転生して原作キャラと仲良くなりたい。@異世界から問題児がくるそうですよ? 作:冬月雪乃
今回やたら長いです。
噴水近くで合流した十六夜と黒ウサギに事情を説明した結果……。
めちゃくちゃ罵られ、十六夜は愉快そうに笑われた。
最終的に私が間接的に三桁の魔王に喧嘩売ったのがばれ、私はさらに罵られた。
十六夜は腹を抱えて笑ってた。
「「「カッとしてやった。反省はしてない」」」
「だまらっしゃい!」
ハリセンで叩かれた。
「しかもなんですかこの契約書類!!得られるものは自己満足だけではありませんかッ!」
「“参加者プレイヤーが勝利した場合、主催者ホストは参加者の言及するすべての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”--まぁ確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」
「リスク?何を言っているのかね十六夜。あの程度の虎男、私達の敵では無いよ。小指一本で十分だ」
「ヤハハ、どんな怪力女だよお前」
「でも、すごかった。ビーム出した」
「あれには私もびっくりよ」
「怪力女じゃなくてビックリ人間かよ」
「石の中に呼び出されても余裕な君には言われたく無いよ、十六夜」
「ハハ、違いない」
全く緊張感の無い問題児達に、諦めた様に黒ウサギがため息を吐いた。
「……仕方がない人達です。えぇ、腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」
「なに言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」
「当たり前よ」
「what!?何言ってるんですかお二方!?」
「いいか黒ウサギ。これはこいつらが売って、やつらが買った喧嘩だ。邪魔するとか無粋だろ」
「も、もう勝手にしてください……」
前途多難だね?黒ウサギ。
「うぅ……と、とにかく、明日がゲームというなら、とりあえず“サウザントアイズ”に向かいましょう!」
「“サウザンドアイズ”?」
「Yes!“サウザンドアイズ” は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティなのですヨ!」
「なるほど。とりあえず向かうとするが、何をしに行くのかね?まさか“ひのきのぼう”に“かわのよろい”を買いに行くわけでもあるまい?」
「勇者パかよ、ってかゲームすんのかよシスターさん」
「私はシスターではないよ。……ユグドラシル」
機械音を立てて久しぶりに起動したIS、ユグドラシルが私を包む。
あぁ、久しぶりだね。
「これは私の世界でとある天才科学者によって開発された宇宙開発用パワードスーツ。名を、インフィニテッド・ストラトス。シスター服は私のISの待機状態だ」
「……思い出した。歴史の授業でやったよ、今でこそ宇宙開発用でしか使われてないけど、出た当初は競技用とは名ばかりの兵器として運用されてたって。……そして、その流れで女尊男卑が始まり……」
繋がった歴史の上に私と耀は立っているのだね。
確信が持てないのか、その先を耀は言わない。
だから、私が引き継ぐことにした。
「そう、私がそんな世界を変革した。私も束も有名になったものだね」
「へぇ、未来じゃあそんなことがあったんだな」
「ともあれ、これで私がシスターでないことは理解してくれたかね?」
「あぁ」
では“サウザントアイズ”に向かおうか。
#
サウザントアイズに到着すると、店じまいを始めている頃合いだった。
「待っ……」
「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっていません」
「なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の五分前に締め出すなんて!」
「文句があるなら余所へどうぞ。これ以上騒ぐなら出禁です出禁」
「出禁!?これだけで出禁とか御客様を舐め過ぎでございますよ!?」
その後も柳に風、暖簾に腕押しの連続でひらりひらりと躱され、中々中に入れない。
黒ウサギなど涙目になっている。
そんな時だ。
「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」
「きゃあぁあぁあああぁぁーーーーー…………!」
白い影が黒ウサギをホールド、悲鳴を挙げる黒ウサギごとそのまま恐ろしい速度で文字通り飛んで行き、近くの水路に落ちた。
黒ウサギの悲鳴と、黒ウサギを堪能する変態親父みたいな少女ボイスが周囲に響く。
なんとも言えぬ沈黙が女性店員と私達を包むが、やああって十六夜が口を開いた。
「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
「十六夜。背後」
「ん?」
十六夜が振り向くと、白いのが結構な速度で飛んできた。
黒ウサギにでも投げられたのだろうか。
十六夜は表情一つ変えずに、白いのを足で受け止めた。
というかカウンター気味に回し蹴りをした。
腹に突き刺さる脛部分。
決して女の子が出していい音ではない声が白いのから吐き出される。
「ゴバァァッ!?」
「サンキュー、詩織。危なく和装ロリに轢き殺されるとこだったぜ」
「箱庭とは恐ろしいところだな十六夜。いきなり幼女が良い速度で飛んでくるのだから」
「全くだ」
ハハハ、と笑い合う私達に恨めしい視線が刺さる。
「お、おぬしら、飛んできた初対面の美少女を受け止めず、あまつさえ足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だ。以後よろしく、和装ロリ」
「私は七海詩織。以前いた世界では……世界の中心だったね」
視線が集まったのでくねってみた。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様の白夜叉様だよ、ご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育の良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」
水路から黒ウサギが戻ってきた。
全身ずぶ濡れだ。
「うぅ……まさかまた私まで濡れるなんて」
「召喚直後の私達を上空4000mに放り込み、着水させようとした罰だね」
「あ、あれは事故なんです!」
私達の様子を見ていた白夜叉がなるほど、と手を打った。
「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来るという事は………ついに黒ウサギが私のペットに」
「なりません!どういう起承転結があってそういう事になるんですか!」
「ちっ、全くつれないのぉ黒ウサギは。まぁよい。話があるなら店内で聞こう」
「ですがオーナー。彼らは旗も持たない“ノーネーム”。規定では」
「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても責任は私が取る。いいから入れてやれ」
「店員は悪くないような気もするのだが……」
生活がかかっているのだ。
出来るだけマイナス点は出したくないだろう。
「ふむ。心が広いの、おんし」
「私の心は宇宙と同義の広さだよ、白夜叉」
「お前、思ったより頭おかしいんだな」
「問題児筆頭に言われたくはないよ」
にっこり、と笑顔を向け合う私と十六夜。
女性陣は引き気味だ。
かくして、私達は白夜叉の私室である和室に通された。
「さて、もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があっての。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の広い美少女だと思ってくれ」
「はいはい、いつもお世話になっております本当に」
投げやりではあるが、実際尊敬はしているようだ。
出なければ頼れる場所としてここが出てくることは無いだろう。
「その外門って何?」
「箱庭の階層を示すがいへきにある門の事ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持った方々が住んでいるのです。ちなみに、私達のいるここは最低ランクの七桁です」
図解してくれたそれを見て、問題児達が自分の理解に合わせた発言をする。
やれバームクーヘン。
やれ玉ねぎ。
……食べ物好きだね?
「ふふ、言い得て妙じゃの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たる。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側に辺り、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所となる。あそこはコミュニティに属していないものの、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞ--その水樹の持ち主のようにの」
つまりノーネームだらけ、と。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
「なんと!?クリアではなく直接的に倒してきたとな!?ではその童は神格持ちか?」
「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かりますから」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスが無ければありえん。種族の力で言うなら、蛇と人とではドングリの背比べだぞ」
つまり十六夜はチート野郎、と。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いなのでございますか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
「へぇ、じゃぁお前はあの蛇より強いんだな?」
「ふふん、当然。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側にある四桁以下のコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の“主催者”なのだから」
問題児の目が輝いた。
黒ウサギが助けを求めるような視線を私に寄越すが、目をそらして回避。
「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」
「無論、そうなるの」
「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」
すくっと立ち上がる三人。
私はお菓子を食べているので立ち上がらない。
「抜け目無い童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むとは」
「え、ちょ!?ちょっと御三人様!?」
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。好きよ、そういうの」
「ふふ、そうかそうか。--しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「何だ?」
白夜叉は懐からカードを取り出した。
向かい合う双女神の図柄が描かれたそれを見せつけ、白夜叉は私達に問いを放った。
「おんしらが望むのは“挑戦”か?--それとも、“決闘”か?」
瞬間。
私達は和室から別世界に転移した。
様々な景色が通り過ぎ、止まる。
そこには凍てついた湖畔と、真っ白に覆われた大地--雪原、そして水平に回る太陽が存在する世界だ。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”--太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」
凍りついたように慄く十六夜達に、白夜叉は笑いながら問うた。
「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽や、この土地は、オマエを表現しているってことだな?」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
ゲーム盤。
これ程の世界が遊びの場だというのだ。
「豪勢な事だね」
「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。--だがしかし、“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」
耀、飛鳥は多分心が折れてるね。
十六夜は表情に苦渋を滲ませてる辺り、挑戦を選ぶだろう。
「参った。やられたよ、白夜叉。降参だ」
「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」
「これだけのゲーム盤を用意出来るんだ。アンタには資格がある。--いいぜ、今回は黙って試されてやるよ、魔王様」
試されてやる。
子供地味た悔しがり方に思わず苦笑する。
白夜叉は腹を抱えて笑っているが。
「く、くく……して、他の童達も同じかの?」
「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
「そこのおんしは?」
「よろしい。ならば決闘だ」
ほぉ、と白夜叉が目を細める。
黒ウサギが慌てて私を止めに入ろうとするが、残念。
「止めるな黒ウサギ。女には、やらなければならない時があるのだ」
「し、死んでしまいますよ!」
「やめた方が……」
「そうだぜ詩織。これだけのゲーム盤を--」
「安心したまえ諸君。ルールは簡単。白夜叉、私が戦い、どちらかが死ぬか倒れるか、もしくはリザインしたら終わり。どうかね?」
「私はそれで良いぞ。--しかし、本当に大丈夫なのか?おんし」
「私を侮るなら侮るといい。私は最初から全力だ」
契約書類が現れた。
『ギフトゲーム名 “白夜に舞う”
・プレイヤー一覧
白夜叉
七海詩織
・クリア条件 リザイン、気絶、死亡を含めたその他戦闘不能状態に追い込むこと。
・クリア方法 相手を倒す。戦闘不能に追い込む。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“サウザンドアイズ”印』
「ああぁ、詩織さんが死んでしまいますよぉ……」
「確かに白夜叉の力は体感できる分だけでも凄まじいが。絶対勝てないという程では無い」
「ほぉ……」
時間遡行カウンターをオンにする。
「では、行かせていただくよ、白夜叉殿」