転生して原作キャラと仲良くなりたい。@異世界から問題児がくるそうですよ? 作:冬月雪乃
第10話
夜。
粗方の治療を終え、私は談話室で寛いでいた。
「ところで黒ウサギ。あの人数の子供を養うのは厳しく無いかね?」
「それは……まぁ……」
「何せコミュニティがこんな状態だ。どうせ金もそろそろ底をついてきた頃合いだろう?」
えぇ、と力なく頷く黒ウサギ。
しかし、その目には警戒心が宿っていた。
「……別に子供をどうこうするわけではないよ、黒ウサギ。私はガルドではないのだから」
ほ、と黒ウサギの目から警戒心が抜ける。
「で、ではどうすると?」
「何、簡単だ。私には食料を生産する用意がある。--ノア君。居るね?」
「tes.ここに。--------以上」
さすがノア君。
彼女達が私のギフト扱いになっていないのには多少の疑問があるが、まぁ、概念兵器やISをギフトにしてしまうと凄まじい数になるのだろうね。
「ノア君。食料を百三十人分用意したい」
「もちろん可能です。--------以上」
どさどさと音を立ててその場に落ちてくる食料の数々。
「えっ、わ、あの、貴方は……」
「申し遅れました。私はノア。七海詩織様によって作成された三十万の軍勢を纏める管制型自動人形でございます」
「さん……っ!?」
「ヤハハ、そりゃ豪勢だな」
「十六夜かね。そういえば黒ウサギ。十六夜に伝えることがあったのだろう?」
「あ、はい。えと、例のゲーム、延期になりました……」
「延期?」
「はい。……申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」
黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、落ちてくる口惜しい、とばかりに顔を歪めて落ち込んでる。
「なんだそりゃ。白夜叉に言ってもダメなのか?」
「ダメでしょう。巨額の買い手がついた様ですし」
ち、と不快そうに十六夜は舌打ちをした。
「所詮は売買組織ですってか?エンターティナーとしては五流以下だな」
「ふむ。ちなみに黒ウサギ。その商品。その買い手にギフトゲームを挑み、叩き潰した上で奪うことは当然可能なのだろう?」
「はい……ギフトゲームは箱庭のルールですから……しかし、それを拒否されては……主催者権限があれば別なのですが……」
4th-Gのムキチ探しをギフトゲーム化したのだが……やはり問題は主催者権限だね。
修羅神仏という話だし、神格を得られれば主催者権限を得られるのだろうか。
「難儀なものだね」
「チッ。まぁ、次回に期待するか。ところで、その仲間ってのはどんな奴だ?」
「一言で言えばスーパープラチナブロンドの超美人さんです」
「人身売買の話だったのかね
……」
「加えて、元・魔王だぜ詩織」
「それはまた規格外な話だね……」
「そう褒めてくれるな、黒ウサギ」
声と共に、部屋にいる全ての視線が外に向いた。
ノックをする視線で、にこやかに笑う少女が浮いている。
黒ウサギは急ぎ窓に駆け寄り、解錠する。
「レティシア様!?」
「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。“箱庭の貴族”ともあろうものが、モノに経緯を払っていては笑われるぞ」
ふわり、と優雅に苦笑し、少女は談話室に入る。
話通りのスーパープラチナブロンドの髪をリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具のようなロングスカートを着た彼女--レティシアは私達と対面するようにソファーに座る。
「窓から失礼。ジンには見つからず、黒ウサギに会いたかったんだ」
「あぁ!窓に!窓に!」
「落ち着けよ詩織」
十六夜の拳が私の頭を捉えた。
やはりカウンターは発動せず、そのまま頭から机に突っ込む。
「だ、大丈夫ですか詩織さん!?」
「うむ。中々の打撃だった」
「頭からドバドバ血を流して言うセリフじゃありません!?」
「それより黒ウサギ。客人にお茶を。あと十六夜。そんなに見つめても恋は始まらないぞ」
「ちげぇよ。前評判通りの美少女で目の保養にしてただけだ」
「隣にも居るが?」
「お前は性格と口調を治せ。そしたら美少女だから」
「ふふ、なるほど、君が十六夜で、そちらが詩織か。しかし、鑑賞するなら黒ウサギも負けていないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」
「あれは愛玩動物なんだから、鑑賞するより弄ってナンボだろ」
「ふむ。否定はしない」
「否定してください!」
おや、黒ウサギが帰ってきていた。
「レティシア様と比べられては世の女性ほとんどが鑑賞価値の無い女性でございますひぃっ!?くっ黒ウサギだけが見劣る訳ではないですし詩織さんは剣を投げないでください!!」
「すまない。手が滑ってね」
胸以外は篠ノ之束と同一の私に喧嘩売ってるのかね?
「で、何しに来たんだ?」
「なに、ただ単に新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたく無いのは合わせる顔がないからだ。結果として、仲間である詩織を傷付ける事になったからな」
「なるほど、君がガルドに力を」
「吸血鬼だから美人設定なのか」
「は?」
「え?」
「いや、いい。続けてくれ」
しょうもないことを言った十六夜に、二人は冷たかった。
いきなり難聴になるのはどうかね。
「実は、黒ウサギ達がコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を、と憤りを感じていた。それがどれだけ茨の道か、お前が分かってないとは思えなかったからな」
「つまり、コミュニティを解散する様、説得に来たのかね。ガルドを当て馬とし、この程度にすら勝てぬ貴様らに再建は不可能だ、と」
「そうだな。そういうことにしておこう」
「結果は?」
黒ウサギは真剣な双眸で問う。
レティシアは苦笑を交え、首を振った。
「生憎と、ガルドでは当て馬にすらならなかったよ。詩織含め、ゲームに参加した彼女達は青い果実で判断に困る。実際、こうして足を運んだものの、どう言葉をかけようか迷っている」
ふ、と十六夜が短く息を吹いた。
「違うね。アンタは言葉をかけたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだ。--違うか?」
「フッ、そうかもしれないな」
おやおや、十六夜が面白そうな事を考えてるね?
「その不安。払う方法が一つあるぜ」
「ほう」
「実に簡単な話だ。アンタは“ノーネーム”が魔王と戦えるのかが不安で仕方ない。だったら、その身で、その力で試してみればいい。--どうだい、元・魔王様?」
スッと立ち上がる十六夜とレティシアに、黒ウサギが涙目で止めに入るがそれぐらいで止まる十六夜ではない。
「ふふ……なるほど、実にわかりやすい。初めからこうすればよかったなぁ」
とんとん拍子で話が進む。
あっという間にルールまで決め、中庭まで同時に飛び出した。
一撃ずつ撃ち合い、受け合うだけ。
最後まで立っていたほうの勝ち。
なるほど、単純明快なルールだ。
さて、私も観戦といこうかね。