもたまにならここから水を持って行くといい」

 

たまになら、がミソだ。

毎回持ってけ、と言えば黒ウサギが反対するだろうし。

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります。十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

「オッケーだぜ黒ウサギ」

 

では、と苗を植える。

水が大量に放出されて、流れは激流となり--それは当然、水路を辿って水門に向かう。

そこには慌てた顔の十六夜が未だに突っ立っていて--。

 

「ちょ、少しは待てやゴラァ!!流石に!今日は!これ以上濡れたくねえぞオイ!!」

 

人外スピードで移動して難を逃れた。

 

「黒ウサギ、狙ったね?」

「え、ね、狙ってなんてないデスヨ!一日振り回された恩をここで返そうなんて--」

「・--世界は真実のみとなる。対象、黒ウサギ。ではもう一度。狙ったね?」

「狙ってなんか無--ケホァッ!?い、息が出来ない!?ど、どういうことですかこれ!」

「真実しか話せない概念だ。嘘をつこうとすると窒息したり止まったりする」

 

黒ウサギが固まった。

十六夜がヤハハ、と笑いながら黒ウサギを貯水池に投げ込んだ。

上がる悲鳴、突き立つ水柱。そして広がるみんなの笑顔。

うんうん。因果応報だね?

……いや、黒ウサギの被害のが大きいか。

こうしてる間にも苗は水を放出し、予想量を大きく超えた量で放出が止まる。

 

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも……!」

「農作業でもするのかね?」

「近いです。例えば水仙卵華などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならゲームに参加出来ない皆にも出来るし……」

「ふぅん。で、水仙卵華って何だ、御チビ」

「す、水仙卵華は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効果のある亜麻色の花の事です。薬湯につかわれることもあり、観賞用にも取り引きされます。確か噴水広場にもあったハズですが…」

 

合流した場所には確かに噴水があったね。

 

「あぁ。あの卵っぽい蕾のことかね。では明日にでも頂きに行こう」

「だ、駄目ですよ!水仙卵華は南区画や北区画でもゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かい事を気にするなよ御チビ」

 

イラァッとした視線をジンが十六夜に送る。

十六夜は視線に気付いたのか、笑いながら受け流して口を開いた。

 

「悪いが、俺は俺が認めないかぎりは“リーダー”なんて呼ばないぜ?今の御チビはリーダーの器じゃないしな。この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだしな」

「べ、別にコミュニティの為に水樹もらった訳じゃないんだからねっ!私に認められたかったら早く成長することね!頑張りなさい!と言ったところかね十六夜」

「お前茶化すの得意だよなぁ……」

「へぇ……十六夜君、優しいじゃない」

「ツンデレ……私の時代では絶滅危惧種……」

 

問題児は人をおちょくるのが大好きです。

隙あらばおちょくる。

 

「あぁ!もう!とにかく、黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずにすみそうだしな。だがもしも、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらない事になっていたら……俺は躊躇いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

「では私は魔王にでもなろうかね。本来、善側より悪側寄りでね」

「僕らは“打倒魔王”を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで……それを証明します」

 

真剣な瞳で私達を見るジン君。

うむうむ。若いね。

 

「その意気だよ、ジン君」

「よし、詩織。お前が魔王になったら一番先にクリアするのは俺な!」

「当然だ十六夜。既にゲームの内容は三つ程考えてある。……そうだね、ガルドのゲームが終わったらガルドを使って試すのもありだろうね」

「な、なんて会話してるんですかお二方!ダメですよ!魔王になったら白夜叉様が黙っていません!消し炭です消し炭!」

 

慌てた様にびしょびしょの黒ウサギが割って入ってきた。

 

「それは怖い」

 


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